「うまく話せなくて、先生に何も聞けなかった」
「言いたいことはあるのに、言葉にならない」
病院という慣れない環境の中で、こんな思いを抱える患者さんは少なくありません。
コミュニケーションは、治療への参加や日常生活の質に深く関わっています。
自分の症状を正確に伝えられる、医療者の説明を理解できる、家族に気持ちを伝えられる、これらはすべて患者さんの回復と生活を支える力になります。
言語的コミュニケーション促進準備状態は、患者さんがすでにある程度コミュニケーションをとる力を持っていて、それをさらに伸ばしていける準備が整っている状態を指す看護診断です。
この記事では、言語的コミュニケーション促進準備状態の看護計画について、看護目標から観察項目・ケア・教育まで幅広くまとめていきます。
言語的コミュニケーション促進準備状態とは
言語的コミュニケーションとは、言葉を使って自分の考えや気持ち、必要なことを相手に伝えたり、相手の言葉を理解したりするプロセスのことです。
NANDA-I看護診断のひとつであるこの診断は、コミュニケーション能力そのものが失われているわけではなく、より効果的に伝え合える状態に向かっていけるという準備性に着目しています。
たとえば、手術後に声が出にくい状態から回復しつつある患者さん、脳卒中後のリハビリテーション中で言語機能が戻りつつある患者さん、外国語環境での入院で少しずつ意思疎通ができるようになってきた患者さんなど、さまざまな場面で適用されます。
また、身体的な問題がなくても、不安や緊張から自分の気持ちをうまく伝えられなかった患者さんが、関係性の中で少しずつ話せるようになってきたという場面でも、この診断は活用できます。
この看護診断が適用されやすい患者さんの特徴
言語的コミュニケーション促進準備状態が適用されやすいのは、次のような状況にある患者さんです。
構音障害や失語症からの回復過程にあり、言葉が少しずつ戻ってきている患者さんに多く見られます。
気管切開や人工呼吸器装着後に抜管され、声が戻りつつある患者さんにも当てはまります。
聴覚障害があるものの、補聴器や筆談、手話などを活用しながらコミュニケーションをとろうとしている患者さんにも適用されます。
日本語が母語でない患者さんが、少しずつ医療者との意思疎通を図ろうとしている場面でも、この診断が検討されます。
精神科領域では、陰性症状の改善に伴い、他者との言語的な交流が戻ってきている統合失調症の患者さんや、うつ病からの回復期で言葉数が増えてきた患者さんにも適用されることがあります。
言語的コミュニケーション促進準備状態に関連する要因
この看護診断に関連する要因として、以下のようなものが挙げられます。
脳血管障害や外傷による失語症・構音障害が、言語的コミュニケーション能力に影響を与えることがあります。
気道や発声器官への手術・処置の後、一時的に声が出にくくなることがあります。
聴覚障害や視覚障害が、コミュニケーションの方法に影響を与えます。
言語・文化的背景の違いが、医療者との意思疎通の妨げになることがあります。
不安や緊張、抑うつ状態が、言葉を発することへの意欲を下げることがあります。
認知機能の低下が、言語的なやりとりに影響を与える場合もあります。
看護目標
長期目標
患者さんが自分の症状・気持ち・希望を、言葉やその他の方法を使って医療者や家族に伝えられるようになり、治療や日常生活に積極的に参加できるようになる。
短期目標
患者さんが自分の体調や気持ちを、言葉・筆談・ジェスチャーなど何らかの方法で看護師に伝えられるようになる。
患者さんが医療者の説明を理解できたかどうかを、うなずきや言葉で表現できるようになる。
患者さんが自分に合ったコミュニケーション方法をひとつ以上選び、使えるようになる。
観察項目(観察計画)
観察項目では、患者さんの言語的コミュニケーション能力の現状と変化を幅広く把握することが出発点になります。
患者さんが言葉をどの程度発しているか、発語の頻度・明瞭度・流暢さを確認します。
患者さんが言葉を理解できているかどうかを確認します。簡単な指示に従えるか、質問に適切に答えられるかを観察します。
表情・視線・うなずき・ジェスチャーなどの非言語的なコミュニケーションがどの程度活用されているかを確認します。
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患者さんが自分の症状や気持ちをどのくらい自発的に伝えようとしているかを観察します。話しかけられるまで待っているのか、自分から話しかけてくるのかも大切な情報です。
コミュニケーションをとる際の不安や緊張の様子を観察します。話そうとするときに表情が硬くなる、声が小さくなるといった変化にも注意を向けます。
