はじめに
看護師として働く中で、特に小児病棟では多くのネフローゼ症候群の患者さんと出会うことになります。本日は、新人看護師さんからベテラン看護師さんまで、全ての医療従事者に役立つ情報をお伝えしていきます。患者さんの症状の観察から家族へのケアまで、現場で即実践できる内容を、できるだけわかりやすく解説していきますので、最後までしっかりとお読みください。
ネフローゼ症候群の基礎知識
ネフローゼ症候群について、まずは基本的な部分から詳しく説明していきましょう。ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体という小さなフィルターが傷つくことで起こる病気です。健康な腎臓では、血液中の老廃物は尿として排出され、タンパク質などの必要な成分は体内に保持されます。しかし、ネフローゼ症候群では、この大切なフィルターが正常に機能しなくなってしまいます。その結果、本来なら血液中に留まるべきタンパク質が尿中に漏れ出してしまうのです。
特に小児のネフローゼ症候群は、2〜6歳の男児に多く見られます。発症のきっかけは上気道感染であることが多く、風邪のような症状から始まることがあります。そのため、一見すると普通の風邪のように見えても、その後の経過観察が非常に重要になってきます。
主要な症状と観察ポイント
1. 蛋白尿について
高度の蛋白尿は、ネフローゼ症候群の最も特徴的な症状です。健康な人の尿中タンパク排泄量は1日0.1g以下ですが、ネフローゼ症候群では1日3.5g以上のタンパク質が尿中に排出されます。これは体にとって大きな負担となります。
尿の観察方法として、まず見た目の変化があります。タンパク質を多く含む尿は泡立ちが強く、その泡はなかなか消えません。トイレの水面に泡が残り続けるような状態が見られます。この泡は、洗剤で作った泡のような見た目になります。
24時間蓄尿検査は、治療効果を判定する上で重要な検査です。患者さんやご家族に蓄尿の必要性を説明する際は、以下のポイントを押さえましょう:
まず、朝一番の尿は採取せず、その時間を記録することから始めます。その後24時間、全ての尿を採取し、最後に翌朝の最初の尿まで採取します。この間、トイレに行くたびに確実に採取することが大切です。特に小児の場合は、夜間の採尿が難しいことがありますので、家族の協力が必要不可欠です。
2. 低タンパク血症の観察
血液中のタンパク質が尿中に失われることで、血清アルブミン値が2.5g/dL以下になることがあります。これにより、血液の浸透圧が低下し、様々な症状が引き起こされます。
低タンパク血症の症状として、疲労感や倦怠感、食欲不振などが現れることがあります。また、wound healingが遅延する可能性もあるため、傷の治りが悪くなることもあります。採血部位や点滴刺入部の観察は特に丁寧に行う必要があります。
3. 浮腫の詳細な観察方法
浮腫は、患者さんやご家族が最も気づきやすい症状です。朝起きたときの目の周りのむくみから始まり、次第に全身に広がっていきます。特に重力の影響を受けやすい部分、つまり下肢や仙骨部などに強く現れる傾向があります。
浮腫の観察には、以下の点に注意が必要です:
体重測定は必ず朝一番、同じ条件で行います。前日と比較して0.5kg以上の増加があった場合は、浮腫が悪化している可能性があります。また、腹囲測定は臍の高さで行い、1cm単位まで正確に測定します。
皮膚の状態も重要な観察ポイントです。浮腫により皮膚が過度に伸展すると、光沢が出て張りが出てきます。また、指で押すと窪みができ、その跡が残りやすくなります(圧痕性浮腫)。この圧痕がどのくらいの時間で消失するかも、浮腫の程度を判断する上で重要な情報となります。
4. 脂質異常症への対応
脂質異常症は、血清総コレステロール値が250mg/dL以上に上昇する状態を指します。これは、肝臓でのコレステロール産生が亢進することによって起こります。
高コレステロール血症は、それ自体は自覚症状を伴わないことが多いのですが、長期的には動脈硬化のリスクとなります。そのため、定期的な血液検査による監視が必要です。
治療とケアの実際
ステロイド療法における看護のポイント
ネフローゼ症候群の治療の基本は、ステロイド療法です。通常、プレドニゾロンが使用されます。初期治療では大量投与が必要となることが多く、その後徐々に減量していきます。
ステロイド療法中は、様々な副作用に注意が必要です。主な副作用とその観察ポイントは以下の通りです:
満月様顔貌(ムーンフェイス)は、顔が丸くなり、頬が赤くなるような外見の変化です。特に学童期以降の患者さんでは、容姿の変化による精神的なストレスが大きいことがあります。
消化器症状として、胃部不快感や食欲亢進が見られます。特に空腹時の胃痛を訴えることが多いため、制酸剤が予防的に処方されることもあります。
また、高血糖や高血圧、骨粗鬆症などの代謝性の副作用も起こりやすくなります。血糖値や血圧の定期的なモニタリングが必要です。
感染予防の具体的な方法
ステロイド療法中は免疫力が低下するため、感染予防が極めて重要です。具体的な予防策として、以下のような指導を行います:
手洗いは流水と石鹸を使用し、30秒以上かけて丁寧に行います。特に食事前、トイレ後、外出後は必ず実施するように指導します。また、アルコール性手指消毒薬の使用も推奨されます。
マスクの着用は、特に外来受診時や人混みに出る際には必須です。マスクは鼻からあごまでしっかりと覆い、隙間ができないように着用することが大切です。
患者教育と生活指導
食事療法の実際
食事療法は治療の重要な柱の一つです。塩分制限は浮腫の軽減に効果的ですが、厳密な制限は困難を伴うことが多いです。そのため、具体的な食品の選び方や調理方法について、管理栄養士と連携しながら指導を行います。
タンパク質については、病状に応じて制限が必要となります。ただし、特に成長期の小児では、必要最低限のタンパク質は確保する必要があります。食事記録をつけることで、摂取量の把握と調整が容易になります。
運動・活動制限の考え方
運動制限は、症状の程度によって個別に設定します。急性期には安静が必要ですが、寛解期に入れば徐々に活動範囲を広げていきます。ただし、過度な運動や疲労は再発のきっかけとなる可能性があるため、注意が必要です。
心理的サポートの実際
患者の心理面への対応
長期の入院治療や活動制限により、患者さんは様々なストレスを抱えることになります。特に小児の場合、学校生活への影響も大きく、友人関係や学習面での不安を感じやすいです。
そのため、患者さんの気持ちに寄り添い、話を傾聴する姿勢が重要です。また、年齢に応じて病気や治療について説明し、自己管理能力を育てていくことも大切です。
家族への支援
患者の家族、特に主たる介護者となる母親への支援も重要です。24時間の付き添いによる疲労や、他の家族員との関係性の変化などにより、精神的な負担が大きくなりがちです。
定期的に家族と話し合う機会を設け、困っていることや不安に感じていることを表出できるよう支援します。必要に応じて、医療ソーシャルワーカーとの連携も検討します。
まとめ
ネフローゼ症候群の看護において最も重要なのは、症状の的確な観察と、それに基づく適切なケアの提供です。また、患者さんとご家族への心理的サポートも欠かせません。
日々の看護実践の中で、この記事で解説した内容を参考にしていただければ幸いです。ただし、これはあくまでも基本的な内容をまとめたものです。実際のケアは、個々の患者さんの状態や、施設のガイドラインに従って行ってください。
また、不明な点がある場合は、必ず先輩看護師や医師に相談するようにしましょう。チーム医療の中で、より良いケアを提供していくことが、私たち看護師に求められている役割です。
この記事が、皆さんの日々の看護実践の一助となれば幸いです。