看護過程における価値信念パターンのアセスメントは、患者のライフスタイルや人生観を理解する重要な要素です。
特に人工肛門造設のような身体の大きな変化を伴う治療では、患者の価値観や信念が大きく揺らぐことがあります。
本記事では直腸がん術後に人工肛門を造設した患者の事例を通じて、価値信念パターンのアセスメント方法を詳しく解説します。
価値信念パターンとは何か
価値信念パターンはゴードンの11の機能的健康パターンの一つです。
患者が何に価値を置いているか、どのような信念を持っているか、人生の意味をどこに見出しているかを評価します。
宗教的信念、文化的背景、人生の目標、大切にしている活動などが含まれます。
このパターンをアセスメントすることで、患者がどのような生き方を望んでいるか、何が患者にとって譲れないものなのかが見えてきます。
患者の価値観を理解することで個別性のある看護計画が立案できるのです。
特に疾患や治療によってライフスタイルの変更を余儀なくされる患者にとって、このアセスメントは極めて重要になります。
事例患者の基本情報
今回の事例はA氏、70歳代の女性です。
診断は直腸がんで飲食店を経営しています。
2023年6月5日に直腸がんに対して全身麻酔下にて腹腔鏡下超低位前方切除術を受けました。
しかし2023年6月15日に縫合不全が発生し、緊急手術で腹腔鏡下人工肛門増設術を実施しています。
術後は血糖4件法とスケールによる管理が行われ、糖尿病治療薬の内服とインスリン固定打ちがあります。
2023年7月4日より自己血糖測定とインスリン自己注射を開始しています。
このように当初の予定にはなかった人工肛門造設という大きな変化が加わった事例です。
主観的情報の収集と意味
主観的情報であるSデータから患者の心情が読み取れます。
血糖値を測れるかな、インスリンはやったことないという発言があります。
これは新たな自己管理に対する不安を表しています。
ストマ造設前に温泉が好きだからパウチ作りたくない嫌だという訴えは非常に重要です。
温泉という趣味が患者にとって大きな価値を持っていることが分かります。
今回の入院中にお店を休んでいるから不安だよという言葉からは、仕事への強い思いが読み取れます。
温泉が好きだから人工肛門は避けたいんだよ、飲食店やってるからにおいもあるしという発言も重要です。
この発言には二つの大きな価値が含まれています。
一つは温泉という趣味、もう一つは飲食店という仕事です。
さらににおいという具体的な懸念も示されており、職業上の配慮も必要だと訴えています。
客観的情報から見える背景
客観的情報であるOデータも重要な意味を持ちます。
A氏は70歳代ですが飲食店を経営しており、現役で働いています。
これは仕事が単なる収入源ではなく、生きがいや社会的役割として重要である可能性を示唆します。
直腸がんに対する手術後に縫合不全という合併症が発生し、予定外の人工肛門造設となっています。
当初は人工肛門を避けられると思っていたのに、やむを得ず造設することになったという経緯があります。
この予期しない変化が患者の心理的負担を大きくしている要因です。
術後に糖尿病管理のための新たな処置が加わっている点も見逃せません。
血糖自己測定とインスリン自己注射という二つの新しい技術習得が必要になっています。
人工肛門管理に加えて糖尿病管理も必要という二重の負担がかかっているのです。
情報の分析と統合
収集した情報を分析し統合することで問題が明確になります。
A氏はこれまで趣味の温泉や仕事に大きな価値を置いていました。
人工肛門の造設によってライフスタイルが変わり、趣味や仕事が今まで通りに行えなくなることに不安を感じています。
ストマ造設前に温泉が好きだからパウチ作りたくない嫌だという発言からライフスタイルの変化に対する恐れが見て取れます。
今回の入院中にお店を休んでいるから不安だよという言葉も、仕事への強い思いと早く復帰したい気持ちを表しています。
7月4日から血糖自己測定とインスリン自己注射を開始していますが、血糖値を測れるかな、インスリンはやったことないと述べています。
糖尿病の管理のための新たな処置がこれまでの生活スタイルに影響を与える可能性もあります。
アセスメントの統合と問題の明確化
アセスメントの結論として、趣味や仕事ができなくなることで自己の価値観に変化が生じるおそれがあると明確化されます。
まずはA氏がストーマ造設を受け入れ新たなライフスタイルに適応するための心理的支援が重要です。
それによって不安やストレスを緩和し、ストーマの管理や糖尿病の自己管理に関するサポートを提供する必要があります。
受け入れなくしては前に進めないため、心理的支援が最優先となります。
不安やストレスが軽減されることで、新しい技術の習得もスムーズになります。
