「気づいたら自分を傷つけていた」「感情が爆発しそうになると、どこかにぶつけないと止まらない」「自分を痛めつけることで、やっと息ができる気がする」——こうした言葉を患者さんから打ち明けられたとき、看護師はどう向き合えばよいのでしょうか。
自分自身への暴力行為、つまり自傷行為は、外から見ると理解しにくい行動に映ることがあります。
しかし多くの場合、それは死を望んでいるのではなく、耐えきれないほどの感情的苦痛に対処しようとするひとつの手段として生じています。
「なぜこんなことをするのか」という驚きや戸惑いを抱いたとき、その気持ちを患者さんにぶつけてしまえば、患者さんはさらに孤立します。
看護師がその行動の背景にある苦しさを理解しようとする姿勢を持つことが、患者さんとの信頼関係を築き、より安全な対処方法への移行を支援する出発点になります。
この状態は看護診断において対自己暴力リスク状態と呼ばれ、精神疾患を抱える患者さんだけでなく、強いストレス下にある幅広い年齢層の患者さんに見られます。
今回は、この看護診断の概要から看護計画の立案まで、臨床で活用できる内容を詳しくまとめました。
対自己暴力リスク状態とはどういう状態か
対自己暴力リスク状態とは、自分自身に対して身体的な危害を加える行動をとるリスクが高まっている状態のことです。
NANDA-Iでは、対自己暴力リスク状態を「自分自身の身体に対して感情的・身体的な害をもたらす意図を持って行動するリスクのある状態」として定義しています。
前回取り上げた自殺性自傷行動リスク状態と混同されやすいですが、この診断は死を目的とした行動ではなく、自傷行為そのもの(非自殺性自傷行為)に焦点を当てています。
非自殺性自傷行為とは、死ぬことを意図せずに自分の身体を傷つける行為のことで、リストカット、熱傷、殴打、引っ掻き、咬傷、頭を壁などにぶつけるなどの形で現れます。
ただし、自傷行為を繰り返す患者さんでは、自殺リスクも高くなる傾向があるため、両方の視点からアセスメントすることが必要です。
たとえば、次のような状態がこの診断に当てはまります。
感情が爆発しそうになると自分の腕を傷つけることで気持ちが落ち着くと話す患者さん。
過去に繰り返しリストカットを行っており、ストレスが高まると再び行いそうになると訴える患者さん。
感情のコントロールが難しく、怒りや不安が限界に達すると自分を殴ったり物に頭をぶつけたりすることがある患者さん。
摂食障害を抱え、体を傷つけることを自分への罰として行っている患者さん。
精神疾患の急性期にあり、幻声の命令に従って自分を傷つけようとしている患者さん。
なぜこの看護診断が重要なのか
自傷行為は、感染、傷の悪化、瘢痕形成など身体的な問題を引き起こすだけでなく、心理的な問題を長期化させることにもなります。
自傷行為は一時的な感情の緩和をもたらすことがありますが、その後に強い罪悪感や自己嫌悪が生じ、それがさらなる感情的苦痛をもたらし、再び自傷行為につながるという悪循環が生じることがあります。
また、自傷行為が習慣化すると、感情に対処するための唯一の手段となってしまい、他の適切なコーピングの方法を学ぶ機会が失われます。
看護師として、自傷行為を「問題行動」として批判的に見るのではなく、患者さんが現在持っている唯一の感情調整手段として理解した上で、より安全で適切な方法へと一緒に移行していくことを支援することが重要です。
早期の介入と継続的なケアによって、自傷行為のリスクを低くし、患者さんが安全に感情と向き合えるよう支援することが可能です。
関連因子とリスク因子を整理する
対自己暴力リスク状態に関わる因子はいくつかに分類できます。
精神疾患に関わる因子として、境界性パーソナリティ障害(感情の不安定さや衝動性が高く、自傷リスクが高い)、うつ病、解離性障害、摂食障害、統合失調症(幻声の命令による自傷)、外傷後ストレス障害が挙げられます。
心理・感情的な因子として、感情調整の難しさ(感情を言葉にすることが難しく、行動で表現する)、強い衝動性、自己否定感や羞恥心の強さ、解離症状(自分の感覚が麻痺した状態から感覚を取り戻すために自傷する)、過去の虐待やトラウマ体験が関わります。
発達的な因子として、思春期・青年期(感情調整スキルが発達途上であり、自傷行為が始まりやすい時期)、幼少期の愛着形成の乱れ、自傷行為をするモデルとなる他者の存在(友人・家族・メディア)が挙げられます。
社会・環境的な因子として、社会的孤立、いじめや虐待、家族関係の困難さ、強いストレス状況(受験、失恋、喪失体験など)が関わります。
身体的な因子として、慢性疼痛を抱える患者さんでは、身体的な感覚への過敏さや疼痛への対処として自傷行為が生じることがあります。
看護目標を設定する
長期目標
患者さんが感情的な苦痛を感じたとき、自分を傷つける以外の安全な方法で感情と向き合い、対処することができるようになる。
短期目標
自傷行為を行いたくなる状況やきっかけ(引き金となる出来事や感情)について、看護師に言葉で話すことができる。
