自己損傷リスク状態とはどのような状態でしょうか
自己損傷とは、自分の身体を意図的に傷つける行為のことです。
リストカット・自分を叩く・皮膚をひっかく・頭を壁にぶつけるなど、その形は様々です。
自己損傷リスク状態とは、こうした行為が実際に起きてはいないものの、その行為に至るリスクが高まっている状態のことを指します。
医学的には、自己損傷は非自殺的自傷行為と呼ばれることがあり、死を目的とするものではなく、耐えがたい感情的な苦痛を和らげようとする行為として理解されています。
しかし、自己損傷が繰り返されることで、より重篤な身体的損傷や、将来的な自殺リスクの上昇につながる可能性があることも知られており、早期からの適切なケアがとても大切です。
自己損傷リスクが高まりやすい背景としては、境界性パーソナリティ障害・うつ病・双極性障害・統合失調症・摂食障害・心的外傷後ストレス障害などの精神疾患があります。
また、精神疾患の診断がなくても、強い孤立感・自己否定感・感情調節の困難さ・過去のトラウマ体験・いじめ・家庭内の問題などを背景に、自己損傷のリスクが高まることがあります。
看護師として大切なのは、自己損傷という行為を「問題行動」として裁くのではなく、患者さんが耐えがたい苦痛に対処しようとしている必死のサインとして受け止め、その苦しさに寄り添いながら、より安全な対処方法を一緒に探していく姿勢です。
なぜ自己損傷リスク状態の看護計画が大切なのでしょうか
自己損傷リスク状態は、患者さんの安全に直接関わる問題であり、看護師として最も優先度高く対応すべき状態の一つです。
自己損傷が繰り返されることで、感染症・出血・神経損傷・瘢痕形成など、身体的な問題が生じるリスクがあります。
また、自己損傷はそれ自体が問題であるとともに、より重篤な自殺企図への移行リスクを高める要因としても知られています。
一方で、自己損傷リスクのある患者さんへの関わりは、看護師にとってとても難しい場面の一つです。
「どう声をかけたらよいか分からない」「下手に触れてしまうと悪化するのではないか」という不安を感じる看護師も多いですが、適切なケアと関わりが患者さんの安全を守る大きな力になります。
看護計画としてこの状態を取り上げることで、チーム全体が患者さんの安全を意識しながら、一貫した関わりを続けることができるようになります。
ただし、自己損傷や自傷に関して患者さんと関わる際には、情報収集においても過度な詳細への踏み込みは避け、患者さんの安全と信頼関係を最優先にした丁寧な姿勢が求められます。
自己損傷リスク状態に関連する主なアセスメントの視点
看護計画を立てる前に、患者さんの状況をていねいにアセスメントすることが出発点です。
まず、患者さんが現在どのような精神的な苦痛を抱えているかを把握します。
強い不安・深い悲しみ・怒り・空虚感・孤立感・自己否定感など、自己損傷のリスクと関連しやすい感情状態を確認します。
過去の自己損傷の有無を確認します。
過去に自傷行為があった場合、その頻度・方法・きっかけ・その後の対処などを、患者さんが話せる範囲で把握します。
自殺念慮の有無を確認します。
自己損傷と自殺念慮は区別して捉える必要がありますが、両者が同時に存在することもあるため、安全のアセスメントとして慎重に確認します。
自己損傷のリスクを高める要因を把握します。
孤立・家族との問題・経済的な困難・精神疾患の悪化・トラウマの再燃・特定の出来事や記念日など、リスクを高める状況を確認します。
患者さんが現在どのようなコーピング方法を持っているかを確認します。
つらいときにどのように対処してきたかを把握することで、自己損傷以外の安全な対処方法を一緒に探すための手がかりになります。
社会的なサポートの状況を確認します。
信頼できる人がいるか・困ったときに頼れる場所があるかを把握することが、安全計画を立てるうえで大切です。
看護目標
長期目標
患者さんが自己損傷以外の安全な方法で感情的な苦痛に対処できるようになり、安心して日常生活を送ることができます。
短期目標
自分が感じている苦痛や衝動を、看護師や信頼できる人に言葉で伝えることができます。
自己損傷の衝動を感じたときに、あらかじめ決めておいた安全な対処方法を一つ試してみることができます。
自分の安全を守るために、困ったときに頼れる人や場所が少なくとも一つあることを知ることができます。
観察計画(オーピー)
観察計画では、患者さんの精神的な状態・行動のサイン・安全の状況を継続してていねいに確認することが大切です。
