「さっき話したことをもう忘れてしまった」「同じことを何度も聞いてくる」「今日が何日かわからない」
こうした場面は、病院や施設、在宅の現場でよく出会います。
記憶障害は、認知症・脳卒中・頭部外傷・精神疾患などさまざまな病気に伴って現れる症状のひとつです。 患者さん本人が最も不安を感じている症状でもあり、看護師の関わり方が生活の質に大きく影響します。
この記事では、記憶障害について原因や種類を整理しながら、実際に使える看護計画まで丁寧に解説していきます。 看護学生の方も、現場で悩んでいる看護師の方も、ぜひ参考にしてみてください。
記憶障害とはどういう状態か
記憶とは、情報を頭の中に取り込み(記銘)、蓄えておき(保持)、必要なときに引き出す(想起)という三つの働きが連続してつながっているものです。
記憶障害とは、このいずれかの段階がうまく働かなくなっている状態のことです。
記憶の種類を整理しておくと、看護計画を立てるうえでの理解が深まります。
近時記憶とは、数分から数日前のことを覚えておく記憶のことです。 認知症の初期では、この近時記憶の低下が最も早く現れます。 昨日の夕食の内容・今朝の出来事・少し前に話したことが思い出せなくなります。
遠隔記憶とは、数年・数十年前の出来事に関する記憶のことです。 認知症が進行するまでは比較的保たれやすく、昔の職業・出身地・若い頃の思い出などは覚えていることが多いです。
手続き記憶とは、身体で覚えている記憶のことです。 自転車の乗り方・歩き方・箸の使い方などは、言葉では説明しにくくても身体が自然に動く記憶です。 認知症が進んでも比較的保たれやすい記憶とされています。
展望記憶とは、これからやるべきことを覚えておく記憶のことです。 「昼食後に薬を飲む」「明日病院に行く」といった予定を忘れてしまう場合は、この展望記憶が低下しています。
記憶障害が起きる主な原因
記憶障害の背景にはさまざまな原因があります。
認知症が最もよく見られる原因です。 アルツハイマー型認知症では、脳の海馬という記憶を担う部分が縮んでいくことで、新しい情報を覚えられなくなります。 血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症なども、それぞれの特徴的な記憶の問題が出てきます。
脳卒中(脳梗塞・脳出血)による記憶障害も多く見られます。 記憶に関わる脳の部位(海馬・視床・前頭葉など)が損傷されることで、突然の記憶障害が起きます。
頭部外傷も記憶障害の原因になります。 交通事故・転倒などで頭を強く打った後、受傷前後の記憶が失われることがあります。 これを外傷性健忘と呼びます。
薬剤性の記憶障害も見落とされやすい原因のひとつです。 睡眠薬・抗不安薬・抗コリン薬・一部の降圧薬などが、記憶に影響することがあります。
代謝・栄養の異常も記憶に影響します。 甲状腺機能低下症・低血糖・ビタミンB1欠乏(ウェルニッケ脳症)・肝性脳症なども記憶障害を引き起こすことがあり、原因が治療されれば改善するケースもあります。
精神的な問題として、うつ病・解離性障害でも記憶の問題が出ることがあります。 うつ病による記憶障害は仮性認知症とも呼ばれ、うつが改善すると記憶も戻ることがあります。
記憶障害が引き起こすリスク
記憶障害は、患者さんの日常生活にさまざまな問題を生じさせます。
服薬管理ができなくなります。 「薬を飲んだかどうか覚えていない」ことで、飲み忘れや二重服薬が起きます。 特に血圧の薬・糖尿病の薬・血液を固まりにくくする薬などでは、管理が乱れると身体への影響が大きいです。
食事・水分管理ができなくなります。 「ご飯を食べたかどうか覚えていない」ことで、食事を取らない日が続いたり、逆に何度も食べてしまうことがあります。
迷子や道迷いのリスクが高くなります。 自宅近くの道が急にわからなくなる・外出先から帰れなくなるという問題が起きます。
転倒リスクが高くなります。 場所を覚えられないことで、階段・段差・浴室の構造を把握できず、転倒につながります。
