看護過程は看護実践の基盤となる思考プロセスです。
しかし看護学生や新人看護師にとって、情報収集から看護診断、看護計画の立案まで体系的にまとめることは簡単ではありません。
本記事では架空の腰椎椎間板ヘルニア術後患者を例として、看護過程の各ステップを詳しく解説します。
看護過程における情報収集の基本
看護過程の第一歩は情報収集です。
情報は主観的データと客観的データに分けて整理します。
主観的データはSデータと呼ばれ、患者本人の言葉で表現されたものです。
患者の訴えや感情、痛みの表現、不安の内容などが含まれます。
客観的データはOデータと呼ばれ、観察や測定によって得られる数値的なものです。
バイタルサイン、検査データ、身体所見、医師の診断や治療内容などが該当します。
情報はゴードンの11の機能的健康パターンに沿って整理すると漏れなく系統的に把握できます。
健康知覚、栄養代謝、排泄、活動運動、睡眠休息、認知知覚、自己知覚、役割関係、セクシュアリティ、コーピング、価値信念の11項目です。
情報収集の実例:急性疼痛の場合
今回は架空事例として、60歳代男性の腰椎椎間板ヘルニア術後患者を例に挙げて説明します。
認知知覚パターンでの情報収集例を見てみましょう。
Sデータとして、体を動かすと痛みが強くなります、仰向けの姿勢だと比較的楽です、咳をすると傷に響いて辛いです、これでは自由に動けませんね、痛みで夜も眠れませんでしたという患者の言葉が記録されています。
患者の訴えをそのまま記録することで、臨場感と患者の感情が伝わります。
Oデータとして、病名は腰椎椎間板ヘルニア、術式は内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術、入院時の疼痛スケールは6、術後1日目の体動時スケールは5で安静時は3という情報が記載されています。
疼痛に対してアセリオ1000ミリグラムを15分で静脈内投与し疼痛コントロールを行っている状況も記録されています。
咳嗽時に痰が中等度貯留し自己にて排痰を試みるが困難であり、創部痛のため咳を避けようとする様子があったという観察も重要な情報です。
詳細な観察記録が適切な看護診断につながるのです。
看護診断の選択方法
収集した情報をもとに看護診断を選択します。
看護診断はNANDA-Iの分類に基づいて選択することが一般的です。
上記の疼痛に関する情報からは急性疼痛という看護診断が適切だと判断されます。
看護診断を選択する際は、複数の情報を統合して判断することが重要です。
一つの訴えだけでなく、主観的データと客観的データを組み合わせて考えます。
患者の言葉、表情、行動、検査データなどを総合的に評価して診断を下します。
看護診断の定義を理解する
各看護診断には明確な定義があります。
急性疼痛の定義は、実在するあるいは潜在する組織損傷に伴うもしくはそのような損傷によって説明される不快な感覚的および情動的経験です。
発症は突発的または遅発的で強さは軽度から重度までさまざまあり、回復が期待予測できるという特徴があります。
定義を正確に理解することで、その看護診断が患者の状態に適合しているかを判断できます。
定義に当てはまらない場合は別の看護診断を検討する必要があります。
診断指標の明確化
診断指標は看護診断を裏付ける具体的な徴候や症状です。
急性疼痛の診断指標として、疼痛の訴え、体動時フェイススケール5で安静時3、食欲の低下、夜間不眠が挙げられています。
診断指標は観察可能で測定可能なものでなければなりません。
曖昧な表現ではなく具体的な数値や行動で示すことが重要です。
複数の診断指標が認められることで、看護診断の確実性が高まります。
一つだけの指標では不十分で、いくつかの指標が組み合わさって診断の根拠となります。
関連因子の特定
関連因子は看護診断を引き起こしている原因や背景です。
関連因子は病態生理因子、治療関連因子、状況因子などに分類されます。
急性疼痛の関連因子として、内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術に関連するものと記載されています。
手術という治療行為が疼痛の原因であることが明確に示されています。
関連因子を特定することで、看護介入の方向性が見えてきます。
原因に対してアプローチすることで、問題の根本的な解決が可能になるのです。
複数の看護診断の統合
一人の患者に対して複数の看護診断が立てられることが一般的です。
この架空事例では急性疼痛のほかに、誤嚥リスク状態、感染リスク状態、便秘、非効果的気道浄化、不眠、不安、活動耐性低下、非効果的コーピングなど多数の診断が挙げられています。
これらの診断は互いに関連し影響し合っています。
疼痛があるために咳嗽ができず非効果的気道浄化となり、疼痛のために睡眠が妨げられ不眠が生じています。
優先順位をつけて取り組むことが重要です。
生命に直結する問題、患者が最も苦痛を感じている問題から優先的に介入します。
活動運動パターンの情報収集例
非効果的気道浄化の情報収集を見てみましょう。
Sデータとして、咳をすると傷に響いて痛いです、息苦しさはそれほどありません、痛みがあって動くのが大変です、深呼吸をするのも辛いですという訴えがあります。
Oデータとして、62歳男性、喫煙歴1日20本を35年間、呼吸数20回で整、酸素飽和度97パーセント、両側呼吸音に左右差なく清、咳嗽あり痰が中等度貯留し自己にて排痰を試みるが困難、創部痛のため咳を最小限に抑えようとする様子があったという情報が記録されています。
