皮膚や粘膜、骨・筋肉などの組織が傷つくリスクがある状態を、看護の世界では組織完全性障害リスク状態と呼ぶ。
入院中の患者さんや長期療養中の方にとって、皮膚や組織の損傷は決して珍しいことではなく、むしろ適切なケアがなければ誰にでも起こりうる問題である。
床ずれ(褥瘡)をはじめ、手術後の創部感染、医療機器による圧迫損傷、浮腫による皮膚トラブルなど、組織の損傷はさまざまな形で現れる。
看護師として、組織の損傷が起きる前に予防的なケアを行うことが、この看護診断に向き合ううえで最も大切な姿勢である。
患者さんの苦痛を未然に防ぎ、回復を後押しするための看護計画について、しっかりと理解を深めていこう。
組織完全性障害リスク状態とはどんな状態か
組織完全性とは、皮膚・粘膜・筋肉・骨・腱・靭帯など、身体を構成するあらゆる組織が正常な構造と機能を保っている状態のことを指す。
この完全性が損なわれると、皮膚の発赤・びらん・潰瘍・壊死など、組織のさまざまなレベルでの損傷が生じる。
組織完全性障害リスク状態は、北米看護診断協会が定めた看護診断のひとつであり、組織の損傷が実際にはまだ起きていないものの、そのリスクが高い状態にある患者さんに用いられる。
リスク状態であるうちに適切な予防ケアを行うことで、実際の組織損傷を防ぐことができる。
この状態の患者さんには、次のような背景が見られることが多い。
長時間同じ体位をとり続けている、皮膚が脆弱になっている、栄養状態が低下している、浮腫がある、尿や便による皮膚汚染がある、医療機器が皮膚に当たり続けているなど、複数の要因が重なっていることが多い。
組織完全性障害リスク状態が起こる主な原因
この看護診断に関連する原因をしっかり把握することが、個別性のある看護計画を立てる第一歩になる。
圧迫・ずれ・摩擦は、褥瘡発生の三大要因として広く知られている。
骨突出部(仙骨部・踵部・坐骨部など)に体重が長時間かかり続けると、局所の血流が途絶え、組織が壊死に向かう。
また、ベッド上での体位変換やオムツ交換の際に生じる摩擦やずれも、皮膚表層の損傷につながりやすい。
低栄養・脱水は、皮膚の弾力性や組織の修復力を低下させる。
血清アルブミン値が低い患者さんや、経口摂取が極端に減っている患者さんでは、皮膚が薄く傷つきやすい状態になっている。
浮腫がある場合、皮膚が引き伸ばされて薄くなり、わずかな摩擦でも損傷しやすくなる。
また浮腫によって組織への酸素・栄養の供給も低下するため、回復力も弱まる。
失禁(尿・便)による皮膚汚染は、皮膚の酸塩基バランスを乱し、皮膚バリア機能を低下させる。
特に下痢便に含まれる消化酵素は皮膚への刺激が強く、短時間で皮膚損傷を引き起こすことがある。
医療機器による圧迫として、酸素マスク・ギプス・シーネ・経鼻胃管・尿道カテーテルの固定テープなどが、長時間皮膚に当たり続けることで医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)が生じる。
末梢循環障害・糖尿病性神経障害がある患者さんでは、末梢の血流が低下し、組織への酸素供給が不十分になる。
また痛みの感覚が鈍くなっているため、圧迫や損傷に気づきにくいという問題もある。
加齢による皮膚の変化として、高齢者では皮膚の表皮が薄くなり、真皮のコラーゲンや弾性繊維が減少することで、皮膚の強度と回復力が大きく低下する。
看護目標
長期目標
入院・療養期間を通じて、皮膚・粘膜・骨突出部などの組織損傷を起こすことなく、現在の皮膚状態を良好に保ちながら安全に療養生活を継続できる。
短期目標
骨突出部や医療機器が当たる部位などのリスクの高い箇所を患者さんと一緒に確認し、体位変換や除圧の方法を理解して実践できるようになる。
栄養・水分の摂取状況を改善し、皮膚の弾力性と組織の修復力を維持するための食事・水分管理が継続できるようになる。
