看護学生さんや看護師さんに向けて、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のゴードンアセスメントについて事例をもとに詳しく解説します。
実習や課題作成で使える看護過程の立て方やアセスメントの考え方を整理した内容となっています。
ALS患者の在宅療養支援を学ぶ上でも役立つ記事です。
患者概要:59歳男性C氏のケース
C氏は59歳男性で、進行性筋萎縮症と診断されています。
身長172cm、体重57kg、要介護5、寝たきり度はD1です。
元大学教授で、理学部の研究者として長年勤務し、現在も自宅で研究を続けています。
家族構成は、妻(58歳)と次男(29歳)との3人暮らし。
長男(32歳)は市内で妻と2人の子どもと生活しています。
退職金と年金で経済的には安定していますが、在宅での介護負担は大きく、妻は夫の療養を支えつつも自身の体調を心配しています。
また、患者支援団体に参加したことで、家族の不安軽減と情報共有につながっています。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の基礎知識
ALSは運動ニューロンに障害を起こす神経変性疾患で、骨格筋が徐々に萎縮・麻痺していく病気です。
発症年齢は40〜70歳が多く、C氏のように50代で発症するケースは珍しくありません。
ALS疾患の主要特徴
上位・下位運動ニューロンの両方が障害されることが特徴的です。
眼球運動は比較的保たれるため、意思疎通の手段として重要な役割を果たします。
認知機能は多くの場合正常で、患者の知的活動は維持されています。
発症から死亡までの平均は3〜5年とされており、進行性の疾患です。
C氏は初発症状として左足の筋力低下を自覚しましたが、当初は加齢によるものと診断されました。
症状が進行したため大学病院で精密検査を受け、進行性筋萎縮症と診断されました。
以降は在宅療養を中心に生活しています。
ゴードン11項目による包括的アセスメント
ALS患者のアセスメントでは、ゴードンの11項目を用いて多角的に評価することが重要です。
ここではC氏の事例をもとに詳細に解説します。
健康知覚-健康管理パターン
C氏は病気について正しく理解しており、療養に前向きです。
人工呼吸器と胃瘻を導入し、訪問看護師の支援を受けながら在宅療養を続けています。
ただし妻の介護負担は大きく、家族への心理的支援も必要です。
健康管理能力は高いものの、身体機能の制限により日常的な健康管理には介助が必要な状況です。
栄養-代謝パターン
嚥下障害が進行し、胃瘻による経管栄養が中心となっています。
必要エネルギーは1,500〜1,800kcalを目安とし、栄養状態を定期的に評価しています。
低栄養予防のため、高カロリー・高タンパクの栄養剤を適切に使用しています。
水分摂取量の管理も重要で、脱水予防と心負荷軽減のバランスを考慮した調整が必要です。
定期的な血液検査により、栄養状態の客観的評価を継続しています。
排泄パターン
下肢筋力低下に伴いトイレ移動は困難で、ポータブルトイレやオムツを使用しています。
便秘や尿路感染のリスクが高いため、水分摂取量や排泄パターンの観察が必要です。
腹筋力の低下により自然排便が困難になっているため、緩下剤の使用や腹部マッサージを実施しています。
尿道カテーテル留置は感染リスクを考慮し、できる限り間歇的導尿を選択しています。
活動-運動パターン
四肢の筋萎縮が進行しており、ベッド上での生活が中心です。
廃用症候群予防のため、体位変換と関節可動域訓練を継続しています。
訪問リハビリを導入し、呼吸理学療法も実施しています。
ADLの段階的な低下を評価し、福祉用具の適切な選定と活用を図っています。
移動能力の制限に対して、電動車椅子やリフト等の導入により、可能な限りの自立性を支援しています。
睡眠-休息パターン
人工呼吸器装着により睡眠が分断されやすく、日中の眠気が見られます。
就寝時の体位工夫や吸引のタイミング調整により、睡眠の質改善を図っています。
睡眠薬の使用については、呼吸抑制のリスクを考慮して慎重に検討しています。
環境調整として、室温・湿度の管理や騒音対策も重要な要素です。
認知-知覚パターン
聴覚・視覚は良好で認知機能も保たれています。
ただし構音障害が進んでおり、意思疎通にはタブレットや文字盤を活用しています。
コミュニケーション手段の確保は、患者のQOL維持に直結する重要な課題です。
視線入力装置やスイッチ操作による文字入力システムの導入も検討されています。
自己概念-自己認識パターン
C氏は研究活動を続けたいという強い意志を持っています。
生きる意義は思考にあるという価値観を支えに、在宅での療養生活を受け入れています。
身体機能の低下に対する受容過程では、怒りや否認の段階も経験していました。
現在は疾患受容が進み、残存機能を活用した生活への適応が見られます。
役割-関係パターン
妻が主たる介護者であり、長男と次男も協力しています。
家族間での介護負担を調整し、役割分担を明確にすることが課題です。
社会的役割の変化により、元同僚や研究仲間との関係性も変化しています。
