病棟で働いていると、「この患者さん、転んだらどうしよう」「ベッドから落ちないか心配」と感じる場面が多くあります。
外傷リスク状態とは、身体的・環境的・認知的な要因によって、患者さんが転倒・転落・その他の外傷を受ける可能性が高い状態のことです。
看護師として、こうしたリスクを早期に察知し、適切な計画を立てることは、患者さんの安全を守る上でとても大切な役割のひとつです。
今回は、外傷リスク状態の看護計画について、看護目標・観察項目・ケア・患者教育まで幅広くまとめました。
実習中の看護学生さんから現場の看護師まで、すぐに使える内容にしていますので、ぜひ参考にしてください。
外傷リスク状態とは何か
外傷リスク状態は、北米看護診断協会(NANDA-I)が定める看護診断のひとつです。
転倒・転落・切傷・熱傷・窒息など、さまざまな外傷が発生する可能性がある状態を広くさします。
入院患者さんの中でも、高齢者・術後患者・意識障害のある方・薬剤の影響を受けている方は、とくにこのリスクが高くなります。
病院内での転倒・転落事故は、骨折・頭部外傷・硬膜外血腫などの重大な合併症につながることがあります。
そのため、外傷リスク状態の看護計画は、入院初日から丁寧に立てておくことが望ましいのです。
外傷リスク状態が生じやすい患者さんの特徴
外傷リスク状態は、特定の疾患だけでなく、さまざまな背景を持つ患者さんに見られます。
加齢による身体機能の低下がある高齢者は、筋力・バランス感覚・骨密度の低下が見られます。
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を抱えている方は、軽微な外力でも骨折しやすいため注意が必要です。
術後や長期臥床(がしょう)後の患者さんは、廃用症候群による筋力低下や起立性低血圧が起きやすく、立ち上がったときにふらつきが生じやすい状態です。
意識障害・認知症・せん妄状態の患者さんは、自分の体の状態を正確に把握できないことがあります。
「ベッドから自分で降りようとして転落する」という事故が多いのも、こうした背景があるためです。
抗精神病薬・睡眠薬・降圧薬・利尿薬などを服用している患者さんは、薬剤の副作用として起立性低血圧やふらつきが生じやすくなります。
視力・聴力の低下がある患者さんは、環境の変化に気づきにくく、床の段差や濡れた床面に反応できないことがあります。
外傷リスク状態に関連する主な要因
看護診断を立てる際には、関連因子と危険因子を整理しておくことが大切です。
身体的要因としては、筋力低下・関節可動域制限・歩行障害・バランス障害・感覚障害・視力障害・認知機能低下などがあります。
環境的要因としては、ベッドの高さが不適切・床が濡れている・照明が暗い・履き物が合っていない・コード類が床に散乱しているなどが考えられます。
薬剤性要因としては、鎮静薬・睡眠薬・抗ヒスタミン薬・血圧降下薬・利尿薬・抗不安薬などが副作用としてふらつきや眠気を引き起こすことがあります。
心理・認知的要因としては、不安・焦燥感・せん妄・認知症・判断力の低下などが挙げられます。
こうした要因を総合的に見て、患者さん個々のリスクをアセスメントすることが、看護計画の出発点です。
看護目標
長期目標
入院期間中、患者さんが転倒・転落を起こさず、外傷のない状態で日常生活を送ることができる。
短期目標
患者さんが自分のリスクを理解し、ナースコールを適切に使用できる。
歩行や移動の際に、必要な補助具や介助を受け入れて安全に行動できる。
病室内の環境整備が整い、外傷につながる危険物や障害物がない状態を維持できる。
観察項目(観察計画)
観察計画では、患者さんの状態を日々丁寧に見ていくことが大切です。
身体機能の観察
筋力・歩行バランス・関節可動域を確認します。
立ち上がりや歩行時のふらつき・よろめきがないかを毎日観察します。
起立性低血圧の有無を確認するため、臥位・座位・立位での血圧変動を測定します。
認知・意識レベルの観察
意識レベルをJCS(ジャパン・コーマ・スケール)やMMSE(ミニメンタルステート検査)などを参考に評価します。
せん妄の早期サインとして、夜間の落ち着きのなさ・見当識障害・興奮状態がないかを観察します。
薬剤の影響に関する観察
服用中の薬剤の種類と副作用を把握し、ふらつき・眠気・低血圧などの出現がないか確認します。
新たな薬剤が開始された際は、とくに初回服用後の状態変化を注意深く見ます。
環境に関する観察
ベッド周囲の環境整備状況(床の状態・照明の明るさ・コード類の整理・ベッド柵の設置状況)を確認します。
患者さんが使用している履き物が滑りにくく、足にフィットしているかを確認します。
排泄に関する観察
夜間の頻尿・尿意切迫感がある患者さんは、急いでトイレに向かう際の転倒リスクが高くなります。
ポータブルトイレやおむつの使用が適切かどうかも合わせて確認します。
ケア項目(直接ケア計画)
