無気肺は、肺の一部がしぼんで空気が入らなくなった状態で、手術後に最も起こりやすい呼吸器合併症の一つです。放置すると低酸素血症や肺炎につながるため、術前からの予防が大切です。この記事では、術後に無気肺が起こる理由、症状、看護師が押さえておきたい予防とケアの5つのポイントを解説します。
術後に無気肺が起こりやすい理由
- 全身麻酔や鎮静薬の影響で、呼吸が浅くなり、肺の奥まで空気が入りにくい
- 創部の痛みのために、深呼吸や咳を控えてしまう
- 気管挿管の刺激や麻酔の影響で、気道の分泌物(痰)が増え、排出しにくい
- 仰臥位で長時間過ごすことで、背中側の肺が広がりにくい
特に注意が必要な患者
- 上腹部や胸部の手術を受けた人
- 喫煙歴がある人
- 高齢者、肥満のある人
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、もともと呼吸器の病気がある人
- 手術時間が長かった人
無気肺の主な症状
- 術後1〜2日ごろの発熱
- SpO2の低下、呼吸数の増加、息苦しさ
- 患側の呼吸音の減弱
- 痰がからむ、うまく出せない
胸部X線検査で、しぼんだ部分が白く写ることで診断されます。
ポイント1:術前から呼吸訓練を始める
手術前から深呼吸や咳の練習をしておくと、術後に実践しやすくなります。
- 腹式呼吸、深呼吸の練習
- インセンティブスパイロメトリー(呼吸訓練器具)を使った練習
- 喫煙している人には、禁煙の必要性を説明する
ポイント2:痛みをしっかりコントロールする
痛みがあると、深呼吸や咳、離床ができません。医師の指示による鎮痛薬(硬膜外鎮痛、患者自己調節鎮痛など)を活用し、痛みを我慢しなくてよいことを伝えます。呼吸訓練や離床の前に、鎮痛薬の効果が出ている時間を選ぶと効果的です。
ポイント3:深呼吸と効果的な咳を促す
- 目覚めているときは、1時間に数回を目安に、ゆっくり深呼吸をくり返すよう促す
- 咳をするときは、枕やタオルで創部を押さえると痛みが和らぐ
- 強い咳が難しい場合は、息を「ハッ、ハッ」と強く吐き出すハッフィングを行う
- 痰が硬い場合は、加湿や水分補給(制限がない場合)で出しやすくする
ポイント4:体位を工夫し、早期離床を進める
- ベッドの頭側を上げ(ファウラー位など)、横隔膜が下がって肺が広がりやすい姿勢にする
- 定期的に体位を変え、同じ部分の肺がつぶれたままにならないようにする
- 医師の許可が出たら、座位、立位、歩行と段階的に離床を進める
離床は、肺を広げるだけでなく、深部静脈血栓症や腸の動きの低下を防ぐことにもつながります。
ポイント5:観察と異常の早期発見
| 観察項目 | ポイント |
|---|---|
| 呼吸数、呼吸のリズム、呼吸の深さ | 浅く速い呼吸は無気肺のサイン |
| SpO2 | 低下傾向がないか、酸素投与量とあわせてみる |
| 呼吸音 | 左右差、減弱、副雑音がないかを聴診する |
| 痰の量・性状 | 色が黄色や緑色に変わったら感染を疑う |
| 体温 | 術後の発熱が続く、再び上がる場合は報告する |
| 疼痛 | 痛みのために呼吸が浅くなっていないか |
異常があれば医師に報告し、指示に従って酸素投与や吸引、気管支鏡による痰の除去などが行われます。
口腔ケアも忘れずに
口の中の細菌が気道に入ると、肺炎の原因になります。術前から歯みがきなどの口腔ケアを行い、術後も継続することが、肺炎の予防につながります。
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インセンティブスパイロメトリーの使い方
インセンティブスパイロメトリーは、吸い込んだ空気の量や速さが目に見えるようにした呼吸訓練の器具です。目標が見えることで、患者が自分から深呼吸を続けやすくなります。
- 座位またはファーラー位になり、器具を垂直に持つ
- 息をふつうに吐いたあと、マウスピースをしっかりくわえる
- ゆっくり深く息を吸い、目盛りやボールが目標の位置まで上がるようにする
- 吸いきったところで、数秒間息を止める
- マウスピースを外して、ゆっくり息を吐く
- これを1時間に10回程度を目安にくり返す(回数は指示に従う)
術前に練習して、そのときの値を記録しておくと、術後の回復の目安として比べることができます。
ハフィングで痰を出しやすくする
術後は創部の痛みで強い咳ができず、痰がたまりやすくなります。ハフィングは、強い咳をしなくても痰を出しやすくする方法です。深く息を吸ったあと、口を開けたまま「ハッ、ハッ」と強く速く息を吐き出します。咳をするときは、創部を枕や両手で押さえると痛みが和らぎます。
喫煙者への術前の関わり
喫煙は気道の分泌物を増やし、痰を出す働きを弱めるため、術後の無気肺や肺炎のリスクを高めます。手術が決まったら、できるだけ早く禁煙するよう説明します。禁煙の期間が長いほど、術後の呼吸器合併症のリスクを下げる効果が期待できます。禁煙が難しい患者には、責めるのではなく、禁煙外来の利用なども含めて一緒に方法を考えましょう。
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無気肺に気づくための観察
無気肺は、術後1〜2日目ごろに起こりやすい合併症です。次のような変化を、前回の観察と比べながら確認します。
| 観察項目 | 無気肺を疑う変化 |
|---|---|
| 呼吸音 | 一部の肺野で呼吸音が弱い、聞こえない(特に背中側や下肺野) |
| 呼吸数・呼吸の様子 | 呼吸が速く浅い、息苦しさの訴え |
| SpO2 | 酸素投与を増やさないと保てない、徐々に低下している |
| 体温 | 術後早期の37〜38℃台の発熱 |
| 痰 | 量が多いのに出せない、粘り気が強い |
呼吸音は、左右を比べながら、前胸部だけでなく背部の下のほうまで聴くことが大切です。仰臥位が長い患者では、背中側の肺がつぶれやすいため、体位変換のときに背部の聴診も行いましょう。
患者への説明の工夫
術後の深呼吸や咳は、痛みへの恐怖から避けられがちです。「傷が開いてしまうのでは」と心配している患者には、創部を押さえれば傷は開かないこと、深呼吸が肺炎の予防につながることを、術前のうちに具体的に説明しておきます。術後は、鎮痛薬が効いている時間に合わせて一緒に深呼吸を行い、できたことを伝えて自信につなげましょう。
記録の例
(例)術後1日目。呼吸数20回/分、SpO2 94%(室内気)。右下肺野の呼吸音が減弱。痰は白色粘稠で、自力での喀出が難しい。創部を枕で押さえてハフィングを行い、少量喀出できた。インセンティブスパイロメトリーは術前値の約半分。鎮痛薬使用後に端座位をとり、深呼吸を10回実施。医師に呼吸音の減弱を報告した。
まとめ
術後の無気肺は、術前からの呼吸訓練、十分な痛みのコントロール、深呼吸と咳の促し、体位の工夫と早期離床、そしてこまめな観察で予防できます。患者が痛みを我慢せずに呼吸訓練に取り組めるよう、説明と励ましを続けましょう。

