病棟実習や在宅実習で、「患者さんの言っていることがつながらない」「会話の内容がとびとびで理解が難しい」「今日が何日か答えられない」という場面に出会ったことはないでしょうか。
こうした状態は、思考過程混乱という看護診断として位置づけられることがあります。
思考過程混乱とは、思考の流れ・論理的なつながり・認知機能に障害が生じ、現実の認識や問題解決・判断が難しくなっている状態を指します。
この診断は、認知症・せん妄・統合失調症・脳卒中後遺症・電解質異常・薬物の影響など、さまざまな背景を持つ患者さんに広くあてはまります。
今回は、思考過程混乱の定義から原因・アセスメント・看護目標・観察計画・ケア計画・指導計画まで、実習の記録にそのまま活用できるよう丁寧に解説します。
思考過程混乱の定義と特徴
思考過程混乱とは、思考の速度・方向・内容・論理的なつながりのいずれかに障害が生じ、現実に即した判断や問題解決が難しくなっている状態のことです。
患者さんの言動として現れるサインはさまざまです。
会話の途中で話題が次々と変わってしまう(連想弛緩)、質問に対してまったく関係のない答えが返ってくる(思考散乱)、同じことを繰り返し言う(保続)、実際には起きていないことを信じ込んでいる(妄想)、幻覚に反応して独り言を言う・急に怖がるといった行動が見られることがあります。
また、日付・場所・人物がわからなくなる見当識障害、短期記憶の低下、計算力や判断力の低下なども、思考過程混乱のサインとして重要です。
注意したいのは、思考過程混乱は患者さんが意図的に行っているものではないという点です。
脳や身体の機能の変化によって生じているため、叱ったり訂正し続けたりするケアは逆効果になることが多く、患者さんの安心感と安全を守ることを軸に置いたケアが必要です。
思考過程混乱を引き起こす主な原因
この看護診断を適用する際には、まず思考混乱の背景にある原因を明らかにすることが大切です。
原因によってケアの方向性や医療的な対応が異なってきます。
器質性の原因(脳や身体の病気によるもの)
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)による脳組織の損傷は、損傷部位によってさまざまな認知・思考の障害を引き起こします。
認知症(アルツハイマー型・血管性・レビー小体型など)は、長期にわたって進行する記憶・判断・思考の低下をもたらします。
急性期によく見られるせん妄は、入院・手術・感染・脱水・薬などをきっかけに突然発症し、意識の変動・興奮・幻覚・見当識障害などが現れます。
高齢者の術後せん妄は特に見落としやすいため、注意が必要です。
電解質異常(低ナトリウム血症・高カルシウム血症など)、低血糖・高血糖、肝性脳症・尿毒症など、代謝性の問題も思考混乱の原因になります。
薬物・物質によるもの
オピオイド系鎮痛薬・ベンゾジアゼピン系薬・抗コリン薬・抗てんかん薬・ステロイドなどは、思考や意識に影響することがあります。
アルコール依存の患者さんでは、急激な飲酒中止によって振戦せん妄が起きることがあります。
精神疾患によるもの
統合失調症では、妄想・幻声・まとまりのない思考・感情の平板化などが見られます。
重度のうつ病では、思考の流れが著しく遅くなる(思考制止)・集中力の低下・否定的な思い込みが強くなるといった変化が起きます。
躁状態では反対に思考が速くなりすぎ、次々とアイデアが湧いて会話がまとまらなくなる(観念奔逸)ことがあります。
アセスメントのポイント
思考過程混乱の看護計画を立てるうえで、患者さんの認知・思考の状態をていねいに評価することが大切です。
見当識の評価を行います。
「今日は何年何月何日ですか」「ここはどこですか」「私は誰ですか」という質問への回答から、時間・場所・人物の見当識がどの程度保たれているかを把握します。
認知機能のスクリーニングとして、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)が用いられます。
スコアの変化を追うことで、認知機能の変化を客観的に評価できます。
せん妄のスクリーニングツールとして、混乱評価法(CAM)が臨床でよく用いられます。
急性発症・症状の変動・注意の障害・まとまりのない思考の4項目が特徴的なサインです。
思考の内容・流れ・速度を観察します。
会話の中でまとまりがあるか、話題が一貫しているか、質問に対して適切に答えられるかを確認します。
記憶の状態を評価します。
短期記憶(数分〜数時間以内の出来事)と長期記憶(過去の出来事・手続き記憶)のどちらに問題があるかを把握します。
