事例紹介
Aさん 女性 70歳 身長166cm 体重50kg BMI18.1
今回ご紹介するのは、長年の喫煙歴を持ち、COPD(慢性閉塞性肺疾患)と診断された後も自己判断で通院を中断し、肺炎による急性増悪をきっかけに入院・在宅酸素療法(HOT)導入となった70歳女性のケースだ。
既往歴 なし
喫煙歴 20歳から65歳まで25本/日(45年間)、5年前から禁煙中。ブリングマン指数1,125。
職業 無職(65歳まで美容院に勤務。夫の肺がん手術・看病のため退職)
家族背景 夫(70歳)は5年前に肺がんで一部摘出術後、疲れやすい状態が続いており、体調をみながら家事を手伝っている。
長男(43歳)は他県在住で共働き、年に数回の訪問にとどまるが、電話で両親を気にかけている。
長女(40歳)は実家から車で30分の距離に住み、週3日程度訪問して買い物や家事を手伝っている。
休日には孫も一緒に来ることが多く、家族関係は良好だ。
性格 明るく我慢強い頑張り屋で、周囲への気遣いが強い。近所付き合いも良く、友人も多い。
趣味 カメラ・登山(夫と一緒に散歩)・映画鑑賞。
経済面 年金生活で貯蓄も多少あり、大きな心配はない。
その他 老眼で眼鏡使用。新聞・テレビ・パソコン(孫とメール交換)など日常生活に支障はなく、難聴・入れ歯ともになし。
【入院から在宅酸素療法を導入するまでの経過】
COPDと診断を受けたが、禁煙できており呼吸苦などの自覚症状がなかったため、自己判断で通院を中断していた。
昨年の冬から風邪が長引くなどの自覚症状はあったが、市販薬を内服し受診は行わなかった。
2週間前から微熱・膿性痰・咳嗽・呼吸困難感が増強し、安静時にも呼吸困難が出現したため入院となった。
入院時のバイタルサインは体温39.5℃、呼吸数25回/分、脈拍120回/分、Bp150/88、SpO2 80%、PaO2 55mmHg、PaCO2 49mmHgで、爪床チアノーゼ・下肢浮腫も見られた。
血液検査ではCRP11mg/dl・WBC15,000/μlと炎症反応が上昇しており、肺炎によるCOPD急性増悪と右心不全を合併した状態で、酸素吸入と薬物療法(気管支拡張剤・ステロイド・抗生剤・利尿剤)により症状は軽減した。
退院時データは体温36.5℃、脈拍80回/分、Bp120〜130/78mmHg、呼吸数18回/分(安静時)、酸素未使用時PaO2 55mmHg・労作時SpO2 85%に低下することから、低酸素血症のため在宅酸素療法(HOT)導入となった。>>続きはコチラ
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ヘンダーソンのアセスメント
ヘンダーソンの看護論では、人間が持つ14の基本的ニードを軸にアセスメントを行う。
Aさんのケースでは、COPDという不可逆的・進行性の疾患が呼吸機能を低下させ、日常生活全般に広く影響を与えている点が特徴だ。
呼吸・循環・体温
COPDは気道の慢性炎症により気道壁が肥厚・狭窄し、気道分泌物が貯留する疾患だ。
呼気時に胸腔内圧が上昇して気道が閉塞し、十分な呼出ができなくなるため一回換気量が減少し、肺胞への二酸化炭素貯留が起こる。
その結果、外呼吸・内呼吸ともに障害され、組織への酸素供給が低下して呼吸困難感が生じる。
Aさんは入院時、SpO2 80%・PaO2 55mmHg(60mmHg以下)・PaCO2 49mmHgという値から、I型呼吸不全の状態にあったと考えられる。
安静時にも呼吸困難感を訴えていたことから、ヒュー・ジョーンズ分類はⅣ度に該当する状態だ。
入院時のCRP・WBC上昇、高熱・膿性痰・咳嗽の増加からも、肺炎によるCOPD急性増悪が起きていたと考えられる。
また低酸素血症の悪化を抑えようと肺血管収縮が起き肺高血圧をきたし、二次性に右心不全が合併したと考えられる。
チアノーゼや下腿浮腫もその根拠となる所見だ。
COPDは進行性の疾患であるが、Aさんは内服・通院を自己中断しており、病識の乏しさとコンプライアンス不良が病気の進行につながったと考えられる。