観察で得た情報をもとに、実際のケアを実施していきます。
転倒・転落予防のための環境整備
ベッドの高さを患者さんの体格に合わせて調整し、降床時に足がしっかり床につく高さにします。
ベッド柵は必要な本数を設置し、患者さんが自分で外しにくい位置に固定します。
ナースコールは患者さんの手が届きやすい位置に設置し、使い方を繰り返し確認します。
病室・廊下・トイレ周囲の環境整備
床に水分が落ちていないかを定期的に確認し、濡れている場合はすぐに拭き取ります。
点滴スタンドや医療機器のコード類は、歩行の妨げにならないよう整理します。
夜間の照明は、消灯後も足元が確認できる程度の明るさを保ちます。
移動・歩行の介助
歩行時は患者さんの利き手と反対側に立ち、腰部を支えながら歩行介助を行います。
初めて離床する際や術後早期の離床時は、必ず看護師が付き添い、血圧変動・めまい・ふらつきがないかを確認しながら進めます。
歩行補助具(杖・歩行器・シルバーカーなど)が必要な患者さんには、理学療法士と連携して適切な補助具の選定と使用方法の確認を行います。
排泄支援
夜間の排泄は転倒リスクが高いため、就寝前のトイレ誘導を実施します。
頻尿や尿意切迫感がある患者さんには、排泄パターンを記録し、定期的な誘導を計画します。
ポータブルトイレを使用する場合は、安定した場所に設置し、夜間でも使いやすい環境を整えます。
皮膚・末梢循環の保護
感覚障害や末梢循環不全がある患者さんは、熱傷・圧迫傷害が生じやすいため、湯たんぽや電気毛布の使用には注意が必要です。
使用する場合は低温熱傷のリスクを患者さんや家族に説明し、直接皮膚に当たらないよう工夫します。
薬剤管理との連携
転倒リスクに関わる薬剤が処方されている場合は、医師・薬剤師と情報を共有します。
服薬後の状態変化を観察し、ふらつきや過度の鎮静が見られた場合は医師に報告します。
患者・家族への教育項目(教育計画)
外傷リスクの予防は、患者さん自身と家族の理解と協力があってはじめて成り立ちます。
ナースコールの使用についての説明
移動したいとき・気分が悪いとき・トイレに行きたいときは、自分で動き出す前に必ずナースコールを押すよう説明します。
特に夜間や朝方は転倒リスクが高いことを伝え、一人での行動を控えるよう繰り返し説明します。


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転倒リスクについての説明
患者さん自身が自分のリスクを理解することが、事故予防への第一歩です。
現在の筋力・薬の影響・認知機能などを踏まえ、なぜ転倒しやすい状態にあるのかをわかりやすく伝えます。
難しい医学用語は避け、患者さんのペースに合わせてくり返し説明することが大切です。
履き物・服装についての説明
かかとが固定される滑りにくい履き物を使用するよう伝えます。
ズボンの裾が長すぎると足に引っかかるリスクがあるため、適切な長さの衣服を選ぶよう説明します。
家族への説明と協力依頼
面会中に患者さんが移動しようとした際は、必ず看護師を呼ぶよう家族にも説明します。
家族が患者さんのそばにいる時間は転倒リスクの抑制につながるため、積極的な面会と見守りへの協力をお願いします。
外傷リスク状態のアセスメントで使える評価スケール
転倒・転落リスクの評価には、標準化されたスケールを活用することが有効です。
転倒リスクアセスメントスケール(院内独自のもの含む)
多くの病院では、入院時に転倒リスクをスコア化するアセスメントシートを使用しています。
年齢・歩行状態・認知機能・服薬内容・排泄の状況などを点数化し、リスクの高低を評価します。
ブレーデンスケール
本来は褥瘡(じょくそう)リスクを評価するスケールですが、可動性・活動性の項目は外傷リスクとも深く関わります。
バーセルインデックス(Barthel Index)
日常生活動作(ADL)の自立度を評価するスケールで、移動能力や転倒リスクの把握にも活用できます。
これらのスケールは定期的に再評価し、患者さんの状態変化に合わせて看護計画を見直すことが望ましいです。
せん妄と外傷リスクの関係
せん妄は、外傷リスク状態を著しく高める要因のひとつです。
せん妄とは、急性に発症する意識・認知の障害で、見当識障害・幻覚・興奮・睡眠リズムの乱れなどが見られます。
高齢者・術後患者・集中治療室(ICU)への入室患者・脱水状態の患者さんに多く見られます。
せん妄状態にある患者さんは、自分がどこにいるのか・何をしているのかが正確にわからなくなるため、「ベッドから自分で降りようとする」「点滴を自己抜去しようとする」などの行動が見られます。
こうした行動は転落・外傷の直接的な原因となるため、せん妄の早期発見と予防が外傷リスク管理の重要な柱のひとつです。
せん妄の予防には、日中の覚醒を保つ・夜間の睡眠環境を整える・家族の面会を増やす・身体拘束を極力避けるなど、非薬物的な介入が有効とされています。
