思春期から若年成人の時期にがんと診断されることは、人生における最も活動的な時期に突然立ち止まることを意味します。
AYA世代とは、adolescent and young adultの略で、一般的に15歳から39歳までの年齢層を指します。
この世代のがん患者は、医療的なケアだけでなく、就学や就労、恋愛、結婚、出産といった多様な生活課題に直面します。
本記事では、AYA世代がん患者の特徴と、看護師として提供すべき包括的な支援について詳しく解説します。
AYA世代がん患者の特徴と課題
AYA世代という言葉の定義は、国や団体によって異なります。
英国では13歳から24歳までをTYA世代として位置づけ、10代への支援を中心に発展してきました。
米国国立がん研究所では15歳から29歳を対象としていますが、生殖医療の観点から39歳までを含める場合もあります。
日本では、小児医療の対象となる15歳までと、介護保険制度の対象となる40歳以降の狭間にある15歳から39歳を指すことが多いです。
この世代の中でも、思春期と若年成人では発達上の特徴や生活背景が大きく異なります。
思春期は心理的・社会的自立に向けた時期であり、意思決定の主体は親であることが多い一方で、自立したい気持ちと親への依存との間で揺れ動きます。
学校生活が中心となり、進学や職業選択を目前に控え、将来設計に思い悩む時期です。
若年成人は就労により精神的・経済的に自立し始め、次世代を産み育て、社会を支える役割を担う最も活動的な世代といえます。
国立がん研究センターのがん統計によると、AYA世代のがん罹患率は年齢とともに上昇しています。
15歳から19歳で人口10万人あたり14.2、20代で31.1、30代で91.1となっており、全がん患者数の約2から3パーセントを占めます。
がん対策においてこれまであまり注目されてこなかった世代ですが、治療成績の改善率が低いことが課題となっています。
がん種の多様性と診療環境の課題
AYA世代のがんは、小児がんと成人がんの両方のがん種が混在し、多様で希少ながんが多いという特徴があります。
15歳から19歳では白血病、脳腫瘍、リンパ腫など小児期と同様の非上皮性がんが上位を占めます。
20代になると胚細胞腫瘍や甲状腺がんが増加し、30代では乳がん、子宮頸がん、大腸がん、胃がんなどが上位となります。
年齢とともに成人型のがんが増加していく傾向が見られます。
白血病などの一部のがん種では、小児がんの治療プロトコールによる治療成績が良好であることが知られています。
そのため、20代頃まで小児がん治療を行う小児病棟に入院となるケースもあり、診療科や入院環境も様々です。
医療者自身もAYA世代がん患者の診療や支援の経験が蓄積されにくく、十分な対応がなされているとは言い難い現状があります。
心理的支援と孤独への対応
AYA世代は自分とは何者かについて模索し、自己を確立していく時期です。
進学や就職、恋愛、結婚、出産などの様々なライフイベントを迎え、親から自立し夢を実現していこうとする時期でもあります。
成人や高齢者のがんと異なり、飲酒や喫煙、食生活などの生活習慣が要因となるものは少ないため、突然がんと診断されることの衝撃は計り知れません。
なぜ自分ががんになったのか、これからどうなっていくのかという大きな問いを持ちます。
社会から隔絶された生活を余儀なくされ、将来について悲観的な気持ちになったり、死の恐怖に直面する場合もあります。
AYA世代は自分の感情を他者にうまく伝えられなかったり、周囲に心配をかけさせまいと一人で不安を抱え込んでいることがあります。
ゆっくり落ち着いた環境で、今後の生活について一緒に考えていきたいこと、話したくないことは話さなくてもよいことを伝えます。
少しずつコミュニケーションを図り、理解を深めていくことが大切です。
必要に応じて心理士やカウンセラー、精神腫瘍医などの多職種と連携して対応します。
AYA世代が治療を受ける入院環境は、成人診療科では高齢者が多くを占め、小児病棟では年少の子どもが多くなります。
どちらの環境でも同世代の患者と出会う機会が少なく、孤独な闘病生活を送っていることが推察されます。
日本国内のAYA世代患者を対象とした大規模調査では、治療中の悩みは今後の自分の将来のこと、仕事のこと、経済的なことが上位を占めました。
治療終了後は不妊治療や生殖機能に関する問題、後遺症・合併症のことが上位となっています。
近年は、AYAがん患者の支援団体が増え、SNSを活用した情報交換やピアサポートプログラムなどが活発に行われています。
恋愛や結婚、仕事に関する悩みなどAYA世代ならではの体験が語られています。
同世代で病気を克服した若者からの情報は有用であり、自分一人ではないと勇気づけられることも多いです。
