看護学生の皆さん、乳がん患者の看護過程について悩んでいませんか。
今回は、69歳女性の乳がん患者を例に、ヘンダーソン14項目を活用したアセスメントのポイントを詳しく解説します。
乳がん患者の基本情報と病態理解
今回の症例は、69歳の女性患者で、左乳癌の診断を受け、乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検が予定されています。
既往歴として45歳時に高血圧症があり、現在も管理が必要な状態です。
入院前の外来検査では、肺機能検査で体表面積1.715m²、肺年齢90歳と加齢による変化が認められますが、喫煙歴はありません。
血液検査データでは、WBC 7.6×10²/μL、Hb 14.1g/dL、Ht 43.9%と全て正常範囲内を示しています。
バイタルサインは脈拍92回/分、呼吸17回/分、血圧148/98mmHg、SPO2 97%で、チアノーゼや四肢冷感は認められません。
胸部X線検査では心胸郭比47%と正常で、フィジカルアセスメントでも呼吸音・心音に異常は認められていません。
乳がんの疫学的特徴と看護上の注意点
乳がんの発症要因について
乳がんは疫学的要因や内分泌環境、遺伝の影響を強く受ける疾患です。
閉経前の未産婦や流産・早産の経験がある女性、母乳授乳期間の短い女性など、内分泌異常がある場合に発症率が高くなります。
初経年齢の早さ、初婚・初妊娠年齢の遅さも乳がんの危険因子として知られています。
食生活では脂肪の多い食事が関連因子とされており、生活習慣の見直しも重要な予防策となります。
年代別発症傾向
発症年齢は40〜50代が最も多く、次いで60〜70代、30代と続きます。
本症例の69歳という年齢は、乳がん発症の多い年代に該当します。
転移の特徴と看護上の留意点
乳がんは転移しやすい特徴があり、初期段階ではリンパ行性転移、進行すると血行性転移を起こします。
特に腋窩リンパ節、鎖骨上窩、胸骨傍リンパ節への転移が頻繁に見られます。
血行性転移が起こると肺、肝臓、骨など全身への広がりを示すため、継続的な経過観察が必要となります。
乳がん患者の心理的側面への看護アプローチ
告知による心理的影響
乳がん患者のほとんどが癌の告知を受けており、疾患や予後に対する強い不安を抱えています。
死への恐怖や治療に対する不安、家族への心配など、複雑な感情を抱えていることが多いです。
ボディイメージの変化への対応
乳房は女性の形態的シンボルとされるため、乳房の切除は女性にとって大きな心理的ショックを与えます。
手術による外見の変化、配偶者との関係性への影響、女性としてのアイデンティティの揺らぎなど、様々な課題が生じます。
ボディイメージの受容に向けた心理的支援が、看護の重要な役割となります。
ヘンダーソン14項目による系統的アセスメント
呼吸に関するアセスメントのポイント
現在の呼吸状態の評価
患者の肺機能検査は全て正常値を示しており、喫煙歴もないことから、基本的な呼吸機能に問題はありません。
加齢による影響以外に、術後のリスク因子が増加する要素は認められていません。
現在の呼吸数は17回/分と正常範囲内で、SPO2も97%と良好な値を示しています。
患者からの息苦しさの訴えもなく、安楽な呼吸が維持できている状態です。
血液データではHb 14.1g/dL、Ht 43.9%と正常範囲内であり、酸素運搬能力やガス交換機能に問題は見られません。
術前呼吸訓練の実施状況
現在、患者はスーフルを使用した術前呼吸訓練を毎日実施しており、治療に対するコンプライアンスは良好です。
スーフル指導では6秒以上の吹気が可能であり、適切な呼吸訓練が行えています。
この積極的な取り組みは、術後合併症の予防に大きく貢献すると期待されます。
術後の呼吸器合併症リスク評価
乳房切除術では全身麻酔が必要となり、麻酔による呼吸中枢抑制のリスクがあります。
気管内挿管による気道や喉頭への刺激により、気道内分泌物の増加が予想されます。
これらの要因により術後無気肺を起こす可能性があるため、継続的な観察と適切な呼吸介助が必要です。
深呼吸や咳嗽訓練、体位変換などの積極的な呼吸理学療法の実施が重要となります。
術後の看護介入計画
術後は定期的なバイタルサイン測定により、呼吸状態の変化を早期発見します。
酸素飽和度の継続的モニタリングと、必要時の酸素投与の準備も重要です。
痰の喀出困難が予想される場合は、適切な体位ドレナージや吸引の実施を検討します。
患者の呼吸状態に応じた個別的な看護計画の立案が必要となります。
看護過程展開における重要なポイント
情報収集の系統性
ヘンダーソン14項目を活用することで、患者の全体像を系統的に把握できます。
身体的側面だけでなく、心理的・社会的側面も含めた包括的なアセスメントが可能となります。
各項目間の関連性を理解し、相互の影響を考慮した看護計画の立案が重要です。
優先順位の決定
患者の安全と生命に直結する問題を最優先に考えます。
術後合併症の予防、疼痛管理、感染予防などが主要な看護目標となります。
同時に、患者の心理的ニーズにも適切に対応する必要があります。
継続性のある看護計画
入院中だけでなく、退院後の生活も見据えた看護計画の立案が必要です。
患者・家族への教育指導や、地域との連携も重要な要素となります。
まとめ
乳がん患者の看護過程では、疾患の特徴と患者の個別性を十分に理解することが重要です。
ヘンダーソン14項目を活用した系統的なアセスメントにより、患者の全体像を把握し、質の高い看護実践につなげることができます。
特に呼吸に関しては、術前の状態評価から術後合併症の予防まで、継続的な観察と適切な介入が必要となります。
看護学生の皆さんも、このような症例を通じて看護過程の展開方法を学び、実際の臨床現場で活用できる知識とスキルを身につけていきましょう。
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