学会発表や論文投稿を控えているのに、抄録の書き方がよくわからなくて困っていませんか。
抄録はあなたの研究の「顔」です。 読者はまず抄録を読み、興味を持てば発表を聴きに来たり、論文を読んだりしてくれます。 逆に言えば、抄録が伝わらなければ、どれだけ内容が良くても素通りされてしまいます。
この記事では、抄録とは何か、どう書けばいいのか、実際の例文も交えながら分かりやすく解説します。 初めて抄録を書く看護学生さんや、もう一度基礎から確認したい現役看護師さんにも役立てる内容にしています。
抄録とはそもそも何か
抄録とは、学会発表や論文の内容を短くまとめた要旨のことです。 英語ではAbstract(アブストラクト)と呼ばれます。
論文を学術雑誌に投稿すると、査読という審査プロセスがあります。 査読者はまず抄録を読んで判断するため、ここで「読む価値がない」と思われると、その時点でリジェクト(不受理)になることもあります。
抄録は短い文章ですが、研究全体を左右するほど重要な役割を持っています。
抄録には2種類ある
抄録には大きく分けて2つの形式があります。
ひとつは構造化抄録、もうひとつは非構造化抄録です。
構造化抄録は、目的・方法・結果・結論といった項目に分けて書くスタイルです。 読み手がどこに何が書いてあるかを一目で把握できるため、学会でも論文でも広く使われています。
非構造化抄録は、項目を分けずに文章として書くスタイルです。 自由度は高いですが、文章力がないと情報がどこにあるか分かりにくくなります。
初めて抄録を書くなら、構造化抄録から始めるのが無難です。
構造化抄録の書き方:各項目を丁寧に解説
構造化抄録の基本はIMRAD方式です。 Introduction(背景・目的)、Methods(方法)、Results(結果)、And、Discussion(考察)の頭文字を取ったものです。 これに研究タイトルと結論を加えた形が、看護研究でよく使われる標準的な構成です。
タイトル
タイトルは、対象・何を調べたか・どんな方法で・どんな結果だったかが一目で分かるように書きます。
たとえば「急性期病院に勤務する看護師を対象とした職場環境と離職意向の関連:横断研究」のような形です。 症例報告なら「在宅酸素療法中にCOPD急性増悪をきたした高齢患者への看護介入の1例」のように、何の症例かが分かるタイトルにします。
タイトルは抄録の中で最初に読まれる部分です。 ここで興味を持ってもらえなければ、残りを読んでもらえません。
Introduction(研究背景・目的)
背景では、なぜこの研究をしようと思ったのかを書きます。 書き方のコツは、大きな社会的な問題から書き始め、徐々に今回の研究テーマへと絞り込んでいくことです。
たとえば、まず「看護師の離職が医療現場の課題となっている」という大きな問題を示し、次に「急性期病院での調査は少ない」という未解明な点を示し、最後に「そこで本研究では○○を明らかにすることを目的とした」と目的を書きます。
新奇性、つまり「これまで分かっていなかったことを明らかにする」という点を強調することが大切です。 査読者や読者は、新しい知見があるかどうかに注目しています。
Methods(研究方法)
研究方法には、誰を対象にしたか、どんなデータをどう集めたか、どう分析したかを書きます。
書くときに意識したいのは再現性です。 同じ方法で他の人が研究を繰り返したとき、同じ結果が得られるかどうかが論文の信頼性に直結します。 使用した統計ソフト(SPSSやEZRなど)や、倫理審査を受けた旨も記載します。
文字数制限があるため、何を書くか厳選することが大切です。 目的と直接関わらない情報は思い切って省きましょう。
Results(結果)
結果には、実際に得られたデータを客観的に書きます。
数値や統計解析の結果(p値、オッズ比、信頼区間など)を使い、事実だけを淡々と書くのがポイントです。 自分の解釈や感想は一切書きません。 それは次の考察で書く内容です。
研究目的に対応した結果を書くことも大切です。 目的と結果がズレていると、読者は混乱します。
また方法や結果は過去のことなので、過去形で書きます。 「〜であった」「〜が認められた」のような表現を使います。
Discussion(考察)
考察では、なぜそのような結果になったのかを論理的に説明します。