使用している補助的なコミュニケーション手段(補聴器・筆談・文字盤・スマートフォンのアプリなど)の活用状況を確認します。
家族や医療者との関わりの中で、コミュニケーションがどのくらいスムーズにとれているかを把握します。
言語聴覚士による評価や訓練の状況についても情報収集します。
認知機能の状態として、記憶・注意・理解力についても観察します。
ケア項目(ケア計画)
ケアの基本は、患者さんが「伝えようとすること」を安心してできる環境をつくることです。
患者さんが言葉を発しようとしているとき、途中でさえぎらず最後まで待ちます。言葉がうまく出なくても、焦らせるような態度をとらないことが大切です。
患者さんのペースに合わせた会話の速度と声の大きさを意識します。聴覚障害がある患者さんには、口の形がわかるよう正面から話しかけます。
患者さんが言葉以外の方法でコミュニケーションをとろうとしているとき、それをしっかり受け取り、理解しようとする姿勢を示します。
患者さんに合ったコミュニケーション補助手段を一緒に探します。筆談ボード、文字盤、スマートフォンのテキスト入力、絵カードなど、患者さんの状態と好みに合わせて選びます。
患者さんが医療者の説明を理解できているかどうかを、説明後に必ず確認します。「今のお話で、わからなかったところはありましたか」と声をかけることで、患者さんが受動的にならず意思疎通に参加できます。
患者さんがうまく伝えられたとき、「ちゃんと伝わりましたよ」と明確に伝えることで、コミュニケーションへの自信をつけていきます。
言語聴覚士と連携し、患者さんのコミュニケーション訓練の進捗に合わせた関わりができるよう調整します。
家族に対しても、患者さんのコミュニケーション方法を共有し、家庭内での関わりがスムーズになるよう働きかけます。
教育項目(教育計画)
患者さん自身がコミュニケーションの力を育てていけるよう、知識と視点を提供する関わりが大切です。
患者さんが自分に合ったコミュニケーション方法を知り、選択できるよう情報を提供します。言葉だけがコミュニケーションではなく、筆談・ジェスチャー・表情・文字盤・アプリなど、さまざまな方法があることを伝えます。
伝えたいことが浮かんだら、短い言葉やメモでもよいので書き留めておく習慣が、医療者との意思疎通をよりスムーズにすることを伝えます。
患者さんが「うまく伝えられなかった」と感じたときも、もう一度試みることや、別の方法を試すことをためらわなくてよいと伝えます。
医師や看護師への質問は、どんな小さなことでも遠慮なくしてよいことを伝えます。「こんなことを聞いてもいいのか」という遠慮が、必要な情報を受け取れない原因になることがあります。
家族に対しては、患者さんが話し終えるまで待つこと、急かさないこと、言葉がうまく出なくても否定しないことの大切さを伝えます。家族の関わり方がコミュニケーション能力の回復に大きく関わることを伝え、日常の中でのやりとりを大切にするよう促します。
退院後も言語的なコミュニケーションの回復が続く場合は、言語聴覚士による外来でのリハビリテーションや、地域の支援機関への相談窓口について情報を提供します。
看護師として意識したいこと
言語的コミュニケーション促進準備状態の看護計画を実践するうえで、看護師自身の関わり方がとても大切な意味を持ちます。
患者さんがうまく話せないとき、看護師が先回りして話してしまうことがあります。しかしそれは患者さんの「伝えようとする力」を育てる機会を奪ってしまうことになります。
少し時間がかかっても、患者さんが自分の言葉で伝えようとするプロセスを大切にする姿勢が、患者さんの自信とコミュニケーション能力の回復につながります。
また、多忙な業務の中でも、患者さんとのやりとりに丁寧に向き合う時間をつくることが、信頼関係の土台になります。
チームとして関わることも大切です。言語聴覚士・医師・家族と情報を共有しながら、患者さんのコミュニケーション能力の変化を見逃さず、一致した方向性で支援できるよう調整することが、看護師の大切な役割です。
患者さんの文化的背景や母語についても理解を深め、必要に応じて通訳サービスや多言語対応の資料を活用することも視野に入れておきます。
まとめ
言語的コミュニケーション促進準備状態の看護計画は、患者さんが自分の言葉で医療者や家族と伝え合う力を育てるための計画です。
観察・ケア・教育の三つの視点を持ちながら、患者さんの「伝えたい」という気持ちを受け止め、その力を引き出していく関わりが、看護師にできるとても意味のある支援です。
言葉はひとつの手段にすぎません。患者さんが自分の思いを届けられる方法を一緒に探していくことが、看護師としての大切な姿勢です。
この看護計画を参考に、患者さんの声に耳を傾け、伝え合える関係をつくる看護を目指してください。








