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看護計画

心的外傷後シンドロームの看護計画|トラウマを抱える患者さんへのケアの考え方

この記事は約9分で読めます。

「あのときの記憶が突然よみがえって、眠れない夜が続いています」「大きな音を聞くだけで、体が震えてしまいます」——こうした言葉を患者さんから聞いたとき、看護師はどう関わればよいのでしょうか。

過去に経験した強烈な出来事が、時間が経った後も心と体に影響を与え続けることがあります。

心的外傷後シンドロームとは、北米看護診断協会が定める看護診断のひとつで、身体的・精神的に強い衝撃を受けるような体験をした後に、持続的な心身の反応が生じている状態を指します。

医学的には心的外傷後ストレス障害(以下、外傷後ストレス障害)と重なる部分が多く、フラッシュバック・回避行動・過覚醒・感情の麻痺などの症状が見られます。

この記事では、心的外傷後シンドロームの看護計画について、看護目標から観察・ケア・指導の内容まで、看護学生にもわかりやすく解説していきます。


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心的外傷後シンドロームとはどんな状態か

心的外傷(トラウマ)とは、その人の対処能力を大きく超えるような、圧倒的な恐怖・無力感・脅威をもたらした出来事の体験を指します。

トラウマになり得る出来事としては、以下のようなものがあります。

自然災害(地震・洪水・火災など)の体験。

交通事故や労働災害による重大な身体的損傷。

犯罪被害(暴行・性被害・強盗など)。

戦争や紛争地域での体験。

家族や親しい人の突然の死や、死に直面する場面の目撃。

虐待(身体的・精神的・性的)の体験。

医療行為に関連したトラウマ(救急救命処置・集中治療・手術中の意識など)。

これらの体験をした後、以下の四つの症状群が持続するとき、外傷後ストレス障害と診断されることがあります。

再体験症状とは、フラッシュバック・悪夢・侵入的な記憶などの形で、過去の体験が繰り返しよみがえる症状です。

回避症状とは、トラウマに関連した場所・人・物・話題を意識的・無意識的に避ける症状です。

認知・気分の変化とは、自己や世界への否定的な信念、感情の麻痺、喜びや愛情を感じにくくなる状態です。

過覚醒症状とは、常に緊張状態が続き、些細な刺激に強く反応する、眠れない、集中できないなどの症状です。


医療現場におけるトラウマの多様性

心的外傷後シンドロームは、戦争帰還兵や災害被害者だけの問題ではありません。

医療現場でも、さまざまな背景でこの診断を考える場面があります。

集中治療室での治療中に意識がある状態で恐怖を体験した患者さん。

心肺蘇生を受けた後、その体験の記憶に苦しんでいる患者さん。

がんの告知を受けた際の衝撃が、その後も持続的な恐怖として続いている患者さん。

手術後に、手術室での体験がフラッシュバックとしてよみがえる患者さん。

過去に虐待や暴力の体験があり、入院中のケア(特に身体に触れるケア)がその記憶を呼び起こしてしまっている患者さん。

こうした患者さんが病棟にいることを、看護師は常に念頭に置いておく必要があります。

過去のトラウマが、現在の入院生活や治療への反応に大きく関わっていることがあるからです。


心的外傷後シンドロームのサインを見逃さないために

患者さんが心的外傷後シンドロームの状態にあることを示すサインとして、以下のようなものがあります。

特定のケアや処置の前後に、強い不安・恐怖・パニック反応が見られる。

悪夢を繰り返し見ていると訴える。

「あのときのことが頭から離れない」「突然記憶がよみがえる」と話す。

特定の音・匂い・場所・人物に対して、強い反応を示す。

感情が平坦になり、以前と比べて表情が乏しくなっている。

「自分が悪かった」「自分のせいだ」という自責の言葉が増えている。

人との関わりを避けるようになり、孤立していく様子が見られる。