患者さんの表情・言動・気分の変化を毎日の関わりの中で観察します。
普段より落ち込んだ様子・イライラした様子・感情の起伏が激しい・無表情で話さない・視線を合わせないなどの変化は、苦痛が高まっているサインとして注意が必要です。
身体的なサインを観察します。
長袖を着て腕を隠している・包帯や絆創膏が増えている・身体に説明のつかない傷がある・入浴や着替えを拒否するなどの行動に注意します。
自己損傷の衝動に関わる言動を観察します。
「消えてしまいたい」「傷つけたくなる」「どうしようもない気持ちになる」などの発言は、リスクが高まっているサインとして記録・報告します。
環境の安全を確認します。
刃物・鋭利なもの・薬剤など、自己損傷に使われる可能性があるものが患者さんの手の届くところにないかを確認します。
睡眠の状態・食欲・日常生活の様子を定期的に記録します。
睡眠の乱れや食欲の著しい低下は、精神的な苦痛の悪化と関連していることがあります。
ストレスが高まりやすい特定の時間帯・場面・出来事がないかを観察します。
面会後・特定の日付・夜間など、患者さんのリスクが高まりやすいパターンを把握しておくことが大切です。
ケア計画(ティーピー)
ケア計画では、患者さんの安全を守りながら、より安全な感情の対処方法を育てるための具体的なかかわりを設計します。
まず、患者さんが安心して気持ちを話せる時間と場をつくることを優先します。
「最近、つらいと感じることはありますか?」「気持ちが落ち込むことはありますか?」と声をかけ、患者さんが内側に抱えているものを言葉にできるよう支えます。
患者さんが話してくれた苦しさや衝動は、否定・批判・驚きを表情に出さず、そのまま受け止めることが、信頼関係を築くための最も大切な姿勢です。
患者さんと一緒に、自己損傷の衝動を感じたときの安全な対処方法を探します。
深呼吸・冷たい水で顔を洗う・信頼できる人に電話する・落ち着ける場所に移動するなど、患者さんが「これなら試せそう」と感じる方法を一緒に考えます。
ただし、感覚的な刺激を使った対処方法の提案においては、患者さんの状態に応じて慎重に検討することが大切です。


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患者さんが衝動を感じたときにどうするかをあらかじめ一緒に整理しておく、安全計画の作成を支援します。
「衝動が出てきたとき、まず何をするか・次に何をするか・それでも苦しいときは誰に連絡するか」という流れを、患者さんが自分の言葉で書き出せるよう支えます。
環境の安全を整えます。
患者さんの手の届くところに自己損傷に使われる可能性があるものが置かれていないか確認し、必要に応じて保管方法を変更します。
夜間・休日など、スタッフが少ない時間帯の安全確認を強化します。
自己損傷の衝動が強まりやすい時間帯には、より頻繁に声をかける体制をチームで確認します。
必要に応じて、精神科医・心理士・精神科リエゾンチームへの橋渡しを早めに行います。
教育計画(イーピー)
教育計画では、患者さんが自分の状態を理解し、安全な方法で自分を守る力を育てることを支援することが大切です。
まず、自己損傷の衝動が生じること自体は、患者さんが弱いわけでも、おかしいわけでもないことを伝えます。
「耐えがたい苦痛を何とかしようとする気持ちから生じている」ということを、責めない言葉で丁寧に伝えることが大切です。
「その苦しさを一人で抱えなくてよいこと・誰かに伝えてよいこと」を、繰り返し患者さんに伝えることが看護師の大切な役割です。
感情と行動の間には必ず時間があること、その時間を使って別の選択をする余地があることを伝えます。
「衝動が来ても、すぐに行動しなくてよい」「その感情は必ず変化していく」という視点を、平易な言葉で伝えます。
自己損傷以外の感情対処の方法について、患者さんと一緒に学びます。
気持ちを日記に書く・信頼できる人に話す・体を動かす・呼吸を整えるなど、安全な方法で感情を外に出すことの大切さを伝えます。
困ったときに相談できる場所について具体的な情報を提供します。
院内の相談窓口・精神科外来・電話相談窓口・危機介入の連絡先など、患者さんが使いやすい相談先を一緒に確認しておきます。
家族に対しては、患者さんの状態について丁寧に説明し、家族がどのように関わることが患者さんの安全に役立つかを一緒に考えます。
患者さんが自己損傷の衝動を話してくれたときに、驚いたり責めたりせず、まず話を聞くことの大切さを家族に伝えます。
自己損傷リスクが高まりやすい場面を知りましょう
