はじめに
看護学生や看護師の皆さん、レポートや研究論文を書く際に文献引用で悩んだことはありませんか? 「どうやって引用すればいいの?」「直接引用と間接引用の違いがわからない」「レポートの構成はどうすればいい?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
文献引用は看護の学習や実践において非常に重要なスキルです。正しい引用方法を身につけることで、あなたのレポートや研究の質が大幅に向上し、信頼性の高い看護実践につながります。 本記事では、看護学生や新人看護師の方でも理解しやすいよう、文献引用の基本から応用まで、具体例を交えながら詳しく解説していきます。
看護の現場では、エビデンスに基づいた実践(Evidence-Based Practice) が求められています。患者さんに最適なケアを提供するためには、最新の研究結果や専門知識を正しく理解し、それを実践に活かす必要があります。そのためにも、文献を正しく読み、適切に引用する技術は欠かせません。
文献引用の基本概念
文献引用とは何か
文献引用とは、他の人が書いた本や論文、資料の内容を自分のレポートや論文で使用する際に、その出典を明確に示すこと です。看護の分野では、患者ケアの根拠を示すため、また自分の主張を支える証拠として文献引用が重要な役割を果たします。
引用には大きく分けて 「直接引用」と「間接引用」 の2つの方法があります。直接引用は原文をそのまま使用する方法で、間接引用は原文の内容を自分の言葉で要約して記述する方法です。どちらの方法を選ぶかは、引用する内容や文脈によって決まります。
なぜ文献引用が重要なのか
看護において文献引用が重要な理由はいくつかあります。まず、自分の意見や実践の根拠を示すことができる ことです。「なぜその看護介入を選択したのか」「その方法が有効である根拠は何か」といった疑問に対して、信頼できる文献を引用することで説得力のある回答ができます。
また、著作権を尊重し、学術的誠実性を保つ ためにも引用は必要です。他人の研究成果や知識を無断で使用することは盗用にあたり、学術的な不正行為となります。適切な引用を行うことで、原著者の権利を尊重し、自分自身の信頼性も保つことができます。
さらに、読み手が情報の出典を確認できる ようにすることも重要です。あなたのレポートや論文を読んだ人が、引用された文献を実際に確認し、より深く学習できるよう配慮することは、学術コミュニティへの貢献でもあります。
直接引用の詳細解説
直接引用の基本ルール
直接引用は、原文を一言一句そのまま抜き出して使用する方法 です。この際、最も重要なことは 「文字を一つも変えずに、『』(カギ括弧)を付けてそのまま抜き出すこと」 です。
例えば、「長時間にわたり閉鎖環境となった皮膚の角質層は水分を吸収して膨潤し、浸軟が発生する」という文献の記述を引用する場合、「長時間にわたり閉鎖環境となった皮膚の角質層は水分を吸収して膨潤し、浸軟が発生する」 と記述します。
この例からもわかるように、直接引用では原文の表現をまったく変更しません。文章の構造、使用されている専門用語、句読点の位置まで、すべてを忠実に再現 します。これにより、原著者の正確な表現を読み手に伝えることができます。
句点の取り扱いについて
直接引用において注意すべき点の一つが 句点(。)の取り扱い です。基本的に、引用文の最後の句点は付けません。これは引用文が文章の一部として組み込まれることが多いためです。
ただし、引用文の後に文章が続く場合は句点を付けても構いません。文脈に応じて適切に判断することが大切です。例えば、「田中は『看護師の専門性向上が重要である』と述べている。この意見は現在の医療現場の課題を的確に表している」といった使い方ができます。
引用文中の引用の処理
時として、引用したい文献の中にすでに別の引用が含まれている場合 があります。このような場合は、「『』」の形式を使用 します。つまり、外側の引用には「」を、内側の引用には『』を使用します。
具体例として、「便利さに慣れきった現代人は『生きる力』が弱い」という文を引用する場合を考えてみましょう。この文では「生きる力」という部分が元々引用符で囲まれています。これを直接引用する際は、「便利さに慣れきった現代人は『生きる力』が弱い」 と記述します。