自傷行為を行いたくなったとき、看護師や支援者に助けを求める行動をひとつとることができる。
自傷行為の代わりに試せる安全な感情対処方法をひとつ選び、実際に試してみることができる。
観察計画(オーピー)
対自己暴力リスク状態を把握するためには、自傷行為の状況だけでなく、感情状態、引き金となる状況、保護因子を多角的に把握することが必要です。
自傷行為の状況の観察として、現在自傷行為を行っているか、過去に行ったことがあるかを丁寧に確認します。
自傷の頻度、部位、方法、自傷後の感情の変化(楽になる、後悔するなど)を把握することで、自傷行為のパターンと機能(何のために行っているか)を理解します。
「自分を傷つけたいという気持ちが出てくることはありますか」という直接的な確認が、患者さんに「話してもいい」という許可を与えます。
感情状態の観察として、感情の強さと変動(感情の波が激しくないか)、感情を言葉にすることができているか、強い怒り・不安・絶望感・罪悪感がないかを確認します。
「今の気持ちを1から10で表すとしたら、何点くらいですか」という問いかけが、感情の強度を把握する助けになります。
引き金となる状況の観察として、どのような出来事や状況で自傷行為を行いたくなるかを把握します。
対人関係の葛藤、試験や仕事のプレッシャー、一人でいる夜間、特定の人物との関わりなど、個人ごとに異なる引き金があります。
身体の状態の観察として、新たな傷(リストカットの痕、打撲、熱傷など)がないかを、入浴介助や処置の場面で確認します。
傷の状態(感染の有無、深さ、処置の必要性)も評価します。
袖や裾で隠している様子がある場合、強制的に確認するのではなく「傷はありますか。もし見せてもらえるなら確認させてください」という姿勢で関わります。
保護因子の確認として、自傷行為を「やめたい」という気持ちがあるか、信頼できる人の存在、生活の中での楽しみや意欲、自傷以外の対処手段を持っているかを把握します。
保護因子があるほど、ケアの可能性が広がります。
自殺リスクの同時評価として、自傷行為と並行して、死にたいという気持ちがないかを確認します。
「自分を傷つけたいという気持ちとは別に、死にたいという気持ちが出てくることはありますか」という問いかけで、自殺リスクの評価を行います。
ケア計画(ティーピー)
ケア計画では、患者さんとの信頼関係を構築しながら、安全な環境を整え、より適切な感情対処方法の習得を支援します。
まず、自傷行為を批判しない姿勢で関わることが出発点です。
「なぜそんなことをするの」「もうやめなさい」という言葉は、患者さんをさらに孤立させます。
「それほど辛い状況にいたんですね」「話してくれてありがとうございます」という言葉で、自傷行為の背景にある苦しさをそのまま受け止めます。
自傷行為の「機能」を一緒に理解します。
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「自分を傷つけたとき、どんな気持ちになりますか」「傷つける前と後で、気持ちはどう変わりますか」という問いかけで、患者さんが自傷行為をどのように使っているかを一緒に理解します。
「感情を和らげるための方法として使ってきたんですね。その苦しさへの対処の仕方を、一緒に考えていきましょう」という姿勢が、患者さんの自己否定感を高めません。
環境の安全を整えます。
入院中の場合、病室内に刃物、はさみ、鋭利な物品がないかを確認し、必要に応じて管理します。
ただし、過度な管理は患者さんの自尊心を傷つけることがあるため、「あなたの安全を守るために一緒に確認させてください」という姿勢で行います。
感情が高まったときの対処方法を一緒に計画します。
「自傷したくなったとき、最初に何をするか」を事前に決めておく危機対処計画を一緒に立てます。
看護師に声をかける、決めた人に電話する、決めた場所に移動するなど、具体的な行動の手順を計画します。
感情の高まりを和らげるための安全な代替手段について、一緒に探します。
冷たい水で顔を洗う、強い匂い(アロマなど)を嗅ぐ、大きな声を出す(枕に向かってなど)、激しく体を動かすなど、強い感覚刺激を用いた方法や、絵を描く、音楽を聴くなど自分を落ち着かせる活動を一緒に探します。
ただし、どの方法が合うかは個人差が大きいため、「試してみてどうでしたか」という振り返りを繰り返しながら、その患者さんに合った方法を見つけていきます。
臨床心理士や精神科医との連携を積極的に行います。
感情調整の困難が大きい場合や、弁証法的行動療法(DBT)などの専門的な心理療法が有効と考えられる場合には、専門職への早めの橋渡しを行います。
傷の処置を通じた関わりも大切にします。
自傷後の傷の処置は、批判なく行います。
処置の場面は、患者さんとの信頼関係を深める機会にもなります。
「傷の手当てをしながら、今日どんなことがあったか聞かせてもらえますか」という関わりが、患者さんが話しやすい時間をつくります。
教育計画(イーピー)
教育計画では、患者さんが自分の感情と自傷行為の関係を理解し、より安全な方法で感情と向き合えるよう支援します。
