「手術の後から夫婦関係がうまくいかなくなってしまって」「薬を飲み始めてから気持ちが全然わかなくて、パートナーに申し訳ない」「この悩みを誰に相談すればいいか分からなかった」——こうした言葉を、患者さんからそっと打ち明けられた経験はないでしょうか。
性機能に関わる問題は、患者さんにとって最もデリケートで、医療者にも話しにくいテーマのひとつです。
しかし、性機能の変化は病気や手術、薬剤、加齢などによって生じることが多く、患者さんの生活の質やパートナーとの関係性に大きく影響する重要な問題です。
この状態は看護診断において性機能障害と呼ばれ、泌尿器系疾患、婦人科系疾患、糖尿病、心血管疾患、脊髄損傷、精神疾患など幅広い疾患を抱える患者さんに見られます。
看護師として、患者さんがこの問題を安心して話せる環境をつくり、適切な支援につなぐことが大切な役割のひとつです。
今回は、性機能障害の看護診断について、その定義から看護計画の立案まで、臨床で活用できる内容を詳しくまとめました。
性機能障害とはどういう状態か
性機能とは、性的な欲求(性欲)、性的な興奮と反応、性行為の遂行、性的な満足感を得るという一連のプロセスに関わる機能のことです。
NANDA-Iでは、性機能障害を「個人が望ましいと感じる性機能に変化が生じており、それが苦痛な状態、または望ましくない状態として体験されている状態」として定義しています。
重要なのは、性機能の変化そのものが問題なのではなく、その変化が患者さんにとって苦痛であったり、望ましくない形で体験されていることが問題の中心であるという点です。
たとえば、次のような状態が性機能障害に当てはまります。
前立腺がんの手術後に勃起障害(いわゆるED)が生じ、パートナーとの関係に悩んでいる患者さん。
抗うつ薬の服用開始後から性欲が低下し、自分らしくなくなったと感じている患者さん。
子宮頸がんの治療後に膣の乾燥や疼痛が生じ、性交時の痛みに悩んでいる患者さん。
糖尿病の神経障害により性器の感覚が鈍くなり、満足感が得られなくなっている患者さん。
脊髄損傷後に性機能の変化が生じ、パートナーとの親密な関係をどう築くか分からなくなっている患者さん。
乳がんの治療による女性ホルモンの低下から、性欲の減退や膣萎縮が生じている患者さん。
なぜこの看護診断が重要なのか
性機能は、人間の基本的な欲求のひとつであり、生活の質や自己概念、パートナーとの関係性と深く結びついています。
しかし医療の現場では、性機能の問題は「命に関わらない」として後回しにされがちで、患者さん自身も「こんなことを相談していいのか」と遠慮して話せないままでいることが多いです。
性機能障害が放置されると、自己評価の低下、うつ状態、パートナーとの関係悪化、社会的な孤立につながることがあります。
逆に、適切な情報提供やケアが行われれば、患者さんが自分の状態を理解し、代替的な方法を見つけ、パートナーとの関係を新たな形で築いていく力を持てるようになります。
看護師は患者さんと最も近い距離で関わることができる職種として、性機能の問題を患者さんが話しやすい雰囲気をつくり、必要な支援につなぐ重要な役割を担っています。
関連因子とリスク因子を整理する
性機能障害に関わる因子は多岐にわたります。
身体的・医学的な因子として、神経系疾患(脊髄損傷、多発性硬化症、糖尿病性神経障害)、血管系疾患(動脈硬化、高血圧)、ホルモン系の変化(更年期、甲状腺機能異常、前立腺疾患)、泌尿器・婦人科系疾患、骨盤内手術後の神経・血管の損傷が挙げられます。
薬剤に関わる因子として、抗うつ薬(特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、降圧薬、抗精神病薬、ホルモン療法薬、抗がん剤など、多くの薬剤が性機能に影響を与えることがあります。
心理・精神的な因子として、うつ病、不安障害、性的トラウマの既往、ボディイメージの変化(手術後の外見の変化など)、パフォーマンスへの不安、自己効力感の低下が挙げられます。
関係性・社会的な因子として、パートナーとのコミュニケーション不足、関係性の変化、性に関する情報不足、文化的・宗教的な価値観が関わることがあります。
治療・処置に関わる因子として、放射線治療(骨盤部への照射)、化学療法、ホルモン療法、骨盤内手術(前立腺摘出術、子宮全摘術など)が挙げられます。
看護目標を設定する
長期目標
患者さんが自分の性機能の変化について正しく理解し、医療者やパートナーと話し合いながら、自分らしい親密な関係のあり方を見つけることができる。
短期目標
性機能の変化について感じている不安や悩みを、看護師に言葉で伝えることができる。