このような処理により、どこまでが自分の文章で、どこからが引用文なのか、さらに引用文の中の特別な表現はどこなのか を読み手が明確に理解できるようになります。
会話文の引用における注意点
看護の現場では、患者さんとの会話や同僚との対話を引用する機会も多くあります。例えば、「スピーチカニューレにて『大丈夫』と会話を行うことができたが、聞き取りにくい時には筆談を行った」といった記述です。
この場合も、直接引用の原則に従って、会話部分の句点は省略 します。元の文章が「スピーチカニューレにて『大丈夫。』と会話を行うことができたが」となっていても、引用する際は「スピーチカニューレにて『大丈夫』と会話を行うことができたが」と記述します。
間接引用の詳細解説
間接引用の基本概念
間接引用は、読んだ文献の内容を、内容が変化しないように要約して自分の言葉で記述する方法 です。直接引用とは異なり、カギ括弧(「」)は使用せず、自分で要約して記述 します。
間接引用の大きな利点は、文章の流れを自然にしながら、複数の文献の内容を効率的に組み込める ことです。また、長い文章や複雑な内容を簡潔にまとめることで、読み手にとって理解しやすい文章を作成できます。
間接引用の実践例
具体例を見てみましょう。元の文献に「山下はレジリエンスについて色々と思うところがあるが、周囲からの働きかけや、こうしてみよう、ああしてみようといった適切な支援によって変化する個人特性だと考えている」という記述があったとします。
これを間接引用する場合、内容の変化がないように要約 して、「山下はレジリエンスは、周囲からの働きかけや適切な支援によって変化する個人特性であることを述べている¹⁾」と記述します。ここでは、冗長な表現を整理し、要点を明確にしながらも、元の意味を正確に保っています。
間接引用の表現パターン
間接引用を使用する際は、引用元を明確に示す表現 を使用する必要があります。代表的な表現パターンには以下のようなものがあります:
「○○は、……と述べている」「○○は、……と指摘している」「○○によれば、……である」「○○によれば、……ということである」「○○によると、……だという」「○○が言うように、……である」といった表現です。
これらの表現を適切に使い分けることで、文章に変化を持たせ、読みやすい文章を作成 できます。また、引用する内容の性質に応じて表現を選択することも重要です。研究結果を引用する場合は「明らかにした」「報告している」といった表現を、意見や見解を引用する場合は「主張している」「考えている」といった表現を使用すると適切です。
孫引きの危険性と避け方
孫引きとは何か
孫引きは絶対に避けなければならない引用方法 です。孫引きとは、元の文献を直接読まずに、他の文献で引用されている内容をさらに引用すること を指します。これは学術的な不正行為とみなされる場合があり、情報の正確性も保証できません。
例えば、AさんがBさんの研究を引用した論文を読んで、そこからBさんの研究内容を引用することが孫引きにあたります。この場合、Bさんの原文献を実際に確認し、そこから直接引用する ことが正しい方法です。
なぜ孫引きが問題なのか
孫引きが問題となる理由はいくつかあります。まず、情報の正確性が保証できない ことです。Aさんがの研究を引用する際に、意図せずに内容を変更したり、文脈を誤解したりしている可能性があります。そのような情報をさらに引用することで、誤った情報が広まってしまうリスク があります。
また、原著者の権利を適切に保護できない という問題もあります。Bさんの研究成果であるにも関わらず、Aさんの文献からの引用として扱われてしまうことで、真の貢献者が正当に評価されない 可能性があります。
正しい引用の実践
正しい引用を行うためには、常に原文献にあたる ことが基本です。参考文献リストに記載されている文献は、実際に読んで理解した上で引用しなければなりません。時間と労力がかかる作業ですが、学術的誠実性と情報の正確性を保つために不可欠 な作業です。
もし、原文献が入手困難な場合は、その旨を明記した上で適切な方法で処理する必要があります。しかし、現在はインターネットの普及により、多くの文献にアクセスできるようになっているため、原文献の確認が困難なケースは減っています。
レポート作成の基本ルール
文章表現の基本原則
看護学生のレポート作成において、文章表現には一定のルール があります。これらのルールを守ることで、読みやすく、学術的に適切なレポートを作成できます。
