看護過程の展開において高齢患者のアセスメントは複雑で多面的な視点が必要です。
特に誤嚥性肺炎で入院した認知症を伴う高齢患者では、身体面だけでなく認知機能や生活背景も含めた全人的評価が求められます。
本記事では88歳女性の誤嚥性肺炎患者の事例を用いて、ゴードンの11の機能的健康パターンに沿ったアセスメント方法を詳しく解説します。
患者背景の理解
Sさんは88歳の女性で誤嚥性肺炎により入院しています。
既往歴として糖尿病、高脂血症、認知症、大腿骨頸部骨折があります。
長男夫婦と同居していましたが1か月前より介護老人保健施設に入所していました。
家族に迷惑をかけたくないという本人の希望と徐々に認知症の症状がみられたため施設入所となった経緯があります。
心配性な性格で趣味は家庭菜園でした。
孫の結婚と夫が他界したことでやりがいを失い家庭菜園だけが楽しみであったという生活背景があります。
入院前は要介護3で訪問介護や訪問リハビリを受け、デイサービスも利用していました。
入院に至った経過
施設入所後は日中車いすで過ごすことが多くなっていました。
コロナ禍の影響で他の入所者とコミュニケーションをとる機会も少なくなり食事も部屋で自己摂取していました。
食事途中に疲れて摂取できなくなると介護士が食事介助をして全量摂取でき食欲はありました。
4月1日夕食後に嘔吐し、その後37.5度前後の発熱は持続していましたがその他の症状はありませんでした。
4月4日昼食時に再度嘔吐しチアノーゼと喘鳴が出現しました。
施設で口腔内吸引するが酸素飽和度70パーセントから回復せず救急要請となりました。
バックバルブマスクで換気しながら受診となったという重篤な状態でした。
健康知覚健康管理パターンのアセスメント
来院時はJCS3-100だったが診察中に1-3に回復しました。
体温38.4度、心拍128回毎分、血圧118/70mmHg、呼吸30回毎分という状態でした。
誤嚥性肺炎と診断され絶飲食、補液と抗生剤点滴を2回毎日、酸素投与治療を開始しました。
肺炎では炎症により換気血流比の不均衡が生じ肺胞と血液間のガス交換が障害されます。
入院当日は肺胞内の炎症に伴う浸出液増加により気道分泌物が増加し換気障害、低酸素血症が起こっていました。
呼吸数30回毎分、酸素飽和度低下はそのためであり酸素5リットル吸入によって酸素飽和度がなんとか保たれていた状態です。
Sさんは88歳と高齢であり認知症の既往があるため自身の健康維持管理における理解は困難です。
他者からの支援が必要な状況であると評価されます。
夜間に点滴の自己抜去が見られたり夕飯の支度があるからという現実とはかけ離れた認識を示すなど自身の現在の状況や能力を正確に理解できていません。
栄養代謝パターンの評価
嚥下障害があると必要栄養量や水分量が不足しやすくなります。
入院前は自己摂取により食事を全量摂取しており食欲はありました。
しかし施設での生活において食事途中で疲れることがあり、その際には介護士からの食事介助が必要でした。
入院後は誤嚥性肺炎の診断により一時的に絶飲食となりその後は嚥下訓練食に移行しました。
Sさんは自己摂取可能であるがむせ込むことがあるため看護師の見守りが必要です。
血液検査結果によると入院前後でアルブミン値が3.7から2.3に低下し総蛋白も7.9から5.4に低下しており栄養状態が悪化しています。
栄養素の摂取が不足することで栄養失調となり体調悪化や回復の遅延を引き起こす可能性があります。
Sさんの嚥下機能を改善するためのリハビリテーションが重要です。
嚥下訓練食の続行とともに必要に応じてSTによる評価と指導が必要です。
排泄パターンのアセスメント
Sさんは入院後すべてオムツ内で失禁であったために膀胱留置カテーテルが挿入され尿量の管理が行われていました。
しかしカテーテルの存在を理解できずにおしっこに行くと起き上がる行動が見られたため2時間毎に作動する離床センサーが設置されています。
その後尿量測定が中止となりカテーテル抜去後は排尿は行われていますが、尿便意があると自分でトイレに行こうとする動きがあります。
認知症による認知機能低下や加齢による臥床時間の遷延に関連した筋力低下もあるため起き上がる際に転倒や身体損傷の危険性が考えられます。
また自分でトイレに行こうとする動きがあるにもかかわらずナースコールができない状況は尿漏れのリスクを高めその結果皮膚トラブルを引き起こす可能性があります。
排便状況については入院前から3日に1回の排便で適宜下剤を使用して排便コントロールを行っていました。
しかし入院後も排便は出ていないとのことで便秘であることが考えられます。
これが持続すると腹部不快感や腹痛、食欲不振などの症状を引き起こす可能性があります。
活動運動パターンの分析
Sさんは現在入院治療によって呼吸状態は回復を見せており酸素飽和度はルームエアーで95パーセント保持できるようになり酸素中止となっています。
しかし肺炎による入院という状態は、Sさんの身体的活動や日常生活動作に大きな影響を与えており食事、清潔、排泄など日常生活動作全般に介助が必要な状況となっています。
移動についてはベッドサイドで端座位が可能でありリハビリ中にはシルバーカーを用いて10メートル程度の歩行が可能です。
