ゴードンの11パターン、いよいよ最後の「価値−信念パターン」です。
「価値観とか信念って、何をどう書けばいいの?」「スピリチュアルなことを看護のアセスメントで書いていいの?」と戸惑う学生さんが多いパターンですが、実は終末期の事例では最も「その人らしさ」が現れるパターンです。
このパターンでは、患者さんが大切にしている価値観や信仰が尊重されているか、人生の最期に向けてどのような思いを抱いているかを丁寧に読み取っていきます。
この記事では、80歳・膵臓がんステージIVで在宅療養中のAさんの事例を使って、このパターンのアセスメントの書き方を具体的に解説していきます。
※ 事例の全体像やゴードン11パターンの概要については、こちらのまとめ記事をご覧ください。
事例のおさらい(簡易版)
Aさん 80歳 女性 膵臓がん(ステージIV)
3年前に診断。抗がん剤・放射線治療を受けていたが、今年春から経口摂取困難となり入院。現在は輸液による対症療法のみ。「病院にいたって治るわけじゃないし、お金ばかりかかって申し訳ない」と述べ、自ら退院を決断。かかりつけ医と訪問看護の支援を受け、自宅で療養生活を送ることに。退院前に病院主治医、病棟看護師、退院支援相談員、在宅かかりつけ医、訪問看護師、甥、友人、民生委員でカンファレンスを実施。甥が紹介してくれた教会の神父との語り合いを精神的な拠り所としている。
Aさん:「息子も先に逝ってしまったし、父も母ももういない。あちらでみんなに再会できると思えば、怖いという気持ちはないですよ」
甥:「病院に戻ったっていいし、この家にいたいならそれでもいい。おばさんの好きなようにしてくれればそれでいいんだから。お金のことは気にしなくていいよ」
そもそも「価値−信念パターン」って何を見るの?
このパターンでは、大きく分けて3つの視点から評価します。
① 価値観・人生観
患者さんが人生においてどんなことを大切にしているか、自分の生き方についてどのような考えを持っているかを評価します。特に終末期の事例では、死に対する受け止め方や、残りの人生をどう過ごしたいかという部分が重要になりますよね。
② 信仰・スピリチュアリティ
宗教的な信仰や、それに基づく活動・交流があるかを評価します。信仰がなくても、人生の意味や希望を見出す拠り所となっているものがあれば、スピリチュアリティとして評価の対象になります。
③ 価値観の尊重状況
患者さんの価値観や信念が、周囲の人々や医療・介護の体制の中できちんと尊重されているかどうかを評価します。意思決定が本人の意向に沿って行われているか、自分の生き方を選ぶ権利が保障されているかがポイントです。
つまり、「何を大切にしているか」+「心の支えは何か」+「それが尊重されているか」を見ていくパターンです。
ステップ① 事例から情報を抜き出す
S情報(Aさんの言葉)
❶「病院にいたって治るわけじゃないし、お金ばかりかかって申し訳ない」
❷「息子も先に逝ってしまったし、父も母ももういない。あちらでみんなに再会できると思えば、怖いという気持ちはないですよ」
【甥の言葉】「病院に戻ったっていいし、この家にいたいならそれでもいい。おばさんの好きなようにしてくれればそれでいいんだから。お金のことは気にしなくていいよ」
O情報(客観的な事実・観察情報)
- 80歳、女性、膵臓がんステージIV
- 3年前に診断、抗がん剤・放射線治療を受けていた
- 今年春から経口摂取困難、現在は輸液による対症療法のみ
- 本人の意思により退院を決断
- かかりつけ医と訪問看護ステーションの支援(医療保険)を受け、自宅で療養
- 退院前に関係者(病院主治医、病棟看護師、退院支援相談員、在宅かかりつけ医、訪問看護師、甥、友人、民生委員)でカンファレンスを実施
- 甥が紹介してくれた教会の神父との語り合いを精神的な拠り所としている
- 甥は「好きなようにすればいい、お金のことは気にしなくていい」と述べている
ステップ② アセスメントを書く
価値−信念パターンでは、「価値観と意思決定 → 信仰・スピリチュアリティ → 価値観の尊重状況 → 結論」の順に書いていきましょう。
アセスメント例:価値−信念パターン
【価値観・人生観と意思決定】
Aさんは3年前に膵臓がんステージIVと診断されて以降、抗がん剤治療と放射線治療を受けてきたが、今年春から経口摂取が困難となり入院した。現在は輸液による対症療法のみの段階にあるが、Aさんは「病院にいたって治るわけじゃないし、お金ばかりかかって申し訳ない」と述べ、自らの意思で退院を決断している。この発言と行動からは、治らない病の中でも自分で考え、自分で決めるという主体性が読み取れる。Aさんにとって、残された時間をどこで過ごすかという選択は、単なる療養場所の問題ではなく、自分の人生を自分で決めるという価値観に基づくものであると考えられる。
