ゴードンの11パターンの中で、「活動−運動パターン」は書く範囲が意外と広いパターンです。
「ADLが低下していることを書けばいいんでしょ?」と思いがちですが、実はこのパターンではバイタルサイン・ADL・余暇活動の3つを評価する必要があります。特に終末期の事例では、ADLの経時的な変化と、活動制限によって生じる心理的影響まで踏み込めるかどうかがポイントですよ。
この記事では、80歳・膵臓がんステージIVで在宅療養中のAさんの事例を使って、活動−運動パターンの情報整理からアセスメントの書き方まで、具体的に解説していきます。
※ 事例の全体像やゴードン11パターンの概要については、こちらのまとめ記事をご覧ください。
事例のおさらい(簡易版)
Aさん 80歳 女性 膵臓がん(ステージIV)
3年前に診断。在宅療養中。要介護5。独居。退院直後は壁や家具を支えに移動できていたが、退院から約10日後には両下肢のむくみが増強し、自力での立位が不可能に。腹水貯留による腹部膨満感、全身倦怠感が顕著。一日のほぼすべてをベッド上で過ごす。ベッド上で臀部をわずかに持ち上げることは可能。リハビリパンツの交換は自力で実施。入浴不可、訪問看護時に清拭等。覚醒時はラジオをつけている。以前は友人と旅行や外食を楽しんでいた。バイタル:体温36.8℃、脈拍100回/分(不整なし)、呼吸数20回/分(異常呼吸音なし)、SpO₂ 95%、血圧92/62mmHg。
そもそも「活動−運動パターン」って何を見るの?
このパターンでは、大きく分けて3つの視点から評価します。
① バイタルサインと活動耐性
脈拍・血圧・呼吸・SpO₂などのバイタルサインから、身体が活動に耐えられる状態かどうかを評価します。「活動耐性」という概念がこのパターンのキーワードですね。
② 日常生活活動(ADL)とセルフケア
食事・排泄・清潔・移動など、日常生活の基本的な動作がどの程度できているか、支援がどれだけ必要かを評価します。ADLの経時的な変化(退院時→現在)も重要なポイントです。
③ 余暇活動・レクリエーション
見落としがちですが、趣味や楽しみとしての活動もこのパターンの評価対象です。活動制限によって以前楽しんでいたことができなくなっていないかを確認します。
つまり、「身体が動けるか→日常生活はどうか→楽しみの活動はどうか」という3段階で評価するパターンだと覚えておきましょう。
ステップ① 事例から情報を抜き出す
S情報(Aさんの言葉)
❶「特に聴きたい番組があるってわけじゃないんだけど、音がないとどうにも落ち着かなくてね」
O情報(客観的な事実・観察情報)
- 80歳、女性、膵臓がんステージIV
- 退院直後は壁や家具を支えにゆっくり移動できていた
- 退院から約10日後に両下肢のむくみが増強し、食事もほぼ摂れず、自力での立位が不可能に
- バイタルサイン:体温36.8℃、脈拍100回/分(不整なし)、呼吸数20回/分(異常呼吸音なし)、SpO₂ 95%、血圧92/62mmHg
- 腹水貯留による腹部膨満感あり、食欲消失
- 両下肢の浮腫は高度、全身の倦怠感が顕著
- 歩行不可能、自力での起立困難
- ベッド上で臀部をわずかに持ち上げることは可能
- リハビリパンツの交換はベッド上で自力実施
- 排便は訪問看護師による腹部マッサージ・浣腸・摘便で対応
- 入浴不可 → 訪問看護時に全身清拭、手浴・足浴、洗髪、口腔ケア
- 一日のほぼすべてをベッド上で過ごしている
- 覚醒時はラジオをつけていることが多い
- 離婚後は清掃業のパート勤務をしていた。退職後は友人との食事や小旅行が楽しみだった
- 友人2人が交代で訪問し、洗濯・掃除などの家事を支援
- 民生委員が合鍵を管理、毎朝7時半に解錠、夜20時半に施錠、ごみ出し
- 訪問看護:火・木・土10時、訪問介護:毎日19時半、訪問入浴:月・金10時
ステップ② アセスメントを書く
活動−運動パターンでは、バイタルサイン→ADL→余暇活動の順番で書いていくとスムーズです。最も分量が必要なのはADLの部分ですが、余暇活動についてもしっかり触れましょう。
アセスメント例:活動−運動パターン
【バイタルサインと活動耐性】
看護師訪問時のバイタルサインは、体温36.8℃、呼吸数20回/分(正常値:16〜20回/分)で異常呼吸音は聴取されていない。SpO₂は95%(正常値:95%以上)であり、酸素化は保たれている。脈拍は100回/分(正常値:60〜100回/分)で上限に位置しているが不整はない。血圧は92/62mmHg(正常値:110〜130/60〜80mmHg)であり、収縮期血圧がやや低い。