術後患者における外傷リスクへの対応
術後の患者さんは、麻酔の影響・疼痛・出血・輸液バランスの変化などにより、特有の外傷リスクを抱えています。
術後早期離床の際の注意点
術後早期離床は、廃用症候群・深部静脈血栓症・肺炎などの予防に有効ですが、初回離床時には起立性低血圧・ふらつき・疼痛による歩行困難が生じやすいです。
初回離床は必ず看護師が付き添い、端座位→立位→歩行と段階的に進めることが大切です。
疼痛コントロールと転倒リスクの関係
疼痛が強い患者さんは歩行姿勢が不安定になりやすく、鎮痛薬の使用によるふらつきも重なるため、転倒リスクが高くなります。
疼痛のコントロール状況を観察しながら、離床のタイミングと介助の程度を判断することが大切です。
ドレーン・ライン類の管理
術後はドレーン・尿道カテーテル・点滴ラインなどが装着されていることが多く、これらが歩行の妨げになることがあります。
移動の際は必ずラインの長さと固定状況を確認し、抜去・転落につながらないよう管理します。
高齢者の骨粗鬆症と骨折リスク
骨粗鬆症は、外傷リスク状態の重大な背景疾患のひとつです。
骨粗鬆症とは、骨密度が低下し骨がもろくなる疾患で、軽微な転倒でも大腿骨頸部骨折・椎体骨折・橈骨遠位端骨折などを引き起こすことがあります。
とくに大腿骨頸部骨折は、高齢者において手術・長期臥床・廃用症候群・認知症の悪化・死亡リスクの上昇につながることが知られています。
骨粗鬆症の治療中の患者さんには、ビスホスホネート製剤・活性型ビタミンD製剤などが処方されていることがあります。
こうした薬剤が正しく服用されているかを確認し、カルシウム摂取・日光浴・適度な運動などの生活習慣についても教育的な関わりを行うことが大切です。
夜間の転倒リスクへの対応
転倒事故は、夜間から早朝にかけての時間帯に多く見られます。
この時間帯は、照明が暗い・看護師の人員が少ない・患者さんが眠気や意識がぼんやりした状態で動き出す、といった複数の要因が重なるためです。
夜間の転倒リスク対策
就寝前のトイレ誘導を徹底し、夜間の排泄回数を減らす工夫をします。
床頭灯や足元灯を使用し、夜間でも安全に移動できる明るさを確保します。
離床センサーやベッドアラームを適切に設定し、患者さんがベッドから動き出したときに早期に気づける体制を整えます。
ナースコールの位置を再確認し、眠気がある状態でも使いやすい場所に設置します。
睡眠薬を使用している患者さんは、服用後の転倒リスクが高いため、トイレ誘導を先に済ませてから服薬するよう計画します。
看護記録への記載ポイント
外傷リスク状態に関する看護記録は、客観的かつ具体的に記載することが大切です。
観察内容の記録
歩行時のふらつきの程度・歩行速度・補助具の使用状況・血圧変動の数値などを記録します。
せん妄評価スケール(CAM:Confusion Assessment Method)を用いた評価結果を記録します。
介入内容の記録
実施した環境整備の内容・ナースコールの指導内容・歩行介助の方法と患者さんの反応を具体的に記録します。
インシデント発生時の記録
転倒・転落が発生した場合は、発生時刻・状況・患者さんの状態・対応内容・医師への報告内容を時系列で記録します。
記録は事実を客観的に記載し、推測や感情的な表現は避けることが看護記録の基本です。
多職種連携の重要性
外傷リスク状態への対応は、看護師一人で完結するものではありません。
理学療法士・作業療法士との連携
リハビリテーション職と連携し、患者さんの歩行能力・バランス能力・補助具の適合性を評価してもらうことが大切です。
病棟での移動方法についても、リハビリ職からの情報をもとに統一した介助方法を取り入れます。
医師・薬剤師との連携
転倒リスクに関わる薬剤の処方内容について、医師・薬剤師と情報を共有します。
副作用が顕著な場合は、薬剤の種類・量・投与タイミングの見直しを提案することも看護師の役割のひとつです。
管理栄養士との連携
低栄養状態は筋力低下・骨密度低下につながるため、栄養状態の評価と食事内容の見直しも外傷リスク対策に関わります。
まとめ
外傷リスク状態の看護計画は、患者さんの身体機能・認知機能・環境・薬剤・生活習慣など、多くの側面からアセスメントを行い、個別性を大切にして立案することが望ましいです。
転倒・転落は一度発生すると、骨折・頭部外傷・入院期間の延長など、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。
だからこそ、看護師が日々の観察の中でリスクを早期に察知し、環境整備・患者教育・多職種との連携を通して予防に取り組み続けることが大切です。
看護計画は一度立てたら終わりではありません。
患者さんの状態が変化するたびに見直し、より安全なケアを提供し続けることが、看護師としての責務です。
実習や臨床の場でこの記事が少しでも役立てば、とてもうれしいです。








