ヘルスリテラシー不足は、NANDA-I看護診断のひとつで、健康に関する情報を正しく理解し、判断し、行動に移す力が十分でない状態を指す。
医療の現場では、患者さんに「説明しました」「パンフレットを渡しました」で終わってしまうことが少なくない。
しかし実際には、患者さんがその内容を正しく理解できていなかったり、自分の生活にどう活かせばいいか分からなかったりするケースがとても多い。
この記事では、ヘルスリテラシー不足の看護計画を、看護目標・観察計画・ケア計画・教育計画に分けて、できるだけわかりやすく解説していく。
ヘルスリテラシーとは何か
ヘルスリテラシーとは、健康に関する情報を「手に入れる」「読む・聞く」「理解する」「判断する」「行動する」という一連のプロセスを自分でできる力のことを指す。
たとえば、外来で医師から「塩分を1日6g以下に抑えてください」と言われたとする。
この指示を聞いて、「6gとはどのくらいの量か」「自分の食事のどこを変えれば達成できるか」「外食のときはどうすればいいか」まで考えて行動に移せる患者さんは、ヘルスリテラシーが高いと言える。
一方で、「塩分を減らすと言われたが何をどう変えればいいか分からない」「病院の説明書に書いてあることが難しくて読む気になれない」という状態は、ヘルスリテラシーが低い状態と言える。
ヘルスリテラシーは学歴や知性とは別の話で、医療に慣れていない・医療用語に触れたことがないという経験の差が大きく関わっている。
なぜヘルスリテラシーが低くなるのか
ヘルスリテラシーが低くなる背景には、様々な要因がある。
まず、教育歴や読み書き能力の問題がある。
難しい漢字や医療用語が並ぶ説明書は、学校教育を十分に受けていない患者さんや高齢者にとって、内容を理解する前に「読む気が失せる」ものになりがちだ。
次に、言語や文化的背景の違いがある。
外国にルーツを持つ患者さんや、日本語が母国語でない患者さんにとって、日本語で書かれた医療情報を正確に理解することは大きな壁になる。
また、認知機能の低下も大きな要因だ。
高齢者や認知症の患者さんでは、説明を聞いてその場では理解できても、数時間後には忘れてしまうことがある。
加えて、不安や緊張の強さも影響する。
診断告知直後や入院直後は、心理的なショックで情報が頭に入りにくい状態になっている。
「説明は聞いたが何も覚えていない」という患者さんの多くは、情報処理ができない精神的な状態にあったと考えられる。
さらに、情報の質や提供の仕方の問題もある。
医療者が専門用語を多用したり、説明が短時間で終わったりすると、患者さんが理解できないまま「分かりました」と答えてしまうことが起きやすい。
看護目標
長期目標
自分の疾患に関する基本的な情報を理解した上で、日常生活の中で健康管理に向けた行動を自分で続けることができる。
短期目標
自分の病名・治療の目的・日常生活上の注意点を、自分の言葉で説明することができる。
処方された薬の名前・飲むタイミング・飲み忘れたときの対応について、正しく答えることができる。
健康に関して分からないことや不安なことがあったとき、医療者や家族に自分から質問や相談ができる。
観察計画(オーピー)
観察計画では、患者さんのヘルスリテラシーの実態と、それに影響を与えている背景を把握することを目的とする。
情報の理解度を確認する
説明後に「どのように理解しましたか」「自分の言葉で教えてもらえますか」と問いかけ、患者さんが内容を正確に把握しているかどうかを確認する。
「はい・分かりました」だけでは理解の程度は分からないため、説明を自分の言葉で返してもらうティーチバック法が有効だ。
読み書きの能力を確認する
渡したパンフレットを読んでいるか、読んだ上で内容を理解できているかを観察する。
字が小さくて読みにくい、漢字が難しいといった訴えがないかにも注意する。
認知機能の状態を把握する
会話の中での応答のスムーズさ・質問への回答の的確さ・説明を受けた後の記憶の保持状況を観察する。
認知機能の低下が疑われる場合は、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)などのスクリーニングを考慮する。
精神的な状態を観察する
不安・緊張・抑うつ気分が強い場合は、情報を受け取る余裕がない状態と考えられる。
表情・言葉のトーン・質問への反応などから、患者さんの精神的な状態を観察する。
社会的背景を把握する
教育歴・職業歴・日本語能力・家族構成・利用できるサポートの有無などの情報を収集する。
これらの情報は、説明の方法や内容のレベルを調整する上での参考になる。
疾患・治療への認識を確認する
患者さんが自分の病気をどのように認識しているか、治療の必要性をどう感じているかを会話の中で確認する。


