車椅子は、歩行が困難な患者さんにとって、移動手段として欠かせない道具です。
しかし、車椅子を自分で操作して移動することが難しい状態に陥ることがあります。
これを車椅子可動性障害といい、患者さんの自立した生活を大きく妨げる要因となります。
車椅子を上手に使えないことは、単に移動ができないだけでなく、社会参加の機会を失ったり、精神的な落ち込みにつながったりします。
看護師として、車椅子可動性障害を抱える患者さんに対して、適切な支援を提供することは、その方の生活の質を高めるために大切です。
今回は、車椅子可動性障害のある患者さんへの看護計画について、詳しく解説していきます。
車椅子可動性障害とは
車椅子可動性障害とは、車椅子を使用しての移動が自分では困難な状態を指します。
この障害には、車椅子への移乗ができない、車椅子を自分で操作できない、安全に車椅子を使えないなど、様々な側面があります。
たとえば、脳卒中後の片麻痺では、片手でしか車椅子を操作できず、まっすぐ進むことや方向転換が難しくなります。
脊髄損傷の患者さんでは、下肢が使えないため、車椅子への乗り移りに工夫が必要です。
高齢者の場合は、筋力低下や関節の痛み、認知機能の低下などが重なって、車椅子の操作が難しくなることがあります。
また、車椅子に慣れていない患者さんは、操作方法が分からず、不安から使用を避けてしまうこともあります。
車椅子可動性障害が起こる主な原因
車椅子可動性障害の原因は、患者さんの状態によって様々です。
身体機能の低下は、最も大きな要因の一つです。
上肢の筋力が弱いと、車椅子のハンドリムを握る力や押す力が不足します。
握力が低下すると、ブレーキ操作も難しくなります。
麻痺がある場合、片側だけで車椅子を操作しなければならず、バランスを取ることや直進することが困難になります。
視覚障害も車椅子操作に影響します。
周囲の状況が見えにくいと、障害物を避けたり、安全に移動したりすることができません。
認知機能の低下では、操作方法を理解できなかったり、危険を判断できなかったりします。
注意力が散漫になると、周囲への配慮が欠けて、ぶつかったり転倒したりするリスクが高まります。
関節の痛みや拘縮は、車椅子への移乗を妨げます。
股関節や膝関節が十分に曲がらないと、座位姿勢を取ることが難しくなります。
バランス能力の低下も重要な要因です。
体幹の安定性が悪いと、車椅子に座っているだけでも傾いてしまい、操作どころではありません。
心理的な要因として、転倒への恐怖心があります。
過去に車椅子から落ちた経験があると、不安が強くなり、積極的に使おうとしなくなります。
環境的な要因も見逃せません。
車椅子が身体に合っていない、床が滑りやすい、段差が多いなど、周囲の環境が車椅子の使用を難しくすることもあります。
車椅子可動性障害がもたらす影響
車椅子を自分で操作できないことは、患者さんの生活に大きな制限をもたらします。
移動の自由が失われることで、行動範囲が狭くなります。
トイレに行きたい時、食堂に行きたい時、いちいち誰かを呼んで介助を頼まなければなりません。
この状況は、患者さんに強い無力感をもたらします。
自立度の低下は、自尊心にも影響します。
他人に頼らなければ何もできないという思いは、精神的な落ち込みにつながります。
社会参加の機会も減少します。
レクリエーション活動や外出、他の患者さんとの交流など、様々な活動から遠ざかってしまいます。
孤立感が強まり、抑うつ状態に陥ることもあります。
身体機能のさらなる低下も心配されます。
車椅子を使わずに寝たきりの状態が続くと、筋力や関節可動域がさらに悪化します。
廃用症候群が進行し、回復がより難しくなる悪循環に陥ります。
介護者の負担も増加します。
移動のたびに介助が必要になると、家族や看護スタッフの負担は大きくなります。
患者さん自身も、周囲に迷惑をかけているという罪悪感を抱くことがあります。
褥瘡のリスクも高まります。
車椅子を使えず、ベッド上で過ごす時間が長くなると、同じ部位への圧迫が続き、皮膚トラブルが起こりやすくなります。
看護目標の設定
車椅子可動性障害のある患者さんへの看護では、実現可能な目標を立てることが大切です。
長期目標
患者さんが安全に車椅子を操作し、3か月後には日常生活の中で必要な場所への移動を自分で行えるようになる。
短期目標
車椅子への移乗動作を習得し、2週間後には最小限の介助で車椅子に乗り移れるようになる。
車椅子の基本操作を身につけ、1週間後には平坦な場所で5メートル以上、安全に移動できるようになる。
車椅子の安全な使用方法を理解し、10日後にはブレーキ操作やフットレストの扱いを自分で正しく行えるようになる。
観察項目