臨床の場では、自己損傷リスクが特定の場面で高まりやすいことが知られています。
それを知っておくことで、看護師として先手を打ったかかわりができるようになります。
夜間・早朝などスタッフが少ない時間帯は、患者さんが一人になりやすく、リスクが高まりやすい時間です。
就寝前の声かけや夜間の安否確認を意識的に行うことが大切です。
感情的に揺れやすい出来事の後、たとえば家族との面会・特定の記念日・嫌な出来事があった日の後などは、特に注意が必要です。
精神疾患の症状が悪化しているとき・薬剤の変更があったとき・ストレスが重なっているときも、リスクが高まりやすい状況です。
入院から退院への移行期も、環境の変化と不安が重なりリスクが上がりやすい時期です。
退院前には、退院後の安全計画を患者さんと一緒に丁寧に確認することが大切です。
感情調節の困難さを理解した関わり方
自己損傷リスクのある患者さんの多くは、感情調節に困難を抱えています。
感情調節の困難さとは、強い感情が生じたときに、それを適切に調整することが難しい状態のことです。
感情の波が激しく・すぐに圧倒されてしまい・その苦しさから逃れるために自己損傷という手段に頼ってしまうというパターンが生じやすくなります。
看護師として、患者さんの感情の変化に気づいたとき、「どうしてそんなことをするのか」と問いただすのではなく、「今、どんな気持ちですか?」と感情に焦点を当てた声かけをすることが大切です。
患者さんが感情を言葉にするのを手伝うことが、感情調節の力を育てるうえでとても大切な関わりです。
「今すごく苦しいですね」「その気持ちは当然だと思います」という言葉で感情を受け止めることが、患者さんに「分かってもらえた」という感覚を与え、苦痛の強度を下げることにつながります。
患者さんが感情を安全に表現できる場を提供することそのものが、自己損傷リスクを下げる大切なケアです。
退院後を見据えた自己損傷リスクへの支援
自己損傷リスク状態への看護介入は、入院中だけで完結するものではありません。
退院後の生活においても、患者さんが安全に生活を続けられるよう、入院中から準備を進めることが大切です。
退院前には、退院後に衝動が高まったときの対処方法・連絡できる相談先・緊急時の対応を患者さんと一緒に確認します。
かかりつけの精神科・外来看護師・地域の相談支援センター・危機介入の電話窓口など、退院後に頼れる資源の情報を具体的に提供します。
退院後の外来受診が途切れないよう、次回受診の予約を退院前に確認しておくことも大切です。
家族や支援者にも、退院後の見守りのポイントと緊急時の対応について情報を共有しておくことが大切です。
チームで支える自己損傷リスク状態へのケア
自己損傷リスク状態へのケアは、一人の看護師だけで担えるものではありません。
チーム全体が患者さんの安全を共有しながら、一貫した関わりを続けることが大切です。
カンファレンスでは、患者さんのリスクの状態・変化・対応の方向性をチームで共有します。
スタッフによって対応が異なることが、患者さんの混乱や不安を高めることがあるため、チーム全体で統一した関わりを確認することが大切です。
精神科医・心理士・精神科リエゾンチーム・ソーシャルワーカーなど、専門職との連携を積極的に図ります。
また、自己損傷リスクのある患者さんへの関わりを続ける看護師自身が、精神的に消耗することがあります。
チーム内での振り返り・スーパービジョン・事例検討の機会を通じて、看護師が支え合いながらケアを続けられる環境をつくることが、患者さんへの質の高いケアにもつながります。
まとめ|自己損傷リスク状態の看護計画を立てるにあたって
自己損傷リスク状態の看護計画は、患者さんの安全を守ることを最優先にしながら、その苦しさに丁寧に寄り添い、より安全な対処方法を一緒に育てていくことを出発点としています。
長期目標・短期目標を設定し、観察・ケア・教育の各計画をていねいに組み立てることで、チーム全体が患者さんの安全と回復を支えながら動けるようになります。
自己損傷リスクのある患者さんに必要なのは、裁かれることではなく、理解してもらえることです。
「この人は自分のことを分かってくれている」という感覚が、患者さんが安全な選択をする力を育てていきます。
患者さんが「ここには話せる人がいる」「一人ではない」と感じられる関係をつくることが、自己損傷リスク状態にある患者さんへの最も大切なケアの一つです。
その関係を日々の看護の中で丁寧に積み重ねながら、患者さんの安全と回復に寄り添い続けてください。