また、Aさんの意思決定を支える体制も整えられている。退院に先立ち、病院主治医、病棟看護師、退院支援担当の相談員、在宅かかりつけ医、訪問看護師、甥、友人、民生委員を交えたカンファレンスが実施されている。Aさんの意向を中心に据え、関係者が集まって話し合いを行い、在宅療養体制を構築したというプロセスは、Aさんの意思決定が周囲によって尊重されていることを示している。
【信仰・スピリチュアリティ】
Aさんは甥が紹介してくれた教会の神父との語り合いを精神的な拠り所としている。終末期において、信仰に基づく対話の相手を持つことは、死や人生の意味について考え、心の平安を得るための重要なスピリチュアルケアの一つである。Aさんにとって神父との交流は、単なる宗教的な行為にとどまらず、人生の最終段階における精神的な安定と意味づけを支える存在として機能していると考えられる。
さらに、Aさんは「息子も先に逝ってしまったし、父も母ももういない。あちらでみんなに再会できると思えば、怖いという気持ちはないですよ」と語っている。この発言には、死を恐怖として捉えるのではなく、先に亡くなった家族との再会という意味を見出し、穏やかに受け入れているAさんの人生観が表れている。死後に家族と再び会えるという信念は、Aさんの死に対する不安を軽減し、残りの時間を穏やかに過ごすための精神的な支柱となっている。
【価値観の尊重状況】
Aさんの価値観や意思が周囲からどの程度尊重されているかを確認すると、現時点では十分に尊重されていると評価できる。
まず、退院と在宅療養という選択がAさん自身の意思に基づいて行われており、退院前カンファレンスにおいてもAさんの希望を中心に据えた体制づくりがなされている。次に、甥からは「病院に戻ったっていいし、この家にいたいならそれでもいい。おばさんの好きなようにしてくれればそれでいいんだから。お金のことは気にしなくていいよ」という言葉がかけられており、Aさん自身が自分の生き方を選択する権利が家族(甥)によって明確に保障されている。さらに、神父との交流が継続できている環境が維持されており、Aさんの宗教的・スピリチュアルな信念も尊重されている。


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このように、意思決定の場面においても、日常の療養生活においても、信仰の面においても、Aさんの価値観が脅かされる状況には至っていない。
【結論】
以上のことから、Aさんは自らの意思で退院を決断し在宅療養を選択しており、その意思決定は退院前カンファレンスを通じて関係者に尊重されている。甥が紹介した教会の神父との語り合いを精神的な拠り所とし、先に亡くなった家族との再会への期待を支えとして死を穏やかに受け入れている。甥からはAさん自身の生き方の選択を尊重する言葉がかけられ、自己決定権が保障されている。宗教的・スピリチュアルな信念も尊重されており、現時点でAさんの価値観が脅かされる状況にはない。このことから、価値−信念パターンは機能的パターンであると判断する。
ただし、今後病状がさらに進行し、身体的苦痛が増したり意識レベルに変化が生じたりした場合には、Aさんが自らの価値観に基づいた意思表示を行うことが困難になる可能性がある。Aさんの思いや希望を今のうちにしっかりと傾聴し、共有しておくことが重要である。また、死が差し迫った段階で新たなスピリチュアルペイン(人生の意味への問い、後悔、孤独感など)が出現する可能性にも留意し、神父との交流の継続を支援するとともに、訪問看護師としてもAさんの精神的な変化に寄り添い続ける姿勢が求められる。
アセスメントの書き方のコツ:ここを押さえよう
コツ① 「価値観」は発言と行動から読み取る
「Aさんの価値観は〇〇です」と直接書かれている事例はほとんどありません。発言や行動から推測して言語化するのがこのパターンの醍醐味です。
Aさんの価値観を読み取る手がかり
・「病院にいたって治るわけじゃないし」→ 現実を直視し、自分で決める主体性
・自ら退院を決断 → 自己決定を重んじる価値観
・「あちらでみんなに再会できると思えば怖くない」→ 家族との絆、死後の世界への信念
・神父との語り合いを支えとしている → 信仰やスピリチュアリティの重視
このように、一つの発言や行動から複数の価値観を読み取ることができます。
コツ② 「信仰」と「スピリチュアリティ」を区別する
信仰とスピリチュアリティは関連していますが、同じではありません。
- 信仰(宗教):特定の宗教や教義に基づく信念・実践(例:教会に通う、神父と語り合う)
- スピリチュアリティ:人生の意味や目的、死後の世界への思い、自分を超えた存在とのつながりの感覚
