はじめに
こんにちは。今回は、日常的によく遭遇する消化器疾患の一つである慢性胃炎について、看護師さんや看護学生の皆さんに向けて、わかりやすく解説していきます。検査データの見方から患者さんへの具体的な指導方法まで、実践的な内容をお伝えしていきましょう。
慢性胃炎の基礎知識
慢性胃炎は、胃の粘膜に長期間にわたって炎症が続く状態を指します。一時的な急性胃炎と異なり、数ヶ月から数年という長い期間続くことが特徴です。この状態が続くと、胃粘膜が徐々に薄くなっていく「萎縮性胃炎」に進展することがあります。
主な原因と発症メカニズム
1. ヘリコバクター・ピロリ菌感染
最も重要な原因の一つが、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染です。この細菌は胃の中で生存し、以下のような影響を与えます:
胃の粘膜に直接的な傷害を与え、持続的な炎症を引き起こします。また、胃酸の分泌を増加させ、胃粘膜の防御機能を低下させます。長期間感染が続くと、胃粘膜の萎縮を引き起こす可能性があります。
2. 自己免疫の関与
一部の慢性胃炎では、自己免疫機能の異常が関係しています。これを「自己免疫性胃炎」と呼びます。この場合、体の免疫システムが自分の胃粘膜を攻撃してしまい、炎症が持続します。
3. 生活習慣の影響
以下のような生活習慣も、慢性胃炎の発症や悪化に関係します:
- 不規則な食事
- 過度の飲酒
- 喫煙
- ストレス
症状と特徴
慢性胃炎の症状は、以下のようなものが代表的です:
胃部不快感は最も一般的な症状です。特に、みぞおちの辺りに違和感や膨満感を感じることが多いです。
食欲不振も特徴的な症状です。食べたくない、食べても美味しくないという訴えがよく聞かれます。
胸やけやげっぷも頻繁に見られる症状です。
ただし、慢性胃炎の中には無症状で経過するケースも多いことを覚えておく必要があります。
重要な検査項目と見方
1. ペプシノーゲン検査
ペプシノーゲン検査は、胃粘膜の萎縮の程度を調べる重要な検査です。以下の2つの値を測定します:
ペプシノーゲンI(PG I)は、胃の粘膜から分泌される物質です。正常値は70ng/mL以上です。この値が低下すると、胃粘膜の萎縮が疑われます。
ペプシノーゲンI/II比も重要な指標です。正常では3以上ですが、3未満になると萎縮性胃炎の可能性が高くなります。
2. ヘリコバクター・ピロリ菌検査
ピロリ菌の検査方法には、以下のようなものがあります:
尿素呼気試験は、特殊な薬を飲んでから呼気を採取して検査します。非侵襲的で患者さんの負担が少ないのが特徴です。
血清抗体検査は、血液中のピロリ菌に対する抗体を調べます。過去の感染も分かりますが、除菌後も陽性が続くことがあるので注意が必要です。
3. 内視鏡検査
内視鏡検査では、以下のような所見を確認します:
発赤やびらんの有無を観察します。また、粘膜の萎縮の程度や血管透見像なども重要な所見です。
具体的な治療方針
1. ピロリ菌陽性の場合
ピロリ菌が陽性の場合は、除菌療法が基本となります。通常は以下の3種類の薬を組み合わせて使用します:
- プロトンポンプ阻害薬(PPI)
- アモキシシリン
- クラリスロマイシン
これらを1週間程度服用します。除菌成功率は約80%です。
2. 症状のコントロール
症状がある場合は、以下のような薬物療法を行います:
胃酸分泌抑制薬は、胃酸の分泌を抑えることで症状を和らげます。
消化管運動改善薬は、胃もたれなどの症状を改善します。
看護ケアのポイント
1. 食事指導
患者さんへの食事指導は以下のような内容が重要です:
規則正しい食事時間を守ることの大切さを説明します。空腹時間が長くなると胃酸が過剰に分泌され、症状が悪化する可能性があります。
刺激物を避けることも重要です。特に急性期には、香辛料の強い食べ物やアルコール、カフェインの摂取を控えめにするよう指導します。
2. 生活習慣の改善
生活習慣の改善も重要な治療の一部です:
禁煙指導が必要です。喫煙は胃粘膜の血流を低下させ、炎症を悪化させる可能性があります。
ストレス管理も大切です。ストレスによって胃酸の分泌が増加し、症状が悪化することがあります。
3. 服薬指導
確実な服薬は治療成功の鍵となります:
除菌療法を行う場合は、3種類の薬を決められた期間、確実に服用することの重要性を説明します。
予後と経過観察
慢性胃炎は、適切な治療と生活習慣の改善で多くの場合症状をコントロールできます。しかし、長期的な経過観察が必要です:
定期的な内視鏡検査を受けることが推奨されます。特に萎縮性胃炎の場合は、胃がんのリスクが上昇するため、注意深い経過観察が必要です。
まとめ
慢性胃炎は、適切な治療と生活習慣の改善で管理可能な疾患です。しかし、長期的な経過観察が必要で、場合によっては重大な合併症を引き起こす可能性があります。
看護師として、患者さんの症状をよく観察し、適切な生活指導を行うことが重要です。特に、食事や服薬に関する指導は、治療の成功に大きく影響します。
また、患者さんの不安や悩みにも耳を傾け、精神的なサポートも忘れずに行いましょう。慢性疾患の管理は、患者さんとの信頼関係が重要です。
この記事で学んだ知識を、日々の看護実践に活かしていただければ幸いです。