はじめに – このガイドの使い方
こんにちは。今回は、看護の現場でよく遭遇する嘔吐・下痢の患者さんへのケア方法について、できるだけわかりやすくお伝えしていきたいと思います。嘔吐や下痢は、一見単純な症状に見えますが、適切な対応をしないと重症化するリスクがあります。特に、小児や高齢者、基礎疾患のある患者さんでは要注意です。このガイドを読んで、明日からの看護実践に活かしていただければ幸いです。
症状を正しく理解しよう – 嘔吐と下痢のメカニズム
まずは、嘔吐と下痢が起こるメカニズムについて理解しましょう。嘔吐は、胃の内容物が強制的に口から出てくる症状です。単なる「吐き気」とは異なり、実際に胃の内容物が逆流して口から出てくる状態を指します。
嘔吐が起こる原因はさまざまです。消化器系の感染症、食中毒、胃腸炎などの消化器疾患が代表的ですが、脳や内耳の疾患、精神的なストレス、薬の副作用などでも起こることがあります。
下痢は、便の水分量が増加して、形が崩れたり水様になったりする症状です。通常、大腸では水分の再吸収が行われていますが、何らかの原因でこの機能が障害されると下痢が起こります。1日3回以上の水様便がある場合を下痢と定義することが多いです。
観察の基本 – 何をどう見る?
嘔吐・下痢の患者さんを観察する際は、以下のようなポイントに注目します。
まず嘔吐については、以下の項目を観察します。回数、量、性状、色、におい、嘔吐のタイミングなどです。特に、嘔吐物の性状は重要な情報となります。例えば、コーヒー残渣様の嘔吐物は消化管出血を示唆する可能性があり、緊急性が高いです。また、胆汁様の黄緑色の嘔吐は腸閉塞の可能性を考える必要があります。
下痢については、回数、量、性状(水様、粘液性、血性など)、色、におい、腹痛の有無を観察します。下痢の性状から、原因を推測できることもあります。例えば、粘液性の下痢は腸の炎症を示唆することがあります。
バイタルサインと脱水の評価 – 重症化を防ぐために
嘔吐や下痢が続くと、脱水のリスクが高まります。そのため、バイタルサインの確認と脱水の評価は非常に重要です。以下のような点に注目して観察を行います。
まず、バイタルサインについては、体温、脈拍、血圧、呼吸数を定期的に測定します。特に、頻脈(脈が速くなること)や血圧低下は脱水のサインかもしれません。体温が上昇している場合は、感染症の可能性も考慮する必要があります。
脱水の評価では、皮膚の張り(ターゴール)、口腔内の湿潤度、尿量、体重の変化などをチェックします。皮膚を軽くつまんで離した時、すぐに戻らない場合は脱水が疑われます。また、口腔内が乾燥している、尿量が減少している、短期間で体重が減少しているなども、脱水を示唆する重要なサインです。
具体的なケア方法 – 実践編
1. 安静と環境調整
嘔吐・下痢のある患者さんには、まず安静が必要です。体を横向きにし、頭を横に向けた体位をとってもらいます。これは誤嚥を防ぐために重要です。また、ベッド周囲には吐物を受けるための容器やティッシュ、清拭タオルなどを準備しておきます。
部屋の環境も大切です。温度は20~26度、湿度は50~60%程度に保ちます。強い光や騒音は、嘔気を誘発する可能性があるため、できるだけ静かで落ち着いた環境を整えましょう。
2. 清潔ケア
嘔吐や下痢の後は、速やかな清潔ケアが必要です。嘔吐後は口腔内を清潔にし、必要に応じて更衣を行います。下痢の場合は、肛門周囲の清潔を保つことが重要です。特に頻回な下痢がある場合は、皮膚のトラブルを予防するためのケアが必要です。
3. 水分・栄養管理
脱水を予防・改善するために、適切な水分補給が必要です。ただし、一度に大量の水分を摂取すると、かえって嘔吐を誘発する可能性があります。少量ずつ、こまめに水分を摂取してもらうようにします。経口補水液(ORS)の使用も効果的です。
食事の工夫と栄養管理
