病棟でこんな場面に出会うことがある。
「入院して3日目の患者さんの仙骨部が少し赤くなってきた」 「栄養状態が悪くてやせ細っている患者さんが長期臥床になっている」 「意識障害があって自分で体位を変えられない患者さんが、同じ姿勢で何時間も寝ている」
こういった場面を前にしたとき、看護師として「このまま放置したら褥瘡になる」という危機感を持てているだろうか。
褥瘡は、いったん深部まで到達してしまうと治癒までに長い時間がかかり、感染・敗血症・骨髄炎など、生命に関わる合併症につながることがある。
しかし、適切な予防ケアを早期から行うことで、多くの褥瘡は防ぐことができる。
成人褥瘡リスク状態とは、まだ褥瘡が発生していないが、皮膚・組織の損傷が生じるリスクが高い状態を指す。
この段階から気づき、計画的に介入することが患者さんの皮膚を守り、尊厳ある療養生活を支えることにつながる。
今回は、成人褥瘡リスク状態の定義から背景、看護目標、観察・ケア・教育の具体的な内容まで、丁寧に整理していく。
急性期・慢性期・老年看護・在宅看護・リハビリ病棟など、あらゆる場面で関わる内容だ。
看護学生さんはもちろん、日々の褥瘡予防ケアに関わるすべての看護師さんに、ぜひ読んでほしい内容だ。
成人褥瘡リスク状態とは
褥瘡とは、身体の一部に圧迫・ずれ・摩擦などの外力が加わることで、皮膚・皮下組織・筋肉などの組織が損傷を受けた状態を指す。
NANDA-I看護診断における成人褥瘡リスク状態とは、「成人において、局所的な皮膚および/または皮下組織の損傷が生じるリスクがある状態」として定義されている。
褥瘡が発生するメカニズムを理解することが、予防ケアの根拠を理解するうえで大切だ。
圧迫は褥瘡の最も主要な原因だ。
骨の突出部位(仙骨・踵骨・大転子・肩甲骨・後頭部など)に体重が集中すると、その部位の血流が途絶える。
毛細血管の閉塞圧は一般的に32mmHg以下とされており、これを超える圧迫が長時間続くと、組織の虚血・壊死が生じる。
ずれ力は、皮膚表面と深部組織が異なる方向に引き伸ばされる力のことだ。
ベッドの頭部を挙上した状態で体が滑り落ちるとき・移乗・移動の際に皮膚が引っ張られるときなどに生じ、血管の閉塞・組織の損傷を引き起こす。
摩擦は、皮膚表面がこすれることで生じる損傷だ。
ベッド上での移動・体位変換の際に皮膚がシーツにこすれることで、表皮が剥がれる。
湿潤は、褥瘡発生のリスクを高める重要な要因だ。
尿・便・汗・滲出液などによる皮膚の長時間の湿潤は、皮膚のバリア機能を低下させ、圧迫や摩擦による損傷を受けやすくする。
成人褥瘡リスク状態が生じやすい背景
どのような患者さんにリスクが高いのかを理解することが、アセスメントの精度を高める。
長期臥床・活動制限がある患者さんは褥瘡リスクが特に高い。
脳卒中・脊髄損傷・重篤な疾患による長期臥床・術後の安静・意識障害などにより、自分で体位を変えることができない患者さんでは、骨突出部への圧迫が長時間続きやすい。
栄養状態が悪い患者さんは褥瘡リスクが高まる。
低アルブミン血症・体重減少・低栄養状態では、皮膚・皮下組織の菲薄化・組織の修復能力の低下・免疫機能の低下が生じ、褥瘡が発生しやすく、いったん発生すると治癒しにくくなる。
高齢の患者さんは皮膚の加齢変化(菲薄化・弾力低下・ターンオーバーの遅延・血流低下)により、褥瘡リスクが高くなる。
循環障害・末梢血流の低下がある患者さん(心不全・末梢動脈疾患・糖尿病など)は、組織への酸素供給が低下し、圧迫に対する組織の耐性が弱くなる。
感覚障害・知覚低下がある患者さん(脊髄損傷・糖尿病性末梢神経障害など)は、圧迫による痛みや不快感を感じることができないため、自発的な体位変換が行われず、褥瘡が生じやすい。
失禁がある患者さんは、尿・便による皮膚の湿潤が続き、皮膚バリアが低下して褥瘡リスクが高くなる。
浮腫がある患者さんは、浮腫によって皮膚が引き伸ばされ、血流が悪化することで褥瘡リスクが高まる。
褥瘡リスクのアセスメントツールを理解する
成人褥瘡リスク状態をアセスメントするために、標準化された評価ツールを使用することが大切だ。
ブレーデンスケールは、国際的に最も広く使用されている褥瘡リスクアセスメントツールだ。