患者さんに対して、自傷行為が感情調整の手段として機能しているという仕組みを、分かりやすく説明します。
「自傷することで、一時的に辛い気持ちが和らぐことがあります。それはあなたがおかしいのではなく、苦しさに対処しようとしてきた結果です。ただ、身体への傷や感染のリスクがあるため、別の安全な方法を一緒に探していきましょう」という説明が、患者さんの自己否定感を和らげながら変化への動機づけにつながります。
感情を言葉にすることの練習について伝えます。
「今自分がどんな感情を感じているかを言葉にすることは、最初は難しいかもしれません。でも、感情を言葉にすることで、感情の強さが少し和らぐことがあります」という説明とともに、感情を表現するための言葉(怒り、悲しみ、恐怖、恥ずかしさなど)を一緒に確認します。
感情日記(日々の感情の変化を書き留める)が、感情のパターンに気づく助けになることも伝えます。
引き金となる状況への対処方法について伝えます。
「自傷したくなる状況には、パターンがあることが多いです。そのパターンに気づくことで、前もって対処することができます」という説明とともに、引き金となる状況を事前に整理する作業を一緒に行います。
自傷したくなったときに連絡できる窓口の情報を提供します。
よりそいホットライン(0120-279-338)、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)など、夜間や休日にも使える相談窓口を具体的に伝えます。
「辛くなったとき、一人でいないでください。連絡先を手元に置いておいてください」というメッセージが、孤立した状況での自傷を防ぐ助けになります。
家族や支援者に対して、自傷行為の背景と適切な関わり方について説明します。
「自傷行為は死を望んでいる行動ではなく、苦しさへの対処として行われていることが多いです。見つけたときに驚いたり責めたりするよりも、落ち着いて話を聞こうとする姿勢が大切です」という説明が、家族の適切な対応につながります。
「自傷行為の傷を見つけたとき、どう反応すればいいか分からない」という家族の戸惑いに対して、「傷の手当てをしながら、今日どんなことがあったか聞いてみてください」という具体的な関わり方を伝えます。
また、自傷行為を止めさせようと強く制止することは、かえって患者さんの孤立感を深める場合があることを伝えます。
「止めさせることよりも、話せる関係を保つことの方が、長期的には回復につながります」というメッセージが、家族の焦りを和らげます。
臨床でよく見られる場面と対応のポイント
境界性パーソナリティ障害の患者さんでは、感情の急激な変化と強い衝動性から、自傷行為のリスクが高くなります。
感情の揺れに一貫した姿勢で関わることが大切です。
患者さんの感情に巻き込まれず、落ち着いた対応を維持することが、看護師としての重要なスキルになります。
弁証法的行動療法(DBT)が有効な場合が多く、臨床心理士との連携が重要です。
思春期・青年期の患者さんでは、友人関係、学業、家族関係のストレスが引き金になりやすいです。
「誰にも分かってもらえない」という孤立感が強い時期であるため、批判せずに話を聴く姿勢が特に大切です。
同世代の仲間の中に自傷行為をしている人がいる場合、影響を受けている可能性もあるため、生活環境についての情報も把握します。
摂食障害を抱える患者さんでは、自分への罰として、または感情的苦痛への対処として自傷行為が生じることがあります。
摂食障害のケアと並行して、感情調整のサポートを行うことが重要です。
解離症状が見られる患者さんでは、感覚が麻痺した解離状態から感覚を取り戻すために自傷行為を行うことがあります。
「今、ここにいます」という現実への接地(グラウンディング)を促すための関わりが有効です。
冷たい水、アロマ、強い触感(氷を握るなど)などのグラウンディング技法を一緒に試します。
精神科急性期病棟の患者さんでは、幻声の命令による自傷行為に注意が必要です。
幻声の内容と自傷衝動の関係を把握し、幻声が強まる時間帯や状況を確認します。
薬物療法による症状の軽減と並行して、看護師が頻繁に関わることで孤立を防ぎます。
まとめ
対自己暴力リスク状態は、患者さんが感情的な苦痛に限界まで追い詰められているサインです。
自傷行為を「問題行動」として捉えるのではなく、患者さんが今の苦しさにどうにか対処しようとしている表れとして理解することが、看護の出発点になります。
批判せずに話を聴き、自傷行為の背景にある苦しさを受け止め、より安全な感情対処の方法を一緒に探していく——こうした継続的な関わりが、患者さんが少しずつ安全な方法で感情と向き合える力を育てます。
観察、ケア、教育の三つの柱をバランスよく組み合わせながら、患者さんの安全と尊厳を守ることを最優先に、長期的な視点でチームとして関わり続けることが大切です。
看護計画は患者さんの状態の変化に合わせて柔軟に見直しながら、その人が自分自身を大切にできるようになるための回復を支える支援を続けていきましょう。








