「さっきまで熱があったのに、今度は寒くてガタガタ震えている」「体が冷えているのに汗が止まらない」「何もしていないのに体温がどんどん下がっていく」——こうした状態を患者さんに見たとき、看護師として何を考え、どう動けばよいでしょうか。
体温は、人間の身体が正常に機能するために一定の範囲に保たれなければなりません。
体温調節とは、外部環境の変化や身体内部の変化に対して、体温を一定に維持しようとする生体の仕組みのことです。
しかし病気や手術、薬剤、加齢、環境などの影響により、この体温調節の仕組みがうまく機能しなくなることがあります。
体温が正常範囲から外れると、全身の臓器機能に影響が及び、重篤な合併症につながることがあります。
この状態は看護診断において非効果的体温調節と呼ばれ、新生児から高齢者まで幅広い年齢層・疾患を持つ患者さんに見られる重要な診断です。
今回は、この看護診断の概要から看護計画の立案まで、臨床で活用できる内容を詳しくまとめました。
非効果的体温調節とはどういう状態か
人間の体温は、視床下部(ししょうかぶ)に存在する体温調節中枢によって一定の範囲(腋窩温で36.0〜37.0℃程度)に保たれています。
外部が暑いときは発汗・皮膚血管の拡張によって熱を放散し、寒いときは筋肉のふるえ・皮膚血管の収縮によって熱を産生・保持することで、体温の恒常性(こうじょうせい)が維持されます。
NANDA-Iでは、非効果的体温調節を「体温が正常体温の範囲の上限と下限の間で変動する状態」として定義しています。
体温調節が効果的に機能しない状態には、大きく分けて次の二つの方向性があります。
**低体温(ていたいおん)**とは、中枢体温が35℃未満になった状態を指します。
軽度(32〜35℃)、中等度(28〜32℃)、重度(28℃未満)に分類され、重度になると心停止のリスクが生じます。
**高体温(こうたいおん)**とは、体温が37.5℃を超えた状態の総称で、発熱(感染や炎症による体温上昇)と熱中症(環境的な熱負荷による体温上昇)に分けられます。
非効果的体温調節は、これらいずれかの状態に固定されているのではなく、体温が安定せず上下に変動し続ける状態、あるいは体温調節の仕組み自体が障害されている状態を指します。
なぜこの看護診断が重要なのか
体温の異常は、放置すると全身の臓器に広く影響を与えます。
低体温では、心臓の不整脈、凝固障害(血液が固まりにくくなること)、免疫機能の低下、意識障害が生じます。
高体温では、脳細胞への障害、脱水、横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)、腎不全などの重篤な合併症が生じることがあります。
特に新生児・乳幼児は体温調節中枢が未発達であり、高齢者は体温調節機能が低くなっているため、これらの年齢層では非効果的体温調節が生じやすく、その影響も大きくなります。
また、手術直後の患者さんや麻酔後の患者さんでは、麻酔薬の影響で体温調節機能が一時的に低下しており、術後低体温が生じやすい状態になっています。
看護師は患者さんのバイタルサインを定期的に測定する職種として、体温異常を最初に発見する立場にあります。
異常に早期に気づき、適切なケアを行うことが、重篤な合併症を防ぐことにつながります。
関連因子とリスク因子を整理する
非効果的体温調節に関わる因子はいくつかに分類できます。
低体温に関わる因子として、長時間の外気への露出、手術中・術後の身体の露出、大量輸血・輸液(冷たい輸液の急速投与)、代謝の低下(甲状腺機能低下症、低血糖)、重篤な感染症・敗血症(末期)、脊髄損傷(体温調節機能の障害)、極度の栄養不良、新生児・早産児(体温調節中枢の未発達)、高齢者(体温調節機能の低下)が挙げられます。
高体温に関わる因子として、感染症(細菌・ウイルス・真菌感染)、炎症性疾患、高温・高湿度環境への露出、熱中症、一部の薬剤(悪性症候群を起こしうる抗精神病薬など)、甲状腺機能亢進症、脳神経系の障害(視床下部・脳幹の損傷)が挙げられます。
体温調節機能全般に関わる因子として、脊髄損傷、中枢神経系の疾患(脳腫瘍、脳出血など)、自律神経障害(糖尿病性自律神経障害など)、早産・新生児の体温調節中枢の未発達、高齢による体温調節機能の全般的な低下が関わります。
看護目標を設定する
長期目標
患者さんの体温が正常範囲(腋窩温で36.0〜37.0℃程度)に安定して保たれ、体温の異常に関連した合併症が生じることなく療養生活を送ることができる。
短期目標
体温の変動パターンが把握され、異常が生じた場合に速やかに看護師が気づき、適切な対処が行われる状態を維持することができる。
患者さん自身(または家族)が、体温異常のサイン(寒気、ふるえ、過度の発汗、皮膚の冷たさ・熱さ)に気づき、看護師に伝えることができる。