知覚の認知・湿潤・活動性・可動性・栄養状態・摩擦とずれの6項目を評価し、合計点数でリスクの程度を判定する。
合計点数が低いほどリスクが高く、18点以下でリスクありと判定される(カットオフ値は施設によって異なることがある)。
**OHスケール(大浦・堀田スケール)**は、日本で開発された褥瘡リスクアセスメントツールで、自力体位変換能力・病的骨突出・浮腫・関節拘縮の4項目を評価する。
これらのツールを入院時・状態変化時に活用し、リスクの程度に応じた予防ケアを計画することが大切だ。
成人褥瘡リスク状態の看護目標
ここで、看護計画の中核となる目標を設定していこう。
長期目標
患者さんが入院期間中および退院後も、皮膚の完全性を維持し、褥瘡の発生なく療養生活を送ることができる。
短期目標
褥瘡リスクの高い骨突出部位(仙骨・踵骨・大転子など)の皮膚の状態を、毎日確認し変化を看護師に伝えることができる。
定期的な体位変換を受け入れ、可能な範囲で自分からも体位を変えようとする行動が見られるようになる。
褥瘡予防のために大切な栄養摂取・水分補給・皮膚ケアについて、一つ以上自分の言葉で説明できるようになる。
これらの目標は、患者さんの褥瘡リスクの程度・身体機能・栄養状態・在院期間などに合わせて、柔軟に修正していくことが大切だ。
長期目標は褥瘡の発生を防ぐことを最大のゴールとして、短期目標は入院中に一歩ずつ取り組める内容として設定している。
看護計画の実際|観察・ケア・教育のポイント
ここからは、具体的な看護計画の内容を整理していく。
観察計画
褥瘡リスクアセスメントを定期的に実施する。
入院時・転科時・状態変化時にブレーデンスケールなどのアセスメントツールを使用し、リスクの程度を評価・記録する。
リスクスコアに応じた予防ケアの計画を立て、チームで共有する。
全身の皮膚状態、特に骨突出部位を毎日観察する。
褥瘡が発生しやすい部位として、仙骨部・踵骨部・大転子部・坐骨部・肘頭部・肩甲骨部・後頭部・耳介部・足関節部・膝関節部などが挙げられる。
入院時から毎日、これらの部位の発赤・皮膚の変色・熱感・硬結・水疱・皮膚の破損がないかを確認する。
皮膚の観察は、体位変換のタイミングや清拭・入浴のケアの際に合わせて行うと効率的だ。
発赤が確認された場合は、圧迫解除後の消退を確認する。
発赤を確認したとき、指で圧迫して離したときに発赤が消退する(消退性発赤)場合は毛細血管への圧迫による反応性充血であり、消退しない(非消退性発赤)場合はステージⅠ褥瘡として対応が必要だ。
消退性発赤でも、そのまま放置すれば褥瘡に進行するリスクがあるため、発赤が確認された時点で予防ケアを強化する。
栄養状態・水分摂取状況を確認する。
食事摂取量・体重の変化・血液検査(アルブミン値・総タンパク値・ヘモグロビンなど)を確認する。
食事摂取量が少ない・体重減少が続いている・アルブミン値が低下している場合は、栄養介入の必要性として管理栄養士への相談を検討する。
失禁の状況と皮膚への影響を確認する。
尿失禁・便失禁の頻度・量・皮膚への付着状況を確認する。
失禁による皮膚の湿潤・びらんがある場合は、失禁関連皮膚炎(IAD)として専門的なスキンケアが必要になる。
使用中の医療機器による医療関連機器圧迫創傷のリスクを確認する。


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酸素マスク・経鼻カニューレ・胃管・尿道カテーテル・点滴の固定テープ・弾性ストッキング・ギプス・装具など、皮膚に長時間接触する医療機器による圧迫創傷のリスクを確認する。
これらのデバイスが接触している部位の皮膚状態を定期的に観察することが大切だ。
ケア計画
定期的な体位変換を確実に実施する。
体位変換の間隔は、使用するマットレスの種類・患者さんの状態・褥瘡リスクの程度によって異なるが、一般的に2時間ごとの体位変換が基本とされている。
ただし、高機能マットレス(圧力分散マットレス)を使用している場合は、4時間ごとの体位変換が許容される場合もある。
体位変換は、仰臥位・30度側臥位(右・左)・腹臥位(可能な場合)を組み合わせて行う。
