こんにちは、看護学生の皆さん。今回は、大腸がん患者の術後管理について、ヘンダーソンのアセスメントを用いた看護過程を詳しく解説します。手術後の痛みや活動制限が患者に与える影響を理解し、効果的なケアを提供するためのポイントを学んでいきましょう。
大腸の解剖生理と直腸がんの病態
大腸の解剖生理
大腸は消化管の最終部分であり、以下の3つの主要な部分から構成されています:
- 盲腸:小腸と大腸の接合部にある袋状の構造
- 結腸:上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸の4つの部分からなる
- 直腸:S状結腸の末端から肛門につながる部分
大腸の主な機能は以下の通りです:
- 水分の吸収:残渣から水分を吸収し、便を形成する
- 電解質の吸収:ナトリウムやカリウムなどの電解質を吸収する
- 便の貯蔵:直腸に便を貯め、適切なタイミングで排泄する
- 腸内細菌の維持:有益な腸内細菌を育成し、免疫機能をサポートする
直腸がんの病態
直腸がんは、直腸の粘膜から発生する悪性腫瘍です。初期段階では症状がほとんどないため、発見が遅れることがあります。進行すると以下のような症状が現れます:
- 便通の異常(下痢や便秘の繰り返し)
- 血便や粘液便
- 排便時の痛み
- 腹痛や腹部膨満感
- 体重減少や倦怠感
直腸がんの治療は、主に手術による腫瘍の切除が行われます。進行度によっては、人工肛門(ストーマ)の造設が必要になることもあります。
看護過程の事例紹介
患者紹介
- 患者名:Aさん(55歳、男性)
- 職業:会社員(管理職)
- 家族構成:妻(48歳)、息子(16歳)の3人家族
現病歴と術後の経過
Aさんは3ヶ月前に血便を主訴に受診し、精密検査の結果、直腸がんと診断されました。術前検査で他臓器への転移は認められず、根治的手術の適応と判断されました。
手術内容:低位前方切除術+一時的回腸ストーマ造設術
術後経過:
- 術後1日目:ドレーン留置中、安静臥床
- 術後2日目:疼痛コントロール不良のため、離床に消極的
- 術後3日目:現在の状態
ヘンダーソンのアセスメントと看護過程
ヘンダーソンの14の基本的ニーズに基づいて、Aさんの状態をアセスメントします。今回は特に「正常に呼吸する」「動く・姿勢を保つ」「睡眠・休息」「痛みを避ける」の4つのニーズに焦点を当てます。
呼吸のアセスメント
- 現在の状態:
- 呼吸数:18回/分、SpO2:96%(室内気)
- 浅い呼吸傾向あり、深呼吸や咳嗽を痛みのため避けている
- 問題点:
- 創部痛により深呼吸が制限され、肺の換気が不十分
- 痰の貯留リスクが高く、無気肺や肺炎の危険性がある
活動・運動のアセスメント
- 現在の状態:
- 術後2日目だが、ほぼ終日臥床状態
- 痛みや点滴、ドレーンの存在により、体動に不安を感じている
- 問題点:
- 早期離床が遅れることで、筋力低下や循環障害のリスクが高まる
- 深部静脈血栓症(DVT)の危険性が増加
睡眠・休息のアセスメント
- 現在の状態:
- 夜間の疼痛や環境の変化により、睡眠が断続的
- 日中も疲労感が強く、活動意欲が低下している
- 問題点:
- 睡眠不足による回復の遅延
- 日中の活動性低下が夜間の不眠につながる悪循環
痛みのアセスメント
- 現在の状態:
- 安静時のNRS(Numerical Rating Scale):4/10
- 体動時のNRS:7/10
- 鎮痛薬(オピオイド)を使用中だが、効果が不十分
- 問題点:
- 疼痛コントロール不良により、早期離床や呼吸機能の改善が妨げられている
