看護診断の中には、「問題がある状態」だけでなく、「より良い状態へ向かう力がある状態」を扱うものがあります。
セルフケア促進準備状態は、その代表的な診断のひとつです。
この診断は、患者さんがすでに一定のセルフケアを行えており、さらに自分の力で健康管理を高めていこうとする意欲や準備が整っている状態を指します。
「問題を解決する」ではなく、患者さんが持っている力を伸ばし、より自立した生活へ向けて一緒に歩むというのが、この診断に向き合うときの看護の姿勢です。
今回は、セルフケア促進準備状態の定義から関連因子・看護目標・観察計画・ケア計画・指導計画まで、実習の記録にそのまま使える内容で解説していきます。
セルフケア促進準備状態とはどういう状態か
セルフケア促進準備状態とは、現在のセルフケアを維持しながら、それをさらに高めていく能力と意欲を患者さん自身が持っている状態のことです。
北米看護診断協会(NANDA-I)の分類でいうと、「ヘルスプロモーション型」の看護診断に位置づけられます。
ヘルスプロモーション型の診断は、問題の有無ではなく、患者さんの潜在的な力や意欲に着目するのが特徴です。
この診断があてはまるのは、たとえば次のような患者さんです。
退院後の生活に向けて薬の管理や傷の処置を自分でやってみたいと話している患者さん、糖尿病の管理をもっと上手にしたいと意欲を持っている患者さん、術後のリハビリに積極的に取り組んでいる患者さんなどです。
患者さん自身がもっとうまくやれるようになりたいという気持ちを持っているとき、その意欲を支え、知識や技術を補うことが看護師の役割です。
セルフケア促進準備状態が成立する条件
この診断を患者さんに適用するためには、いくつかの条件が整っていることを確認する必要があります。
まず、現在のセルフケア行動が安全に行われていることです。
危険な方法で自己管理をしていたり、誤った認識のまま実施している場合は、先に問題を修正するケアが優先されます。
次に、患者さん自身がセルフケアをさらに高めたいという意思や意欲を示していることです。
看護師が一方的に「もっとできるはず」と決めるのではなく、患者さん本人の言葉や行動からその意欲を確認することが大切です。
また、患者さんが自分の健康状態についてある程度理解していること、そして学ぶ意欲と学習能力があることも条件となります。
認知機能が低下していて理解が難しい状況では、この診断よりも別の看護診断が優先されることがあります。
関連因子と診断根拠の整理
看護計画を立てる前に、なぜこの患者さんにセルフケア促進準備状態の診断があてはまるのかを整理しておきましょう。
診断の根拠(診断根拠)としてよく挙げられるのは、以下のような患者さんの言葉や行動です。
「退院したら自分で血糖を測れるようになりたい」「傷の処置のやり方を覚えたい」「薬をいつ飲めばいいか理解できるようになりたい」といった発言が聞かれる場合は、この診断の根拠になります。
また、セルフケアの練習に自ら進んで取り組んでいる、看護師や医師への質問が多い、退院後の生活について自分から考えて話すといった行動パターンも、診断の根拠として有効です。
関連因子としては、疾患による生活変容の必要性(糖尿病・高血圧・心疾患・術後管理など)、退院後の生活環境への不安、健康意識の高まりなどが挙げられます。
アセスメントのポイント
看護計画を組み立てる前に、患者さんの現在のセルフケア能力と意欲をていねいに評価することが大切です。
現在のセルフケアの実施状況を観察します。
食事・服薬・清潔・運動・傷の処置など、それぞれの領域でどの程度自立して行えているかを確認します。
患者さんの疾患や治療に関する理解度を評価します。
自分がなぜその薬を飲む必要があるか、どんな症状が出たときに受診すればよいかなど、必要な知識をどの程度持っているかを確認します。
学習意欲と学習スタイルを把握します。
文字を読むのが得意か、図や絵で説明した方が理解しやすいか、実際に手を動かして学ぶほうが身につきやすいかなど、患者さんに合った学び方を把握することで、指導の効果が高くなります。
患者さんの生活環境・サポート体制を確認します。
退院後に一人暮らしなのか、家族と同居しているのか、訪問看護などのサービスを利用するかどうかによって、必要なセルフケアの内容と範囲が変わってきます。
