「最近、少し動くだけで息が切れる」
「夜になると足がむくんでいる気がする」
「胸が重くて、なんとなくしんどい」
こういった訴えを口にする患者さんは、循環器科・内科・外科・ICUなど、さまざまな病棟で出会います。
心臓は全身に血液を送り続けるポンプとしての役割を担っています。
そのポンプ機能が低下し、全身に必要な量の血液を送り出せなくなる状態を心拍出量減少と呼びます。
心拍出量減少リスク状態は、まだ心拍出量の低下が本格的に生じているわけではないものの、このままでは心ポンプ機能が低下する危険性がある状態を指す看護診断です。
リスク状態であるということは、今まさに予防的に関わることができるタイミングであることを意味しており、看護師による早期の観察と対応が患者さんの生命予後を大きく左右します。
この記事では、心拍出量減少リスク状態の看護計画について、看護目標から観察項目・ケア・教育まで幅広くまとめていきます。
心拍出量減少リスク状態とは
心拍出量とは、心臓が一分間に全身へ送り出す血液の量のことです。
成人の安静時の心拍出量は通常、毎分4〜8リットル程度とされています。
心拍出量は、一回拍出量(心臓が一回の収縮で送り出す血液量)と心拍数の積によって決まります。
一回拍出量は、前負荷(心臓に戻ってくる血液量)・後負荷(心臓が血液を送り出すときに抵抗となる圧力)・心筋収縮力の三つの要素によって決まります。
これらのいずれかに異常が生じると、心拍出量が低下し、全身への血液供給が不十分になります。
NANDA-I看護診断における心拍出量減少リスク状態は、心臓のポンプ機能が低下する危険性がある状態として定義されており、早期の観察と予防的な介入が求められます。
心不全・不整脈・心筋梗塞・弁膜症・高血圧性心疾患・心筋症など、さまざまな心疾患において適用される診断であり、術後管理・集中治療・一般病棟・在宅医療など幅広い場面で活用されます。
この看護診断が適用されやすい状況
心拍出量減少リスク状態が適用されやすいのは、次のような状況です。
心不全の既往がある患者さんで、増悪のリスクがある段階にある場合に多く見られます。
急性心筋梗塞の治療後・経皮的冠動脈形成術後・冠動脈バイパス術後など、心臓への侵襲的な処置・手術後の患者さんにも当てはまります。
高血圧が長期にわたってコントロール不良な状態が続いている患者さんにも適用されます。
不整脈(心房細動・頻脈性不整脈・徐脈性不整脈)がある患者さんで、心拍出量に影響が出る危険性がある状態でも見られます。
大手術後・大量出血後・重症感染症(敗血症)など、循環動態が不安定になりやすい状況にある患者さんにも当てはまります。
心臓弁膜症・心筋症・心タンポナーデのリスクがある患者さんにも適用されます。
心拍出量減少リスク状態に関連する要因
この看護診断に関連する要因として、以下のようなものが挙げられます。
心筋収縮力の低下(心不全・心筋梗塞後・心筋症)が、一回拍出量の減少につながります。
不整脈(心房細動・心室性不整脈・徐脈)が、心拍出量の低下に関わります。
前負荷の変化(脱水・出血・過剰な輸液)が心拍出量に影響します。
後負荷の増大(高血圧・大動脈弁狭窄症)が、心臓の仕事量を増やし、機能を低下させることがあります。
電解質異常(低カリウム血症・低マグネシウム血症・高カリウム血症)が不整脈や心筋機能に影響を与えます。
薬剤の影響(過剰な降圧薬・抗不整脈薬・β遮断薬)が循環動態に関わることがあります。
看護目標
長期目標
患者さんが心拍出量の低下をきたすことなく、安定した循環動態を保ちながら日常生活を送れるようになる。
短期目標
患者さんのバイタルサインと循環の状態が安定した範囲内で保たれる。
患者さんが心拍出量低下の早期症状(息切れ・むくみ・動悸・倦怠感など)を自分で認識し、看護師や医師に伝えられるようになる。
患者さんが日常生活の中で循環への負担を減らすための行動(活動量の調整・塩分制限・内服管理など)をひとつ以上実践できるようになる。