家族関係の再構築と新たな役割の見つけ方が重要なポイントです。
性-生殖パターン
性的関心は低下していますが、夫婦間の心理的つながりは維持されており、家族関係は安定しています。
身体接触やスキンシップによる愛情表現の方法を模索しています。
パートナーシップの質を維持するための心理的支援が必要です。
ストレス-対処パターン
病状進行によるストレスは大きいものの、患者支援団体への参加で精神的安定を保っています。
妻に対するメンタルサポートも重要な課題です。
宗教的な支えや哲学的な思索により、精神的な安定を図っています。
専門カウンセラーとの面談も定期的に実施されています。
価値-信念パターン
研究を通して社会に貢献したいという強い信念を持ち続けています。
療養生活の中でも、知的活動を支える環境調整が必要です。
人生の意味や目的を見出すことで、困難な状況への対処力を維持しています。
看護計画の立案ポイント
C氏の看護計画は、以下の重要ポイントを軸に立案します。
呼吸機能の維持管理
呼吸状態の観察と人工呼吸器の適切な管理が最優先です。
気道確保と分泌物除去のための定期的な吸引が必要です。
呼吸理学療法により、残存する呼吸筋の機能維持を図ります。
感染予防対策
誤嚥性肺炎予防のための口腔ケアと体位調整を徹底します。
免疫力低下に配慮した感染予防策の実施が重要です。
訪問時の手指消毒や個人防護具の適切な使用を心がけます。
栄養管理
胃瘻管理を含めた栄養状態の維持・改善に努めます。
栄養アセスメントを定期的に実施し、必要に応じて栄養内容を調整します。
水分バランスの管理も重要な看護介入です。
機能維持とリハビリテーション
関節可動域訓練と廃用症候群予防を継続的に実施します。
残存機能の最大限の活用を目指したリハビリテーションが必要です。
理学療法士・作業療法士との連携により、包括的なアプローチを行います。
家族支援
家族への心理的支援と介護負担軽減が重要な課題です。
介護技術の指導と家族教育を計画的に実施します。
レスパイトケアの活用により、介護者の負担軽減を図ります。
在宅療養で活用できる社会資源
ALS患者の在宅支援では、社会資源を積極的に活用することが大切です。
医療・看護サービス
訪問看護・訪問リハビリテーションの充実が基盤となります。
24時間対応の訪問看護により、緊急時の対応体制を整備します。
訪問医による定期診察と薬剤管理も重要な要素です。
福祉用具・住環境整備
医療用ベッドや人工呼吸器などの福祉用具貸与を活用します。
住宅改修により、バリアフリー環境の整備を図ります。
介護リフトやスライディングボードによる移乗支援も効果的です。
生活支援サービス
配食サービス・生活支援サービスにより、日常生活を支援します。
家事支援や買い物支援により、介護負担の軽減を図ります。
情報支援・ピアサポート
患者支援団体やオンラインコミュニティへの参加を支援します。
同じ境遇の患者・家族との情報交換により、心理的支援を図ります。
C氏の家庭でも、訪問看護師や理学療法士、管理栄養士がチームで介入し、在宅での生活をサポートしています。
ALS看護のポイントと注意点
疾患進行への対応
ALS は進行性疾患であるため、段階的な機能低下への準備が必要です。
症状の変化に応じた看護計画の見直しを定期的に行います。
将来的な医療的決断についての意思確認も重要な課題です。
コミュニケーション支援
構音障害の進行に備えた意思疎通手段の確保が重要です。
IT技術を活用した支援機器の導入を早期に検討します。
非言語的コミュニケーションスキルの向上も必要です。
心理的ケア
患者・家族双方への継続的な心理的支援が不可欠です。
グリーフケアの視点を持った関わりが重要です。
スピリチュアルケアの提供も考慮します。
看護学生の学習ポイント
実習での観察項目
呼吸状態・嚥下機能・運動機能の段階的評価を学びます。
多職種連携の実際を体験し、チーム医療の重要性を理解します。
家族の介護負担やストレス状況の観察も重要な学習項目です。
アセスメント技術
ゴードン11項目の各パターンを系統的に評価する技術を習得します。
看護診断の立案から評価までの一連の過程を理解します。
倫理的配慮
終末期ケアにおける倫理的ジレンマについて考察します。
患者の自己決定権と最善の利益のバランスを学びます。
まとめ
ALS患者の看護では、疾患特性を理解したうえで、ゴードンの11項目アセスメントを活用した包括的な視点が必要です。
患者本人の希望を尊重しながら、家族への支援も含めた看護計画を立案することが、在宅療養の質を高めるポイントです。
進行性疾患であることを踏まえ、段階的な機能低下への準備と適応支援が重要な看護介入となります。
多職種との連携により、患者・家族のQOL向上を目指した継続的なケアの提供が求められます。
カンサポでは、看護学生さんや看護師さんの学習支援として、看護過程や実習記録のサポートを行っています。
今回の事例を参考に、実習や課題で活かせる知識をぜひ深めてください。
ALS看護の実践には、専門的知識と技術に加え、人間性豊かなケアの提供が不可欠です。
患者・家族に寄り添いながら、質の高い看護を実践していきましょう。