食事の再開は慎重に行う必要があります。最初は絶飲食とし、症状の改善に合わせて段階的に食事を開始していきます。具体的な進め方は以下の通りです。
まず、2時間程度は何も口にしないようにします。その後、氷片や少量の水分から開始します。これに耐えられれば、スポーツドリンクや経口補水液などを試してみます。さらに症状が落ち着いてきたら、おかゆやスープなど、消化の良い食事から少しずつ始めていきます。
薬物療法のサポート
医師の指示のもと、制吐剤や整腸剤などが使用される場合があります。看護師は薬の効果と副作用の観察が重要です。特に以下の点に注意します。
制吐剤を使用する場合は、投与後の嘔気・嘔吐の改善状況を確認します。また、眠気などの副作用が出現していないかも観察します。整腸剤の場合は、便の性状や回数の変化を観察していきます。
感染予防の重要性
嘔吐・下痢は感染性の原因によることも多いため、感染予防は非常に重要です。以下のような対策を徹底します。
手洗い・手指消毒の徹底は最も基本的で重要な対策です。嘔吐物や便の処理の際は、使い捨ての手袋とエプロンを使用します。また、使用した物品の消毒も確実に行います。
患者さん・ご家族への指導
症状が落ち着いてきたら、再発予防のための指導も行います。以下のような点について、わかりやすく説明します。
まず、手洗いの重要性です。食事の前、トイレの後、外出から帰った時など、こまめな手洗いが感染予防の基本となります。また、食事の注意点として、生ものを避ける、十分に加熱する、作り置きを控えるなどの点を説明します。
記録と申し送り
看護記録には、以下のような項目を具体的に記載します。嘔吐・下痢の回数、性状、量、バイタルサインの変化、摂取した水分量、尿量、服薬状況などです。また、患者さんの訴えや表情の変化なども重要な情報として記録します。
特別な配慮が必要な患者さん
小児の場合
小児の嘔吐・下痢では、脱水のリスクが特に高いため、より慎重な観察が必要です。脱水の初期症状として、機嫌の悪さ、活気の低下、涙が出にくい、おしっこの回数が減るなどがあります。また、乳児では大泉門の陥没も重要なサインとなります。
小児の場合、水分補給の方法も工夫が必要です。スポイトやシリンジを使って少量ずつ与えたり、氷をなめてもらったりするなど、年齢や好みに合わせた方法を選択します。
高齢者の場合
高齢者も脱水になりやすい対象です。脱水による意識レベルの低下や、転倒のリスクにも注意が必要です。また、基礎疾患がある場合は、その管理も重要になってきます。
脱水の予防には、こまめな水分摂取を促すことが大切です。ただし、一度に大量の水分を摂取すると誤嚥のリスクもあるため、少量ずつ確実に摂取できるよう支援します。
緊急性の判断 – 医師に報告すべき状態
以下のような状態が見られた場合は、すぐに医師に報告する必要があります。
まず、重度の脱水を示唆する症状として、意識レベルの低下、血圧低下、頻脈、皮膚の乾燥などがあります。また、血性の嘔吐や下痢、激しい腹痛、38度以上の発熱が続く場合なども要注意です。
おわりに – より良いケアのために
嘔吐・下痢の看護ケアは、一見単純に見えますが、実は多くの観察点と判断が必要な領域です。患者さんの苦痛を理解し、適切なケアを提供することで、症状の早期改善につながります。
また、予防的な視点も重要です。手洗いの徹底や環境整備、適切な食事指導など、再発予防のための支援も看護師の重要な役割です。
この記事で紹介したポイントを参考に、明日からのケアに活かしていただければと思います。そして何より、患者さんの気持ちに寄り添い、安心して治療に専念できる環境を整えていくことを心がけましょう。
最後に、私たち看護師も日々の実践を通じて学びを深め、より良いケアを提供できるよう努力していきましょう。患者さんの笑顔のために、一緒に頑張っていきましょう!