皮膚の発赤・硬結・水疱など、組織損傷の早期サインを患者さん自身が気づき、すみやかに看護師へ伝えられるようになる。
観察計画
観察計画とは、患者さんの皮膚・組織の状態やリスク因子を正確に把握するために看護師が日々行う観察・情報収集のことである。
皮膚の全身視診・触診として、毎日のケアの場面を活用し、全身の皮膚状態を観察する。
発赤・硬結・水疱・びらん・潰瘍・壊死の有無を確認し、発赤が見られた場合は指で押して白くなるかどうか(消退性発赤か非消退性発赤か)を確認する。
非消退性発赤は、すでに組織への血流障害が始まっているサインであるため、早急なケアの見直しが必要になる。
骨突出部の確認として、仙骨部・踵部・坐骨部・大転子部・肩甲骨部・後頭部など、圧迫を受けやすい部位を重点的に観察する。
医療機器装着部位の観察として、酸素マスク・経鼻胃管・カテーテル固定テープ・ギプスなどが当たっている部位の皮膚状態を毎日確認する。
栄養状態の把握として、血清アルブミン値・総タンパク値・体重の変化・食事摂取量を定期的に確認する。
水分出納バランスの確認として、水分摂取量・尿量・浮腫の有無・皮膚のツルゴール(張り)を毎日把握する。
失禁の有無と皮膚汚染の状態として、排泄の頻度・性状・失禁後の皮膚状態を観察し、汚染が続いていないかを確認する。
褥瘡リスクスコアの活用として、ブレーデンスケールなどのリスク評価ツールを用いて、定期的にリスクの程度を数値で把握する。
患者さんの自覚症状の聴取として、皮膚の痛み・かゆみ・しびれ・違和感などを毎日丁寧に聞き取る。
ケア計画
ケア計画とは、組織損傷を予防するために看護師が行う具体的なケアのことである。
体位変換の実施として、自力での体位変換が難しい患者さんに対しては、原則として2時間ごとの体位変換を行う。


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ただし、患者さんの皮膚状態・循環動態・苦痛の程度に応じて頻度を調整し、機械的にならない柔軟な対応を心がける。
ポジショニングの工夫として、体圧分散マットレスや体位保持クッションを使用し、骨突出部への局所的な圧迫を分散させる。
踵部は特に組織が薄く血流が乏しいため、クッションで浮かせて完全除圧することが大切である。
スキンケアの実施として、清拭や入浴の際に皮膚の保湿を行い、皮膚のバリア機能を維持する。
洗浄時は弱酸性の洗浄剤を使い、こすらず泡で洗い流すように行う。
保湿剤は入浴・清拭後の皮膚が湿っているうちに塗布すると、より効果的に水分を閉じ込めることができる。
失禁ケアの徹底として、排泄後はすみやかに皮膚を洗浄し、撥水性の皮膚保護クリームを塗布して皮膚への刺激を防ぐ。
尿・便が皮膚に長時間触れ続けないよう、こまめな観察と対応が大切である。
医療機器装着部位の保護として、医療機器と皮膚の間にポリウレタンフォームドレッシング材や保護パッドを挟み込み、摩擦や圧迫を和らげる。
固定テープは皮膚への負担が少ないシリコン系のものを選ぶよう心がける。
栄養管理のサポートとして、組織の修復に必要なタンパク質・ビタミンC・亜鉛・水分が十分に摂れるよう、栄養士と連携して食事内容を整える。
経口摂取が難しい場合は、経腸栄養や経静脈栄養の管理を正確に行う。
リハビリテーションとの連携として、理学療法士・作業療法士と連携し、ベッドから離れる時間(離床時間)を少しずつ増やすことで、同一体位による持続的圧迫を減らす。
教育計画
教育計画とは、患者さんやご家族が組織損傷のリスクと予防方法を正しく理解し、日常生活のなかで自ら実践できるよう働きかけることである。
体位変換・除圧の方法について、自力で動ける患者さんには、長時間同じ姿勢でいることの危険性と、定期的に体を動かすことの大切さを伝える。
車椅子に座っている場合は、15〜30分ごとに少し体を浮かせてプッシュアップするよう案内する。