仙骨部への圧迫を避けるため、30度側臥位(真横でなく30度傾ける)が推奨されることが多い。
体位変換の際は、ずれ・摩擦が生じないよう、スライディングシート・移乗ボードを活用することが大切だ。
適切な褥瘡予防用マットレスを選択・使用する。
褥瘡リスクの高い患者さんには、圧力分散機能を持つマットレス(エアマットレス・高反発フォームマットレスなど)への変更を医師・皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護師)と連携して検討する。
標準病院マットレスでは体圧分散効果が不十分なため、リスクが高いと判定された患者さんには早期に変更することが大切だ。
踵骨部への圧迫解除を徹底する。
踵骨部は褥瘡が発生しやすく、いったん発生すると深部まで進行しやすい部位だ。
踵骨部を完全に浮かせるためのポジショニング(下腿全体をクッションで支える・踵保護具の使用)が大切だ。
枕やクッションを踵の下に置くだけでは、踵部への圧迫が解除されない場合があるため、下腿部全体を支えてふくらはぎで体重を分散させる方法が推奨される。
スキンケアを徹底して皮膚バリアを守る。
清拭・入浴時には、刺激の少ない洗浄剤を使用し、こすりすぎず丁寧に洗浄する。
洗浄後は保湿剤を塗布し、皮膚の乾燥を防ぐ。
失禁がある場合は、排泄後できるだけ早く皮膚を清潔にし、撥水性の皮膚保護剤(亜鉛華軟膏・ジメチコンクリームなど)を使用して皮膚を保護する。
皮膚を強くこすることや、テープの頻繁な貼り替えが皮膚を傷つけるため、テープの選択・貼り方・剥がし方にも細心の注意を払う。
栄養改善への関わりを積極的に行う。
褥瘡予防・治癒において、栄養は非常に重要な要素だ。
食事摂取量が少ない患者さんには、食欲が落ちている理由を把握し(悪心・口腔の問題・食事内容の好み・疲労感など)、可能な改善策を管理栄養士と連携して検討する。
高タンパク・高エネルギーの食事・間食の追加・経腸栄養の検討など、栄養状態の改善に向けた積極的な介入が褥瘡予防の根幹になる。
早期離床・活動量の増加を促す。
安静度が許す範囲で、できるだけ早期に座位・立位・歩行を促すことが、仙骨部への圧迫を減らし褥瘡リスクを低下させる。
車椅子座位の場合は、1〜2時間に1回の除圧動作(プッシュアップ・体重移動)を指導・援助する。
教育計画
褥瘡がなぜ起きるのか、どうすれば防げるのかを患者さんが理解できる言葉で伝える。
「長い時間同じ場所に体重がかかると、皮膚や皮下組織の血流が止まり、傷になることがあります」 「これを防ぐために、定期的に体の位置を変えることが大切です」
こうした説明を、実際に体位変換を行いながら伝えることで、患者さんが理由を理解したうえで協力できるようになる。
患者さん自身ができる褥瘡予防行動を指導する。
「ベッドに座ったとき、時々お尻を少し浮かせてみてください」 「仰向けに寝るとき、かかとがベッドに当たらないようにしましょう」 「皮膚の赤みが気になったら、すぐに教えてください」
自分でできる予防行動を具体的に伝えることで、患者さんの主体的な褥瘡予防への参加を促す。
栄養・水分摂取の大切さを伝える。
「皮膚を守るために、タンパク質・ビタミン・ミネラルをしっかり摂ることが大切です」 「水分が不足すると皮膚が乾燥して傷つきやすくなります」
食事の重要性を具体的な言葉で伝えることで、食欲がないときでも少しでも食べようという意欲につながることがある。
家族への教育も行う。
褥瘡予防のための体位変換の方法・皮膚観察のポイント・栄養摂取の支援方法を、家族が実践できる形で伝える。
特に在宅療養への移行を控えている患者さんの家族には、退院前から丁寧な指導を繰り返し行うことが大切だ。
「皮膚の色や状態に変化があったときは、早めに訪問看護師や医師に相談してください」という具体的な行動も伝えておく。
褥瘡の深達度分類を理解する
褥瘡リスク状態への看護に関わるうえで、褥瘡が発生した場合の深達度分類を理解しておくことが大切だ。
日本では**DESIGN-R(2020)**が褥瘡の評価ツールとして広く活用されている。
