看護において患者の行動変容を支援することは重要な課題です。
特に高齢の慢性疾患患者では自己管理能力の向上が生活の質に直結します。
本記事では、アルバート・バンデューラの自己効力感理論を用いた看護介入の実践例を通じて、高齢患者のセルフケア行動改善への効果的なアプローチを詳しく解説します。
自己効力感とは何か
自己効力感とは、自分にはそれをする力があるという自己能力の認知を指します。
バンデューラによって提唱されたこの概念は、私たちが意識的あるいは無意識のうちに行動を起こす際に必要不可欠な要素です。
主観的統制感の一つとして位置付けられており、自分自身が行動を制御し、自身の運命を手繰り寄せる力として知られています。
生活の中で私たちは無意識的に多くの行動をとっていますが、その背後には自己効力感が存在しているのです。
例えば、バスや電車を利用するという行動は、ただ単に目的地へ移動する手段という以上の、自身の能力や可能性を信じ、それを実行に移すという意識が内在しています。
医療分野における自己効力感の重要性
近年、この自己効力感といった行動科学の概念が医療分野でも注目されています。
それは、自己効力感が患者の行動の理解や対応策の選択を行う上での重要な視点を提供してくれるからです。
医療者が患者の自己効力感を理解し、それを支援することで、患者の自己管理能力を高め、健康状態の改善に影響を与えることが期待されます。
特に透析患者のような持続的な医療処置が必要な状況では、セルフケアの質が患者の生活の質に直接的に影響を及ぼします。
自己効力感の向上が患者の行動改善にとって必要であることが、多くの研究で示されています。
架空事例から学ぶ実践的アプローチ
今回は架空の事例として、慢性腎不全により透析を受けている80歳代の女性患者を例に挙げて説明します。
この患者の頸部には血管が細く内シャントが作れなかったため、外シャントが設置されていました。
既往歴として糖尿病、腎性貧血、慢性心不全があり、労作時は息切れや倦怠感が生じることもありました。
患者のADLは概ね自立しているものの、ベッド上で過ごす時間が長くなっていました。
退院前であるにもかかわらず、患者自身はあまり自己での行動を試みようとせず、介助者に任せる姿勢を見せていました。
実習が始まった当初、患者は自己効力感が著しく低い状態でした。
自己効力感を高める4つの情報源
自己効力感は4つの情報源によって規定され、それぞれがセルフケア行動に影響を与えます。
遂行行動の達成
実際にその行動を達成できたという体験です。
一般に成功体験は次の機会にもその状況にうまく対処できるという予測を高め、一般化する傾向があります。
逆に失敗体験は自己効力予期を低くしてしまい、狭めてしまう傾向があります。
代理体験
他者が課題状況をうまく対処する様子を観察し、学習する過程です。
自身での達成経験による効力感に比べて効果は弱いと考えられますが、その学習効果は非常に大きいものです。
言語的説得
他者からの説得によって自己効力を高めるものです。
容易に実現できますが、困難な状況に直面した時に消失する可能性が高いため、補助的な手段と捉えます。
生理的状態
例えば、多くの人前で話すときの足の震えや赤面などの生理的反応が、自己効力感を低下させます。
逆に、そのような反応がなかった場合、それが自己効力を強める手掛かりとなります。
結果期待の確立が第一歩
自己効力感とは、自己の行動が結果と結びついているという感覚、すなわち結果期待があって初めて成立するものです。
まずは歩行訓練を続ければ足腰が強くなり、日常生活動作が容易になるという事実を伝えました。
次に、患者が病院内でのリハビリテーションにより少しずつ歩けるようになった際には、その努力を支持しました。
定期的なリハビリテーションは家に帰った時の生活の質を向上させるための大切な一歩になるというメッセージを伝えました。
さらに、家に帰れば自分で食事を作ることも買い物に行くことも可能になると、患者の嗜好に合わせ具体的な目標を設定しました。
遂行行動の達成を支援する実践例
達成可能な目標から設定し、それを遂行してもらうという支援のあり方は非常に重要です。
具体例として、シルバーカーを使用して病室からデイルームまで移動するという行動が挙げられます。
最初は患者にとって、これは大きな挑戦でした。
それは、慢性腎不全の症状である息切れや倦怠感があることに加え、患者のADL向上に対する意欲が減退していたからです。
まずは廊下を少しの距離からでもいいので、シルバーカーを使用して歩行してみることをすすめました。
達成するまでに1週間を要したものの、目標を達成した際には声に満足感と自信が溢れていました。
小さな成功体験が自信を育む種となり、患者の意欲を引き出す材料となったのです。
これは、今までしたことのない行動を新たに形成するためには、目標の行動にほんの少しだけ類似した行動を強化する練習から始めるシェイピング法が上手く活用された結果です。
代理体験による学習効果
他の患者がシルバーカーを用いて移動する様子を観察してもらい、患者が自己の行動とその結果に対する期待を高めてもらう関わりを行いました。
そうすることで、あの人ができるんだから私にだってできるはずと患者は発言し、それ以降は活動量が以前よりも増えてきました。
他の患者がシルバーカーを使用して移動する様子を観察することにより、患者は彼らが自身と同じような困難を乗り越えていることを理解しました。
それにより、自分自身もそれが可能であるという期待を高めることができたのです。
言語的説得と生理的状態の改善
患者に対して、あなたならできる、これまでもそうやって出来たじゃないですか、あなたにはまだまだ強さがありますと繰り返し伝えました。
患者が自己の能力を信じることができるようにと助けたのです。
その結果、やらねーとできなくなるからなと自己の能力を信じ、自分の力を発揮することの重要性を理解した患者の言葉が聞かれました。
このようなポジティブなフィードバックによって、患者は自身の能力を信じ、新たな挑戦をする勇気を持つことができています。
シルバーカーの使用により患者の体力が向上し、それがさらなるセルフケア行動を促すことにつながっていました。
また患者は、指導した注意事項を理解し、シャントケアの自己管理についてもコンプライアンスの向上が見られました。
看護実践への応用と今後の展開
この経験から学んだことは、今後の看護実践に大きく活かせます。
患者の自己効力感を向上させる介入を効果的に提供するための看護のスキルと知識が重要であることを再認識しました。
まず、患者の現在の自己効力感のレベルをアセスメントすることが必要です。
結果期待があるかどうかを確認し、4つの情報源それぞれについて評価します。
その上で、個々の患者に最も効果的な介入方法を選択し実施します。
小さな目標から始めて徐々にステップアップしていくシェイピング法は多くの場面で有効です。
成功体験を積み重ねることで、患者の自信を育てることができます。
介入が成功した理由について考えると、その背景には患者自身の協力的な態度が大きな役割を果たしていたことを忘れてはなりません。
患者の協力的な態度が重要であることを踏まえ、患者とのコミュニケーションを大切にすることが必要です。
一方的な指導ではなく、患者と共に目標を設定し、共に歩む姿勢が大切です。
患者の小さな変化や努力を見逃さず、認めて励ますことで信頼関係が深まります。
まとめ
自己効力感理論を活用した看護介入は、高齢患者のセルフケア行動改善に有効です。
遂行行動の達成、代理体験、言語的説得、生理的状態の4つの情報源をバランスよく組み合わせることが重要です。
まず結果期待を確認し、具体的で達成可能な目標を設定します。
小さな成功体験を積み重ね、他者の成功事例を観察させ、言葉で励まし、生理的状態の改善を図ります。
患者との信頼関係を築き協力的な態度を引き出すことも成功の鍵となります。
理論と実践を統合し、常に患者中心の看護を追求する姿勢が、質の高い看護につながります。