車椅子可動性障害のある患者さんに対する観察は、様々な角度から行います。
身体機能の評価では、上肢の筋力を重点的に確認します。
握力や肩の挙上力、肘の屈曲伸展の力などを測定します。
麻痺の有無や程度も、詳しく観察します。
体幹の安定性を見るために、座位バランスを評価します。
背もたれなしで座れるか、どの程度傾いているか、修正能力はあるかなどを確認します。
関節可動域の測定では、股関節、膝関節、足関節の動きを記録します。
座位姿勢に影響する部位を中心に、屈曲や伸展の角度を測ります。
視覚の状態も重要です。
視力や視野の範囲、眼鏡の使用状況などを把握します。
認知機能の評価では、指示の理解度や記憶力、注意力などを観察します。
車椅子の操作手順を覚えられるか、危険を判断できるかなども確認します。
疼痛の有無と部位を聞き取ります。
移乗時や座位時に痛みがあると、車椅子の使用を避ける原因になります。
心理状態の観察も欠かせません。
車椅子使用への意欲や不安、恐怖心の程度を、表情や発言から読み取ります。
実際の車椅子操作能力を見ます。
ハンドリムを握れるか、前進や後退ができるか、方向転換はどうか、ブレーキ操作はできるかなど、具体的に評価します。
移乗動作の能力も確認します。
ベッドから車椅子へ、車椅子からベッドへの移動が、どの程度自分でできるかを見ます。
環境の評価として、使用している車椅子が身体に合っているかをチェックします。
座面の高さや幅、フットレストの位置などが適切かを確認します。
看護ケアの実施
車椅子可動性障害のある患者さんへのケアは、段階的に進めていきます。
筋力訓練では、車椅子操作に必要な上肢の力を強化します。
肩関節の屈曲や外転の運動、肘の屈曲伸展運動を行います。
セラバンドやダンベルを使った抵抗運動も効果的です。
握力を高めるために、ゴムボールを握る運動や、タオルを絞る動作を練習します。
回数は、10回を1セットとして、1日に3セットから5セット程度を目安にします。
体幹訓練も大切です。
座位で腹筋や背筋を使う運動、骨盤の前後傾運動などを行います。
バランスボードを使った訓練も、体幹の安定性を高めます。
車椅子への移乗訓練は、安全を確保しながら段階的に進めます。
最初は、看護師が両側から支えて移乗します。
次に、片側の支えだけにし、最後は見守りのみにします。
移乗の手順を丁寧に指導します。
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車椅子をベッドに対して斜め45度に配置し、ブレーキをかけ、フットレストを上げます。
ベッドの端に座り、足を床につけ、上体を前傾させてから立ち上がり、車椅子に座ります。
この一連の動作を、段階を追って練習します。
車椅子操作の訓練では、基本動作から始めます。
まず、ハンドリムの握り方を教えます。
両手で同時に前に押すと前進、後ろに引くと後退することを実際にやってもらいます。
方向転換の方法も練習します。
右に曲がる時は右手のハンドリムを止めて左手だけ前に押す、左に曲がる時はその逆、という操作を繰り返し練習します。
ブレーキ操作は、移動の前後に必ず行うよう習慣づけます。
ブレーキレバーの位置を確認し、しっかりかかっているかを確認する方法を教えます。
フットレストの扱いも指導します。
移乗時には上げる、座ったら足を乗せる、という手順を身につけてもらいます。
実際の環境での練習も行います。
病棟内の移動、食堂への移動、トイレへの移動など、日常生活で必要な場面を想定して練習します。
段差やドアの通過、エレベーターの利用なども、実際に体験してもらいます。
安全管理は常に意識します。
練習中は必ず看護師が付き添い、転倒や転落を防ぎます。
疲労の様子を見ながら、適度に休憩を入れます。
車椅子の調整も重要です。
座面の高さは、足が床にしっかりつく高さに設定します。
背もたれの角度や座面の硬さ、クッションの使用なども、患者さんの身体に合わせて調整します。
褥瘡予防のために、除圧の方法を指導します。
30分から1時間ごとに、身体を少し浮かせる、または傾けることで、圧迫を解除します。
クッションの選択も、褥瘡予防に役立ちます。
疼痛管理も行います。
痛みがあると、車椅子の使用を避けてしまいます。
痛みの程度を評価し、必要に応じて鎮痛薬の使用を医師に相談します。
座位姿勢が痛みの原因になっている場合は、クッションの追加や姿勢の調整を行います。
患者さんへの教育
患者さん自身が車椅子を安全に使えるよう、丁寧に教育します。
車椅子の各部分の名称と役割を説明します。
ハンドリム、ブレーキ、フットレスト、アームレストなど、それぞれの機能を理解してもらいます。
安全な操作方法を、実際に見せながら指導します。