まず、専門用語の取り扱い について説明します。はじめて現れる専門用語は略さずに正式名称で記述し、頻繁に使用する場合は「○○正式用語○○(以下、○○と略す)」のように明記します。例えば、「急性心筋梗塞(以下、AMIと略す)」といった形です。
また、自分で勝手な単語を創造しない ことも重要です。使用する用語は必ず国語辞典や専門辞書でチェックし、一般的に認められた表現を使用 することが大切です。
文章構造の基本
レポートの文章構造にも重要なルールがあります。1文は1行から3行程度を目安 とし、5行以上の長文は避けるべきです。長すぎる文章は読み手の理解を妨げ、短すぎる文章は内容が薄くなってしまいます。全体のバランスを考えて文章の長さを決定 することが重要です。
主語と述語の一致 も基本的なルールです。文章を書いた後は、必ず読み返して主語と述語が適切に対応しているかを確認しましょう。また、句点の入れ方 にも注意が必要です。前後の単語のつながりを意識し、1行に1から2箇所程度を目安として句点を配置します。
表記上の注意事項
レポート作成における表記ルールも重要です。段落の最初は1マス下げ、数字は半角で表記 といった基本的なルールを守る必要があります。
また、人称の使い方 にも注意が必要です。文章中では「私は」と記述し、「学生は」という3人称は使用しません。これは、レポートが自分自身の学習と経験に基づいた記述であることを明確にするためです。
接続詞、副詞、助動詞、代名詞、連体詞はひらがなを使用 することも重要なルールです。例えば、「従って」ではなく「したがって」、「及び」ではなく「および」、「即ち」ではなく「すなわち」といった表記を心がけます。
研究レポートの構成と各部分の詳細
テーマ設定の重要性
研究レポートにおいて、テーマ設定は最も重要な要素の一つ です。良いテーマは、何を主張したいのかを明確に示し、目的、対象の特性、方法などが簡潔に表現 されている必要があります。
例えば、「終末期における成人期の患者の苦痛緩和の援助がもたらす安らぎを与える効果」というテーマを考えてみましょう。このテーマからは、対象の特性(終末期の成人期患者)、援助内容(苦痛緩和の援助)、効果(安らぎを与える効果) が明確に読み取れます。
「はじめに」の書き方
レポートの「はじめに」部分では、研究の動機や意義 を述べます。効果的な書き始めは、一般的な状況から今回取り組むケースの特殊性 という順番で構成することです。
この部分では、過去の研究結果(先行研究) を含めることが重要です。自分の研究がどのような背景の中で行われているのか、既存の知識とどのような関係にあるのかを明確に示すことで、研究の意義を読み手に理解してもらえます。
また、専門用語や略語を使用する場合は必ず定義 を行います。読み手が内容を正確に理解できるよう、丁寧な説明を心がけることが大切です。
倫理的配慮の記述
看護研究において、倫理的配慮は絶対に欠かせない要素 です。研究を行うことによって対象者の人権を侵害しないために、どのような配慮を行ったのかを具体的に記載する必要があります。
倫理的配慮には、プライバシーの保護、インフォームドコンセントの取得、研究参加の自由意志の尊重 などが含まれます。これらの配慮がどのように実施されたのかを明確に記述することで、研究の倫理性を示すことができます。
事例紹介の書き方
事例紹介部分では、本論で述べたい主題に最低限必要とされる内容のみを簡潔に記述 します。ここで重要なのは、個人情報の保護 です。
氏名は対象者の実名をそのまま使用せず、「A氏」「A君」「Aさん」などの表記を使用します。年齢も具体的な数字ではなく「○歳代前半」といった表現を用い、個人が特定されないよう十分に配慮 します。
日付についても、「入院後○日目」「受け持ち○日目」といった表記を使用し、具体的な日付は記載しません。これらの配慮により、対象者のプライバシーを保護しながら、必要な情報を読み手に提供できます。
看護の実際と実施結果
「看護の実際」の部分では、実習で立案した看護上の問題と看護目標 を記載します。看護計画については、O(観察)、T(実施)、E(教育)で簡潔に整理 して記述します。