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「大した病気じゃないと思っている」「薬は飲まなくてもよくなると思っていた」といった認識のズレが明らかになることがある。
ケア計画(ティーピー)
ケア計画では、患者さんがヘルスリテラシーを高められるよう、環境と関わりを整えることを目的とする。
説明の方法を患者さんに合わせて調整する
医療用語を平易な言葉に言い換え、一度に伝える情報量を絞る。
「大切なことは3つです。まず……次に……最後に……」という構成にすると、情報が整理されて伝わりやすくなる。
視覚的な教材を活用する
図や絵・写真・動画など、文字だけに頼らない説明ツールを活用する。
食事の塩分量を説明するなら、計量スプーンを実際に見せながら伝えると、イメージが具体的になる。
ティーチバック法を取り入れる
説明の後に「今お伝えしたことを、ご自分の言葉で教えてもらえますか」と問いかけ、患者さんの理解を確認する。
理解が不十分な部分があれば、責めずに「私の説明が分かりにくかったですね」と言い直し、繰り返し説明する。
説明のタイミングを工夫する
疲労が強い時間帯・食事直後・処置後など、集中力が低下しやすい状況での説明は避ける。
患者さんの状態が落ち着いている時間帯を選んで説明することで、理解度が上がりやすくなる。
家族や支援者を説明に同席させる
患者さんだけでなく、家族やキーパーソンにも一緒に説明を聞いてもらう。
患者さんが後から「何を言われたか思い出せない」となったとき、家族が補足できる体制を作ることが大切だ。
多職種と連携する
薬剤師による服薬指導・管理栄養士による栄養指導・社会福祉士によるサービス調整など、専門職がそれぞれの視点から患者さんを支える体制を整える。
教育計画(イーピー)
教育計画では、患者さんが健康情報を自分で活用できる力を身につけられるよう、丁寧に伝えていくことを目的とする。
疾患と治療の基本を分かりやすく説明する
病名・病態・治療の目的・日常生活上の注意点を、患者さんが理解できる言葉でひとつずつ伝える。
「高血圧とは、血管の中の圧力が高すぎる状態です。これが続くと血管が傷んで、脳や心臓に影響が出やすくなります」といったように、専門用語を使わずに身近な言葉で説明することが、理解の定着につながる。
薬の説明を丁寧に行う
薬の名前・どんな目的で飲む薬か・飲むタイミング・飲み忘れたときの対応・副作用の症状と対処法を、お薬手帳や説明書を活用しながら伝える。
「この薬は血圧を下げるために毎朝1錠飲んでください。もし飲み忘れても、気づいたときにすぐ飲まず、次の服薬タイミングまで待ってください」といった具体的な伝え方が有効だ。
信頼できる情報源の見分け方を伝える
インターネット上には、根拠のない健康情報があふれている。
厚生労働省・国立がん研究センター・かかりつけ医など、信頼できる情報源を具体的に伝え、怪しい情報に惑わされないための判断の目安を説明する。
疑問を持つことの大切さを伝える
「分からないことがあったら、遠慮なく聞いてください」と繰り返し伝え、患者さんが医療者に質問しやすい雰囲気を作る。
「先生には聞きにくい」という患者さんには、「看護師に聞いてもらえれば一緒に確認します」と伝えると、相談のハードルが下がる。
緊急時の対応を伝える
「こんな症状が出たらすぐに受診してください」という具体的なサインを、文字と絵を使ったカードなどで渡しておく。
胸痛・呼吸困難・急な意識の変化・高熱など、緊急受診が必要な状態を患者さんと一緒に確認することが大切だ。
看護学生が実習でこの看護診断を使うときのポイント
実習でヘルスリテラシー不足の看護診断を立案するときは、「この患者さんのどこを見てこの診断を選んだのか」というアセスメントの根拠を明確にすることが大切だ。
「説明を受けた後に内容を言葉にしてもらったところ、薬の飲み方について誤った理解をしていた」「パンフレットを渡したが、文字が多くて読む気がしないと話していた」といった、具体的なエピソードをアセスメントの根拠として使うと、説得力のある看護計画になる。
また、教育計画を立てるときは「患者さんに何を伝えるか」だけでなく、「どうやって伝えれば理解してもらえるか」という方法まで書くことが、より質の高い計画につながる。
伝える内容と伝える方法をセットで考える習慣を、実習の中で身につけていほしい。
まとめ
ヘルスリテラシー不足の看護計画は、患者さんに情報を一方的に「伝える」ことではなく、患者さんが情報を「使える」状態になることを目指すものだ。
分かりやすい言葉で・適切なタイミングで・患者さんの反応を確認しながら伝える。
この積み重ねが、患者さん自身が自分の健康を守る力を育てることにつながっていく。
実習や国家試験の準備で、ヘルスリテラシーに関する看護計画の立て方に迷ったときは、ぜひこの記事を参考にしてみてほしい。








