呼吸のフィジカルアセスメント
自覚症状の確認
呼吸器系のフィジカルアセスメントでは、患者の既往歴、喫煙習慣、アレルギー歴、ツベルクリン反応、BCG接種の有無を確認します。具体的な自覚症状として以下の項目を確認します。
- 呼吸困難感: 呼吸時の不快感や苦痛のこと。具体的な症状(例:息が吸えない、息苦しい)、症状の発生時期、持続性、出現状況を尋ねます。
- 咳嗽: 気道粘膜や胸膜、横隔膜の炎症や刺激によるもの。発生時期、出現状況、痰の有無、咳のタイプ(湿性か乾性か)を確認します。
- 喀痰: 痰の色、粘稠度、臭気、量を確認します。
- 胸痛: 呼吸器疾患以外の原因も考慮。痛みの部位、特性、持続性、出現や増強する状況を確認します。
呼吸器疾患に関連した他覚症状・徴候の確認
- チアノーゼ: 血液中の脱酸素化ヘモグロビンの増加による皮膚や粘膜の暗紫色。爪床や口唇で観察されやすいです。
- ばち状指: 指先が太鼓のばちのようにふくれた状態。長期にわたって低酸素状態であることを示します。
- 意識障害: 低酸素血症や高二酸化炭素血症による意識障害。覚醒状態や会話の混乱、行動の適切性を観察します。
胸郭の形態の確認(視診)
- 左右対称性: 胸郭は通常左右対称です。
- 前後径と横径の比: 正常な胸郭の比率は約1:1.5〜2です。
- 肋骨角の角度: 肋骨角は90度以下が正常です。
- 肋骨の傾き: 脊柱に対して約45度の傾きが正常です。
異常が見られる場合には、樽状胸や漏斗胸、鳩胸などを考慮します。
胸郭の動きの確認(触診)
- 観察者は母指を胸部前面の肋骨弓に、背部では第10肋骨に沿わせます。
- 手指と手掌を肋骨に沿わせて胸郭を包むように置き、皮膚のたるみを作り、深呼吸を促します。
- 胸郭の広がりが左右対称か、上外側方向に広がるか、母指の間隔が広がるかを観察します。
呼吸音の聴取(聴診)
呼吸音は気道を空気が流れることによって生じる音で、気管、主気管支、葉気管支などで発生します。正常な呼吸音には以下があります。
- 気管音: 高調な音で吸気と呼気の両方で明瞭に聞こえます。吸気と呼気の比率は約2:3です。
- 気管支肺胞音: 前胸部の第2肋間胸骨縁周囲や背部の肩甲骨間部で聴取されます。吸気と呼気の比率は約1:1です。
- 肺胞音: 肺野全体で聴取される低調な音。吸気の始めに主に聞こえ、呼気時にはかすかな音になります。吸気と呼気の比率は約2:1です。
異常な呼吸音には異常呼吸音と副雑音(ラ音)があり、これらを聴取することも重要です。
胸部の打診
肺実質に空気が多く含まれているため、共鳴音(清音)が聞かれます。肺周囲の肝臓や心臓との境界を確認することができます。左右対称に打診し、濁音や音の有無を確認します。
背部における横隔膜の可動域の確認
横隔膜は第10胸椎棘突起の高さに位置しています。息を吐いてもらい、横隔膜の位置を打診し、呼気時と吸気時の位置を確認します。可動域が狭い場合は肺気腫や腹部の疾患を考慮します。
看護師はこれらのアセスメントを通じて患者の呼吸状態を詳細に評価し、適切なケアを提供します。