感情・行動の変化を観察します。
不安・興奮・攻撃性・引きこもり・睡眠リズムの乱れなどは、思考混乱と並行して現れることが多いサインです。
症状の変動パターンを確認します。
せん妄は夕方から夜間に症状が強くなる傾向があります(日暮れ症候群・サンセット症候群)。
時間帯による変化を記録しておくことで、原因の絞り込みに役立ちます。
背景にある身体的な異常を探ります。
バイタルサイン・血液データ(電解質・血糖・肝機能・腎機能)・脱水の有無・感染の徴候・使用薬剤の変更などを確認します。
看護目標
思考過程混乱のある患者さんへの看護目標は、思考の改善だけでなく、安全と安心を守ることを軸に設定します。
長期目標
患者さんが安全な環境の中で日常生活を送れており、思考混乱に伴う事故や二次的な合併症が生じない。
短期目標
短期目標① 転倒・転落・自傷・誤嚥などの事故が起きず、安全が確保される。
短期目標② 患者さんが落ち着いた環境の中で過ごせており、混乱や興奮の程度が和らいでいる。
短期目標③ 患者さんや家族が思考混乱の状態を理解し、適切な対応の方法を知っている。
看護計画の具体策
観察計画・ケア計画・指導計画の3つに分けて、日々のケアに落とし込んでいきます。
観察計画(何を観察・確認するか)
意識レベルの変化を観察します。
ジャパン・コーマ・スケール(JCS)やグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)を用いて客観的に評価し、前回との変化を記録します。
見当識の状態を毎日確認します。
日付・曜日・場所・担当者の名前などがわかるかどうかを、自然な会話の中で確認します。
思考・会話の内容を観察します。
妄想的な発言(誰かに追われている・物が盗まれたなど)や幻覚への反応(誰もいないのに誰かと話しているなど)がないかを確認します。
睡眠リズムを観察します。
昼夜逆転・夜間の興奮・不眠はせん妄のサインとして重要です。
入眠時間・覚醒回数・夜間の行動を記録します。
転倒・転落・自傷につながる行動を観察します。
ベッド柵を越えようとする・チューブ類を抜こうとする・ベッドから降りようとするなどの行動は、事故リスクが高い状態です。
バイタルサインと身体状態の変化を観察します。
発熱・頻脈・血圧の変動・SpO₂の低下は、思考混乱の背景にある身体的異常が隠れているサインです。
水分・食事摂取量と排泄状況を確認します。
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脱水や電解質異常はせん妄の原因になるため、水分出納のバランスを毎日把握します。
使用中の薬剤を確認します。
新たに追加された薬・増量された薬・相互作用のリスクがある組み合わせがないかを確認します。
ケア計画(何をするか)
安全な環境を整えることが最優先です。
ベッド柵の適切な使用・床のものを片付ける・転落時の衝撃を和らげるマット(センサーマットや床マット)の活用・チューブ類の整理など、転倒・転落・自己抜去を防ぐ環境を整えます。
見当識を助ける環境を整えます。
病室に時計やカレンダーを設置し、今日の日付・天気・担当看護師の名前を書いたボードを見えやすい場所に置くことが有効です。
自然光が入る環境で昼夜のリズムを整えることも大切です。
ていねいな声かけと落ち着いた対応を心がけます。
患者さんが混乱しているときに大きな声で制止したり、誤りを何度も訂正し続けたりすると、興奮が増すことがあります。
静かな口調で名前を呼び、今いる場所・今の状況をシンプルな言葉で伝えることが、安心感につながります。
妄想・幻覚への対応は否定も肯定もしないことが基本です。
「そんなことはありません」と否定すると不信感や興奮につながります。
かといって「そうですね」と全面的に同調することも適切ではありません。
「それは怖かったですね」「今は安全ですよ」と気持ちに寄り添いながら、現実の安全を伝えます。
身体的なケアを丁寧に行います。
脱水の予防のための水分補給・適切な栄養摂取・排泄ケア・口腔ケア・清潔ケアを欠かさず行うことで、身体状態を整えることが思考混乱の改善につながることがあります。
睡眠環境を整えます。
夜間の照明を落とす・不必要な夜間の処置を減らす・昼間に離床して活動する時間を確保するなど、昼夜のリズムを整える工夫をします。
患者さんが安心できる関わりを続けます。
同じ看護師が継続して関わることで、患者さんとの信頼関係が育ちやすくなり、混乱が和らぐことがあります。