- 痛みへの不安から、活動に対して消極的になっている
看護計画と介入
上記のアセスメントに基づき、以下の看護計画を立案します。
看護診断
- 急性疼痛
- 非効果的呼吸パターン
- 活動耐性低下
看護目標
長期目標:
- Aさんが術後合併症なく回復し、日常生活動作(ADL)が術前レベルに戻る
短期目標:
- Aさんの疼痛がNRS 3以下に軽減し、深呼吸や体動が可能になる
- Aさんが1日3回以上、病棟内を歩行できるようになる
- Aさんの呼吸状態が改善し、SpO2が98%以上を維持できる
看護介入
疼痛管理
- 定期的な疼痛評価:
- NRSを用いて、4時間ごとに痛みの程度を評価
- 体動時や処置前後の痛みも評価し、記録
- 適切な薬物療法:
- 医師と相談し、鎮痛薬の種類や投与量、タイミングを調整
- レスキュー薬の使用方法をAさんに説明し、積極的な使用を促す
- 非薬物療法の導入:
- リラクゼーション技法(深呼吸法、漸進的筋弛緩法)を指導
- 創部を保護しながら、温罨法や冷罨法を適用
- 心理的サポート:
- 痛みに対する不安や懸念を傾聴し、共感的態度で接する
- 痛みの経過や治療効果について、適切な情報提供を行う
早期離床の促進
- 段階的な離床プログラム:
- 術後2日目:ベッド上での座位保持から開始(1日3回、各15分)
- 術後3日目:端座位と立位訓練(1日3回、各10分)
- 術後4日目以降:病室内歩行から病棟内歩行へ段階的に拡大
- 離床時のサポート:
- 初回離床時は2人以上のスタッフで介助し、安全を確保
- ドレーンや点滴ラインの管理に注意しながら介助
- 動機付けと教育:
- 早期離床の利点(合併症予防、回復促進)をAさんに説明
- 離床の進捗を可視化し、達成感を感じられるよう支援
- 環境整備:
- ベッドサイドに立位バーを設置し、自立した動作を促進
- 転倒リスクを評価し、必要に応じて転倒予防策を講じる
呼吸機能のサポート
- 効果的な呼吸法の指導:
- 腹式呼吸や胸式呼吸の方法を説明し、実践をサポート
- 創部を保護しながら深呼吸を行う方法を指導
- 排痰ケア:
- ハフィングやバイブレーション排痰法を指導
- 必要に応じて、ネブライザー療法を実施
- 体位ドレナージ:
- 適切な体位変換を行い、肺の換気を促進
- 側臥位や半座位など、Aさんの痛みに配慮しながら実施
- モニタリングと評価:
- 呼吸数、SpO2、呼吸音を定期的に評価し、記録
- 異常の早期発見に努め、必要時は医師に報告
評価と修正
看護計画の実施後、以下の点について評価を行い、必要に応じて計画を修正します:
- 疼痛の程度と性質の変化
- 離床の進捗状況と活動耐性の向上
- 呼吸機能の改善(SpO2、呼吸数、呼吸音の変化)
- 合併症(肺炎、DVTなど)の有無
- Aさんの主観的な感想や満足度
評価結果に基づき、看護計画を適宜調整し、Aさんの回復を最大限サポートします。
まとめ
大腸がん術後の患者ケアでは、疼痛管理と早期離床の両立が非常に重要です。適切な疼痛コントロールにより、患者の不安を軽減し、積極的な離床を促すことができます。同時に、早期離床は術後合併症の予防に大きく貢献します。
看護師として、患者の個別性を考慮しながら、エビデンスに基づいたケアを提供することが求められます。Aさんの事例を通じて学んだポイントを、今後の臨床実践に活かしていってください。
患者一人ひとりの回復過程は異なりますが、適切なアセスメントと個別化された看護計画により、最適なケアを提供することができます。これからも患者さんの笑顔のために、知識と技術を磨き続けていきましょう。