治療によりCRP・WBCは低下し炎症は落ち着いたが、酸素未使用時のPaO2は55mmHgのまま改善しておらず、肺機能の不可逆的な変化により今後の生活には継続的な酸素吸入が必要な状態だ。
胸部Xpでは肺野透過性亢進・横隔膜低下・肋骨間拡大が見られ、CTでは右肺下葉に著名な低吸収領域があり、右下葉の肺胞が破壊されていることがわかる。
修正MRCスケールはGrade3で、歩行は100mがやっとの状態であり筋力低下も見られる。
退院後はHOT導入によりSpO2 97%(1L/分)が保てており、顔色良好・肺雑音なし・呼吸苦の訴えもなく、呼吸状態は安定していると考えられる。
栄養
COPDは呼吸仕事量や心筋の仕事量が増加することにより、通常の1.5倍ものエネルギーが必要とされる慢性消耗性疾患だ。
AさんはBMI18.1と標準体重の下限値に値する痩せ型だが、血液データ(TP7.0g/dl・ALB4.7g/dl・Hb13g/dl・Cre0.7mg/dl)はいずれも基準値内だ。
好き嫌いもなく、家族の作り置きや配食サービス(週5回・昼食600kcal)を活用し、間食でクッキーやチョコなどカロリーの高いものを意識的に摂取している。
一気に食べると息苦しくなるため腹八分目でゆっくり食べており、退院時に夫婦で栄養指導を受け理解も良好だ。
以上のことから栄養状態は良好と考えられる。
ただし食事による腹部膨満が横隔膜の動きをさらに制限し、呼吸困難が強くなる可能性があるため、少量頻回摂取の継続が大切だ。
排泄
入院前から便秘気味だったが、退院後はラキソベロン眠前5滴の内服により毎日普通便(中等量)が排出できており、いきみによる呼吸苦やふらつきも見られていない。
尿回数も4〜6回/日と問題ない範囲だ。
血液データからも排泄機能に問題はないと考えられる。
療養環境
閑静な住宅街の庭付き2階建て持ち家で、Aさんの生活は1階のみで完結するよう動線が整えられている。
トイレ・浴室には手すりがあり、廊下には足元ライトが設置されている。
自室は南向きの12畳で、エアコン・加湿器も設置されており、長女と夫が床掃除を担っている。
退院前に酸素濃縮器が業者により設置され、酸素チューブは十分な長さが確保されている。
月2回のHOT外来通院は長女が付き添い、駐車場から呼吸器外来まで500m以上あるが休みながら歩行可能だ。
HOT導入に伴い火気厳禁であるため、AさんだけでなくHOTと同居する夫の禁煙状況も継続的に確認する必要がある。
行動範囲が1階に限定されることで、さらなる筋力低下が起きないかを継続的に観察していく必要がある。
清潔
COPDによる労作時SpO2低下と呼吸苦のため、入院前は自立して行えていた入浴・更衣が一人では行えなくなっている。
退院後は週2回の訪問看護時に看護師介助のもとシャワー浴を実施し、それ以外の日は長女が清拭・足浴を行っている。
前傾姿勢で呼吸苦が出るため背部・下肢・頭部は一部介助が必要で、靴下の着脱にも介助が必要な状態だ。
Aさんは周囲に気を遣う性格であり、一人でゆっくり入浴したいという強い希望がある。
安全面や現在のADLを優先すれば介助のもとでのシャワー浴が妥当だが、Aさんのその希望に寄り添いながら、徐々に見守り程度で入浴できるよう支援していくことがQOLにつながる。
酸素吸入を行いながらの入浴では、体調の良い時間帯を選ぶ・食事の前後1時間は避ける・短時間で休憩を入れながら行う・息苦しさを感じたら中止するといった工夫が大切だ。
身体活動
入院前は日常生活における行動は自立していたが、現在は酸素吸入が必須の生活となっている。
趣味であったカメラや登山を入院前と同様に続けることは難しい状況だ。
常に酸素チューブをつけているという状況にAさんはショックを受けており、見た目に違和感があると話している。
状況を受け入れるまでに時間がかかることが予想され、活動意欲の低下や行動範囲の縮小から廃用症候群を引き起こすリスクがある。
前傾姿勢での呼吸苦もあり、入院中から呼吸法と合わせた動き方の指導を受けているが、動作が早くなる傾向があるため継続的な指導が大切だ。
修正MRCスケールGrade3・歩行100mがやっとという状況であり、筋力低下も見られている。