常に緊張しており、些細な物音にも強く反応する。

こうしたサインを日々の関わりの中でいち早く察知し、適切なかかわりを始めることが看護師の役割です。


看護目標

長期目標

患者さんがトラウマ体験を自分の人生の一部として受け止めながら、日常生活の中で安全感と安心感を取り戻し、自分らしく生きていけるようになる。

短期目標

患者さんが今感じている症状(フラッシュバック・不眠・過緊張など)を看護師に言葉で伝えられるようになり、一人で抱え込まない関係を築けるようになる。

患者さんが症状が出たときに自分でできる対処方法(呼吸法・グラウンディングなど)をひとつ以上身につけ、実践できるようになる。

患者さんが入院中の治療やケアに対して過度な恐怖を感じることなく、必要な医療を安心して受けられるようになる。


具体的なケアの内容

観察計画(何を観察するか)

患者さんがトラウマ体験についてどのように語っているかを確認します。

フラッシュバックや悪夢の頻度・内容・誘因となる刺激について把握します。

睡眠の状態(入眠困難・中途覚醒・悪夢による覚醒)を毎日確認します。

ケアや処置の前後における患者さんの反応(不安・パニック・解離症状など)を観察します。

解離症状とは、現実感がなくなる・自分を外から見ているような感覚・記憶の空白などのことです。

感情の状態(感情の麻痺・感情爆発・自責感・羞恥感など)を観察します。

回避行動の有無(特定の話題・場所・人物・ケアを避けようとする行動)を確認します。

過覚醒の状態(常に緊張している・些細な刺激に強く反応する・集中できない)を観察します。

自傷・自殺念慮につながる発言や行動がないかを注意深く確認します。

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社会的なつながりの状況(家族・友人との関係の変化)を観察します。

患者さんが安心できる場所・人・物があるかを確認します。

ケア計画(直接的なかかわり)

患者さんとの関わりにおいて、まず「安全であること」を最優先にします。

患者さんにとって、今いる場所・今いる人が安全であると感じられるよう、言葉と行動で伝え続けます。

「ここは安全ですよ」「私はあなたの味方です」という言葉を、自然な形で繰り返し伝えます。

ケアや処置を行う前に、必ず事前に説明し、患者さんの同意を確認します。

身体に触れるケアでは、特に丁寧な説明と確認を行います。

「今から〇〇をしますね」「どこか痛いところや、やめてほしいことがあれば教えてください」と伝えることで、患者さんは自分がコントロールできると感じることができます。

フラッシュバックが生じているとき、患者さんを責めず、「今ここにいますよ」「今は安全ですよ」と穏やかに声をかけます。

過去の体験を無理に話させることはせず、患者さんが話したいと感じたときに話せる場を整えます。

グラウンディング技法を一緒に練習します。

グラウンディングとは、今この瞬間に意識を向ける技法で、「今見えているものを五つ言ってみましょう」「今感じている足の感覚に意識を向けてみましょう」などの方法があります。

この技法は、フラッシュバックや解離症状が出たときに、患者さんが現実に戻ってくるための助けになります。

腹式呼吸のやり方を一緒に練習し、緊張や不安が高まったときにすぐ使えるよう準備します。

患者さんが安心できる環境(照明・音・温度・プライバシー)を整えます。

必要に応じて、精神科医・臨床心理士・精神科リエゾンナースへのコンサルトを行います。

自傷・自殺念慮が見られる場合には、すみやかに精神科へのコンサルトと安全確保のための対応を行います。

教育・指導計画(患者さんへの説明や指導)

心的外傷後の反応は、強烈な体験に対する心と体の自然な反応であることを、患者さんにわかりやすく伝えます。

「フラッシュバックや不眠が続いているのは、あなたが弱いからではありません。強烈な体験をした後に起きる、自然な心の反応です」という言葉が、患者さんの自己批判を和らげることにつながります。