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先行研究や既存の理論と照らし合わせながら議論するのが基本です。 たとえば「本研究では○○という結果が得られた。これはXXらの研究と一致しており、○○が背景にあると考えられる」のような形です。
注意したいのは、結果に書いていないことを考察で述べないことです。 飛躍した議論は査読者に指摘されます。 先行研究と自分の研究をつなぎながら、次の研究への橋渡しになるような考察を書くと評価されやすいです。
Conclusion(結論)
結論は研究全体のまとめです。
研究目的に対して何が明らかになったのか、今後どのような活用が望まれるのかを簡潔にまとめます。 「本研究では○○を目的として○○を行い、○○という結果が得られた。本研究により新たに○○が明らかとなった」のような流れが分かりやすいです。
目的と結論が一致しているかを必ず確認してください。 目的を達成できたかどうかが結論で示されることで、論旨が一貫した読みやすい抄録になります。
抄録を書くときの注意点
文字数制限を守る
和文なら800〜1000字程度、英文なら200〜300 words程度が一般的です。 ただし学会や雑誌によって異なるため、必ず投稿規定を確認してください。
文字数の配分の目安は、背景・目的に1〜2割、方法に2〜3割、結果・考察に4〜5割、結論に1割程度です。 最初は長めに書いて、そこから削っていくのが書きやすいやり方です。
である調で書く
抄録はです・ます調ではなく、である調で書きます。 「○○である」「○○であった」「○○が認められた」のような表現を使います。 体言止め(「○○を実施。」のような形)も避けます。
事実と解釈を区別する
結果には事実だけを書き、解釈は考察に書きます。 この区別が曖昧になると、論文全体の信頼性が低くなります。
論文を書き終えてから抄録を書く
抄録は論文全体が完成してから書くのが原則です。 本文を全部書き終えた後に抄録を書くことで、本文と抄録の内容がズレるトラブルを防げます。
実際の抄録の例
構造化抄録の例
以下は日本看護科学学会誌に掲載された論文の抄録です。
目的:看護職の労働条件と、勤務の偏りや休暇のコントロールのしにくさが、バーンアウトや身体愁訴とどう関わるかを検証する。
方法:2020年1〜2月、交代制勤務の看護職を対象にweb調査を実施した。 バーンアウトの下位尺度と身体愁訴を従属変数として、階層的重回帰分析を行った。
結果:対象者は394名。 勤務の偏りは情緒的消耗感・脱人格化と関わっており、急な休暇取得のしにくさは脱人格化・身体愁訴と関わっていた。
結論:労働状況よりも、勤務の偏りや休暇のコントロールのしにくさが、看護職の心身のストレスと深く関わっていることが明らかになった。
非構造化抄録の例
以下は日本救急看護学会の論文の抄録です。
本研究は、救急看護師が現場で重要と認識している技術・能力を明らかにすることを目的とした。 全国500床以上の救急科標榜病院200施設の看護師400名に質問紙調査を実施した。 重要性が高まっていると認識された技術はJNTECの実践や災害時のトリアージ能力であった。 不足していると認識された技術はフィジカルアセスメント能力や家族ケアであり、救急看護関連だけでなく広い領域にわたっていた。
症例報告の抄録を書くときの追加ポイント
症例報告の抄録では、倫理的配慮の記載も大切な項目です。
対象者本人や家族に発表の目的・内容を説明し、自由意志で同意を得たことを明記します。 対象者が特定されないよう匿名化することも必要です。 年齢は「70歳代」のように幅を持たせ、日付は月単位で記載するなど、個人情報が特定されないように配慮します。
タイトルは「誰に・何が・どう変わったか」が一目で分かるように書くのが理想です。 対象・主要な問題・行った介入・どう変化したかを1行に収めることを目指しましょう。
まとめ
抄録は研究の顔です。
どれだけ丁寧な研究をしても、抄録が伝わらなければ読んでもらえません。 構造化抄録の形式を使い、タイトル・背景・目的・方法・結果・考察・結論の流れで書くことで、読者に伝わりやすい抄録が作れます。
最後にもう一度大事なポイントを確認してください。
投稿先の規定を必ず確認する。 文字数の制限を守る。 事実と解釈を区別する。 目的と結論を一致させる。 論文を全部書いてから抄録を書く。
この記事が、学会発表や論文投稿に向けて取り組む看護師・看護学生さんの力になれれば嬉しいです。