自分の性機能の変化がどのような原因で生じているかについて、基本的な内容を理解し説明することができる。
性機能の問題に対して相談できる医療者(泌尿器科医、婦人科医、性相談の専門家など)や支援の窓口をひとつ以上知ることができる。
観察計画(オーピー)
性機能障害の状態を把握するためには、患者さんが話しやすい環境を整えながら、身体的・心理的・関係的な側面から丁寧に情報を収集することが必要です。
性機能の変化に関する訴えの観察として、患者さんから自発的に性機能の問題が語られる場合はもちろん、「疲れやすくなった」「夫婦関係が変わった」「自分らしくない気がする」といった間接的な発言の中にも、性機能への影響が隠れていることがあります。
直接的な訴えがない場合でも、疾患や治療の内容から性機能への影響が予測される患者さんに対しては、看護師から話題を開く働きかけが必要です。
疾患・治療の内容と性機能への影響の把握として、現在の疾患、手術・治療の内容、使用している薬剤を確認し、どのような性機能への影響が生じうるかを把握します。
骨盤内手術後の患者さん、ホルモン療法中の患者さん、神経障害を持つ患者さんはリスクが高いため、積極的な情報収集が必要です。
心理・感情状態の観察として、性機能の変化に対して患者さんがどのような感情を持っているかを確認します。
「もう自分は男として終わりだ」「女性としての価値がなくなった気がする」という発言は、性機能の変化が自己概念に深く影響していることを示しています。
抑うつ症状や強い不安感、自己評価の低下がないかも確認します。
パートナーとの関係性の観察として、パートナーがいる場合、パートナーとの関係性の変化について患者さんがどう感じているかを確認します。
「パートナーに申し訳ない」「話し合えていない」「関係が冷えてきた気がする」という言葉は、パートナーへの支援も必要であることを示しています。
性機能に関する知識・情報の把握として、患者さんが自分の性機能の変化について正しい情報を持っているかを確認します。
誤った情報や思い込みが不必要な苦痛を生んでいる場合もあるため、情報の正確さを確認することが大切です。
ケア計画(ティーピー)
ケア計画では、患者さんが性機能の問題を安心して話せる環境をつくりながら、自己概念の回復とパートナーとの関係性の再構築を支援することを中心に考えます。
まず、性機能について話せる環境と関係性をつくることが最優先です。
プライバシーが確保できる個室や面談室で、落ち着いた雰囲気の中で話せる機会を設けます。
「手術の後、身体の変化について気になることはありますか。性機能の面でお困りのことがあれば、遠慮なく話してもらえます」というような問いかけで、患者さんが話しやすい入り口をつくります。
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患者さんの話を批判せず、受け止める姿勢を徹底します。
「そういうことはよくあることです」「あなただけではありません」という言葉かけが、患者さんの孤立感を和らげます。
ただし、「大丈夫ですよ」という安易な言葉は患者さんの苦痛を否定することになりかねないため、まずはそのまま受け止める姿勢を大切にします。
性機能の変化と疾患・治療の関係について、正確な情報を提供します。
「この手術の後に、このような変化が生じることがあります。これはあなただけに起きていることではなく、身体の仕組みからくるものです」という説明が、患者さんの自己否定感を和らげます。
性機能の変化に対して、代替的なアプローチや工夫について情報を提供します。
潤滑剤の使用、性交以外の親密な関わり方、勃起障害に対する治療薬や補助具など、患者さんの状況に合った選択肢を提示します。
ただし、押しつけにならないよう、「こういう方法もあります。よければ一緒に考えましょう」という提案の形で伝えることが大切です。
専門家への橋渡しを積極的に行います。
泌尿器科医、婦人科医、性機能専門外来、性相談の専門カウンセラーなど、性機能の問題を専門的に扱える医療者への紹介を検討します。
「専門の先生に相談することもできますよ。一緒に考えましょうか」という言葉かけで、受診へのハードルを下げます。
パートナーへの支援も視野に入れます。
患者さんの了承を得た上で、パートナーにも性機能の変化についての情報を提供し、二人で話し合える場をつくることを提案します。
パートナーが「自分のせいではないか」と感じている場合には、疾患や治療の影響によるものであることを説明し、パートナーの不必要な罪悪感を和らげます。