観察項目(観察計画)
観察項目では、循環動態の状態と心拍出量低下の早期サインを幅広く把握することが出発点になります。
バイタルサインを定期的に確認します。血圧・脈拍・呼吸数・体温・酸素飽和度を観察し、正常範囲からの逸脱がないかを確認します。血圧の低下・脈拍の増加・酸素飽和度の低下は、心拍出量低下の早期サインとして大切な情報です。
脈拍の性状を確認します。脈の規則性・強さ・速さを観察し、不整脈の有無を確認します。頻脈・徐脈・不規則な脈は心拍出量に影響を与えます。


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心電図モニタリングが行われている場合は、波形の変化(ST変化・不整脈・QT延長)を継続的に観察します。
呼吸状態を観察します。呼吸困難・起座呼吸・夜間発作性呼吸困難・湿性咳嗽は心不全の増悪を表すサインとして注意が必要です。肺の聴診で水泡音(ラ音)が聴取された場合は、肺うっ血が生じている可能性があります。
浮腫の状態を確認します。下肢・足背・仙骨部の浮腫の有無・程度・左右差を毎日観察します。体重を毎日同じ条件で測定し、短期間での体重増加(1〜2日で1〜2キログラム以上の増加)がないかを確認します。
皮膚の状態を観察します。蒼白・冷感・冷汗・チアノーゼ(口唇・爪床の青紫色の変化)は末梢循環不全のサインです。
尿量を確認します。尿量の低下(毎時30ミリリットル以下)は、腎への血流低下を表しており、心拍出量低下の重要なサインです。
意識レベルと精神状態の変化を確認します。意識の混濁・混乱・不穏は脳への血流低下を表すことがあります。
検査データを確認します。脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP・NT-proBNP)・心筋トロポニン・電解質・腎機能・血算などの変化を把握します。
患者さんの自覚症状を確認します。息切れ・動悸・胸痛・胸部不快感・倦怠感・めまい・頭痛などの症状を丁寧に聴取します。
ケア項目(ケア計画)
ケアの基本は、循環への負担を最小限にしながら、心拍出量低下の早期サインを見逃さず、安全な状態を保つことです。
安静の保持と活動量の調整を行います。心拍出量低下のリスクが高い時期は、活動量を制限し、心臓への負担を減らします。活動の前後にバイタルサインを確認し、運動耐容能の変化を把握します。
体位管理を行います。心不全のある患者さんでは、仰臥位よりも上体を起こした体位(ファウラー位・半ファウラー位)の方が呼吸が楽になることがあります。浮腫がある場合は、下肢を挙上することで静脈還流を促します。
水分管理を丁寧に行います。水分摂取量と尿量・ドレーン排液量などの排出量をバランスよく把握します。医師の指示に基づいた水分制限がある場合は、患者さんにわかりやすく説明しながら管理します。
塩分制限の支援を行います。食事の塩分量が過剰になると体液貯留が進み、心臓への負担が増します。栄養士と連携しながら、患者さんが塩分制限を継続できるよう支えます。
内服管理を支援します。利尿薬・強心薬・降圧薬・抗不整脈薬などが適切に服用されているかを確認します。服薬の自己中断が循環動態の悪化につながることを、患者さんにわかりやすく伝えます。
電解質異常への対応を行います。低カリウム血症は利尿薬使用中に生じやすく、不整脈のリスクを高めます。電解質の検査結果を確認し、異常値が見られた場合は医師に報告します。
急激な循環動態の変化が見られた場合は、すぐに医師に報告します。血圧の急な低下・新たな不整脈の出現・酸素飽和度の低下・意識レベルの変化・急激な体重増加は、緊急の対応が必要なサインです。
急変に備えた準備を整えます。救急カート・除細動器・酸素投与の準備が適切に整っているかを確認します。
