患者さんと関わっていると、こんな言葉を耳にすることがある。
「先生に言われたことは分かってるんですけど、どうせ自分には続けられないと思って」 「何度やっても血糖コントロールできないし、もう諦めました」 「退院してもまたすぐ悪くなるんじゃないかって、怖くて何もできない気がします」
こういった言葉の背景には、単なる「やる気のなさ」ではなく、健康に関わる自己効力感の低下が潜んでいる可能性がある。
自己効力感とは、「自分はこれができる」という自信の感覚のことだ。
この感覚が低いと、どんなに正確な知識を教えても、患者さんは行動に移せない。
今回は、健康自己効力感不足の定義から背景、看護目標、観察・ケア・教育の具体的な内容まで、丁寧に整理していく。
看護学生さんはもちろん、糖尿病・心疾患・呼吸器疾患など慢性疾患を抱える患者さんと関わる看護師さんにも、ぜひ読んでほしい内容だ。
健康自己効力感不足とは
自己効力感(セルフエフィカシー)という概念は、心理学者アルバート・バンデューラが提唱したものだ。
自分がある行動をうまくやり遂げられるかどうかについての自信の感覚を指す。
この概念を健康行動に当てはめたものが「健康自己効力感」であり、健康自己効力感不足とは、NANDA-I看護診断でも取り上げられている状態で、患者さんが健康に関する行動を「自分にはうまくできない」と感じている状態を指す。
重要なのは、これは「知識がない」ことではないという点だ。
「塩分を控えるべきだと分かっている。でも自分には無理だと思う」 「運動が大切だと知っている。でも続けられる気がしない」
知識と行動の間に立ちはだかる壁が、自己効力感の低下なのだ。
健康自己効力感に影響する四つの要因
バンデューラの理論によると、自己効力感は主に四つの要因から形成される。
一つ目は成功体験だ。 過去に「できた」という経験が、「また自分にもできる」という自信につながる。
二つ目は代理経験だ。 「自分と似た境遇の人が成功した」という話を聞いたり、見たりすることで、「自分にもできるかもしれない」という気持ちが育つ。
三つ目は言語的説得だ。 周囲からの「あなたならできる」「よくできていますよ」という言葉が、自信の土台になる。
四つ目は生理的・情動的状態だ。 身体の疲労感・痛み・不安・抑うつなどがある状態では、「自分にはどうせ無理」という感覚が生じやすくなる。
看護師はこれらの要因を念頭に置きながら、患者さんの自己効力感を育てるための関わりを行っていく。
健康自己効力感不足になりやすい患者さんの特徴
どんな患者さんに健康自己効力感不足が生じやすいかを理解しておくことが、アセスメントの出発点になる。
慢性疾患を長期にわたって抱えている患者さんは、何度も「コントロールに失敗した」という経験を繰り返している場合が多い。
糖尿病で何度食事制限に取り組んでも血糖値が改善しなかった、禁煙にチャレンジしても何度もやめてしまった、といった繰り返しの挫折が自己効力感を大きく下げる。
また、抑うつ状態や不安障害を抱えている患者さんも、自己効力感が低くなりやすい。
「どうせうまくいかない」という認知の歪みが、行動への意欲を奪う。
高齢患者さんも注意が必要だ。
身体機能の低下や記憶力の衰えを自覚することで、「もう自分には新しいことはできない」という感覚を持ちやすい。
さらに、家族や周囲からの過保護な関わりを受けている患者さんも、「自分では何もしなくていい」という環境の中で自己効力感が育ちにくくなる。
健康自己効力感不足の看護目標
ここで、看護計画の中核となる目標を設定していこう。
長期目標
患者さんが、自分の健康管理に必要な行動を、自分のペースで継続できるという自信を持ち、退院後も主体的に生活を送れるようになる。
短期目標
自分が健康管理の中でうまくできていることを、一つ以上言葉にして伝えることができる。
健康管理に関する不安や難しいと感じている点を、看護師に正直に話すことができる。
目標とする健康行動を小さなステップに分けて考え、一つから取り組んでみることができる。
