「悲嘆」は、大切な人や物、体の機能、役割、生活などを失ったときに、その喪失に向き合っていく、自然で正常な心の反応の過程を表す看護診断です。家族を亡くした人だけでなく、病気によって体の一部や機能を失った患者、これまでの生活や役割を失った人などにもみられます。この記事では、悲嘆の考え方と看護計画を解説します。
悲嘆とは
悲嘆は、喪失に対する正常な反応であり、時間をかけて喪失を受け止め、新しい生活に適応していくための大切な過程です。悲しみだけでなく、怒り、罪悪感、不安、孤独感など、さまざまな感情が波のように現れます。また、眠れない、食欲がない、疲れやすいなど、体の反応として現れることもあります。
喪失の例
- 家族や親しい人との死別
- 手術による体の一部の喪失(乳房、四肢、臓器など)
- 病気による体の機能の喪失(麻痺、視力の低下など)
- 仕事や家庭での役割の喪失
- 住み慣れた家や、これまでの生活の喪失
悲嘆の過程で取り組むこと
悲嘆の過程では、次のようなことに少しずつ取り組んでいくと考えられています。
- 喪失が現実に起きたことを受け入れる
- 悲しみやつらさを十分に感じ、表現する
- 失ったものがない生活に慣れていく
- 失ったものとのつながりを心の中に保ちながら、新しい生活に向かう
順番どおりに進むとは限らず、行きつ戻りつしながら進んでいきます。
悲嘆が長引く場合
悲しみが極端に長く続く、日常生活がまったく送れない、自分を責め続ける、死にたいと考えるなどの場合は、「悲嘆複雑化」や抑うつの可能性があり、専門的な支援が必要になることがあります。
看護目標
長期目標:喪失を受け止め、自分なりに新しい生活に向かうことができる
短期目標
- 悲しみや怒りなどの気持ちを、言葉や態度で表現できる
- 家族や大切な人と気持ちを分かち合える
- 睡眠や食事などの日常生活を保てる
観察計画(OP)
| 観察項目 | 根拠 |
|---|---|
| 表情、言動、感情の表し方 | 悲嘆の状態を把握するため |
| 喪失についての受け止め、発言の内容 | 悲嘆の過程のどこにいるかを考えるため |
| 睡眠、食欲、活動量、身体の症状 | 悲嘆が生活や体に与える影響を把握するため |
| 家族や友人との関係、支えてくれる人の有無 | 支援の資源を把握するため |
| これまでの喪失体験と対処の方法 | その人に合った支援を考えるため |
| 自分を責める発言、死にたいという思いの有無 | 悲嘆複雑化や抑うつ、危険の早期発見のため |
援助計画(TP)
- 気持ちを安心して表現できる時間と場所をつくる
- 話をさえぎらず、否定せずに傾聴する。沈黙も大切にする
- 「元気を出して」などの安易な励ましは避け、つらい気持ちをそのまま受け止める
- 睡眠や食事が保てるよう、生活リズムを整える援助を行う
- 体の機能を失った場合は、リハビリテーションや新しい生活の工夫を、本人のペースに合わせて一緒に考える
- 家族と気持ちを分かち合える機会を調整する
- 必要に応じて、心理職、リエゾン看護師、同じ経験をもつ人の会などにつなぐ
教育計画(EP)
- 悲しみや怒り、眠れないなどの反応は、喪失に対する自然な反応であることを説明する
- つらいときは、いつでも看護師や家族に話してよいことを伝える
- 家族に対して、悲嘆の過程と、本人のペースを尊重した関わり方を説明する
- 退院後に相談できる場所(外来、地域の相談窓口など)を伝える
評価の視点
- 気持ちを表現できているか
- 家族などと気持ちを分かち合えているか
- 睡眠や食事などの生活が保たれているか
- 喪失を少しずつ受け止め、これからの生活について話せるようになっているか
ねこ先生
自分の言葉で書けます
看護過程サポートなら、参考例と添削で理解しながら進められます
✓OP・TP・EPの書き分けに迷う
✓教科書の知識を事例につなげられない
✓指導者の指摘への対応に悩む
ご自身で理解し、まとめられるようにサポートします
悲嘆の反応は心と体の両方に現れる
悲嘆は、気持ちの面だけでなく、体や行動にもさまざまな形で現れます。これらは喪失に対する自然な反応であることを理解しておくと、患者や家族の様子を受けとめやすくなります。
| 反応の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 感情 | 悲しみ、怒り、罪悪感、不安、孤独感、無力感、ほっとした気持ち |
| 身体 | 眠れない、食欲がない、疲れやすい、胸が締めつけられる感じ、息苦しさ |
| 考え | 信じられない、亡くなった人のことばかり考える、集中できない |
| 行動 | 泣く、ぼんやりする、思い出の場所を避ける、または何度も訪れる、人づきあいを避ける |
「ほっとした」という気持ちに罪悪感を覚える人もいますが、長い看病のあとなどに自然に起こる感情です。どのような気持ちも否定せずに受けとめることが大切です。
悲嘆を支える具体的な関わり
- 失ったものや人について、思い出を語れるよう促す(「どんな方だったのですか」)
- 泣いたり怒ったりすることを止めず、感情を表すことを認める
- 「早く元気になって」と急がせず、その人のペースを尊重する
- 睡眠や食事など、日常生活が保てているかを確認し、必要な援助を行う
- 体の喪失(手足の切断、乳房の切除、人工肛門の造設など)の場合は、新しい体との付き合い方を一緒に考える
- 同じ体験をした人の会(患者会、遺族会など)を紹介する
家族の悲嘆への支援
患者が亡くなった場合、残された家族の悲嘆への支援(グリーフケア)も看護の役割です。看取りの場面では、家族がお別れの時間を十分にとれるよう配慮し、家族の希望に応じて、体をふく、着替えをするなどのケアに参加してもらうこともあります。「もっと何かできたのでは」と自分を責める家族には、家族が患者のためにしてきたことを具体的に伝え、その思いを認めましょう。
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看護師自身の気持ちにも目を向ける
患者の死や大きな喪失に関わると、看護師自身も悲しみや無力感を抱くことがあります。こうした気持ちは自然なものであり、我慢し続けると心が疲れてしまいます。カンファレンスで体験を振り返る、信頼できる同僚や指導者に話すなど、気持ちを言葉にする機会をもちましょう。
記録の例
(例)右下肢切断術後7日目。創部を見ないようにしており、「もう歩けない。何の役にも立たない」と涙を流す。そばに座り話を聴くと、「孫の運動会に行くのが楽しみだった」と話す。義足を使って歩いている人の話をすると、「そういう人もいるのか」と顔を上げる。理学療法士と情報を共有し、義足のリハビリテーションについて説明の機会を調整した。
実習でのポイント
悲嘆の中にある人に対して、学生は「何を話せばよいかわからない」と感じやすいものです。上手に話すことよりも、そばにいて耳を傾けることが大切なケアになります。
喪失が予想される段階での看護計画は、次の記事で解説しています。
※この看護計画は一例です。受け持ち患者の情報に合わせて、目標や計画を個別に考えましょう。