患者さんの不安に対しても丁寧に関わります。循環動態の管理は患者さんにとって不安が大きいものです。「今の状態をしっかり見ていますよ」という言葉が、患者さんの安心感につながります。
教育項目(教育計画)
患者さんが自分の循環の状態を理解し、日常生活の中で心臓への負担を減らすための行動をとれるよう、教育的な関わりを行います。
心拍出量減少リスク状態とはどのような状態かを、わかりやすい言葉で伝えます。「心臓のポンプ機能が低下する危険性がある状態」であることを説明し、早期に気づくことの大切さを伝えます。
心拍出量低下の早期症状について具体的に伝えます。急な息切れ・夜間に横になると息苦しくなる・急な体重増加・足のむくみ・動悸・胸の違和感・尿量の低下などが見られたとき、すぐに医療者に伝えることの大切さを繰り返し伝えます。
毎日の体重測定の大切さを伝えます。毎朝同じ条件(起床後・排尿後・食前)で体重を測り、前日と比べて急に増えている場合は水分が身体にたまってきているサインであることを、わかりやすく説明します。
塩分制限の理由と方法を伝えます。塩分の過剰摂取が体液貯留と心臓への負担増大につながることを説明し、具体的な食事の工夫(だしを活用する・醤油は少量にする・加工食品を減らすなど)を提案します。
水分制限がある場合は、その理由と具体的な管理方法を伝えます。のどの渇きへの対処として、氷を少量なめる・口をすすぐといった方法も紹介します。
内服を自己中断しないことの大切さを伝えます。「症状がなくても、薬をやめると状態が悪化することがある」ということを、患者さんが理解できる言葉で伝えます。
日常生活での活動量の調整について伝えます。息切れや動悸が出る前に休憩を取ること、急激な運動・入浴温度の変化・寒冷刺激・過労を避けることが心臓への負担を減らすことにつながることを伝えます。
退院後のフォローアップについて情報を提供します。定期的な外来受診・体重測定・症状の変化への早期対応が、再入院や病状悪化の予防につながることを伝えます。
看護師として意識したいこと
心拍出量減少リスク状態の看護計画を実践するうえで、看護師の観察力と判断力がとても大切な意味を持ちます。
循環動態の変化は、急激に悪化することがあります。バイタルサインの微細な変化・患者さんの顔色・自覚症状の訴えを見逃さない観察の習慣が、患者さんの生命を守る力になります。
「なんとなくいつもと違う」という患者さんの言葉や、看護師自身の直感的な気づきも大切な情報です。数値が正常範囲内であっても、患者さんの様子に変化を感じたときは、もう一度丁寧に確認することが大切です。
急変のサインを早期に発見し、医師への迅速な報告と連絡を行う体制を整えることが、チームとしての心拍出量低下への対応力を高めます。報告の際は、バイタルサインの数値・自覚症状・経過の変化を整理して伝えることで、医師の判断を支えます。
患者さんが自分の状態を理解し、自己管理に向けた行動をとれるよう支えることも、看護師の大切な役割です。入院中だけでなく、退院後の生活を見据えた教育と支援が、再入院予防と生活の質の維持につながります。
多職種との連携も欠かせません。医師・薬剤師・栄養士・理学療法士・医療ソーシャルワーカーと情報を共有しながら、循環管理・薬剤調整・栄養管理・リハビリテーション・在宅支援を一体的に進めることが、患者さんの心拍出量を守る力になります。
まとめ
心拍出量減少リスク状態の看護計画は、心臓のポンプ機能が低下する前に予防的に関わり、患者さんの循環動態を安定した状態に保つための計画です。
観察・ケア・教育の三つの視点を持ちながら、バイタルサインや自覚症状の変化を見逃さず、患者さんが自分の状態を理解して日常生活の中で心臓を守る行動をとれるよう支えることが、看護師にできるとても大切な支援です。
心臓を守ることは、患者さんの生活全体を守ることにつながります。
この看護計画を参考に、循環動態の変化を見逃さない観察力と、患者さんに寄り添う温かいケアを両立した看護を目指してください。