これらの目標は、患者さんの疾患・生活背景・現在の状態に合わせて適宜修正していくことが大切だ。
長期目標は退院後の自立した生活を見据えたゴールとして、短期目標は入院中に一歩一歩確認しながら達成できる内容として設定している。
看護計画の実際|観察・ケア・教育のポイント
ここからは、具体的な看護計画の内容を整理していく。
観察計画
健康管理に関する患者さんの発言内容を毎日観察する。
「どうせ続けられない」「自分には難しい」「また失敗すると思う」といった発言は、健康自己効力感不足のサインとして注意が必要だ。
過去の健康行動に関するエピソードを確認する。
「以前に食事制限に取り組んだことはありますか?」「禁煙に挑戦したことは?」などを尋ね、成功体験と失敗体験の両方を把握しておく。
患者さんが健康管理に関してどんなことを「難しい」と感じているかを確認する。
難しさの内容が具体的に分かると、看護介入の方向性が定まりやすい。
食事・服薬・運動・禁煙など、各健康行動に対する患者さんの取り組み状況と意欲を観察する。
処方された薬を自己判断で止めていないか、食事制限を守れているかなども確認ポイントになる。
抑うつ症状や不安症状の有無も観察する。
気分の落ち込み・食欲の低下・睡眠障害・興味の喪失などが見られる場合は、精神科や心療内科との連携も視野に入れる。
ケア計画
患者さんの成功体験を一緒に探し、言葉にして返す関わりを積み重ねる。
「今日、自分で服薬確認ができましたね」 「昨日より歩く距離が伸びましたね」 「血圧手帳、毎日続けて書けていますね」
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こうした声掛けを日々続けることで、患者さんの中に「自分にもできる」という感覚が少しずつ育っていく。
目標を「小さく・具体的に・達成しやすい形」に設定し直す手助けをする。
「毎日30分歩く」という目標が難しいと感じている患者さんには、「まず廊下を1往復するところから始めよう」と、スモールステップに分けて考える。
達成しやすい目標を設定し、それを達成したという経験を積み重ねることが、自己効力感を育てる上でとても大切だ。
同じ疾患を持ちながら健康管理に取り組んでいる他の患者さんの話(プライバシーに配慮しながら)や、体験談の冊子・動画などを紹介することも有効だ。
「自分と似た立場の人が続けられている」という情報が、代理経験として自己効力感を高めることがある。
患者さんが「難しい」と感じている部分を一緒に解決策として考える姿勢で関わる。
「何が一番大変ですか?」「どうすれば少しやりやすくなりそうですか?」という問いかけを通じて、患者さん自身が解決策を考える力を育てる。
答えを一方的に提示するのではなく、患者さんが自分で考える過程を大切にすることが、主体性の回復につながる。
家族への働きかけも大切なケアの一つだ。
過保護な関わりが患者さんの自己効力感を下げていることがある場合は、「できることは本人にやってもらう」「結果より過程を認める声掛けを」という形で家族への関わり方の工夫を伝える。
教育計画
自己効力感の概念を、患者さんに分かりやすく伝える。
難しい言葉を使わずに、「自分にはできるという自信は、少しずつ経験を積むことで育つものです」という形で伝えると、患者さんが自分の状態を理解しやすくなる。
健康管理は「完璧にやらなければいけないもの」ではないことを伝える。
「昨日うまくいかなかったからといって、全部やめる必要はない」「今日からまた一歩踏み出せばいい」という考え方を患者さんと共有することが、挫折後の立て直しにつながる。
疾患に関する知識は、患者さんが「何のためにこれをするのか」を理解できる形で提供する。
知識を提供するだけでなく、「この行動が自分の生活にとってどんな意味を持つか」を患者さん自身が言葉にできるよう、対話的に進めることが大切だ。
退院後の生活を想定したセルフケア計画を、患者さんと一緒に立てる時間を設ける。
「退院後、最初の一週間はどんなふうに過ごしたいですか?」という問いから始めると、患者さんが自分ごととして考えやすくなる。