入院生活で常にそばにいる看護師は、AYA世代がん患者が治療中であっても一人の若者として治療と日常を両立できるよう、必要な情報にアクセスし、周囲からのサポートが得られるようにしていくことが大切です。
健康管理とセルフケアの促進
AYA世代の患者は小児や高齢者と比較し、治療の不遵守や治療拒否をするケースが多いことが知られています。
劇的な改善が実感できないことや副作用のつらさで服薬を中止したり、心理的問題によって治療の意味を見いだせないことがあります。
治療継続の必要性が理解できない、経済的問題から治療費を捻出できないなど、その要因は様々です。
外来受診を脱落することで、再発や副作用の発見の遅れにつながることもあるため、病気や治療について正しく理解できるような教育的支援が欠かせません。
治療終了からの時間が経過すると、晩期合併症のリスクが高まります。
晩期合併症には内分泌、神経、消化器、腎、呼吸器、心血管系など様々な臓器の障害や二次がん、心理的問題などがあります。
晩期合併症は治療を受けた年齢や治療内容、薬剤総投与量、放射線照射量によってそのリスクが異なります。
加齢に伴って増加することが明らかとなっているため、定期健診の継続や健康管理ができるようセルフケアを促進することが大切です。
患者自身が治療で使用した薬剤の種類とその影響を調べ、正しく理解することは難しいと考えられます。
これまで受けた治療を記載した治療サマリーなどを活用し、自己管理を支援することが望ましいです。
AYA世代は飲酒や喫煙、食生活の乱れなどの成人期以降の健康問題につながる生活習慣に移行しやすい時期です。
これらは将来の生活習慣病や合併症の悪化、二次がんのリスクを高める可能性があるため、自らの健康を維持・増進する意識を高めていくことが大切です。
性・生殖機能にかかわる支援
妊孕性とは、妊娠する力のことを指します。
がん治療による妊孕性への影響は、AYA世代にとって最も関心が高く、かつデリケートな問題です。
抗がん剤や腹部への放射線照射は妊孕性低下や喪失のリスクをもたらします。
がんの診断に引き続き、治療による不妊のリスクが伝えられることで、がん患者は多様な喪失感を味わうこととなります。
AYA世代にとって、妊孕性の喪失は恋愛や結婚、パートナーとの関係性に影響する大きな問題となります。
近年、がん生殖医療が急速に発展し、がん治療開始前の妊孕性温存が積極的に検討されるようになっています。
米国の臨床腫瘍学会が示したガイドラインでは、がん治療による妊孕性低下の可能性に関する情報提供を全ての生殖年齢にある患者が受けるべきであるとしています。
日本でも2017年に診療ガイドラインが出版され、患者の意思決定が可能となるように配慮をしつつ最大限の情報提供がなされるべきであると述べられています。
生殖医療の技術が目覚ましく発展するなか、妊孕性温存に関する意思決定には多くの葛藤が生じます。
診断直後でショックが大きく、体調もすぐれない時期に、妊孕性温存治療を実施するかどうかの意思決定が早急にされます。
女性であれば、採卵のためにがん治療の開始が遅れるリスクが生じる可能性もあります。
恋愛経験もなく、将来自分が子どもを育てるイメージが持てず、本当に妊孕性温存が必要であるのか悩んだり、精子や卵子保存を実施することに抵抗を感じることもあります。
生殖医療を受ける必要性だけを説明するのではなく、その後の人生をどう過ごしていくかをともに考えます。
本人の希望や価値観を尊重し、最善の選択ができるよう意思決定を支援していくことが大切です。
妊孕性の喪失は子どもを持つかどうかだけでなく、男性性、女性性を喪失するような体験となります。
がん治療は妊孕性の問題だけでなく、男性の場合は勃起障害や射精障害、女性の場合は膣の乾燥や瘢痕化など性機能障害を引き起こすこともあります。
性や生殖機能の障害は、セクシュアリティやアイデンティティ形成に深くかかわり、その人の人生にとって重大な問題となります。
プライバシーや羞恥心にもかかわるため、相談できずに一人で悩むことが多いです。
性に関する悩みを相談できる場があることを知っているだけでも気持ちが楽になるため、そのような体制があることを伝えます。
必要時はプライバシーが保たれ、羞恥心に配慮した環境で相談に応じるようにします。
看護師自身が性に関する相談を受けた経験が少なく、対応に困難を感じることもあるため、専門知識の向上を図るとともに、多職種で支援できる体制を整備することが望まれます。
教育・就労・経済的支援の実践
がんの診断や治療による就学や就労の問題は、AYA世代がん患者の将来に大きく影響します。
15歳までの小児がん患者が入院する医療機関では、特別支援教育による学習の継続が保証されています。
しかし、高等学校や大学は義務教育ではないため、個々の学校の方針によって対応が異なります。