日中はなるべく離床して活動範囲を広げていく方向で支援していく必要がある。
精神的活動・社会的活動
HOT療法導入によるボディイメージの変化にAさんはショックを受けており、見た目への違和感を訴えている。
これにより外出意欲がなくなり活動量が低下し、精神的な落ち込みにつながる可能性がある。
一方、退院後は表情が明るく、庭に来る鳥をカメラで撮るなど気分転換ができており、日常生活の中に楽しみがある状態だ。
休養と休憩
退院後は住み慣れた自宅という環境でよく眠れていると話しており、熟眠感が得られている。
呼吸苦が出ないよう適宜休憩を取りながら行動できており、我慢強い性格ながら家族に頼ることもできている。


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現時点では休養・休憩について大きな問題はないと考えられる。
コミュニケーション
Aさんは呼吸困難に陥った際の気持ちを素直に話すことができており、家族との仲も良好だ。
家族はAさんの性格をよく理解しており、我慢のしすぎを心配している。
家族内でのコミュニケーションも図れており、現時点で大きな問題はないと考えられる。
健康認識・健康管理
入院前はCOPDに対する病識が乏しく、たかが風邪ぐらいと受診せず市販薬で対処し、通院も自己中断していた。
その結果、COPD急性増悪となってしまった。
今回の入院で息ができなくなるという恐怖を経験し、風邪を甘く考えないようにすると発言しており、今回の経験を生かそうという意識が見られる。
ただし、労作時はSpO2 85%(酸素未使用時)と低く、酸素使用中でも前傾姿勢や労作時に呼吸苦が出ることがあるため、呼吸法の習得と呼吸機能に見合った日常生活行動の定着が大切だ。
介護者
キーパーソンは夫(70歳)だが、肺がん術後で疲れやすく、休みながらの介護となっている。
長女は週3回程度の訪問で買い物や家事を手伝っているが、自分の家庭があり小学生・中学生の子どもがいるため、毎日の訪問は現実的ではない。
以上のことから、介護力は十分ではないと考えられる。
今後病状が悪化した場合、より多くの介護が必要になる可能性が高く、社会資源の活用を含めた調整が大切になる。
社会資源
現在は訪問看護を週2回(1回90分・緊急加算付き)利用しており、酸素機器管理・呼吸リハビリ指導・シャワー介助などが行われている。
福祉用具としてシャワーチェアを購入し、配食サービスを週5回利用中だ。
B市の在宅酸素療法者への電気代補助制度・身体障害者手帳3級も申請中だ。
Aさん自身は訪問介護や民間サービスを増やしたいと考えているが、まだ有効活用できていない部分がある。
一人でゆっくり入浴したいという希望から訪問入浴の導入や、廃用症候群予防のための訪問リハビリ導入も今後の選択肢として検討する価値がある。


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看護問題の明確化
ヘンダーソンのアセスメントをもとに、Aさんの看護問題を整理していく。
今回のアセスメントから導き出された問題となることを統合し、優先度の高い順に2つの看護問題として明確化する。
#1 急性増悪を再び起こさない
Aさんは今回、COPD急性増悪により肺炎・右心不全を合併し、呼吸が止まってしまうかもしれないという強い恐怖を経験した。
入院前は病識が乏しく通院・内服を自己中断していたが、今回の経験から風邪を甘く見ないようにするという発言が聞かれており、意識の変化は見られる。
しかし、退院後もSpO2は酸素未使用時で労作時85%まで低下し、酸素使用中でも前傾姿勢や労作時に呼吸苦が出る状態だ。
肺機能は不可逆的であり、今後も感染や気候変化・過労などをきっかけに急性増悪を繰り返すリスクがある。
効果的な喀痰排出・感染予防行動の継続・呼吸法の定着・症状悪化時の早期受診行動の習得が大切になる。
#2 呼吸機能低下や筋力低下・呼吸困難感によってADLが低下しないようにする