外来・訪問看護・かかりつけ医など、退院後のサポート体制についても事前に情報を提供し、「一人でやらなくていい」という安心感を持ってもらうことが大切だ。
自己効力感と健康行動の関係を深く理解する
健康自己効力感が低い患者さんは、知識がないのではなく、「知っているのにできない」という苦しさの中にいることが多い。
たとえば、糖尿病の患者さんが「甘いものを食べてはいけない」と分かっていても食べてしまう背景には、食行動を変えることへの自己効力感の低さがあることが多い。
看護師が「なぜ守れないのですか?」と問い詰めるような関わりをしてしまうと、患者さんの自己効力感はさらに下がる。
大切なのは、「守れなかった理由を一緒に考える」姿勢だ。
「どんな場面で難しくなりますか?」「どうすれば少しやりやすくなりそうですか?」という対話を通じて、患者さん自身が自分の行動パターンを理解し、工夫を見つけていく。
この過程が、自己効力感の回復につながる。
動機づけ面接との関連
健康自己効力感不足の看護ケアを考えるうえで、**動機づけ面接(モチベーショナルインタビューイング)**という手法も知っておくと役立つ。
動機づけ面接とは、患者さん自身の中にある変わりたいという気持ちを引き出し、行動変容を促すためのコミュニケーションの方法だ。
医療者が「こうしなさい」と指示するのではなく、患者さんの言葉に耳を傾け、「変わりたい気持ち」と「変わることへの抵抗」の両方を受け止めながら対話する。
看護師として動機づけ面接の考え方を意識するだけでも、患者さんとの関わりの質が変わる。
「変えなければいけない」という圧力をかけるのではなく、「あなたのペースで一歩ずつ」という姿勢が、患者さんの自己効力感を育てる土台になる。
慢性疾患患者さんへの関わりで特に意識したいこと
健康自己効力感不足は、慢性疾患を抱える患者さんに生じやすいと述べた。
慢性疾患の患者さんは、「何年も病気と付き合ってきたのに良くならない」という長年の積み重ねから、強い無力感と自己効力感の低下を持っていることがある。
こういった患者さんに関わるときに大切なのは、今の状態を責めるのではなく、今日から一緒に考えるという姿勢で向き合うことだ。
「今まで大変だったんですね」「長い間、一人で頑張ってこられたんですね」という共感の言葉が、患者さんの心を開くきっかけになることがある。
そこから初めて、「一緒にどうしていこうか」という対話が生まれる。
記録とカンファレンスへの活かし方
健康自己効力感不足は、バイタルサインや検査値に現れないため、記録に残されにくい状態だ。
しかし、患者さんの言動・発言・取り組みの変化を記録に残していくことで、チーム全体が同じ認識を持って関わることができるようになる。
「本日、服薬管理について確認した際、患者さんより『どうせ続けられないと思う』との発言あり。 過去の服薬中断の経験についても話してくださった。 健康自己効力感不足の状態と判断し、スモールステップでの目標設定について提案した。 本日より看護計画を修正し、チームで共有する」
このように、観察・発言・アセスメント・介入の内容をセットで記録することが大切だ。
カンファレンスでも「あの患者さん、言っても変わらないんだよね」という印象の共有で終わらせず、「健康自己効力感不足として計画的に関わろう」という議論につなげていくことが、チームケアの質を高める。
まとめ
健康自己効力感不足は、患者さんが「知っているのにできない」という状態に陥っているときに生じやすい。
看護師として大切なのは、「なぜできないのか」を責めるのではなく、「どうすればできるようになるか」を患者さんと一緒に考え続ける姿勢だ。
成功体験を積み重ねること、小さな一歩を言葉で認めること、患者さんの「難しさ」に寄り添うこと。
この三つが、健康自己効力感を育てる看護の中心にある。
看護計画は作成して終わりではなく、患者さんの状態変化に合わせて日々見直し、修正していくことが大切だ。
この記事が、看護学生さんの実習記録や看護師さんの日常の関わりの参考になれば嬉しい。