家族の面会を活用します。
見知った顔を見ること・家族の声を聞くことが、患者さんの安心感につながることがあります。
面会前に家族へ状態を説明し、関わり方の方法を伝えておくことも大切です。
指導計画(何を教えるか)
家族に思考過程混乱の状態について説明します。
意図的に変なことを言っているわけではなく、脳や身体の機能の変化から起きているということを丁寧に伝えることで、家族が戸惑いや怒りを感じることを防ぎます。
家族への対応方法を指導します。
落ち着いた声で名前を呼ぶ・ゆっくりと短い文で話しかける・急かさない・否定しないといった関わり方を、わかりやすく伝えます。
転倒・転落の予防について家族に伝えます。
目を離した隙にベッドから降りようとすることがある・一人でトイレに行こうとするので目が離せないなど、家族が面会中に気をつけるポイントを伝えます。
退院後や在宅での対応について説明します。
認知症や脳卒中後遺症が背景にある場合は、退院後も症状が続くことを伝え、訪問看護・デイサービス・ショートステイなどの社会資源の活用について医療ソーシャルワーカーと連携しながら情報を伝えます。
症状が悪化した場合の受診の目安を伝えます。
突然の意識変容・高熱・呼びかけへの反応の低下があったときはすぐに連絡するよう、緊急時の対応を家族と確認します。
せん妄と認知症の違いを押さえておこう
実習中に思考過程混乱のある患者さんを受け持ったとき、せん妄と認知症の違いを整理しておくことがアセスメントの精度を高めます。
せん妄は急に始まり、症状が時間帯によって変動するのが特徴です。
原因(手術・感染・脱水・薬など)が取り除かれれば改善することが多く、元に戻る可能性があるという点が認知症と大きく違います。
認知症は数か月から数年にかけてゆっくりと進行し、一度失われた認知機能が完全に回復することは難しいのが一般的です。
ただし、認知症の患者さんがせん妄を起こすこともあり、その場合は症状が重なって見極めが難しくなります。
いつもよりも急に混乱している・昨日まで普通に話せていたのに今日は様子がおかしいという変化は、せん妄の可能性を疑うサインです。
気づいたらすぐに記録し、医師や先輩看護師に報告することが大切です。
思考過程混乱のある患者さんへの関わりで大切なこと
技術的なケア以上に、関わる姿勢そのものが患者さんの安心感に影響します。
患者さんの言動をおかしい・理解できないと遠ざけるのではなく、その言動の背景にある気持ちや訴えを受け取ろうとする姿勢が大切です。
「家に帰りたい」という言葉の背景には、不安・孤独・慣れない環境への戸惑いがあることが多いです。
言葉の字義通りに答えるより、「不安なんですね」「ここにいますよ」と気持ちに応えることが、患者さんの落ち着きにつながります。
混乱している患者さんに対して、看護師が焦ったり声を荒げたりすると、患者さんの不安や興奮が増すことがあります。
深呼吸して、ゆっくりとした動作で近づき、穏やかな声で関わることが、ケアの土台になります。
看護記録への記載のポイント
思考過程混乱に関する看護記録では、客観的な観察内容を言葉で記録することが重要です。
患者さんの発言はできるだけそのままの言葉で記録します。
ここは何の場所かわかりますか、と問いかけると、駅だと答えた・天井に虫がいると訴え、払いのける動作が見られたというように、観察した事実を記録します。
見当識の状態を数値や言葉で記録します。
本日の日付について問うと、正確に答えられた・場所について問うと、自宅と答え、病院であることの説明に対して一時混乱したのように記録します。
睡眠・行動パターンの変化を時間とともに記録します。
22時ごろからベッド柵を越えようとする行動が見られ、声かけで落ち着いた。その後0時まで断続的に起き上がりありのような記録が、次の担当者への引き継ぎになります。
安全確保のために行ったケアとその後の反応を記録します。
まとめ
思考過程混乱は、患者さんの安全・安心・尊厳に深く関わる看護診断です。
原因を正確にアセスメントし、安全な環境を整えながら、患者さんの気持ちに寄り添った関わりを続けることが、看護師としての大切な役割です。
混乱している患者さんだからこそ、一貫した穏やかな関わりが信頼と安心を生みます。
実習中に思考過程混乱のある患者さんを受け持つ機会があれば、今回の内容を参考にアセスメントと看護計画を立ててみてください。
観察した事実を丁寧に記録し、変化を見逃さない目を養うことが、看護師としての力を育てる第一歩です。
今回の内容が実習や国家試験の学習に役立てば嬉しいです。