体温調節を助ける環境(室温・寝具・着衣の調整)が整えられ、体温が安定しやすい状態が維持されることができる。
観察計画(オーピー)
非効果的体温調節の状態を把握するためには、体温の測定だけでなく、体温調節に関わる全身状態を多角的に観察することが必要です。
体温の継続的な測定と記録として、体温を定期的(状態により1〜4時間ごと)に測定し、変動のパターンを把握します。
測定部位(腋窩・口腔・直腸・鼓膜・皮膚など)を統一することで、変動の評価が正確になります。
中枢体温に近い直腸温・鼓膜温は、体温調節の状態をより正確に反映します。
術後の患者さんや新生児では、より頻繁な測定が必要です。
低体温のサインの観察として、皮膚の蒼白・チアノーゼ(口唇や指先の青み)、皮膚の冷たさ・乾燥、ふるえ(シバリング)、脈拍の遅さ・不整、血圧の低下、意識レベルの低下、尿量の減少を確認します。
新生児では、活気の低下、哺乳力の低下、皮膚の色調変化が低体温のサインとして現れやすいです。
高体温・発熱のサインの観察として、皮膚の発赤・熱感、発汗の量と性状、顔色の紅潮、脈拍の増加(頻脈)、呼吸数の増加、意識の変化(せん妄・興奮・傾眠)、口腔内・皮膚の乾燥、尿量の減少を確認します。
発熱の場合は、感染源(創部の状態、尿の性状、肺炎症状など)の確認も同時に行います。
関連する全身状態の観察として、水分出納バランス(摂取量と排泄量)、脱水の徴候(皮膚の弾力・口腔粘膜の乾燥)、血圧・脈拍・呼吸の変化、意識レベルの変化(グラスゴーコーマスケールの活用)を継続的に把握します。
環境の観察として、室温・湿度、患者さんの着衣や寝具の適切さ、熱源(ヒーターや直射日光)や冷気(エアコンの風)への直接露出がないかを確認します。
術中・術後の患者さんでは、手術室・回復室の温度設定と、術中の身体露出の時間・範囲も把握します。
薬剤の影響の確認として、体温に影響を与えうる薬剤(解熱薬・抗生物質・抗精神病薬など)の使用状況を確認します。
解熱薬使用後の体温の変化パターンを記録することで、解熱の効果と持続時間を評価します。
ケア計画(ティーピー)
ケア計画では、体温の正常化と安定した体温調節の維持を目標に、原因に応じたケアを行います。
低体温への対応として、まず患者さんを寒冷な環境から移動させ、温かい環境を確保します。
電気毛布・温熱マット・温かい掛け布団・保温アルミシートなどを活用して身体を温めます。
術後患者さんへの積極的加温として、温風式加温装置(エアーウォーマー)の使用が有効であることが多くの施設で取り入れられています。
点滴の輸液を人肌程度に温めてから投与することも、低体温の悪化を防ぐ助けになります。
体幹を優先的に温め、末梢からの加温が中枢より先行しないよう注意します(末梢血管の急激な拡張による血圧低下を防ぐため)。
ふるえ(シバリング)が続いている場合は医師に報告し、必要に応じてシバリングを抑える薬剤の使用を検討します。
体温が回復してきたら、過剰な加温による高体温への転換を防ぐため、加温の調整を行います。
発熱・高体温への対応として、患者さんの着衣や寝具を薄くして熱の放散を助けます。


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室温を適切に調整し(約24〜26℃程度)、直射日光や熱源への露出を避けます。
水分補給を適切に行います。
発汗による脱水を防ぐため、経口摂取が可能な患者さんには水分を積極的に勧め、経口摂取が難しい場合は輸液管理を行います。
解熱薬は処方に従って使用し、投与後の体温変化と発汗の状態を確認します。
身体冷却の方法として、額・頸部・腋窩・鼠径部などの大血管が走行している部位への冷却(氷嚢・クーリングシートの活用)が有効です。
ただし、冷却は血管収縮を招く可能性があるため、患者さんが寒気を感じている段階(上昇期)では冷却ではなく保温を優先します。
体温が解熱に向かう下降期(発汗が始まる時期)に、発汗による寝具・衣類の湿潤を確認し、速やかに交換します。
濡れたままの寝具・衣類は体温の過剰な低下につながるため、こまめな確認と交換が大切です。
新生児の体温管理として、保育器・輻射式保温台の温度設定を適切に管理します。
保育器外での処置の際は手技を速やかに行い、露出時間を最小限にします。
カンガルーケア(親の胸での肌と肌のふれあい)は、新生児の体温安定に有効であることが知られています。
術後の体温管理として、術後回復室での体温測定を定期的に行い、低体温が続く場合は加温装置の使用を継続します。
手術室から病棟への移送の際は、保温に十分配慮します。
教育計画(イーピー)
教育計画では、患者さんと家族が体温調節の重要性を理解し、異常のサインに気づいて適切に対応できるよう支援します。
患者さんに対して、体温調節がなぜ大切かを分かりやすく説明します。