皮膚の観察方法として、手鏡を使って自分では見えにくい仙骨部や踵部の皮膚を確認する方法を伝える。
発赤・腫れ・痛みなどが見られたらすみやかに看護師へ伝えるよう話しておく。
栄養と水分の大切さとして、皮膚の健康を保つためにタンパク質や水分をしっかり摂ることが大切であることを、患者さんが理解できる言葉で伝える。
食欲がない場合でも、少量ずつでも食べ続けることの意味を丁寧に説明する。
スキンケアの習慣化として、入浴・清拭後の保湿の大切さや、皮膚を強くこすらないことの理由を説明し、日常的にスキンケアを取り入れてもらえるよう案内する。
医療機器装着中の注意点として、点滴・カテーテル・酸素マスクなどが皮膚に強く当たっていると感じたら、自己判断で外さずにすみやかに看護師に伝えるよう説明する。
ご家族への説明として、在宅療養に向けて体位変換の方法・スキンケアの手順・皮膚の観察ポイントをご家族にも伝える。
介護者が無理なくケアを続けられるよう、訪問看護や介護サービスの活用についても合わせて案内することが望ましい。
看護を行ううえで大切にしたいこと
組織完全性障害リスク状態の看護は、毎日の地道なケアの積み重ねによって支えられている。
褥瘡や皮膚損傷は一度発生すると、治癒に長い時間がかかるだけでなく、患者さんに強い痛みと苦痛をもたらし、入院期間の延長や感染症のリスク上昇にもつながる。
予防に勝る治療なしという言葉があるように、リスクのある患者さんを早期に見つけ、損傷が起きる前に行動することが看護師として最も大切な役割のひとつである。
また、この看護診断において、患者さんの尊厳を守ることもとても大切な視点である。
体位変換やオムツ交換など、身体に直接触れるケアは、患者さんが羞恥心や無力感を感じやすい場面でもある。
声をかけながら、手早く、丁寧に行うことで、患者さんが安心してケアを受けられる環境をつくることを意識したい。
家族が介護に関わっている場合は、家族もケアの担い手として一緒に関わってもらえるよう、技術的な支援と精神的なサポートを合わせて行うことが大切である。
多職種との連携という視点からも、皮膚・排泄ケア認定看護師・栄養士・理学療法士・薬剤師などと情報を共有しながら、チームで患者さんの皮膚と組織を守る体制を整えることが望ましい。
実習や国家試験でのポイント
看護学生が実習でこの看護診断に出会ったとき、まずブレーデンスケールなどのリスク評価ツールを活用して、患者さんの褥瘡リスクを客観的に把握することをお勧めする。
知覚の認知・湿潤・活動性・可動性・栄養・摩擦とずれの6項目から成るブレーデンスケールは、リスクの程度を数値で示してくれるため、看護計画を立てるうえでの根拠として活用しやすい。
次に、実際の皮膚状態を全身にわたって観察し、リスク因子と照らし合わせてアセスメントすることが大切である。
教科書で学んだ知識を、目の前の患者さんの状態に当てはめながら考える力を、実習の場で少しずつ育てていってほしい。
国家試験でも、褥瘡の好発部位・褥瘡のステージ分類・ブレーデンスケールの構成要素・体圧分散マットレスの適応などは頻出テーマである。
正しい知識をしっかり身につけながら、患者さんの個別性を大切にした看護計画を立てられる看護師を目指してほしい。
まとめ
組織完全性障害リスク状態の看護計画は、毎日の観察・スキンケア・体位変換・栄養管理・患者さんへの教育を組み合わせた、継続的なケアによって成り立っている。
皮膚や組織の損傷は、一度起きてしまうと回復に時間がかかり、患者さんの生活の質を大きく低下させる。
リスクのある患者さんを早期に見つけ、予防的なケアを積み重ねることで、組織損傷を未然に防ぐことが、この看護診断における看護の核心と言える。
実習中も、体位変換やスキンケアの場面を大切にしながら、患者さんの皮膚と組織を守るための看護計画を丁寧に育てていってほしい。