長期の喫煙歴と術後の疼痛が気道浄化を妨げていることが分かります。
非効果的気道浄化の定義は、きれいな気道を維持するために分泌物または閉塞物を気道から取り除くことができない状態です。
診断指標として効果の見られない咳嗽が挙げられています。
関連因子は病態生理因子として腰椎椎間板ヘルニア、治療関連因子として全身麻酔による手術、状況因子として手術に関連した疼痛です。
看護目標の設定方法
看護診断が決まったら看護目標を設定します。
目標には長期目標と短期目標があります。
長期目標は最終的に達成したい状態を示します。
急性疼痛の長期目標として、術後14日目までに疼痛がフェイススケール0から2までに軽減するという具体的な数値目標が設定されています。
短期目標は長期目標達成のための段階的な目標です。
術後7日目までに安静時の疼痛が軽減したことを示す言葉が聞かれる、術後10日目までに疼痛が軽減し夜間良眠できる、術後12日目までに表情が穏やかになる、術後14日目までに痛みによる活動制限がなくなるという段階的な目標が設定されています。
目標は測定可能で期限が明確なものにすることが重要です。
曖昧な目標では評価ができず、看護計画の修正も困難になります。
看護計画の立案:OP、TP、EP
看護計画はOP観察計画、TP援助計画、EP教育計画の3つで構成されます。
OPでは何を観察するかを具体的に列挙します。
疼痛の場合、疼痛の部位、程度、性質、持続時間、疼痛の徴候として苦痛の表情、呻吟、発汗過多、脈拍数増加、血圧上昇などを観察します。
創部の治癒状態、不安の程度、離床状況、睡眠状況、食欲の有無、鎮痛薬の効果と副作用なども観察項目に含まれます。
TPでは具体的な援助内容を記載します。
深呼吸や筋弛緩などリラクゼーション法を勧める、静かで安静が保てる環境を調整する、安楽な体位を工夫する、疼痛があるときは医師の指示のもと鎮痛剤を使用する、早期離床を促すなどです。
EPでは患者や家族への教育内容を示します。
痛みがあるときは我慢せずに鎮痛剤を使用してよいことを説明する、疼痛を和らげる方法を指導する、安楽に座位がとれるよう起き上がり動作を指導するなどが含まれます。
OP、TP、EPのバランスが取れた看護計画が効果的です。
排泄パターンの看護過程展開
排泄に関する情報収集も見てみましょう。
この架空事例のSデータとして、明日カテーテルを抜くそうですが心配です、お腹が少し張っている感じがします、体がだるくて辛いです、今日はそっとしておいてほしいです、昨夜眠れなかったので休ませてくださいという訴えがあります。
Oデータとして、排便1回を3日に1回、排尿5回で夜間尿2回、術後1日目で腹鳴は減弱し排ガスなし、排便なし、腹部X線撮影にて軽度腸管拡張ありという情報が記録されています。
看護診断は便秘です。
定義は排便回数の減少や硬便の排出、排便困難感がある状態です。
診断指標として腹部膨満感あり、腹鳴は減弱し排ガスなし、排便なし、腹部X線撮影にて軽度腸管拡張ありが挙げられています。
関連因子は全身麻酔による内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術と活動量の低下に関連するものです。
全身麻酔と手術侵襲、さらに術後の安静により一時的に腸管運動が低下していることが分かります。
心理社会的側面の看護診断
自己知覚パターンでは患者の感情や心理状態を捉えます。
この架空事例のSデータとして、何とかなると思っていたのですが不安です、手術は初めてなので怖いです、また痛くなるのではないかと心配です、動くのが怖いですという訴えがあります。
Oデータとして、家族からの情報で真面目で几帳面な性格、心配性で不安を抱えやすい、前回の検査入院の際も緊張していたという背景が示されています。
体位変換時に緊張し硬直する様子という行動も記録されています。
看護診断は不安です。
定義は漠然とした不快感や心配の感情で、予期される脅威に対する反応です。
診断指標として体動による疼痛を警戒しており体位変換時に緊張していることが挙げられています。
関連因子は病態生理因子として腰椎椎間板ヘルニア、治療関連因子として全身麻酔による手術、状況因子として術後の疼痛と初めての手術体験です。
患者の性格や心理背景を理解することで適切な関わりができるようになります。
看護過程展開のポイント
効果的な看護過程展開にはいくつかのポイントがあります。
情報収集は11の機能的健康パターンに沿って漏れなく行います。
主観的データと客観的データを明確に区別して記録します。
看護診断は複数の情報を統合して慎重に選択します。
定義と診断指標を確認して診断の妥当性を検証します。
関連因子を明確にすることで介入の方向性を定めます。
目標は測定可能で期限が明確なものに設定します。
看護計画はOP、TP、EPをバランスよく立案します。
実施後は必ず評価を行い計画を修正していくことが大切です。
まとめ
看護過程は情報収集から看護診断、目標設定、計画立案、実施、評価という一連の流れで構成されます。
各ステップを丁寧に進めることで患者に最適な看護が提供できます。
本記事で紹介した架空事例を参考に、自分が受け持つ患者の看護過程を展開してみてください。
最初は時間がかかりますが、繰り返し実践することで思考プロセスが身につき効率的に展開できるようになります。
看護過程は看護実践の質を高める重要なツールです。
患者一人ひとりに合わせた個別的な看護を提供するために、看護過程の技術を磨き続けていきましょう。








