入院生活は、患者さんにとって想像以上に孤独な体験です。
慣れ親しんだ自宅を離れ、家族や友人とも自由に会えず、毎日決まったスケジュールの中で過ごす病棟生活は、たとえ医療スタッフに囲まれていても、深い孤立感を生みやすい環境です。
孤独感リスク状態とは、北米看護診断協会が定める看護診断のひとつで、他者とのつながりが薄れることで孤独感が生じるリスクがある状態を指します。
まだ孤独感が強く出ているわけではないものの、このまま何もしなければ孤独感が深まっていく可能性が高いと判断されるときに用いられます。
この記事では、孤独感リスク状態の看護計画について、看護目標から観察・ケア・指導の内容まで、看護学生にもわかりやすく解説していきます。
孤独感リスク状態とはどんな状態か
孤独感とは、他者とのつながりが感じられないときに生じる、主観的な苦痛の感覚です。
周囲に人がいても孤独を感じることがある一方で、一人でいても孤独を感じない人もいます。
孤独感は主観的な体験であるため、客観的な状況だけでは判断できません。
医学・心理学の分野では、孤独感は精神的健康だけでなく、身体的健康にも大きく関わることが明らかになっています。
慢性的な孤独感は、免疫機能の低下、血圧の上昇、心疾患のリスク増加、認知機能の低下などと関連することが研究で示されており、その影響は喫煙と同程度とも言われています。
孤独感リスク状態の看護は、こうした孤独感が深まる前に手を打ち、患者さんの人とのつながりを守るための大切なケアです。
どんな患者さんにこの診断を考えるか
孤独感リスク状態が高まりやすい状況には、以下のようなものがあります。
長期入院により、家族や友人との交流が少なくなっている患者さん。
高齢で、面会に来られる家族が少ない患者さん。
転居や転勤後間もない時期に入院し、地域のつながりがまだ薄い患者さん。
言語や文化の違いから、医療スタッフや他の患者さんとのコミュニケーションが難しい患者さん。
感染症対応などで個室管理となり、他者との接触が制限されている患者さん。
認知症や精神疾患により、自分から人間関係を築くことが難しい患者さん。
離婚や死別など、大切な人との関係を最近失った患者さん。
ストーマ造設や四肢切断など、身体の変化により人と会うことを避けるようになった患者さん。
こうした状況に置かれている患者さんが、徐々に口数が少なくなったり、表情が乏しくなったりしてきたとき、孤独感リスク状態のサインとして注意深く観察することが大切です。
孤独感が患者さんに与える影響
孤独感が深まると、患者さんにはさまざまな影響が出てきます。
気分の落ち込みや無気力感が強まり、治療への意欲が低くなります。
睡眠の質が低くなり、疲労感が蓄積します。
食欲が低くなり、栄養状態に影響が出ることがあります。
免疫機能が低くなり、感染症にかかりやすくなることがあります。
抑うつ状態へと移行するリスクが高くなります。
ナースコールを押すことをためらい、症状の悪化を見逃してしまうことがあります。
このように、孤独感は精神的な問題にとどまらず、身体的な回復にも影響します。
早期にリスクを察知し、孤独感が深まる前にかかわることが、看護師にとってとても大切です。
看護目標
長期目標
患者さんが入院中も他者とのつながりを感じながら療養生活を送り、退院後も社会的なつながりを保てるようになる。
短期目標
患者さんが看護師や医療スタッフに自分の気持ちや日常の出来事を話せるようになり、病棟内での人とのかかわりを持てるようになる。
患者さんが家族や友人との連絡手段(面会・電話・手紙・ビデオ通話など)を活用し、大切な人とのつながりを保てるようになる。
患者さんが孤独感を感じたとき、それを一人で抱え込まずに看護師や信頼できる人に伝えられるようになる。
具体的なケアの内容
観察計画(何を観察するか)
患者さんの表情、言動、声のトーンの変化を日々観察します。
口数が少なくなった、目を合わせなくなった、返事が短くなったなどの変化は孤独感のサインである可能性があります。
家族や友人の面会頻度、電話や連絡のやりとりの有無を確認します。
患者さんが自分から話しかけてくることがあるか、看護師の声かけにどのように反応するかを観察します。
睡眠の状態、食欲の変化、日常生活への意欲の低下がないかを確認します。
気分の落ち込み、涙もろさ、無気力感など、抑うつのサインが見られないかを観察します。
患者さんが以前楽しんでいた活動(読書・テレビ・手芸など)への関心が低くなっていないかを確認します。
社会的なつながりの状況(地域活動・友人関係・職場のつながりなど)について、会話の中から把握します。
入院環境(個室か大部屋か、窓の向き、日光の入り方など)が患者さんの気分に影響していないかを観察します。


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ケア計画(直接的なかかわり)
ケアの時間を、単なる処置の時間にせず、患者さんとの会話の機会として大切にします。
「今日はどんな夢を見ましたか」「昨日のテレビは見ましたか」など、日常的な話題から会話を始めることで、患者さんとの距離を縮めます。
患者さんの話をさえぎらず、最後まで聴く姿勢を持ちます。