「体温が一定に保たれることで、身体の各臓器が正常に働きます。体温が大きく上がったり下がったりすると、身体に負担がかかります」という説明が、患者さんの理解を助けます。
患者さんに注意してほしい体温異常のサインを具体的に伝えます。
「寒気がする、ガタガタ震える、皮膚が冷たくなっている」「逆に、体が熱い、汗がひどい、ふらふらする、頭がぼーっとする」といった変化を感じたら、すぐに看護師に伝えるよう説明します。
体温を安定させるための日常的な行動について伝えます。
適切な着衣の選択(寒いときは重ね着する、暑いときは薄着にする)、適切な室温の管理(暑い日や寒い日の環境調整)、水分を十分にとること、急激な温度変化のある場所への移動に注意することを説明します。
高齢の患者さんへは特に、暑さや寒さを感じにくくなっていることを伝えます。
「年齢が上がると、暑さや寒さを感じにくくなることがあります。自分では気にならなくても、室温計を確認する習慣をつけてください」という説明が、熱中症や低体温の予防につながります。
夏季の熱中症予防について説明します。
「直射日光の当たる場所や高温の室内に長時間いないこと」「こまめな水分補給(のどが渇いていなくても飲む)」「エアコンや扇風機の適切な活用」「外出時の帽子・日傘の使用」を具体的に伝えます。
「我慢しないでエアコンを使っていいですよ」という言葉かけが、高齢者の熱中症予防に役立つことがあります。
冬季の低体温予防について説明します。
「室温は18〜20℃以上を保つようにしてください」「入浴時は脱衣室と浴室を事前に温めておくこと(ヒートショックの予防)」「外出時は首・手首・足首を冷やさない重ね着を心がけること」を伝えます。
解熱薬の使用方法と注意点について説明します。
「解熱薬は処方された通りの量と回数を守ってください」「解熱薬を飲んで熱が下がり始めると汗をかきやすくなります。そのときは水分を補給し、濡れた衣類や寝具を早めに替えてください」という具体的な指示が、患者さんの適切な自己管理につながります。
家族に対しては、患者さんの体温管理を一緒に行うことの大切さを伝えます。
認知機能が低下している患者さんや、感覚が鈍くなっている高齢の患者さんでは、家族が室温や着衣の状態を定期的に確認することが、体温異常の予防につながります。
「患者さんが暑いとか寒いとか言わなくても、定期的に額や手足に触れて温度を確認してあげてください」という具体的な方法を伝えます。
臨床でよく見られる場面と対応のポイント
手術後(麻酔覚醒後)の患者さんでは、麻酔による体温調節機能の低下と手術中の体熱喪失から、術後低体温が生じやすいです。
術後回復室での定期的な体温測定と加温装置の適切な使用が重要です。
ふるえ(シバリング)が強い場合は酸素消費量が増大するため、担当医と連携して対処します。
感染症・敗血症の患者さんでは、発熱と低体温が交互に現れたり、敗血症の進行に伴って低体温に転じることがあります。
発熱から突然の低体温への転換は、敗血症の悪化を示している可能性があるため、緊急の対応が必要です。
バイタルサインの変化を継続的に把握し、異常の早期発見に努めます。
新生児・早産児では、体温調節中枢が未発達であり、環境温度の影響を強く受けます。
保育器内の温度管理を適切に行い、処置の際の不必要な露出を避けます。
体重・在胎週数に応じた適切な保育器温度の設定を多職種と連携して管理します。
高齢の独居患者さんでは、熱中症や冬季の低体温のリスクが高くなります。
退院指導で室温管理・水分補給・緊急時の連絡方法を具体的に伝えます。
地域の見守りサービスや定期的な訪問看護の導入を検討することも、独居高齢者の安全を守る上で大切です。
脊髄損傷の患者さんでは、損傷レベルより下の自律神経機能が障害されており、体温調節が困難になります。
環境温度の変化に対して体温が大きく変動しやすいため、室温管理と定期的な体温測定を継続的に行います。
甲状腺疾患のある患者さんでは、甲状腺機能低下症では低体温傾向、甲状腺機能亢進症では高体温傾向になることがあります。
治療薬の効果と体温の変化を合わせて評価します。
まとめ
非効果的体温調節は、新生児から高齢者まで幅広い患者さんに関わりうる、看護において基本的かつ重要な診断のひとつです。
体温の変動は、放置すると全身の臓器機能に影響を与える可能性があります。
定期的な体温測定と全身状態の観察、体温異常への迅速な対応、環境整備と患者さんへの教育を組み合わせることが、体温を安定した状態に保つ力になります。
観察、ケア、教育の三つの柱をバランスよく組み合わせながら、患者さんの体温が安定して保たれるよう、継続的な視点で関わり続けることが大切です。
看護計画は患者さんの状態と環境の変化に合わせて柔軟に見直しながら、その人に合った体温管理の支援を続けていきましょう。








