病院や介護施設での看護業務において、配膳・下膳は患者の健康管理と安全確保のための重要な業務です。
この記事では、配膳・下膳の目的から具体的な方法、注意すべきポイントまで、看護学生や新人看護師の方々に向けて詳しく解説します。
配膳・下膳とは?看護における重要性
配膳・下膳は、単に食事を提供し片付けるだけの作業ではありません。
患者の健康状態を観察し、適切な栄養管理を行うための重要な看護技術の一つです。
配膳
患者に適切な食事を安全に提供する行為
下膳
食事後の食器を片付けながら、患者の摂取状況や健康状態を確認する行為
これらの業務を通じて、看護師は患者の全身状態を継続的に観察し、必要に応じて適切な看護介入を行います。
配膳・下膳の目的:なぜ重要なのか
主要な目的
食事摂取量の確認のため
患者の栄養状態を把握し、治療効果や回復状況を評価するために、正確な食事摂取量の確認が必要です。疾病によっては水分摂取量の観察も重要な評価項目となります。
一般食・特別食などの確認のため
患者の病状や治療方針に応じて処方された食事が適切に提供されているかを確認し、治療効果を最大化します。
水分制限・カロリー制限の確認のため
心疾患、腎疾患、糖尿病などの患者では、厳格な食事管理が治療の一環となるため、制限事項の遵守状況を確認します。
看護における意義
患者の全身状態の把握
食事摂取の様子から、患者の意識レベル、嚥下機能、消化器症状、精神状態などを総合的に評価できます。
治療効果の評価
食事摂取量の変化により、治療の効果や病状の改善・悪化を早期に発見できます。
合併症の予防
誤嚥性肺炎や栄養失調などの合併症を予防するための重要な観察機会となります。
配膳・下膳時の観察ポイント:見逃してはいけない重要なサイン
基本的な観察項目
食事摂取量
- 主食(米飯、パンなど)の摂取量
- 副食(おかず)の摂取量
- 汁物の摂取量
- 全体的な摂取割合(○割摂取という記録方法)
食事の種類
- 一般食、軟食、流動食などの食事形態
- 治療食(糖尿病食、腎臓病食、心臓病食など)
- アレルギー対応食の確認
患者の一般状態
- 意識レベルの変化
- 顔色や表情の変化
- 活気の有無
- 疲労感や倦怠感の程度
食事形態の適切性
- 患者の咀嚼・嚥下能力との適合性
- 食事の温度や粘度
- 食べやすさの評価
特に注意すべき観察ポイント
誤嚥の有無
誤嚥は重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、以下の症状に注意が必要です:
- むせ
食物や水分が気管に入りかけた際の反射的な咳
- 喘鳴
呼吸時に聞こえる異常な音(ゼーゼー、ヒューヒューなど)
- 呼吸困難
息苦しさや呼吸の浅さ、頻回な呼吸
- 湿性嗄声
声がかすれ、湿った感じの発声
- 咽頭痛
のどの痛みや違和感
食後の口腔ケア
- 口腔内の清潔保持状況
- 食物残渣の有無
- 口腔乾燥の程度
- 義歯の適合状況
配膳・下膳の具体的な方法と留意点
配膳時の手順と注意点
1. 事前準備
患者情報の確認
- 患者氏名、病室番号の確認
- 食事指示内容の確認
- アレルギーや食事制限の確認
- 嚥下機能の評価結果の確認
食事の準備状況確認
- 食事カードと実際の食事内容の照合
- 食事の温度確認
- 必要な食具の準備確認
2. 配膳の実施
患者ごとに指示された食事が準備されているかどうかを確認する
- 食事箋と配膳内容の照合
- 治療食の種類と内容の確認
- 分量や調理法の適切性確認
食事カードと食事が合っているか否かを確認する
- 患者氏名の照合
- 食事内容の一致確認
- 特別指示事項の確認
食器の配置、食物の配分、量などが適切かどうか確認する
- 患者の利き手に配慮した配置
- 食べやすい量への調整
- 見た目の美しさへの配慮
食事を摂取するのに必要な物品がそろっているか確認する
- 箸、スプーン、フォークの準備
- エプロンやナプキンの用意
- 必要に応じて介助用具の準備
下膳時の手順と注意点
1. 摂取状況の観察
残食量の確認
- 主食、副食、汁物それぞれの残量確認
- 摂取割合の算出(例:7割摂取)
- 特に残した食品の種類や理由の確認
患者の状態観察
- 食事中の様子の確認
- 体調変化の有無
- 満足度や食欲の程度
2. 食後ケアの実施