入院前は日常生活が自立していたAさんだが、現在は入浴・更衣・靴下の着脱など多くの場面で介助が必要になっている。
修正MRCスケールGrade3・歩行100mがやっとという状態であり、臥床期間が長かったことで筋力低下も起きている。
HOTのチューブによる行動制限・ボディイメージの変化によるショックも重なり、活動意欲が低下して臥床時間が長くなると廃用症候群をさらに進める悪循環に陥るリスクがある。
行動範囲が1階に限定されることも、さらなる筋力低下につながる可能性がある。
安全な範囲でできる限り離床・活動を継続し、呼吸法と合わせた動き方を定着させることが大切だ。


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看護計画
看護問題に対する具体的な看護計画を、観察計画(OP)・ケア計画(TP)・教育計画(EP)に分けて整理する。
#1 急性増悪を再び起こさない
長期目標 肺機能の低下を防ぎ、急性増悪を引き起こさない。
短期目標 効果的な喀痰排出ができ換気量が増加する。呼吸困難時の対処ができ、体動時も息切れを起こすことなく日常生活が送れる。
観察計画(OP)
安静時・労作時の呼吸状態を継続的に観察する(体温・脈拍・呼吸数・SpO2・血圧・肺雑音の有無)。
呼吸苦の有無・呼吸法の実施状況・喀痰の色・性状・量・性質・咳嗽の程度を確認する。
血液データ(WBC・CRP・TP・Alb・RBC・Hb)の変化を観察する。
家の清潔状況(こまめな掃除ができているか)を訪問時に確認する。
ケア計画(TP)
喀痰を排出しやすくするために水分摂取を促す。
口すぼめ呼吸・腹式呼吸・ハフィングなど効果的な呼吸法・排痰法を一緒に練習する。
感染予防として手洗い・うがいの徹底と、インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン接種の状況を確認する。
万が一風邪症状が出た際には自己判断せず必ず受診するよう繰り返し伝える。
教育計画(EP)
呼吸法の指導を継続し、日常生活の中で自然に実施できるよう支援する。
呼吸リハビリテーション(HOT外来・訪問リハビリ)の継続を勧める。
痰の色・量・性状の変化、体温上昇、息苦しさの増強など急性増悪のサインとなる症状を説明し、早めに医療機関へ連絡するよう指導する。
酸素日誌を活用したSpO2・症状の自己記録を継続するよう伝える。
#2 呼吸機能低下や筋力低下によるADL低下を防ぐ
長期目標 呼吸困難をきたすことなく、最小限の日常生活動作に耐えることができる。
短期目標 息切れが現れたときに適切に休むことができる。日常生活動作を呼吸苦なく行える場面が増える。
観察計画(OP)
活動前・中・後のSpO2・脈拍・呼吸数・呼吸苦の程度(修正Borgスケールなど)を確認する。
どの動作で最も息切れが出やすいかを把握する。
日中の離床状況・活動量・臥床時間を確認する。
表情・言動・活動への意欲の変化を観察し、廃用症候群やボディイメージの変化による落ち込みのサインを見逃さない。
ケア計画(TP)
呼吸法と合わせた動き方(ゆっくり動く・動作の前に息を整える)を一緒に練習し、早くなりやすい動作ペースを修正する。
安楽な体位(ファーラー位・起座位など)の工夫を一緒に確認する。
日中はなるべく離床して椅子に座るよう促し、訪問リハビリ・HOT外来の呼吸リハビリと連携して活動範囲を段階的に広げる。
庭での草むしりや鳥の撮影など、呼吸への負荷が少ない好きな活動を継続できるよう支援する。
教育計画(EP)
体調に合わせて休憩を取るよう指導し、エネルギー消費を節約する動作方法(食事・排便・更衣など)を具体的に伝える。
息切れが出たときの対処法(安静・起座位・口すぼめ呼吸)を繰り返し指導する。
衣服は前びらきや伸縮性のある着脱しやすいものを選ぶと負担が減ることを伝える。
カメラや映画鑑賞など呼吸への負荷が少ない趣味を継続することが、療養生活の質と活動意欲の維持につながることを伝える。


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