「最近少しずつ食べられるようになってきました」「退院後はもっとしっかり食べたいと思っています」——こうした言葉を患者さんから聞いたとき、看護師はどのように関わればよいのでしょうか。
食べることへの意欲が戻ってきた患者さん、栄養管理に前向きに取り組もうとしている患者さん——こうした患者さんには、問題を修正するケアではなく、その力をさらに引き出すかかわりが大切です。
栄養摂取促進準備状態とは、北米看護診断協会が定める看護診断のひとつで、患者さんがすでに適切な栄養摂取ができており、さらにその栄養状態を高めていける準備が整っている状態を指します。
栄養に問題がある状態への診断ではなく、患者さんの食べる力や栄養管理への意欲に着目したウェルネス型の看護診断です。
この記事では、栄養摂取促進準備状態の看護計画について、看護目標から観察・ケア・指導の内容まで、看護学生にもわかりやすく解説していきます。
栄養摂取促進準備状態とはどんな状態か
栄養摂取促進準備状態とは、患者さんの現在の栄養摂取状態が良好であり、さらにその状態を高め、維持していく力と意欲が整っていると判断されるときに用いられる看護診断です。
たとえば、以下のような場面でこの診断を考えます。
手術後の回復が順調で、食事摂取量が少しずつ増えており、退院後の栄養管理に意欲を持っている患者さん。
化学療法中に食欲低下があったものの、治療の合間に食事量が回復し、体重を維持できている患者さん。
糖尿病の診断を受け、食事療法について積極的に学ぼうとしている患者さん。
高齢で咀嚼・嚥下機能に問題があるものの、工夫した食事を楽しめており、さらに上手に食べるための方法を知りたいと話している患者さん。
入院中の栄養管理がうまくいき、血液検査データが改善してきており、退院後も続けていきたいと話している患者さん。
こうした患者さんはすでに大切な力を持っています。
看護師はその力をさらに引き出し、患者さんが自分の栄養状態を自分で管理できるよう支えることが役割です。
なぜ栄養促進のための看護が大切なのか
栄養状態は、病気の回復・術後の治癒・感染への抵抗力・筋力の維持・精神的な安定など、患者さんの健康のあらゆる側面に関わっています。
栄養が良い状態を保てると、創傷の治りが速くなる、感染症にかかりにくくなる、体力が維持される、気分が安定するなど、多くの良い効果が得られます。
一方で、栄養状態が良い今のうちに適切な知識と習慣を身につけておかないと、退院後に栄養状態が低くなっていくリスクがあります。
特に高齢患者さんや、慢性疾患を持つ患者さん、退院後に一人暮らしになる患者さんでは、退院後の食生活が健康維持に直接関わります。
栄養状態が良いときに、さらに良い状態を作る力を育てることが、このケアのねらいです。
栄養摂取促進準備状態のサインを見つける
この診断を検討するにあたって、患者さんが栄養摂取促進準備状態にあることを示すサインには以下のようなものがあります。
食事摂取量が安定しており、ほぼ全量食べられている。
体重が維持されているか、少しずつ回復傾向にある。
血液検査データ(アルブミン値・総タンパク・ヘモグロビン値など)が良い範囲にある。
食事について前向きな発言が聞かれる。
退院後の食生活について自分から質問している。
栄養管理や食事療法に積極的に取り組もうとしている。
食べることへの楽しみや意欲を言葉や表情で示している。
こうしたサインを見つけたとき、看護師はその力をさらに育てるかかわりをしていくことがこの診断のねらいです。
看護目標
長期目標
患者さんが自分の身体に必要な栄養の知識を持ち、退院後も継続して適切な栄養摂取を自分で管理できるようになる。
短期目標
患者さんが自分の栄養状態の現状と、さらに良くするために必要な食事の内容を理解できるようになる。
患者さんが治療や疾患に合わせた食事療法(減塩・糖質コントロール・高タンパク食など)の基本を理解し、実際の食事選択に活かせるようになる。
患者さんが退院後の食生活について具体的なイメージを持ち、実践できる食事計画を看護師や管理栄養士と一緒に立てられるようになる。