グラウンディング技法の具体的なやり方を指導します。

「今この瞬間に五感で感じられることに意識を向けること」が、過去の記憶に引き込まれそうになるときの助けになることを伝えます。

腹式呼吸の指導を行います。

ゆっくりとした呼吸が、緊張した神経系を落ち着ける助けになることを、患者さんが理解しやすい言葉で説明します。

症状が出やすい状況(誘因となる刺激)を一緒に把握し、できる範囲でその刺激を避けられるよう環境を調整します。

睡眠の質を高めるためのセルフケア(就寝前のルーティン・環境の整え方・悪夢が出たときの対処)について伝えます。

「症状が悪くなったとき、誰にどのように伝えるか」を事前に整理し、患者さんが助けを求めやすくします。

家族に対しては、心的外傷後の反応についての基本的な知識を伝えます。

「本人を責めたり、無理に話させたり、急かしたりしないこと」「ただそばにいて、安全であることを伝えること」の大切さを具体的に説明します。

退院後に向けて、専門的なサポートを受けられる機関(精神科・心療内科・カウンセリング・自助グループなど)の情報を提供します。


トラウマインフォームドケアの視点を持つ

心的外傷後シンドロームのケアを考えるとき、「トラウマインフォームドケア」という考え方がとても大切です。

トラウマインフォームドケアとは、患者さんが過去にトラウマを抱えている可能性を常に念頭に置きながら、安全・信頼・選択・協働・エンパワメントを基本にケアを提供する考え方です。

「この患者さんはなぜこんな反応をするのか」ではなく、「この患者さんはどんな体験をしてきたのか」という視点でかかわることが、トラウマインフォームドケアの出発点です。

医療現場でのケアそのものが、患者さんにとって新たなトラウマにならないよう、常に配慮する姿勢が大切です。

特に、身体に触れるケア・プライバシーに関わるケア・侵襲的な処置においては、患者さんの安全感と自己決定を守ることを最優先にします。


精神科リエゾンナース・臨床心理士との連携

心的外傷後シンドロームのケアでは、精神科リエゾンナースや臨床心理士との連携が欠かせません。

精神科リエゾンナースは、病棟での日常的なかかわりの中で、患者さんの精神的な問題に専門的に対応します。

臨床心理士は、心理的なアセスメントと、認知処理療法・眼球運動による脱感作と再処理法(眼球を動かしながら記憶を処理する技法)などの専門的な心理療法を行います。

病棟看護師は日々の観察から患者さんの変化をいち早く察知し、その情報を精神科リエゾンナースや臨床心理士に伝える橋渡し役を担います。

チームとして情報を共有し、統一した安全なかかわりをすることが、患者さんの回復にとって大切です。


看護師として意識したいこと

心的外傷後シンドロームのケアで最も大切なのは、看護師が「二次的トラウマ」にならないよう配慮することです。

二次的トラウマとは、患者さんのトラウマ体験の内容に繰り返し触れることで、看護師自身がトラウマ症状に似た反応を経験することです。

患者さんの辛い体験を繰り返し聞くことは、看護師の心にも影響を与えます。

チームで情報を共有し、特定の看護師だけが重い話を抱え込まない体制を作ることが大切です。

また、患者さんのトラウマ体験を無理に聞き出そうとしないことが大切です。

患者さんが話したいと思ったときに、安全に話せる場を整えることが看護師の役割であり、聞き出すことが目的ではありません。

患者さんの回復のペースはその人のものです。

看護師はそのペースを尊重しながら、ただそばに寄り添い続けることが、このケアの核心です。


まとめ

心的外傷後シンドロームの看護計画は、過去のトラウマ体験によって持続的な心身の反応が生じている患者さんに対して、安全感と安心感を取り戻し、自分らしく生きていけるよう支えるためのケアの診断です。

長期目標として患者さんがトラウマ体験を自分の人生の一部として受け止めながら、日常生活の中で安全感を取り戻せることを目指し、短期目標を一歩ずつ積み上げていきます。

観察・ケア・指導の三つの視点からかかわることで、患者さんの心理的な安全を守り、回復への力を引き出すことができます。

精神科医・臨床心理士・精神科リエゾンナースをはじめとした多職種と連携しながら、患者さんの心身の安定を支え続けることが、看護師の大切な役割です。

看護学生のみなさんが実習や国家試験の学習でこの診断と向き合うとき、この記事が少しでも助けになれれば幸いです。

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