単位制のために必要時間数の出席がなければ進級できなくなったり、定員枠があるため転籍・復学も容易ではありません。
学校側もがん患者の教育経験がない場合が多く、理解を得るためには患者や家族から学校に説明するだけでなく、医療者側からの情報共有が欠かせません。
学習は学力の維持だけでなく、将来の夢を叶えるための支えにもなります。
学校の友人との関係を維持したり、退院後のスムーズな復学にもつながるため、学校関係者や教育委員会等と連携し、学習が継続できるよう支援することが大切です。
就労は経済的自立だけでなく、社会との接点を持つことや、自己実現を図るうえでも大切な要素となります。
多くのAYA世代のがん患者は就労を望んでいますが、入院治療のために働くことが困難であったり、就労できたとしても体力的な問題や受診のためにたびたび休暇を取得しなければならないなど、職場からの配慮が必要です。
就職活動や復職の際に、病気のことを誰にどこまで伝えるかは大きな悩みのひとつとなっています。
就労可能で経済的に自立しているとはいえ、若年世代の収入で生活費に加えて治療費や通院にかかる費用、脱毛のためのかつらの購入費用に対する負担感は大きいです。
小児がん患者は小児慢性特定疾病医療費助成により医療費が公費で負担されていますが、18歳以上の新規患者および20歳以上の患者は成人患者と同様に自己負担が生じます。
介護保険は40歳以上を対象としているため、20代から30代にあるAYA世代は公的補助の狭間にあるといえます。
これらの相談にがん診療連携拠点病院に配置されているがん相談支援員やソーシャルワーカーが応じられることを伝えます。
一人で悩むことがないように情報提供することが大切です。
家族・パートナーとの関係性支援
患者本人だけでなく、がんの診断は親、同胞、配偶者などの家族にも大きな衝撃を与えます。
精神的問題や食欲不振、睡眠障害などの身体面の問題を引き起こすことがあります。
これらの問題は診断時だけでなく時間が経過しても持続することがあるため、家族の生活にも目を向け、必要な時にメンタルヘルスケアが受けられるように支援します。
患者が成年であったとしても親にとって子どもであることに変わりはなく、何とか子どもを守りたいと思うあまり、患者本人よりも親の意見が強く表出されることがあります。
家族間または患者と家族で意見が一致しないこともしばしば見られます。
看護師は患者と家族双方から思いを聴ける立場にあるため、仲介者となって家族間の関係性を調整します。
長期的には家族が患者を一人の大人として尊重し、よき相談者、支援者としての役割が発揮できるように支援することが大切です。
AYA世代では配偶者やパートナーもAYA世代であることが多く、仕事や子育てなどの日常生活に関する問題のほか、妊孕性温存治療を実施するかどうか、子どもがいる場合は子どもに病気のことをどのように伝えるかなど、様々な悩みが生じます。
家族が必要とする社会資源は何か、ソーシャルサポートが得られているかなどを考え、対応することが望まれます。
AYA世代は、ときに家族よりも恋人がキーパーソンとなることがあります。
医療機関では家族以外に病状説明が行われなかったり、面会制限が設けられたりすることがありますが、患者にとっては家族以上に大切な存在で、生きる支えになっていることも考えられます。
看護師はAYA世代がん患者のキーパーソンが誰であるかを見極め、患者の闘病をともに支えていく必要があります。
一人の若者として支えるケアの実践
AYA世代がん患者の看護においては、支援を提供することばかりでなく、若者が自らの意思で決定し、行動できるような環境を整えていくことが大切です。
看護は病人を看るのではなく、病を抱えながらも生活を送っている人を支える役割があります。
AYA世代がん患者は、患者である前に一人の若者であり、がんの発症や治療によって夢や希望が奪われることなく、普通の10代20代としての生活が維持できるよう、意思や希望を尊重していくことが大切です。
AYA世代は治療後にこれまで生きてきた生活を維持するだけでなく、新たなライフステージを迎えることとなります。
身体面だけでなく、恋愛や性・生殖、社会生活などの多様なニーズに対応するためには、様々な専門職による支援体制の構築が欠かせません。
多職種が協働して活動する研究会や支援団体も設立され、日本においてもAYAがん患者の支援が大きく動き出しています。
今後はAYA世代のがん患者への看護に関する教育の充実を図り、この世代の発達上のニーズやセクシュアリティ、生殖医療について熟知し、多職種と協働して対応できる専門性を持った看護師の育成が望まれます。
AYA世代がん患者の支援は、医療の枠を超えた包括的なアプローチが欠かせない領域です。
看護師として、一人の若者が病気を抱えながらも自分らしく生きていけるよう、寄り添い続けることが何より大切です。