具体的なケアの内容
観察計画(何を観察するか)
食事摂取量を毎食確認し、主食・副食・汁物それぞれの摂取状況を記録します。
体重を定期的に測定し、変化の傾向を把握します。
血液検査データを確認します。
アルブミン値・総タンパク・ヘモグロビン・血糖値・脂質(中性脂肪・コレステロール)など、栄養状態に関わる指標を確認します。
患者さんの食事に対する意欲・関心・知識レベルを把握します。
食事についての発言内容、質問の内容、栄養に関する既存の知識を確認します。
咀嚼・嚥下機能の状態を観察します。
食事中のむせ・食べにくそうな様子がないかを確認します。
口腔内の状態を観察します。
口腔衛生・義歯の適合状況・口腔乾燥の有無を確認します。
消化器症状(悪心・腹部膨満・下痢・便秘など)が食事に影響していないかを確認します。
患者さんの疾患・治療内容と、必要な食事療法の内容を把握します。
退院後の生活環境(一人暮らしか否か・調理の担当者・食事環境)を確認します。
食事に関する文化的・宗教的な背景や食の好みを確認します。
ケア計画(直接的なかかわり)
食事摂取ができていることを、言葉で積極的に認めます。
「今日もほぼ全量食べられましたね。それが回復への大きな力になっています」という言葉が、患者さんの食への意欲をさらに高めます。
患者さんが食事について質問や関心を示したとき、その機会を大切にして情報提供を行います。
「もっと知りたい」という患者さんの気持ちが、最も効果的な学びの場になります。
食事環境を整えます。


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食前の口腔ケア・適切な食事姿勢の確保・食事に集中できる環境(不快な臭いや騒音の排除)を整えます。
管理栄養士との連携を早めに行います。
患者さんの疾患・治療内容・栄養状態・食の好みに合わせた、個別性のある栄養指導の機会を設けます。
患者さんが食事療法に不安や抵抗を感じているときは、その気持ちを受け止めた上で、「できることから少しずつ始めましょう」という姿勢で関わります。
退院後の食生活に向けた準備を入院中から始めます。
買い物・調理・食事準備が患者さん自身でできるか、家族のサポートがあるかを確認し、必要に応じて配食サービスや訪問栄養指導などの社会資源の情報を提供します。
口腔ケアの支援を行います。
良好な口腔環境は、食欲の維持と誤嚥予防につながります。
毎食後・就寝前の口腔ケアが継続できるよう支援します。
嚥下訓練が必要な患者さんには、言語聴覚士と連携して嚥下体操や食形態の調整を行います。
教育・指導計画(患者さんへの説明や指導)
患者さんの疾患や治療に合わせた栄養の基礎知識をわかりやすく説明します。
たとえば、糖尿病の患者さんには糖質の種類と量の目安を、慢性腎臓病の患者さんにはタンパク質・カリウム・リンの制限について、心疾患の患者さんには塩分・脂質の管理について、具体的にわかりやすく伝えます。
「食事療法は我慢するものではなく、食べ方を工夫するものです」という言葉が、患者さんの食事療法への前向きな取り組みを後押しすることがあります。
一日の食事のバランスを視覚的にわかりやすく伝えます。
主食・主菜・副菜・汁物のバランス、適切な量の目安を、実際の食事の写真や食品モデルを使って説明します。
間食・外食・飲み物の選び方についても具体的に指導します。
コンビニやスーパーで選びやすい食品、外食時に気をつけるポイントを実践的に伝えます。
食品の栄養表示の読み方を指導します。
食品パッケージの栄養成分表示(カロリー・塩分・タンパク質・脂質・糖質など)の見方を説明し、患者さんが自分で選択できる力を育てます。
体重測定の習慣化を勧めます。
毎朝同じ条件(起床後・排泄後・食前)で体重を測り記録することで、栄養状態の変化を自分で把握できることを伝えます。
家族に対しては、患者さんの食事療法を家族全体でサポートすることの大切さを伝えます。