忙しいときでも「後でまたゆっくり話しましょうね」と声をかけ、患者さんが「大切にされている」と感じられるかかわりを続けます。
患者さんが孤独感を口にしたとき、その気持ちをそのまま受け止めます。
「さみしいですよね」「それは辛いですね」と言葉で受け止めることで、患者さんは自分の気持ちが否定されないと感じることができます。
家族や友人との面会を調整し、面会しやすい環境を整えます。
面会が難しい場合には、ビデオ通話や電話の活用を提案し、患者さんが大切な人とつながれる手段を一緒に考えます。
同じ病気や状況を持つ患者さん同士の交流が自然に生まれる場を、プライバシーに配慮しながら整えます。
ボランティアによる訪問や、院内のレクリエーション活動への参加を提案することも有効です。
必要に応じて、臨床心理士や精神科リエゾンナース、医療ソーシャルワーカーとの連携を検討します。
教育・指導計画(患者さん・家族への説明や指導)
孤独感は入院生活の中でとても自然に生じる感情であることを、患者さんにわかりやすく伝えます。
「さみしいと感じることは、おかしいことではありません」という言葉が、患者さんの自己批判を和らげることにつながります。
自分の気持ちを誰かに話すことが、孤独感を和らげる上でとても大切であることを伝えます。
ビデオ通話アプリの使い方、手紙の書き方など、家族や友人とつながるための具体的な手段を一緒に確認します。
入院中でも楽しめる活動(読書・日記・手芸・音楽鑑賞・塗り絵など)を取り入れることが、気分の安定に役立つことを伝えます。
家族に対しては、面会や連絡が患者さんの精神的な安定に大きく作用することを伝え、できる範囲での関わりを促します。
退院後に向けて、地域のつながりを保つための社会資源(デイサービス・地域包括支援センター・患者会・ボランティア活動など)についての情報を提供します。
孤独感が強くなったとき、専門的なサポート(相談窓口・カウンセリング・訪問看護など)を活用することを伝えます。
高齢患者さんへの孤独感ケアで意識したいこと
高齢の患者さんは、孤独感リスクが特に高い群のひとつです。
配偶者や友人を先に亡くし、子どもも遠方に住んでいるという状況は、現代の高齢者に広く見られます。
高齢者の孤独感は、認知症の発症リスクを高めることも研究で示されており、社会的なつながりを保つことが認知機能の維持にも関わっています。
高齢患者さんへのかかわりでは、昔の話を聴く「回想法」的な関わりが有効なことがあります。
「昔はどんなお仕事をされていたんですか」「ご趣味は何でしたか」という問いかけは、患者さんが自分の人生の豊かさを改めて感じる機会になります。
また、高齢患者さんが「迷惑をかけたくない」という気持ちから、自分から助けを求めることをためらう場合があります。
「遠慮しなくていいですよ」「話しかけてくれると私も嬉しいです」という言葉を、日常のかかわりの中で意識的に伝えることが大切です。
感染対策と孤独感のバランス
近年の医療現場では、感染症対策により面会制限が設けられることが多く、患者さんの孤独感リスクが高まりやすい状況が続いています。
面会制限がある中でも、患者さんの孤独感を和らげるためにできることはあります。
ビデオ通話の環境整備(タブレット端末の貸し出しや通信環境の確認)を行います。
家族からの手紙やメッセージを病室に届ける工夫をします。
看護師が意識的に訪室回数を増やし、短い時間でも会話の機会を作ります。
院内ボランティアとの連携や、オンラインでのレクリエーション参加を検討します。
感染対策と人とのつながりを守ることの両方を大切にしながら、患者さんにとって最善の環境を整えることが看護師の役割です。
看護師として意識したいこと
孤独感リスク状態のケアで最も大切なのは、看護師自身が患者さんにとって「つながりのある存在」であり続けることです。
忙しい業務の中で患者さんとの会話が短くなりがちなことは、現実として避けられない部分もあります。
しかしたとえ短い時間でも、患者さんの目を見て、名前を呼んで、その人の話に耳を傾けることは、孤独感を和らげる大きな力になります。
「この看護師さんは私のことを気にかけてくれている」と患者さんが感じることができれば、それだけで孤独感は和らぎます。
また、孤独感のリスクを抱える患者さんの情報は、チーム全体で共有することが大切です。
日勤・夜勤を問わず、どのスタッフが関わっても患者さんが孤立しないよう、継続的なかかわりをチームで作っていくことが、このケアの核心です。
まとめ
孤独感リスク状態の看護計画は、患者さんが孤独感を深める前に、人とのつながりを守るための予防的なケアの診断です。
長期目標として患者さんが入院中も社会的なつながりを保ち、退院後も孤立しない生活を続けられることを目指し、短期目標を一歩ずつ積み上げていきます。
観察・ケア・指導の三つの視点からかかわることで、患者さんの孤独感を早期に察知し、その人らしいつながりを守ることができます。
臨床心理士・医療ソーシャルワーカー・地域の保健師をはじめとした多職種と連携しながら、退院後も切れ目のない支援を続けていくことが、看護師の大切な役割です。
看護学生のみなさんが実習や国家試験の学習でこの診断と向き合うとき、この記事が少しでも助けになれれば幸いです。