精神的な苦痛を生じさせます。 「何度も同じことを聞いてしまう」「大事なことを忘れてしまった」という体験は、患者さん自身に強い不安・焦り・自己嫌悪を引き起こします。 このことが意欲低下や抑うつ状態につながることもあります。
ご家族の介護負担が増します。 同じことを何度も聞かれる・目を離せないという状況が続くと、ご家族の疲弊やストレスにつながります。
看護師として何を見ればよいか
記憶障害の患者さんへの観察では、記憶の状態だけでなく、生活への影響・心理状態・安全面を広く確認することが大切です。
記憶の状態を把握します。 近時記憶・遠隔記憶・手続き記憶のどれが低下しているかを、日常の会話や行動の中から確認します。 同じ話を繰り返す・直前の出来事が思い出せない・日付や場所がわからないといった様子を観察します。
日常生活への影響を確認します。 服薬・食事・排泄・整容・入浴などのセルフケアがどの程度できているかを確認します。 記憶の低下によって生活のどの部分が困難になっているかを具体的に把握します。


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安全面のリスクを観察します。 転倒リスク・服薬管理の状況・火の取り扱いの安全性・迷子になるリスクなどを確認します。
心理状態を観察します。 不安・焦り・自己嫌悪・抑うつの様子がないかを確認します。 「また忘れてしまった」と落ち込んでいる様子や、記憶の問題を隠そうとしている様子があれば、丁寧に関わります。
残っている力を把握します。 何が難しくなっているかだけでなく、何がまだできているかを把握することで、強みを活かしたケアにつなげます。
ご家族の状況を確認します。 介護の負担感・対応の困難さ・精神的な疲弊がないかも合わせて把握します。
看護目標
長期目標
患者さんが記憶障害による生活上の困難を補いながら、安全で安心できる生活を送ることができる。
短期目標
服薬・食事・水分管理が適切に行われ、身体への影響が出ない状態が続くようになる。
転倒・迷子・事故などの記憶障害に関連した安全上のリスクが起きない環境が整う。
患者さんが記憶の問題に対する不安や焦りを安心して表出できるようになり、精神的に落ち着いた状態で生活できるようになる。
看護計画の具体策
観察計画(観察項目)
患者さんの状態を多角的に把握するための観察内容です。
近時記憶・遠隔記憶・展望記憶の状態を日常の会話や行動の中から確認します。 同じ話の繰り返し・直前の出来事の想起困難・見当識(時間・場所・人物)の混乱を観察します。 服薬状況(飲み忘れ・二重服薬の有無)を確認します。 食事・水分摂取量・体重の変化を把握します。 転倒リスクのアセスメント(歩行状態・環境の把握状況)を行います。 心理状態(不安・焦り・抑うつ・自己嫌悪の有無)を観察します。 残存機能(できていること・保たれている記憶・手続き記憶の状態)を把握します。 睡眠状況(夜間の不眠・昼夜逆転の有無)を確認します。 ご家族の介護負担・対応の状況を把握します。 記憶に影響する薬剤の使用状況をチェックします。
ケア計画(直接的なケアの内容)
生活の中に記憶を補う仕組みをつくります。 時計・カレンダー・ホワイトボードを目に入りやすい場所に置き、日付・時間・今日の予定を書いておきます。 服薬管理は一包化や曜日別の薬ケースを活用し、飲んだかどうかが一目でわかる仕組みにします。 「朝食後に薬を飲む」という行動を毎日同じ流れで行えるよう、生活の中に組み込みます。
環境を安全に整えます。 よく行く場所(トイレ・洗面所)には目印やわかりやすい表示をつけます。 危険な場所(階段・浴室)には手すりや滑り止めを設置します。 家の中の物の配置をできるだけ変えず、いつも同じ場所に置くようにします。
