はじめに
全身麻酔は現代医療において不可欠な技術であり、手術室看護において重要な位置を占めています。全身麻酔は、意識の消失、痛みの遮断、筋弛緩、自律神経反射の抑制という4つの要素を併せ持つ、複雑な医療行為です。看護師として全身麻酔管理に携わるためには、その基本的なメカニズムから術後管理まで、包括的な理解が必要となります。
全身麻酔の基礎的理解
全身麻酔は、中枢神経系に作用して一時的に意識を消失させ、全身の痛覚を遮断する方法です。この過程では、様々な生理学的変化が起こります。特に重要なのは、呼吸・循環・体温調節機能への影響です。全身麻酔下では、これらの生体機能が抑制されるため、厳密な管理が必要となります。
麻酔の深度は一般的に4段階に分類され、第1期(陶酔期)、第2期(興奮期)、第3期(手術期)、第4期(呼吸麻痺期)と進行します。通常の手術は第3期で行われ、第4期は致死的な状態であり、絶対に避けなければなりません。
麻酔薬の種類と特徴
麻酔薬は投与経路によって大きく分類されます。吸入麻酔薬は、肺胞を通じて血液中に吸収され、脳に到達して作用を発揮します。代表的な薬剤としてセボフルラン、デスフルラン、イソフルランなどがあります。これらの薬剤は、麻酔深度の調節が容易で、覚醒も比較的速やかという特徴があります。
静脈麻酔薬は、直接血管内に投与される薬剤です。プロポフォールは最も広く使用される静脈麻酔薬の一つで、導入が迅速で覚醒も早いという利点があります。ただし、呼吸抑制や血圧低下などの副作用にも注意が必要です。
その他、ケタミンなどの解離性麻酔薬や、バルビツール酸系薬剤なども使用されます。これらの薬剤は、それぞれ特有の適応と禁忌があり、患者の状態に応じて適切に選択する必要があります。
周術期看護の実際
術前管理
術前管理では、患者の全身状態の評価が最も重要です。具体的には以下の項目を確認します:
- 既往歴と現病歴の確認
- アレルギー歴の確認
- 常用薬の確認
- バイタルサインの測定
- 術前検査結果の確認
特に重要なのは、空腹時間の確認です。誤嚥性肺炎を予防するため、固形物は手術6時間前から、清澄水は2時間前から絶飲食とするのが一般的です。
術中管理
術中は、麻酔科医の指示のもと、以下の項目を継続的にモニタリングします:
- 酸素飽和度
- 心電図
- 血圧
- 体温
- 尿量
- 出血量
特に注意が必要なのは、気道確保の状態と循環動態の変化です。挿管チューブの固定状態、換気状態、循環動態の変化などを常に観察し、異常の早期発見に努めます。
術後管理
術後は、麻酔からの覚醒期が最も重要です。以下の点に注意して観察を行います:
- 意識レベルの評価
- 呼吸状態の観察
- 循環動態の監視
- 疼痛の評価
- 体温管理
- 出血の有無
特に注意が必要なのは、気道閉塞のリスクです。舌根沈下や喉頭痙攣などが起こりやすい時期であり、適切な体位管理と継続的な観察が必要です。
合併症の理解と対策
全身麻酔に関連する合併症は、発生時期により術中合併症と術後合併症に分類されます。
術中合併症
- 気道関連合併症
- 気道閉塞
- 気管支痙攣
- 誤嚥
- 循環器系合併症
- 不整脈
- 血圧変動
- 心筋虚血
- その他の合併症
- 悪性高熱
- アナフィラキシー
- 低体温
術後合併症
- 呼吸器系合併症
- 無気肺
- 肺炎
- 喉頭浮腫
- 循環器系合併症
- 不整脈
- 心不全
- 深部静脈血栓症
- その他の合併症
- 嘔気・嘔吐
- せん妄
- 術後痛
記録と評価
麻酔記録は法的文書としても重要です。以下の項目を正確に記録します:
- バイタルサインの推移
- 使用薬剤の種類と量
- 輸液・輸血の内容と量
- 特記すべき出来事
- 術後の状態
まとめ
全身麻酔管理は、高度な専門知識と技術を要する医療行為です。看護師は、麻酔科医と協力しながら、患者の安全を確保する重要な役割を担っています。この基礎知識をもとに、実践的なスキルを磨いていくことが重要です。継続的な学習と経験の積み重ねにより、より質の高い周術期看護の提供を目指しましょう。