教育計画(イーピー)
教育計画では、患者さんとパートナーが性機能の変化について正しく理解し、新たな関係のあり方を見つけられるよう支援します。
患者さんに対して、性機能の変化が疾患や治療によって生じるものであることを分かりやすく説明します。
「これはあなたの意欲や愛情の問題ではなく、身体の変化によるものです」という説明が、患者さんの自己否定感や罪悪感を和らげる助けになります。
性機能の変化は治療や対処によって改善できる場合があることを伝えます。
「すぐに元に戻ることもありますし、時間がかかることもあります。また、完全に元通りにならなくても、新しい形で満足できるようになることもあります」という現実的な見通しを伝えることで、患者さんが過度な期待や絶望を持たずに向き合えます。
性に関する情報を得られる信頼できる情報源を紹介します。
医療機関の性機能専門外来、専門医による書籍、患者会の情報など、信頼性の高い情報源を具体的に伝えます。
インターネット上には誤った情報も多いため、「情報を探すときは医療機関や専門家が発信しているものを参考にしてください」という案内も大切です。
パートナーとのコミュニケーションの大切さと、その方法について伝えます。
「性機能の変化についてパートナーに正直に話すことは、最初は難しいかもしれません。しかし、二人でこの変化に向き合うことが、関係をより深める機会にもなることがあります」という言葉かけが、患者さんがパートナーとの対話に踏み出す後押しになります。
性交だけが親密さの形ではないことを伝えます。
抱擁、手をつなぐ、言葉で気持ちを伝えるなど、性交以外の形でも親密さや安らぎを得られることを説明します。
特に性機能の回復に時間がかかる時期や、性交が困難な状態の期間に、代替的な親密さの形を知っておくことは、パートナーとの関係を守る上で重要です。
パートナーに対しては、性機能の変化が患者さん本人にとってどれほど悩みの深い問題かを理解してもらうよう働きかけます。
「焦らせたり、責めたりするのではなく、ただそばにいて受け入れてくれることが、本人にとって最大の支えになります」という言葉かけが、パートナーの関わり方をより支持的なものにする助けになります。
臨床でよく見られる場面と対応のポイント
前立腺がん術後の患者さんでは、勃起障害や射精障害が生じることがあります。
術後の経過として生じうることを術前からあらかじめ説明しておくことで、患者さんが心構えを持って術後の変化に向き合えるようになります。
泌尿器科の専門外来や性機能専門の相談窓口への案内を早めに行います。
婦人科系がんの治療後の患者さんでは、放射線治療や手術による膣の変化(狭窄、乾燥、疼痛)が生じることがあります。
膣ダイレーター(膣拡張器)の使用や潤滑剤の活用について、婦人科医や専門ナースと連携しながら情報提供を行います。
「女性としての自分が変わってしまった」というボディイメージの混乱にも寄り添う関わりが必要です。
抗うつ薬や降圧薬を服用している患者さんでは、薬剤による性機能への影響について正確な情報を提供します。
「薬を勝手にやめないでください。気になることは担当医に相談しましょう」という案内が大切です。
薬の種類の変更や用量の調整で改善できる場合があるため、患者さんが担当医に相談しやすいよう橋渡しをします。
脊髄損傷の患者さんでは、障害のレベルや程度によって性機能への影響は様々です。
リハビリテーションの中に性機能に関する情報提供とカウンセリングを組み込み、患者さんとパートナーが新たな関係のあり方を見つけられるよう支援します。
高齢の患者さんでは、「年齢的に仕方ない」と諦めている場合がありますが、性機能の問題は高齢者においても生活の質に関わる重要な問題です。
高齢であっても性に関する悩みを持つことは自然なことであると伝え、適切な支援につなぎます。
まとめ
性機能障害は、患者さんの生活の質、自己概念、パートナーとの関係性に深く影響する、看護において見逃すことのできない問題です。
デリケートなテーマだからこそ、看護師が患者さんの話を受け止める準備ができていること、安心して話せる環境をつくることが何より大切です。
患者さんが「この悩みを話してよかった」と感じられる関わりが、その後の回復とパートナーとの新たな関係づくりを支える力になります。
観察、ケア、教育の三つの柱をバランスよく組み合わせながら、患者さんとパートナーの双方を視野に入れた丁寧な支援を続けていきましょう。
看護計画は患者さんの状態や関係性の変化に合わせて柔軟に見直しながら、その人らしい生活の質の回復を支える関わりを続けていきましょう。