安心できる関わりを大切にします。 同じことを何度聞かれても、穏やかに答えます。 「さっきも言いましたよ」「また忘れたの」という言い方は患者さんの自尊心を傷つけるため、絶対に避けます。 患者さんが「忘れてしまった」と気づいて落ち込んでいるときは、「誰でも忘れることはありますよ」と自然に声をかけます。
残っている力を活かします。 手続き記憶が保たれている場合は、身体で覚えている動作(食事・歯磨き・服の着脱など)を本人が行えるよう促します。 昔の出来事や得意なことについて話を聞く時間をつくり、自信や楽しさを引き出します。 回想法(昔の写真・音楽・懐かしい物を使って思い出を語り合う関わり)を取り入れることで、精神的な安定につなげます。
生活リズムを一定に保ちます。 毎日同じ時間に起きる・食事をとる・活動するという流れをつくることで、記憶への負担を減らします。 規則的な生活リズムは睡眠の質を高め、認知機能の安定にもつながります。
教育計画(患者さん・ご家族への説明)
患者さん本人への説明を行います。 記憶の問題は本人の努力不足ではなく、脳の状態によるものであることを伝え、自己嫌悪を和らげます。 「忘れてしまったときは遠慮なく聞いてください」と伝え、質問しやすい関係をつくります。 メモをとる・スマートフォンのアラームを使うなど、自分でできる記憶の補い方を一緒に考えます。
ご家族への説明を行います。 記憶障害の特徴(新しいことは覚えにくいが昔のことは覚えていることが多い・同じことを繰り返すのは意地悪ではなく症状である)をわかりやすく伝えます。 「また同じことを言って」と感情的に対応しないよう、対応の工夫(穏やかに答える・否定しない)を一緒に練習します。 服薬管理・食事管理・安全確認の具体的な方法をお伝えします。 ご家族自身が追い詰められないよう、介護保険サービス(デイサービス・訪問看護・ショートステイ)の活用について情報をお伝えし、必要に応じてソーシャルワーカーへつなぎます。
記憶障害のある患者さんへの声掛けのコツ
記憶障害のある患者さんへの言葉のかけ方は、関係性や安心感に大きく影響します。
一度に多くの情報を伝えるのではなく、短い言葉でひとつずつ伝えます。 「まず手を洗いましょう」「次に薬を飲みましょう」というように、一つの動作ごとに声をかけます。
否定や訂正は最小限にします。 患者さんが事実と違うことを話していても、頭ごなしに否定するのではなく、まずその気持ちを受け止めます。
穏やかで一定したトーンで話します。 大きな声・急かす口調・複数人での囲みは混乱を強めます。 落ち着いた声で、ゆっくり話すことを意識します。
名前で呼びかけます。 「○○さん、少しよろしいですか」と名前で呼ぶことで、患者さんが自分に向けられた言葉と認識しやすくなります。
多職種との連携を大切に
記憶障害のある患者さんへの支援は、看護師だけでは限界があります。
医師には、記憶に影響している可能性がある薬剤の見直しや、専門的な認知機能検査の実施を相談します。 作業療法士には、認知リハビリテーション(記憶の訓練・日常生活動作の練習)を依頼します。 ソーシャルワーカーには、退院後の生活支援・介護保険サービスの調整を依頼します。 臨床心理士には、認知機能の詳しい評価や心理的なサポートを依頼することもあります。 ご家族には、チームの一員として関わってもらいながら、無理なく続けられるサポートのあり方を一緒に考えます。
まとめ:記憶障害のケアは安心と安全を守ること
記憶障害は、患者さんの日常生活のあらゆる場面に影響します。
看護師にできる最も大切なことは、忘れてしまう患者さんを責めず、その人の残っている力を信じて関わり続けることです。
環境を整え・生活のリズムをつくり・安心できる言葉をかけ続けることが、患者さんの安全と生活の質を守る力になります。
記憶障害のある患者さんやご家族は、毎日の生活の中で多くの困難と不安を抱えています。 そのそばに寄り添い続ける看護師の存在が、患者さんとご家族の大きな支えになります。
この記事が、記憶障害に関わる看護師さんや看護学生さんの参考になれば嬉しいです。