深さ(Depth)・滲出液(Exudate)・大きさ(Size)・炎症・感染(Inflammation/Infection)・肉芽組織(Granulation)・壊死組織(Necrotic tissue)・ポケット(Pocket)の7項目で評価し、治癒経過を数値化して追跡できる。
国際的な分類として、NPUAP/EPUAP分類では深達度に応じてステージⅠ(消退しない発赤)・ステージⅡ(真皮に至る損傷)・ステージⅢ(皮下組織に至る損傷)・ステージⅣ(筋・腱・骨に至る損傷)・判定不能・深部組織損傷疑いに分類される。
予防ケアの段階では、これらの分類を理解したうえで「ステージⅠになる前に対処する」という視点を持つことが重要だ。
医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)への対応
近年、**医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)**への注意が高まっている。
MDRPUとは、医療機器の使用によって生じる皮膚・組織の損傷のことで、ICU・病棟を問わず発生する可能性がある。
酸素マスク・経鼻カニューレによる鼻翼・耳介の損傷、胃管による鼻孔の圧迫損傷、弾性ストッキングによる下腿の皮膚損傷、人工呼吸器の固定バンドによる頬・額の損傷などが代表的だ。
予防として、医療機器と皮膚の間にドレッシング材(薄型フォーム材など)を挟む・機器の位置を定期的に変える・接触部位の皮膚状態を少なくとも1日2回観察することが大切だ。
皮膚・排泄ケア認定看護師との連携
褥瘡リスクが高い患者さんや、すでに褥瘡が発生している患者さんへの対応では、**皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護師)**との連携が大切だ。
WOC看護師は、褥瘡・ストーマ・失禁に関する高度な専門知識と技術を持つ認定看護師だ。
褥瘡リスクアセスメントの確認・適切なマットレス・ドレッシング材の選択・スキンケアの方法・ポジショニングの指導などについて、専門的なアドバイスを受けることができる。
「この患者さんの皮膚が気になるな」と感じたとき、一人で判断するのではなく、WOC看護師・医師に早めに相談することが、褥瘡の悪化を防ぐ大切な行動だ。
記録とカンファレンスへの活かし方
成人褥瘡リスク状態に関するアセスメントと介入内容は、看護記録に具体的に残していくことが大切だ。
「本日、仙骨部に直径1.5cm程度の発赤を確認した。 指圧にて消退あり(消退性発赤)。 ブレーデンスケール評価:13点(ハイリスク)。 体位変換は2時間ごとに実施中。 仙骨部への圧迫をさらに軽減するため、30度側臥位の徹底と踵骨部の完全浮上を実施した。 WOC看護師へコンサルテーションを依頼し、マットレスの変更を検討中。 栄養士へも食事摂取量改善の相談を申し込んだ。 翌日も仙骨部の状態を確認し、発赤の悪化がないかを観察する」
このように、観察内容・アセスメントスコア・実施したケア・多職種との連携内容をセットで記録することで、チームが継続した褥瘡予防ケアを行えるようになる。
カンファレンスでは「あの患者さん、皮膚が赤くなってきた気がする」という印象の共有で終わらせず、「成人褥瘡リスク状態として計画的に介入しよう」という具体的な議論につなげていくことが、チームケアの質を高める。
まとめ
成人褥瘡リスク状態への介入は、発生してから治療するよりも、発生する前に予防することの方が、患者さんの苦痛・治療期間・医療費のすべての面で大きな意義がある。
看護師として大切なのは、入院時からリスクを正確にアセスメントし、体位変換・スキンケア・栄養支援・適切なマットレスの選択を組み合わせた予防ケアを、毎日確実に継続することだ。
「今日も褥瘡がなかった」という当たり前の結果の裏には、看護師の毎日の丁寧なケアの積み重ねがある。
看護計画は作成して終わりではなく、患者さんの状態変化・リスクの変動に合わせて日々見直し、チームで情報を共有しながら修正していくことが大切だ。
この記事が、看護学生さんの実習記録や、急性期・慢性期・在宅で褥瘡予防に関わる看護師さんの日々の参考になれば嬉しい。