疾患への受け入れ(受容)の状況を把握します。
病気を受け入れられていない段階では、セルフケアへの意欲が出にくいことがあります。
患者さんが今どの段階にいるかを確認しながら、関わり方を調整します。
看護目標
患者さんの意欲と能力に合わせた目標を設定します。
この診断では、患者さんが主体的に参加できる目標を立てることが重要です。
長期目標
患者さんが自分の疾患と治療について正しく理解し、退院後も安全に自己管理を継続できる。
短期目標
短期目標① 自分の疾患・内服薬・日常生活上の注意点について説明できる。
短期目標② 必要なセルフケア技術(血糖測定・血圧測定・傷の処置・服薬管理など)を正しい手順で実施できる。
短期目標③ 体調が悪化したときのサインと受診のタイミングを理解し、自分で判断して行動できる。
看護計画の具体策
観察計画・ケア計画・指導計画の3つに分けて、患者さんに合ったケアを組み立てていきます。
観察計画(何を観察・確認するか)
患者さんのセルフケアの実施状況を毎日観察します。
練習中の手技(血糖測定・インスリン注射・傷処置など)が正しく行えているか、手順の誤りや安全面の問題がないかを確認します。
患者さんの理解度を確認します。
「今日学んだことを自分の言葉で教えてもらえますか」と問いかけることで、どこまで理解できているかを把握できます。
理解が不十分な部分は繰り返し説明します。
意欲や感情の変化を観察します。
「難しすぎる」「自信がない」「やっぱりできないと思う」といった発言が増えている場合は、学習内容や方法の見直しが必要です。
身体状態の変化を観察します。
バイタルサイン・血液データ・体重・症状の変化など、セルフケアの効果が現れているかどうかを数字で確認します。
家族や支援者の理解度と関わりの状況を観察します。
退院後の生活でキーパーソンとなる家族が、患者さんのセルフケアをどう理解しているかも重要な情報です。
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セルフケアに必要な道具や環境が整っているかを確認します。
自宅での血糖測定器の準備ができているか、服薬管理のための薬ケースがあるかなど、退院後を見越した準備状況を確認します。
ケア計画(何をするか)
患者さんが主体的に取り組める学習環境を整えます。
一方的に教え込むのではなく、患者さんが疑問を出しやすい雰囲気をつくることが、学習の効果を高めます。
段階的なセルフケア練習の機会を設けます。
最初は見本を見せる→次に一緒にやってみる→最後に一人でやってみるという流れで、少しずつ自立度を高めていきます。
患者さんができたことをその場で言葉にして返します。
「手順が正確にできていました」「血糖の数値の読み方がしっかり理解できていますね」といった前向きな声かけが、自己効力感(自分ならできるという感覚)を育てます。
患者さんが不安に感じていることや疑問に思っていることを引き出します。
「退院後に一番心配なことは何ですか」と聞くことで、患者さんが何を学びたいと感じているかがわかり、指導の優先順位をつけることができます。
セルフモニタリングの習慣をつけるよう支援します。
血圧手帳・血糖記録ノート・症状日記などの自己記録ツールを活用し、自分の状態を自分で把握する習慣が身につくよう働きかけます。
退院前カンファレンスや多職種との連携を進めます。
医師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士・医療ソーシャルワーカーなど、関係する職種と情報を共有し、退院後のセルフケアが途切れないよう調整します。
指導計画(何を教えるか)
疾患の基本的な知識を伝えます。
自分の病気がどういうものか、なぜ治療が必要なのか、放置するとどうなるのかを、難しすぎず・簡単すぎず、患者さんの理解力に合わせた言葉で説明します。
内服薬の管理方法を指導します。
薬の名前・飲む時間・飲み忘れた場合の対応・副作用の見分け方など、退院後に一人でも管理できるよう丁寧に伝えます。
薬剤師と連携した服薬指導も有効です。
食事・運動・生活習慣の管理方法を指導します。
糖尿病であれば食品交換表の使い方や血糖に影響する食品の知識、高血圧であれば塩分制限の工夫など、疾患に応じた生活指導を行います。