ストーマ管理と糖尿病自己管理の両方について段階的に教育していく必要があります。
温泉という趣味への配慮
温泉が好きという訴えは単なる娯楽ではなく、患者の人生における重要な価値です。
温泉に入れなくなることへの恐怖が人工肛門への拒否感の核心にあります。
しかし実際には人工肛門を持っていても工夫次第で温泉を楽しむことは可能です。
防水性のストーマカバーを使用する、入浴のタイミングを工夫するなどの方法があります。
同じ境遇の患者との交流会や体験談を聞く機会を設けることも有効です。
実際に人工肛門を持ちながら温泉を楽しんでいる人の話を聞くことで、希望を持つことができます。
温泉を諦めなくてもよいという情報提供が、受け入れのきっかけになる可能性があります。
飲食店経営という仕事への支援
飲食店を経営しているという事実も重要な価値です。
においがあるからという懸念は、飲食を扱う職業ならではの配慮です。
適切なストーマ管理によってにおいは最小限に抑えられることを説明する必要があります。
パウチの密閉性や消臭剤の使用について具体的に教育します。
同じように飲食業に従事しながら人工肛門を持っている人の事例を紹介することも効果的です。
仕事を続けられるという見通しが持てることで心理的安定につながります。
お店を休んでいる不安に対しては、復帰の見通しを一緒に立てることが支援になります。
退院後の生活をどのように送るか、仕事への復帰はいつ頃可能かを具体的に検討します。
糖尿病管理との両立支援
人工肛門管理に加えて糖尿病管理も必要という状況は患者にとって大きな負担です。
血糖値を測れるかな、インスリンはやったことないという不安を軽視してはいけません。
一度に全てを習得しようとすると overwhelm されてしまいます。
優先順位をつけて段階的に教育していくことが重要です。
まず最も緊急性の高い血糖管理から始め、ある程度習得できたらストーマ管理に移行するなど計画的に進めます。
それぞれの手技について、できるようになったことを認めて励ますことも大切です。
小さな成功体験を積み重ねることで自己効力感が高まります。
心理的支援の具体的方法
心理的支援は多面的なアプローチが必要です。
まず患者の気持ちを十分に傾聴することから始めます。
温泉に行けなくなる悲しみ、仕事への不安、新しい技術への恐れなど、様々な感情を受け止めます。
否定や励ましではなく、まずはそのままの気持ちを受け入れることが重要です。
その上で正確な情報提供を行います。
人工肛門を持っていてもできることがたくさんあることを具体的に示します。
ピアサポートの機会を設けることも効果的です。
同じ経験をした人との交流は、何よりも説得力のある支援となります。
家族への教育と支援も忘れてはいけません。
患者を支える家族が適切な理解と協力をすることで、患者の心理的安定につながります。
価値観の変化への対応
人生の大きな転機において価値観が変化することは自然なことです。
これまで大切にしてきたものを諦めなければならないと感じることもあります。
しかし実際には新しい形で同じ価値を実現できる可能性もあります。
価値観の変化を否定せず新しいライフスタイルの構築を支援する姿勢が大切です。
温泉という趣味は形を変えても継続できるかもしれません。
飲食店経営も工夫次第で続けられる可能性があります。
患者と一緒に新しい可能性を探っていく姿勢が看護師には求められます。
情報収集の重要ポイント
価値信念パターンのアセスメントでは、患者が何を大切にしているかを丁寧に聞き取ることが重要です。
趣味、仕事、家族、社会的役割、信仰など多様な側面から情報を収集します。
表面的な答えだけでなく、その背景にある思いや理由も深く掘り下げます。
なぜ温泉が好きなのか、飲食店経営にどんな思いを持っているのかを理解することが大切です。
また疾患や治療がこれらの価値にどう影響するかを具体的に評価します。
影響を受ける価値が明確になれば、それに対する支援も具体的に計画できます。
まとめ
価値信念パターンのアセスメントは、患者の人生観や大切にしているものを理解する重要なプロセスです。
人工肛門造設のような大きな身体的変化を伴う治療では、患者の価値観が大きく揺らぐことがあります。
趣味や仕事といった具体的な価値を丁寧に聞き取り、それらがどのように影響を受けるかを分析します。
心理的支援、正確な情報提供、ピアサポートの活用などを通じて、患者が新しいライフスタイルを受け入れられるよう支援することが重要です。
患者の価値観を尊重しながら、新しい可能性を一緒に探っていく姿勢が看護師には求められます。
価値信念パターンのアセスメント技術を磨くことで、より個別性のある質の高い看護を提供できるようになります。