ものの、Sさんの足には痛みがあり運動に対して消極的な態度を示しています。
足が痛いから運動はあまりしたくない、でも動けないと迷惑をかけるからがんばらないとねという発言から、その意欲を引き出すことができるよう具体的な目標設定や小さな成功体験を積み重ねることも重要です。
高齢者では筋肉を構成する筋繊維数が減少し筋繊維が萎縮してしまうことにより筋肉量が低下しやすいため、日常生活ケアのなかで引き続き関節可動域運動などを取り入れて廃用症候群予防を図る必要があります。
睡眠休息パターンの問題
高齢者では睡眠障害は若年者より増加し60歳以上では3割が睡眠障害を訴えています。
身体疾患を有する高齢者では睡眠障害の増加はより顕著です。
過度の咳嗽は体力を消耗し睡眠を妨げ十分な休養をとれなくします。
入院後の睡眠状況に関しては心配性な性格と認知機能の低下が夜間の行動に影響を与えています。
具体的には夜間に夕飯の支度があるからと自己抜去する行動や膀胱留置カテーテルの存在を理解できずにおしっこに行くと起き上がる行動が見られます。
治療による安静のため日中の活動量の低下も睡眠を妨げる原因となっていることが考えられます。
睡眠不足は認知機能のさらなる低下を引き起こすリスクがあり、その結果として混乱や誤嚥のリスクを増大させる可能性があります。
夜間の排泄支援の強化、不安や混乱を和らげるための心理的ケア、夜間の活動を安全に行うための環境調整などを実施していく必要があります。
認知知覚パターンの評価
Sさんは知覚機能が機能しており足が痛いから運動はあまりしたくないと述べていることから下肢に疼痛を感じていることが伺えます。
Sさんの既往歴には大腿骨頸部骨折があることからこの骨折に伴う後遺症や関連した痛みが存在する可能性があります。
それによってPTも開始となっているが運動はあまりしたくないとリハビリテーションに消極的になっています。
これは生活の質の低下を引き起こし身体機能の衰えを早める可能性もあります。
また適度な運動が行えないと深部静脈血栓症のリスクが高まる可能性もあります。
認知症による自己意識の混乱や理解力の低下が問題となっており自分の現状を理解できずに食事の支度や排泄行為が自力ではできないが自己で行おうとする行動が見られます。
これらの行動は誤嚥や転倒などのリスクを高めさらに治療の進行を妨げる可能性があります。
自己認識自己概念パターンの分析
Sさんは現在肺炎への罹患によってあらゆる日常生活動作に介助が必要な状況となっています。
そのような中で家族に迷惑をかけたくないという発言から自己の状態について理解し自己の限界を理解しているとともに家族や医療スタッフへの負担を気兼ねしていることが伺えます。
Sさんは現状の自分の能力と社会的な役割の間に一定のギャップを感じており自己の身体の制約や認知機能の低下を受け入れることが困難になっている可能性があります。
自己の制限を超えてがんばろうとすることで身体的なストレスや心理的苦痛が生じる可能性があります。
また他者に頼りたくないという気持ちから必要なケアを行わない可能性もあります。
Sさんの現状の理解と受け入れてもらうことが必要です。
そのためにSさんの訴えを受容的態度で傾聴し悩みを聞いていくことが重要です。
価値信念パターンの理解
Sさんは以前趣味として家庭菜園を楽しんでいました。
また入院前は長男家族と共に生活し炊事を担当していましたが孫の結婚や夫の死によりやりがいを失い家庭菜園だけが楽しみとなっていました。
家族に迷惑をかけたくないという意識を持ち続けておりそのために自身の体調を犠牲にしてまで動こうとしています。
そのため足の痛みがあるにも関わらずリハビリに励んでいます。
Sさんの価値観や信念を尊重したケアが必要であると考えられます。
具体的には自己管理と自立を尊重しSさんが自身のペースで動けるような支援を提供することが必要です。
延命治療についてはSさん自身と家族の意向により行わない方向であることが明らかとなっているためその意志を尊重しつつ最善のケアを提供する必要があります。
アセスメントの統合と看護計画
各パターンのアセスメントから得られた情報を統合して看護問題を明確化します。
主な問題としては誤嚥のリスク、栄養状態の悪化、転倒転落のリスク、睡眠障害、疼痛、認知機能低下による危険行動などが挙げられます。
これらの問題に対して優先順位をつけて看護計画を立案します。
生命に直結する問題から優先的に取り組み患者の安全を確保します。
その上で患者の価値観を尊重し生活の質の向上を目指した支援を行います。
ゴードンの11の機能的健康パターンを用いることで漏れのない包括的なアセスメントが可能になります。
まとめ
誤嚥性肺炎で入院した高齢患者のアセスメントには多面的な視点が必要です。
ゴードンの11の機能的健康パターンに沿って系統的に情報を収集し分析することで、患者の全体像が明確になります。
身体面だけでなく認知機能、心理社会的側面、価値観まで含めた全人的な評価が質の高い看護につながります。
患者の言葉や行動の背景にある思いを理解し、その人らしさを尊重した看護を提供することが重要です。
本記事で紹介したアセスメント方法を参考に実際の看護実践に活かしていただければ幸いです。