セルフケアに必要な手技を実際に練習しながら指導します。
血糖測定・インスリン注射・血圧測定・傷の処置・ストーマの管理など、患者さんに必要な手技を繰り返し練習する機会を設けます。
体調悪化のサインと緊急時の対応を伝えます。
「こういう症状が出たときはすぐに受診してください」「こんな状態になったら救急車を呼んでください」といった判断の目安を、患者さんと家族に伝えます。
地域の医療・介護サービスの活用について説明します。
退院後も訪問看護や外来での継続的なフォローアップが受けられることを伝え、一人で抱え込まなくてよいという安心感を持ってもらいます。
セルフケア促進準備状態と自己効力感の関係
セルフケアを高めるうえで、自己効力感(自分にはできるという感覚)はとても重要な役割を持っています。
アルバート・バンデューラが提唱したこの概念は、「自分はこの行動をうまくやれる」という確信が、実際の行動の継続につながることを示しています。
たとえば、インスリン注射の手技を覚えるとき、最初は「自分にこんなこと、本当にできるだろうか」という不安を感じる患者さんは少なくありません。
しかし、練習を重ねて成功体験を積み上げていくことで、「自分にもできる」という自信が生まれ、退院後も継続して自己注射を行えるようになります。
看護師の役割は、患者さんが成功体験を積みやすい環境を整え、小さなできたことを一つひとつ一緒に確認していくことです。
「完璧にできなくても、少しずつ上手になっていますよ」という言葉が、患者さんの自己効力感を支える力になります。
よくある指導のつまずきと対策
患者指導を行う際に、学生や若い看護師がつまずきやすいポイントをいくつか押さえておきましょう。
情報を一度に詰め込みすぎることは、理解を妨げる原因になります。
一回の指導で伝える内容は2〜3点に絞り、次回の指導で積み上げていく形にすると、患者さんが混乱しにくくなります。
「わかりましたか」と聞くだけで理解を確認したつもりになることも注意が必要です。
患者さんは「わかった」と答えていても、実際には理解できていないことが多くあります。
必ず「では、説明した内容を教えてもらえますか」と言葉で確認するか、実際に手順を見せてもらうことで、本当に理解できているかを把握します。
患者さんの生活スタイルや価値観を無視した指導は、退院後に続かないことが多いです。
「理想的なやり方」だけを押しつけるのではなく、患者さんの生活に合わせた現実的な方法を一緒に考えることが大切です。
家族への説明を後回しにしていると、退院後に家族が正しく支援できないことがあります。
患者さんへの指導と並行して、キーパーソンとなる家族にも早めに説明を行うことが大切です。
看護記録への記載のポイント
セルフケア促進準備状態に関する看護記録では、指導の内容・患者さんの反応・理解の程度・次回の指導計画を記録することが大切です。
「血糖測定の手順について説明を行い、患者さん自身に実施してもらった。穿刺の深さの調整が難しい様子だったが、2回目は正確に実施できた。本人から血糖値の目標について質問あり。次回は数値の見方と低血糖のサインについて指導予定」というように、実施した内容と患者さんの様子・次のステップを一緒に記録します。
患者さんが話した言葉も記録に残します。
「自分でできそうな気がしてきた」「退院が楽しみになってきた」などの発言は、意欲の変化を追ううえで大切な情報です。
指導内容の変更や追加が必要になった場合は、その理由と新しい方針も記録に残します。
まとめ
セルフケア促進準備状態は、患者さんがすでに持っている力と意欲を活かして、より自立した生活へ向けて成長していくプロセスを支える看護診断です。
「問題を治す」のではなく「もっとよくなれる力を引き出す」という視点は、看護の本質的な役割のひとつを表しています。
患者さんが自分の健康を自分の手で守れるよう、知識・技術・自信の三つを一緒に育てていくことが、この診断に向き合う看護師の大切な仕事です。
実習では、受け持ち患者さんが「もっとこうしたい」「退院後はこうやってみたい」と話す場面に着目してみてください。
その言葉の中に、セルフケア促進準備状態の看護計画を立てるヒントが隠れています。
今回の内容が、実習記録や国家試験の勉強に役立てば嬉しいです。