患者さんだけが制限食を食べるのではなく、家族全体で食生活を見直すことが長続きのコツであることも伝えます。
退院後に利用できる支援として、外来栄養指導・訪問栄養指導・配食サービスなどの情報を提供します。
疾患別の栄養管理のポイント
栄養摂取促進準備状態のケアでは、患者さんの疾患に合わせた栄養管理の知識を提供することが大切です。
糖尿病の患者さんでは、血糖コントロールのための糖質管理・食事の規則性・食べる順番(野菜から食べる)などが重要なポイントです。
慢性腎臓病の患者さんでは、タンパク質・カリウム・リン・塩分の制限が必要であり、制限の程度は腎機能の段階によって異なることを説明します。
心疾患・高血圧の患者さんでは、塩分制限(1日6g未満を目標とすることが多い)・飽和脂肪酸の制限・食物繊維の摂取が大切です。
がん患者さんでは、治療中の体重・筋肉量の維持のために、十分なエネルギーとタンパク質の摂取が重要です。
高齢患者さんでは、フレイル(虚弱)予防のためのタンパク質摂取・カルシウム・ビタミンDの摂取・水分補給が大切です。
患者さんの疾患と生活スタイルに合わせた個別性のある栄養指導が、長続きする食事管理の基本になります。
管理栄養士との連携
栄養摂取促進準備状態のケアでは、管理栄養士との連携が欠かせません。
管理栄養士は、患者さんの栄養状態を専門的に評価し、疾患に合わせた食事計画を立案する専門職です。
看護師は日々の食事摂取状況の観察・患者さんの食への意欲の把握・食事環境の整備を担い、管理栄養士はそれを受けて専門的な栄養指導を行います。
管理栄養士による栄養指導の内容を看護師が把握し、病棟での日常的なかかわりの中でその内容を強化していくことで、患者さんの学びが深まります。
「管理栄養士さんから聞いたこと、実践できていますか?」という看護師からの声かけが、患者さんの取り組みを継続させる大きな力になります。
口腔機能と栄養の関係
栄養摂取促進準備状態のケアにおいて、口腔機能の維持・向上は栄養管理と深く関わっています。
口腔内が清潔で、咀嚼・嚥下機能が良い状態に保たれていると、食事の楽しさが増し、食べられる食品の幅も広がります。
歯科医師・歯科衛生士・言語聴覚士と連携しながら、口腔機能の維持・向上に取り組むことが、長期的な栄養管理の支えになります。
「よく噛んで食べること」「口を動かす体操をすること」が、食べる力を維持する上でとても大切であることを患者さんに伝えます。
看護師として意識したいこと
栄養摂取促進準備状態のケアで最も大切なのは、患者さんの食への関心と意欲を大切にしながら、押しつけにならない指導を心がけることです。
栄養管理は、患者さんの毎日の生活に直接関わるものです。
看護師や管理栄養士が「こうしなければいけない」と押しつけると、患者さんは食事療法に対して抵抗や苦痛を感じてしまいます。
患者さんが「自分でやってみたい」と感じられる関わりを続けることが、長続きする栄養管理を育てる上で最も大切なことです。
また、食は文化であり、喜びであり、生活そのものです。
治療のための食事であっても、「楽しく食べられること」を忘れないかかわりが、患者さんの生活の質を守ることにつながります。
まとめ
栄養摂取促進準備状態の看護計画は、すでに良好な栄養摂取ができている患者さんに対して、その状態をさらに高め、退院後も自分で栄養管理を続けられる力を育てるためのウェルネス型の看護診断です。
長期目標として患者さんが退院後も継続して適切な栄養摂取を自分で管理できることを目指し、短期目標を一歩ずつ積み上げていきます。
観察・ケア・指導の三つの視点からかかわることで、患者さんの食べる力をさらに育て、健康的な生活を支えることができます。
管理栄養士・言語聴覚士・歯科衛生士をはじめとした多職種と連携しながら、患者さんの栄養管理を退院後まで継続的に支えていくことが、看護師の大切な役割です。
看護学生のみなさんが実習や国家試験の学習でこの診断と向き合うとき、この記事が少しでも助けになれれば幸いです。








