はじめに
1型糖尿病の看護ケアは、私たち看護師にとって非常に重要な分野です。近年、若い患者さんが増えており、きめ細かいケアが求められています。この記事では、現場で役立つ実践的な知識を、できるだけわかりやすく解説していきます。
1型糖尿病の基本的な理解
1型糖尿病は、膵臓の細胞が破壊されることで起こる自己免疫疾患です。膵臓にある「β細胞」という特別な細胞が、体の免疫システムによって攻撃され、壊されてしまうのです。β細胞は血糖値を下げるホルモンである「インスリン」を作る大切な細胞なのですが、これが破壊されることでインスリンが作れなくなってしまいます。
インスリンがないと、私たちの体は血液中の糖分(ブドウ糖)をうまく使うことができません。これは、お腹が空いているのに冷蔵庫の鍵が開かないような状態だと考えるとわかりやすいでしょう。体の細胞は糖分を必要としているのに、血液中の糖分を取り込むことができないのです。
症状と観察ポイント
初期症状の理解
1型糖尿病の初期症状は、「3多1減」と呼ばれる特徴的な症状が現れます。これは「多飲」「多尿」「多食」、そして「体重減少」を指します。なぜこのような症状が出るのかを理解することは、看護ケアを行う上で非常に重要です。
多飲と多尿について説明すると、血糖値が高くなりすぎると、体は糖分を尿と一緒に排出しようとします。その際に水分も一緒に失われるため、喉が渇いて水をたくさん飲むようになります。そして、飲んだ水分は尿として出ていくため、トイレが近くなります。このサイクルが続くことで、脱水のリスクも高まってきます。
多食は、体が十分にエネルギーを使えていないために起こります。血液中には糖分があるのに、インスリンがないためにそれを使えない状態なので、体は常に空腹状態だと勘違いしてしまうのです。
急性合併症の早期発見
最も注意が必要なのは、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)です。これは生命に関わる緊急事態で、以下のような症状が現れます:
血糖値が極端に高くなると、体は脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。その際に「ケトン体」という酸性の物質が作られ、血液が酸性に傾いていきます。このとき、患者さんは吐き気や嘔吐、お腹の痛みを訴えることが多く、呼吸が速く深くなり(クスマウル呼吸)、アセトン臭(甘いフルーツのような匂い)が口臭として感じられることがあります。
インスリン療法の実際
インスリン注射の基本
インスリン注射は1型糖尿病治療の基本です。基礎インスリンと追加インスリンの2種類を組み合わせて使用することが一般的です。基礎インスリンは、食事とは関係なく1日中必要な分のインスリンを補充するもので、追加インスリンは食事の際に使用します。
注射部位のローテーションは非常に重要です。同じ場所に繰り返し注射すると、硬くなったり凹んだりする「リポハイパートロフィー」という状態になることがあります。この部分にインスリンを注射すると、吸収が不安定になってしまいます。
血糖自己測定(SMBG)の指導
血糖値の自己測定は、1日4〜7回程度行うことが推奨されています。測定のタイミングは、朝食前、各食事の2時間後、就寝前などです。また、体調が悪いときや、運動をする前後にも測定が必要です。
測定値の記録は非常に重要で、これをもとに医師がインスリンの量を調整します。患者さんには、測定値だけでなく、食事内容や運動量、体調なども一緒に記録するよう指導しましょう。
日常生活指導のポイント
食事療法の基本
1型糖尿病の食事療法は、2型糖尿病とは異なり、極端な制限は必要ありません。しかし、炭水化物の量を把握することは非常に重要です。なぜなら、食事に含まれる炭水化物の量に応じて、追加インスリンの量を調整する必要があるからです。
食事の基本は、バランスの良い食事を規則正しく取ることです。特に若い患者さんの場合は、成長に必要な栄養素をしっかりと摂取できるよう支援することが大切です。
運動療法と注意点
運動は血糖コントロールに有効ですが、低血糖のリスクにも注意が必要です。運動前後の血糖値測定は必須で、運動の種類や強度、時間に応じてインスリン量や補食を調整する必要があります。
特に注意が必要なのは、運動後の遅発性低血糖です。運動後、数時間から24時間程度経過してから低血糖が起こることがあります。
合併症の予防と早期発見
長期合併症への対策
長期の高血糖は、全身の血管に悪影響を及ぼします。主な合併症として以下のものがあります:
網膜症は目の血管が障害される病気で、早期発見が重要です。定期的な眼科検診を受けるよう指導しましょう。
腎症は腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。尿中のアルブミン量を定期的にチェックすることで、早期発見が可能です。
神経障害は手足のしびれや痛みとして現れます。特に足のケアは重要で、毎日の観察と適切なフットケアが必要です。
緊急時の対応
低血糖時の対応
低血糖は最も注意が必要な急性合併症の一つです。血糖値が70mg/dL以下になると低血糖と判断します。症状として、手の震え、冷や汗、動悸、空腹感、頭痛などが現れます。
対応としては、ブドウ糖や砂糖を含む飲食物を摂取します。意識がある場合は、ブドウ糖5〜10g、または砂糖であれば3〜6個程度を目安に摂取します。15分後に再度血糖値を測定し、改善が見られない場合は追加で摂取します。
シックデイの管理
発熱やストレスなどで体調を崩したときを「シックデイ」と呼びます。このような時期は、通常よりも血糖値が上昇しやすく、より頻回な血糖値測定が必要です。また、脱水予防のために十分な水分摂取が重要です。
心理的サポート
患者の心理面への配慮
1型糖尿病と診断された患者さんは、大きな精神的衝撃を受けます。特に若年で発症した場合、学校生活や将来への不安を強く感じることがあります。このような患者さんには、じっくりと話を聞き、気持ちに寄り添う姿勢が大切です。
また、家族の支援も非常に重要です。特に小児の場合は、家族全体で病気に向き合っていく必要があります。家族の不安や負担にも配慮しながら、適切なサポート体制を整えていきましょう。
まとめ
1型糖尿病のケアは、医学的な知識と技術に加えて、患者さんの生活全体を見据えた支援が必要です。この記事で紹介した内容を参考に、より良いケアの提供を目指していきましょう。ただし、これはあくまでも基本的な内容をまとめたものです。実際のケアは、個々の患者さんの状態や施設のガイドラインに従って行ってください。