これらの数値は概ね正常範囲内にあり、安静時のバイタルサインとしては大きな異常を認めない。しかし、Aさんは腹水貯留による腹部膨満感が持続し、食欲は消失、両下肢の高度な浮腫と全身の倦怠感が顕著な状態である。退院直後には壁や家具を支えにゆっくり移動することが可能であったが、わずか10日程度で自力での立位が不可能となっており、活動耐性は急速かつ著明に低下している。現在は一日のほぼすべてをベッド上で過ごしており、日常的な身体活動や運動を行うことは極めて困難な状況にある。
【日常生活活動(ADL)とセルフケアの状況】
AさんのADLは著しく低下している。自力での立位や歩行が不可能であり、食事もほぼ摂取できず、入浴は体力的に実施不可能な状態である。日常生活の多くの場面で他者の支援を必要としている。
具体的なADLの状況を整理すると、以下のとおりである。
移動・歩行:自力での立位・歩行は不可能。ベッド上で臀部をわずかに持ち上げる動作は可能であるが、それ以上の移動動作は行えない。
排泄:尿意はあり、リハビリパンツに排尿してベッド上で自力交換ができている。一方、排便については訪問看護師の介助(腹部マッサージ・浣腸・摘便)が必要である。
清潔:入浴は不可能であり、訪問看護時に全身清拭、手浴・足浴、洗髪、口腔ケアが実施されている。自力での清潔保持は困難な状態にある。
食事:友人が届けるおかゆやポタージュをわずかに口にする程度であり、経口摂取量はごくわずかである。
家事:掃除・洗濯・ごみ出しなどの家事は、友人2人が交代で訪問して対応しているほか、民生委員が合鍵の管理と施錠・解錠、ごみ出しを担っている。
このようにADLは広範に低下しているが、訪問看護(週3回)、訪問介護(毎日)、訪問入浴(週2回)に加え、友人や民生委員によるインフォーマルな支援が日常的に行われている。フォーマル・インフォーマル双方のサポートにより、セルフケアの不足は現時点では概ね補われていると評価できる。


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【余暇活動の状況】
Aさんは退職後、職場で知り合った友人たちとの食事や小旅行を何よりの楽しみとしていた。しかし、現在は身体機能の著しい低下により、これらの活動は全く行えない状態となっている。
現在、覚醒時にはラジオをつけていることが多く、Aさんは「特に聴きたい番組があるってわけじゃないんだけど、音がないとどうにも落ち着かなくてね」と述べている。この発言からは、ラジオが積極的な楽しみというよりも、静寂による孤独感や退屈さを紛らわすための手段となっている可能性がうかがえる。以前楽しんでいた外出を伴う活動が完全に制限されている現状は、Aさんの日常における刺激や楽しみの減少につながっていると考えられる。
【結論】
以上のことから、バイタルサインは安静時において概ね安定しているものの、膵臓がんの進行に伴う全身状態の悪化により、両下肢の高度な浮腫、全身倦怠感、腹水貯留による腹部膨満感が著明であり、歩行・立位保持ともに不可能な状態となっている。活動耐性は退院後わずか10日程度で急速に低下しており、現在は終日臥床の状態である。ADLの低下に対しては訪問看護・訪問介護・訪問入浴に加え、友人や民生委員の協力によりセルフケアの補完がなされている。しかし、以前楽しんでいた友人との食事や旅行といった余暇活動は完全に制限され、ラジオの聴取が日中の唯一の気分転換となっていることから、活動−運動パターンは機能障害的パターンであると判断する。
看護上の問題として、がんの進行に伴う全身状態の悪化、倦怠感や下肢浮腫、腹水貯留によって活動耐性が著しく低下していること、および身体機能の低下とそれに伴う活動制限により、以前楽しんでいた活動への参加が失われていることが挙げられる。今後は、ベッド上での安楽なポジショニングの工夫、残存する身体機能(臀部挙上動作など)の維持、友人の訪問時間を活用した交流の促進、ラジオ以外にも楽しめる刺激(音楽・語りかけなど)の検討が求められる。
アセスメントの書き方のコツ:ここを押さえよう
コツ① バイタルサインは「正常値との比較」をセットで書く
バイタルサインを記載するときは、必ず正常値(基準値)を一緒に示すのが基本です。
Aさんのバイタルサイン 正常値との比較
・体温 36.8℃(正常:36.0〜37.0℃)→ 正常範囲内
・脈拍 100回/分(正常:60〜100回/分)→ 上限
・呼吸数 20回/分(正常:16〜20回/分)→ 正常範囲内
