はじめに
アトピー性皮膚炎は、小児患者さんとその家族にとって大きな負担となる慢性疾患です。本記事では、看護師として知っておくべき基礎知識から実践的なケア方法まで、詳しく解説していきます。
アトピー性皮膚炎の基礎知識
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹を主な症状とする慢性炎症性皮膚疾患です。特に小児期に発症することが多く、患者さんの生活の質に大きく影響を与えます。遺伝的要因と環境要因が複雑に関係していることが分かっています。
スキンケアの重要性と具体的な方法
スキンケアは治療の基本となります。バリア機能が低下した皮膚を保護し、保湿することが重要です。入浴後15分以内に保湿剤を塗布することで、より効果的に水分を閉じ込めることができます。保湿剤の塗り方にも注意が必要で、優しく円を描くように塗布することをお勧めします。強くこすると皮膚を傷つける可能性があるためです。
また、入浴時の水温は38-40度程度の微温湿を推奨します。熱すぎるお湯は皮膚の乾燥を促進してしまうためです。入浴時間は10-15分程度が適切で、長時間の入浴は避けるように指導します。
衣類選択とスキンケア用品
衣類の選択は症状管理において重要な要素です。綿100%などの天然素材を選ぶことで、皮膚への刺激を最小限に抑えることができます。合成繊維は汗を溜めやすく、皮膚を刺激する可能性があるため避けるべきです。
洗濯時には、柔軟剤や強い洗剤の使用を控えめにすることをお勧めします。残留した洗剤が皮膚を刺激する可能性があるためです。二度すすぎを行うことで、より確実に洗剤を除去することができます。
食事管理と栄養指導
食事に関する指導も重要な看護ケアの一つです。アレルギー反応を引き起こす食品を特定し、除去することが必要ですが、必要以上の食品制限は栄養バランスを崩す可能性があります。
特に注意が必要な食品には、卵、牛乳、小麦、そば、落花生などがありますが、これらの除去は必ず医師の指示のもとで行うよう指導します。また、omega-3脂肪酸を含む食品(青魚など)や、ビタミンD、ビタミンEを含む食品を積極的に摂取することで、炎症を抑制する効果が期待できます。
環境整備とアレルゲン対策
室内環境の整備は症状管理において重要です。適切な温度(20-25度)と湿度(50-60%)を維持することで、皮膚の乾燥を防ぐことができます。加湿器の使用は効果的ですが、カビの発生を防ぐため、定期的な清掃が必要です。
ハウスダストやダニも重要なアレルゲンとなります。寝具の定期的な洗濯や掃除機がけ、空気清浄機の使用などを組み合わせた総合的なアレルゲン対策が効果的です。
薬物療法の理解と指導のポイント
薬物療法は医師の指示のもとで適切に行われる必要があります。外用薬(ステロイド軟膏や免疫調節外用薬)の正しい使用方法を患者さんとご家族に丁寧に説明することが重要です。
塗布する量の目安として、成人の手のひら2枚分の面積に対して人差し指の先から第一関節までの量(FTU:フィンガーチップユニット)を使用することを説明します。また、外用薬は保湿剤を塗布してから15-30分後に塗るようにします。これにより、薬剤の吸収が促進されます。
掻破行為への対策と指導
掻破行為は症状を悪化させる大きな要因となります。爪を短く切り、清潔に保つことで、掻破による皮膚への損傷を最小限に抑えることができます。特に就寝時の無意識の掻破行為を防ぐため、綿の手袋の着用を推奨します。
また、かゆみを感じた時の代替行動として、軽くたたく、冷やす、マッサージするなどの方法を提案します。これらの行動を習慣化することで、掻破行為の減少につながります。
心理的サポートの重要性
アトピー性皮膚炎を持つ小児患者さんとその家族は、大きな心理的ストレスを抱えていることが多いです。症状の辛さや治療の長期化による不安、学校生活での困難などに対して、共感的な態度で接することが重要です。
特に思春期の患者さんでは、外見的な問題による自尊心の低下や社会活動の制限などが問題となることがあります。このような場合は、必要に応じて臨床心理士との連携も検討します。
学校生活・社会生活への支援
保育園・幼稚園や学校との連携も重要です。給食時のアレルギー対応や、体育の際の配慮、校外学習での対応などについて、教職員との情報共有が必要です。
また、プールの授業については、塩素による刺激や、その後の保湿ケアなどについて具体的な指導が必要です。保湿剤やタオルの持参、着替えの際の注意点などを説明します。
家族への教育と支援
家族全体でケアに取り組む体制づくりが重要です。両親だけでなく、兄弟姉妹や祖父母などの家族メンバーにも疾患についての理解を深めてもらうことで、より効果的なケアが可能となります。
特に、入浴後のスキンケアや外用薬の塗布など、日常的なケアについては家族で協力して行えるよう支援します。また、家族の負担が大きくなりすぎないよう、社会資源の活用についても情報提供を行います。
緊急時の対応と予防
症状が急激に悪化した場合の対応について、あらかじめ説明しておくことが重要です。感染兆候(発熱、痛み、腫れ、膿など)がある場合や、急激な症状の悪化がみられる場合は、すぐに受診するよう指導します。
また、季節の変わり目や行事などで生活リズムが変化する際は、症状が悪化しやすいため、特に注意が必要です。予防的なケアの強化について具体的に説明します。
まとめ
アトピー性皮膚炎の看護ケアは、医学的な知識と技術に加えて、患者さんとご家族への細やかな配慮が必要です。症状管理のための具体的な方法を指導しながら、心理的なサポートも行い、患者さんとご家族が前向きに治療に取り組めるよう支援することが重要です。また、多職種との連携を図りながら、包括的なケアを提供することで、より良い治療成果につながります。
看護師として、これらの知識を活かしながら、個々の患者さんの状況に合わせた適切なケアを提供していくことが求められます。