Aさんの場合、神父との交流は「信仰」の側面であり、故人との再会への期待は「スピリチュアリティ」の側面です。両方を含めて評価することで、より豊かなアセスメントになりますよ。
コツ③ 「価値観が尊重されているか」を具体的に確認する
このパターンの最も重要なポイントの一つが、患者さんの価値観が実際に尊重されているかどうかを確認することです。抽象的に「尊重されている」と書くのではなく、具体的な事実から判断しましょう。
Aさんの価値観が尊重されている根拠
・退院の意思決定 → 本人の希望に基づいて行われた
・退院前カンファレンス → Aさんの意向を中心に体制構築
・甥の言葉 → 「好きなようにすればいい」= 自己決定権の保障
・神父との交流 → 継続できる環境が維持されている = 信仰の尊重
一つひとつの事実を根拠として挙げることで、「尊重されている」という判断に説得力が出ますね。
コツ④ 終末期ならではの「今後」に言及する
終末期の事例では、この先Aさんが自分の意思を表明できなくなる可能性があります。そのため、「今の段階でAさんの思いや希望を十分に聴き取り、共有しておくことが重要」という視点を加えることで、アセスメントに臨床的な深みが出ます。
これはいわゆるACP(アドバンス・ケア・プランニング)の視点にもつながる部分です。余力があれば、ACPという用語に触れてみるのもよいでしょう。
よくある間違い・つまずきポイント
❌ 「価値観が尊重されているから問題なし」で3行で終わる
機能的パターンであっても、なぜ機能的と判断したのかを、価値観・信仰・尊重状況のそれぞれについて根拠を示して書く必要があります。特にこのパターンは終末期の事例で「その人らしさ」を捉える重要なパターンなので、丁寧に記述しましょう。
❌ 自己知覚パターンやコーピングパターンと内容が重複する
死の受容やスピリチュアルな支えは、パターン7(自己知覚)やパターン10(コーピング)でも触れている可能性があります。それぞれのパターンでの視点の違いを意識しましょう。
同じ情報をどう書き分けるか
・パターン7 → 死を受容していることが自尊感情やアイデンティティにどう関わるか
・パターン10 → 神父との交流がストレスへの対処方法としてどう機能しているか
・パターン11 → 死の受容や信仰がAさんの価値観・信念としてどう位置づけられるか
❌ 信仰の情報がない場合に「該当なし」と書いてしまう
特定の宗教を信仰していない患者さんでも、このパターンを書くことはできます。「何を大切にしているか」「人生の終わりにどのような思いを持っているか」は、宗教の有無に関わらず誰にでもある価値観ですよね。
❌ スピリチュアルペインの可能性に触れない
現時点では穏やかに死を受容していても、死が差し迫った段階で新たなスピリチュアルペインが出現する可能性があります。「今は問題ないが、今後の変化にも注意が必要」という視点は、終末期のアセスメントでは欠かせません。
まとめ
価値−信念パターンでは、以下の3つの視点が軸になります。
- 価値観・人生観:何を大切にしているか、死に対してどう向き合っているか
- 信仰・スピリチュアリティ:心の支えとなっている信仰や人生の意味づけ
- 価値観の尊重状況:意思決定が尊重されているか、自己決定権が保障されているか
Aさんの場合、自らの意思で在宅療養を選択し、その決定は関係者に尊重されています。教会の神父との交流や故人との再会への信念を精神的な支えとし、甥からも自己決定権が保障されていることから機能的パターンと判断しました。ただし、今後の意思表示の困難さやスピリチュアルペインの出現可能性には注意が必要です。
おわりに:11パターンすべてのアセスメントお疲れさまでした!
ここまで読んでくださった方、本当にお疲れさまでした。11パターンのアセスメントをすべて通して書くのは大変な作業ですが、一つずつ丁寧に取り組むことで、患者さんの全体像が立体的に見えてくる感覚を味わえたのではないでしょうか。
アセスメントに「たった一つの正解」はありません。大切なのは、情報を丁寧に読み取り、自分の言葉で論理的に説明できることです。この記事シリーズが、みなさんのアセスメントの一助になれたならうれしいです。
実習や課題でつまずいたときは、またいつでも読み返しに来てくださいね。
ゴードン11パターン|記事一覧
| No. | パターン |
| 1 | 健康知覚−健康管理 |
| 2 | 栄養−代謝 |
| 3 | 排泄 |
| 4 | 活動−運動 |
| 5 | 睡眠−休息 |
| 6 | 認知−知覚 |
| 7 | 自己知覚−自己概念 |
| 8 | 役割−関係 |
| 9 | セクシュアリティ−生殖 |
| 10 | コーピング−ストレス耐性 |
| 11 | 価値−信念(この記事) |