・SpO₂ 95%(正常:95%以上)→ 下限ギリギリ
・血圧 92/62mmHg(正常:110〜130/60〜80mmHg)→ 収縮期やや低値
ただし、正常値を並べるだけで終わるのはNGです。「概ね安定しているが、血圧はやや低値である」のように、全体的な評価を一言で述べることが大切ですよ。
コツ② ADLの「経時的変化」を書く
Aさんの場合、退院直後と現在ではADLが大きく異なります。
- 退院直後:壁や家具を支えにゆっくり移動できていた
- 退院10日後:自力での立位が不可能に
この「いつ・どう変化したか」を書くことで、病状の進行スピードが伝わり、アセスメントに臨場感が出ます。「ADLが低下している」だけだと、それがいつからなのか、どのくらいのスピードで悪化したのかがわかりませんよね。
コツ③ ADLの各項目を具体的に挙げる
「ADLが低下している」と一言で済ませず、移動・排泄・清潔・食事・家事など、項目ごとに「何ができて何ができないか」を具体的に整理しましょう。
Aさんの場合:
✅ 自力でできること:リハビリパンツの交換、臀部の挙上
❌ 支援が必要なこと:立位・歩行・入浴・排便・掃除・洗濯・ごみ出し
こうして並べると、「できること」がごくわずかであることが一目瞭然ですよね。この対比がアセスメントの説得力を高めます。
コツ④ 余暇活動を「おまけ」にしない
活動−運動パターンでは、余暇活動の評価を忘れたり、最後に一行だけ書いて終わりにしてしまう学生さんが多いです。
でも、その人にとっての「楽しみ」が失われていることは、QOL(生活の質)に直結する大きな問題です。特にAさんのように終日臥床している患者さんにとって、日中の過ごし方は精神面にも大きく影響しますよね。
「以前は友人と旅行を楽しんでいた → 今はラジオをつけているだけ」という変化を、Before/Afterの対比で書くと、問題が鮮明に伝わりますよ。
よくある間違い・つまずきポイント
❌ バイタルサインだけ書いてADLに触れない
バイタルサインの評価はこのパターンの一部に過ぎません。「脈拍は正常、血圧はやや低い」で終わると、アセスメントとしては不十分です。活動耐性 → ADL → 余暇活動まで一貫して書きましょう。
❌ 「ADLが低下している」だけで終わる
「ADLが低下している」は結論であって、アセスメントではありません。どの動作が具体的にできないのか、なぜできないのか、どのような支援で補われているのかまで書くことが求められます。
❌ サポート体制の評価を忘れる
ADLが低下していること自体が問題なのではなく、その低下が適切に補完されているかどうかが看護上の判断ポイントです。Aさんの場合、訪問看護・訪問介護・友人・民生委員による支援が充実しており、セルフケアの不足は概ね補われています。この「支援体制の評価」を書かないと、問題だけが並んで解決策が見えないアセスメントになってしまいますよ。
❌ 余暇活動を完全にスルーする
教科書にもあまり詳しく書かれていないため、余暇活動の評価を丸ごと省略してしまうケースがあります。でも、このパターンの正式名称は「活動−運動」であり、「活動」にはADLだけでなく余暇活動も含まれます。必ず触れましょう。
まとめ
活動−運動パターンでは、以下の3つの視点が軸になります。
- バイタルサインと活動耐性:安静時の数値は安定しているか、活動に耐えられる状態か
- ADLとセルフケア:何ができて何に支援が必要か、支援体制は十分か
- 余暇活動:以前の楽しみがどう変化したか、日中の過ごし方に問題はないか
Aさんの場合、バイタルサインは概ね安定しているものの、がんの進行により活動耐性は急速に低下し、ADLは広範に制限されています。支援体制によりセルフケアの補完はなされていますが、余暇活動の喪失という問題もあることから、機能障害的パターンと判断しました。
次の記事では、パターン5:睡眠−休息パターンを解説します。Aさんの入眠困難、睡眠時間の短さ、睡眠薬を使わないという本人の意向をどうアセスメントするか、見ていきましょう。
ゴードン11パターン|記事一覧
| No. | パターン |
| 1 | 健康知覚−健康管理 |
| 2 | 栄養−代謝 |
| 3 | 排泄 |
| 4 | 活動−運動(この記事) |
| 5 | 睡眠−休息 |
| 6 | 認知−知覚 |
| 7 | 自己知覚−自己概念 |
| 8 | 役割−関係 |
| 9 | セクシュアリティ−生殖 |
| 10 | コーピング−ストレス耐性 |
| 11 | 価値−信念 |