食後に含嗽、口腔清拭や歯磨きを行い、口腔内を清潔にする
- 含嗽用の水やうがい薬の準備
- 口腔清拭用のガーゼやスポンジブラシの用意
- 歯磨きの介助や見守り
- 義歯の清掃確認
3. 後片付けと記録
食膳を配膳車に戻す
- 食器の分類と整理
- 感染予防対策の実施
- 配膳車の清潔保持
患者の一般状態、摂取量などを観察する
- 看護記録への正確な記載
- 異常所見の早期報告
- 次回食事への申し送り事項の整理
疾患別・患者状態別の配膳・下膳における特別な注意点
嚥下障害のある患者
配膳時の注意点
- とろみ剤の適切な使用確認
- 食事形態の適切性評価
- 安全な体位の確保
下膳時の注意点
- 誤嚥症状の詳細な観察
- 口腔内の食物残渣確認
- 呼吸状態の継続的モニタリング
糖尿病患者
配膳時の注意点
- カロリー計算の正確性確認
- 食品交換表に基づく内容確認
- 血糖値に応じた食事調整
下膳時の注意点
- 摂取量の正確な記録
- 血糖値への影響評価
- インスリン投与との関連確認
腎疾患患者
配膳時の注意点
- タンパク質制限の確認
- 塩分制限の確認
- 水分制限の確認
下膳時の注意点
- 制限栄養素の摂取量確認
- 浮腫の程度変化観察
- 体重変化との関連評価
心疾患患者
配膳時の注意点
- 塩分制限食の確認
- 食事量の適切性評価
- 消化の良い食品の選択確認
下膳時の注意点
- 食後の症状変化観察
- 心負荷の程度評価
- 水分バランスの確認
感染予防対策:安全な配膳・下膳のために
基本的な感染予防策
手指衛生の徹底
- 配膳前後の手洗いまたは手指消毒
- 患者ごとの手指衛生実施
- 適切な手洗い技術の実践
個人防護具の使用
- 必要に応じたエプロンの着用
- 手袋の適切な使用
- マスクの着用(感染症患者対応時)
食器・器具の管理
- 清潔な食器の使用確認
- 食器の適切な洗浄・消毒
- 個人専用品の区別管理
特殊な感染症患者への対応
接触感染予防策
- 専用食器の使用
- 使い捨て食器の活用
- 適切な廃棄方法の実施
飛沫感染予防策
- 適切な距離の維持
- マスク着用の徹底
- 換気の確保
多職種連携:チーム医療における配膳・下膳
管理栄養士との連携
栄養評価の共有
- 摂食状況の詳細な情報提供
- 栄養状態の変化報告
- 食事内容の調整提案
個別対応の検討
- 嗜好に合わせた食事調整
- 食事形態の変更検討
- 補助栄養食品の活用
医師との連携
治療方針の確認
- 食事療法の指示確認
- 病状に応じた食事調整
- 薬物療法との相互作用確認
異常時の報告
- 摂食量の著しい変化
- 嚥下困難の出現
- 消化器症状の発現
言語聴覚士との連携
嚥下機能評価
- 嚥下訓練の進捗確認
- 安全な食事摂取方法の指導
- 食事形態の段階的調整
記録・報告のポイント:正確な情報伝達のために
看護記録の書き方
摂取量の記録
- 具体的な摂取割合(例:主食8割、副食6割)
- 残食の理由や患者の訴え
- 水分摂取量の正確な測定値
観察所見の記録
- 客観的な事実の記載
- 患者の主観的な訴えの記録
- 看護師の判断や評価の明記
異常所見の記録
- 発見時刻の明記
- 症状の詳細な記載
- 実施した対応の記録
申し送り事項
継続観察が必要な事項
- 食事摂取量の変化傾向
- 嚥下機能の状態
- 特別な配慮が必要な事項
次勤務者への伝達事項
- 食事内容の変更予定
- 患者・家族からの要望
- 医師からの新たな指示
まとめ:質の高い配膳・下膳業務の実現に向けて
配膳・下膳は、患者の安全と健康を守るための重要な看護業務です。単なる作業として捉えるのではなく、患者の全身状態を観察し、適切な看護介入を行うための貴重な機会として活用することが大切です。
重要なポイントの再確認
- 患者一人ひとりの状態に応じた個別対応
- 安全で適切な食事提供の確保
- 継続的な観察と評価の実施
- 多職種との効果的な連携
- 正確な記録と情報伝達
看護学生や新人看護師の皆さんは、これらのポイントを意識しながら、日々の実践を通じて技術を向上させていきましょう。患者の笑顔と健康回復のために、丁寧で心のこもった配膳・下膳業務を心がけることが、看護の専門性を高めることにつながります。
経験を積み重ねながら、より質の高い看護ケアを提供できる看護師を目指して、頑張ってください。