「実施および結果」では、計画に沿って実施した看護を具体的に記述 します。ここで重要なのは、なぜその計画を立案したのか、対象の状況をどう捉えたのか を分かりやすく説明することです。また、援助を実施した結果として、対象者にどのような変化が見られたのか、問題がどの程度解決できたのか を客観的に記述します。
考察の書き方
考察は研究レポートの 最も重要な部分の一つ です。ここでは、自分の実践した看護を振り返り、文献に基づいて分析 を行います。
考察では、対象者の状態が変化した理由、どんな援助が効果的だったのか、なぜ対象に適した援助ができたのか といった点を深く分析します。同時に、自分自身の変化や成長 についても振り返りを行います。
重要なのは、自分の思い込みで書くのではなく、文献に基づいて分析 することです。理論的な裏付けを持った考察を行うことで、説得力のある内容となります。
引用文献の正しい記載方法
引用文献リストの基本ルール
引用文献の記載は、看護協会投稿規程 に従って行います。引用文献は引用順に本文の引用箇所の肩に¹⁾²⁾と番号をつけ、本文原稿の最後に一括して引用番号順に記載 します。
この方法により、読み手は本文中の特定の記述がどの文献に基づいているのかを容易に確認でき、必要に応じて原文献を参照することができます。正確な引用文献の記載は、学術的誠実性を示す重要な要素 です。
雑誌掲載論文の記載方法
雑誌に掲載された論文を引用する場合の記載方法は、著者名:表題名,雑誌名,巻(号),頁,発行年(西暦年次) の順序で記載します。
例えば、「田中花子:高齢者の転倒予防に関する看護介入の効果,日本看護科学会誌,25(3),45-52,2023」といった形式になります。この形式を守ることで、読み手が文献を正確に特定し、入手することが可能 になります。
単行本の記載方法
単行本を引用する場合は、著者名:書名(版),発行所,頁,発行年(西暦年次) の順序で記載します。版数がある場合は必ず記載し、引用した具体的なページ数も明記します。
翻訳書の場合は、原著者名:書名(版),発行年,訳者名,書名(版),発行所,頁,発行年(西暦年次) という形式で記載し、原著と翻訳書の両方の情報を含める必要があります。
実践的なアドバイスとコツ
効率的な文献検索の方法
質の高いレポートを作成するためには、適切な文献を効率的に検索することが重要 です。看護分野では、医学中央雑誌(医中誌)、CiNii、PubMedなどのデータベースを活用することが効果的です。
検索の際は、複数のキーワードを組み合わせて使用 し、年代や研究デザインなどの条件を設定して絞り込みを行います。また、最新の研究成果を含めるため、過去5年程度の文献を中心に収集 することが望ましいです。
引用のバランスと質
レポートにおける引用は、量よりも質が重要 です。多くの文献を引用すれば良いというわけではなく、自分の論点を支える適切な文献を選択 することが大切です。
また、直接引用と間接引用のバランス も考慮する必要があります。直接引用は印象的な表現や正確性が重要な定義などに使用し、間接引用は複数の文献の内容をまとめる際や、自分の文章の流れに合わせたい場合に使用します。
時間管理と計画的な取り組み
レポート作成は 計画的に進めることが成功の鍵 です。文献検索、読解、執筆、校正といった各段階に十分な時間を確保し、余裕を持ったスケジュールを立てることが重要です。
特に、文献の読解には予想以上に時間がかかる ことが多いため、早めに取り組み始めることをお勧めします。また、定期的に指導教員との面接を行い、進捗状況を確認しながら進めることで、方向性のずれを防ぐことができます。
まとめ
文献引用は看護実践の基盤となる重要なスキル です。正しい引用方法を身につけることで、あなたのレポートや研究の質が向上し、信頼性の高い看護実践につながります。
直接引用では原文を一言一句そのまま「」で囲んで引用し、間接引用では内容を変えずに自分の言葉で要約します。孫引きは絶対に避け、常に原文献にあたることが重要 です。レポート作成では文章表現のルールを守り、構成を適切に組み立てることで読みやすい文章を作成できます。
これらの知識と技術を身につけて、エビデンスに基づいた質の高い看護実践 を目指していきましょう。文献引用の技術は一朝一夕には身につきませんが、継続的な練習により必ず向上します。患者さんにより良いケアを提供するために、学術的なスキルを磨き続けることが大切です。