ブレーキをかけずに移乗しない、フットレストに立たない、急な方向転換をしないなど、事故につながる行為を避けることを伝えます。
転倒のリスクがある場面を説明します。
段差を越える時、坂道を下る時、カーペットの端に乗り上げる時などは、注意が必要です。
自分でできる日々のチェック項目を教えます。
タイヤの空気圧、ブレーキの効き具合、ネジの緩みなどを確認する習慣をつけてもらいます。
褥瘡予防の重要性を伝えます。
長時間同じ姿勢で座り続けないこと、定期的に除圧することの大切さを説明します。
自分で除圧できる方法を、実際に練習してもらいます。
体調が悪い時の対処方法も伝えます。
めまいや疲労を感じたら無理をせず、すぐに休むことを指導します。
家族への教育も行います。
車椅子の介助方法、段差の越え方、坂道での注意点などを、実際に体験してもらいながら教えます。
過度な介助は患者さんの自立を妨げることも説明し、見守りの姿勢を保つよう助言します。
多職種との連携
車椅子可動性障害のある患者さんへのケアは、多職種の協力が欠かせません。
理学療法士は、移乗動作や車椅子操作の専門的な訓練を行います。
訓練の進捗状況や患者さんの能力について情報を共有し、病棟でのケアに反映させます。
作業療法士は、日常生活動作における車椅子の使用を支援します。
食事や整容、更衣など、生活場面での車椅子の活用方法を指導してもらいます。
医師とは、活動制限の程度や訓練の許可範囲について確認します。
患者さんの全身状態や合併症のリスクを考慮しながら、安全に訓練を進めます。
義肢装具士には、車椅子の選定や調整について相談します。
患者さんの身体に合った車椅子を選び、細かな調整を依頼します。
福祉用具専門相談員は、退院後に使用する車椅子の選定を支援してくれます。
自宅環境に合った車椅子や、必要な福祉用具について助言を得ます。
医療ソーシャルワーカーには、車椅子購入の費用や介護保険の申請について相談します。
経済的な負担を軽減するための制度利用をサポートしてもらいます。
栄養士には、筋力維持に必要な栄養について相談します。
たんぱく質を中心に、適切な栄養が摂取できているか確認します。
評価とケアの見直し
設定した目標の達成度を定期的に評価することが重要です。
短期目標については、1週間から2週間ごとに確認します。
移乗動作は、介助量や所要時間、安定性などを観察して評価します。
車椅子操作は、移動距離や操作の正確性、安全性などを具体的に測定します。
ブレーキ操作やフットレストの扱いは、実際に行ってもらい、正確性を確認します。
目標が達成できていれば、次の段階に進みます。
たとえば、平坦な場所で移動できるようになったら、次は緩やかな坂道や段差のある場所での練習を始めます。
目標が達成できていない場合は、原因を分析します。
筋力が不足しているのか、操作方法の理解が不十分なのか、不安が強いのかなど、様々な角度から検討します。
必要に応じて、訓練内容や方法を変更します。
練習時間を増やしたり、補助具を追加したり、説明の仕方を工夫したりします。
患者さんからの意見も大切にします。
車椅子が使いにくい、疲れやすい、痛みがあるなどの訴えがあれば、それに応じて調整します。
長期目標についても、月に1回程度は見直します。
回復のスピードが予想より早い場合は、より高い目標を設定します。
逆に、難しい場合は、現実的な目標に修正します。
記録を詳しく残すことも大切です。
訓練内容や患者さんの反応、達成できた項目などを記録し、経過を追えるようにします。
まとめ
車椅子可動性障害のある患者さんへの看護は、安全性を確保しながら、段階的に能力を向上させていくことが基本です。
観察をしっかり行い、身体機能や認知機能、心理状態を把握した上で、個別的なケアを提供することが大切です。
筋力訓練や移乗訓練、車椅子操作の練習など、基本的なケアを丁寧に実施し、患者さんの進歩を細やかに評価していきます。
患者さん自身が車椅子の使用方法を理解し、安全に使えるよう教育することも重要です。
多職種と協力しながら、それぞれの専門性を活かした包括的な支援を行うことで、より良い結果が得られます。
看護師として、患者さんが車椅子を使って自由に移動できる喜びを感じられるよう、根気強く支援していきたいものです。
車椅子を使いこなせるようになることは、患者さんの自立への大きな一歩です。
その一つ一つの成功体験を共に喜び、励まし続けることが、看護師の大切な役割です。
不安や恐怖心を抱えながらも、前向きに訓練に取り組む患者さんの姿勢を尊重し、寄り添う姿勢を忘れないようにしましょう。
この記事が、車椅子可動性障害のある患者さんへの看護を考える上で、少しでもお役に立てれば幸いです。








