「血圧が高めと言われているけれど、自覚症状がないから大丈夫」「最近めまいがするけれど、年のせいかな」——こうした言葉は、病棟や外来でよく聞かれる声です。
血圧の異常は、自覚症状が乏しいままに進行することが多く、気づかないうちに重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
血圧バランス異常リスク状態とは、北米看護診断協会が定める看護診断のひとつで、血圧が正常範囲から逸脱するリスクがある状態を指します。
すでに血圧の異常が起きているわけではないものの、このまま何もしなければ高血圧・低血圧・起立性低血圧などの問題が生じる可能性が高いと判断されるときに用いられます。
この記事では、血圧バランス異常リスク状態の看護計画について、看護目標から観察・ケア・指導の内容まで、看護学生にもわかりやすく解説していきます。
血圧バランス異常リスク状態とはどんな状態か
血圧とは、心臓が血液を全身に送り出すときに血管壁にかかる圧力のことです。
一般的に、収縮期血圧(心臓が収縮して血液を送り出すときの圧力)が140mmHg以上、または拡張期血圧(心臓が拡張して血液を受け入れるときの圧力)が90mmHg以上の状態を高血圧と定義します。
一方、収縮期血圧が90mmHg未満の状態を低血圧と定義することが多いです。
血圧バランス異常リスク状態は、こうした血圧の逸脱が起きるリスクが高まっている状態であり、以下のような患者さんに多く見られます。
高血圧の既往歴があり、降圧薬を服用しているが血圧コントロールが不安定な患者さん。
塩分の多い食事習慣を持ち、肥満や運動不足がある患者さん。
長期臥床や安静が続いており、起立性低血圧のリスクが高い患者さん。
利尿薬・降圧薬・抗不整脈薬など、血圧に影響する薬剤を複数使用している患者さん。
糖尿病・慢性腎臓病・心不全・甲状腺疾患など、血圧に関わる基礎疾患を持つ患者さん。
脱水状態や出血後で循環血液量が少なくなっている患者さん。
妊娠中または出産後の患者さん。
高齢で、血圧調節機能が低くなっている患者さん。
血圧バランス異常が患者さんに与える影響
血圧の異常が続くと、患者さんにはさまざまな影響が出てきます。
高血圧が続いた場合、脳卒中(脳出血・脳梗塞)・心筋梗塞・心不全・慢性腎臓病・大動脈解離など、生命に関わる重篤な合併症のリスクが高くなります。
高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれるほど自覚症状が少なく、気づいたときにはすでに臓器への障害が進んでいることがあります。
低血圧が続いた場合、めまい・ふらつき・倦怠感・集中力の低下・失神などが生じやすくなります。
起立性低血圧(立ち上がったときに急激に血圧が下がる状態)は、転倒・骨折のリスクを高めます。
特に高齢患者さんや、リハビリで離床を進めている患者さんでは、起立性低血圧による転倒が骨折や長期臥床につながるリスクがあるため、注意が必要です。
血圧バランスを保つことは、患者さんの安全と生活の質を守ることに直結しています。
血圧バランス異常のリスク因子を把握する
この診断を用いるにあたって、血圧バランス異常のリスク因子を正しく把握することが重要です。
高血圧のリスク因子としては、食塩の過剰摂取、肥満、運動不足、飲酒、喫煙、ストレス、遺伝的素因、加齢、糖尿病・脂質異常症などの基礎疾患があります。
低血圧・起立性低血圧のリスク因子としては、長期臥床、脱水、降圧薬の過剰投与、利尿薬の使用、自律神経障害(糖尿病性神経障害・パーキンソン病など)、加齢があります。
薬剤性の血圧変動のリスク因子としては、降圧薬・利尿薬・硝酸薬・抗不整脈薬・抗精神病薬・抗うつ薬など、血圧に影響する薬剤の使用があります。
患者さんのリスク因子を多面的に把握した上で、個別性のある看護計画を立てることが大切です。
看護目標
長期目標
患者さんが血圧に影響する生活習慣の改善に取り組み、血圧を安定した範囲に保ちながら安全な療養生活を続けられるようになる。
短期目標
患者さんが血圧測定の重要性を理解し、定期的な血圧測定と結果の確認を自分で行えるようになる。
患者さんが血圧に影響する生活習慣(食塩摂取量・運動・飲酒・喫煙・ストレス管理など)について理解し、改善への意欲を持てるようになる。
患者さんが血圧の異常を示すサイン(頭痛・めまい・動悸・ふらつきなど)に気づいたとき、すみやかに医療スタッフに伝えられるようになる。
具体的なケアの内容
観察計画(何を観察するか)
血圧を定期的に測定し、値の変動を記録します。
測定は同じ条件(同じ時間帯・同じ体位・安静後5分以上経過してから)で行うことで、正確な変化を把握します。
両腕の血圧を測定し、左右差がないかを確認します。
左右で10mmHg以上の差がある場合は、大動脈解離や鎖骨下動脈狭窄などの可能性があるため、医師への報告が必要です。
体位変換時(臥位から座位・立位への移行時)の血圧変動を観察します。
起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下する場合、起立性低血圧と判断されます。
血圧に影響する自覚症状(頭痛・頭重感・めまい・ふらつき・動悸・耳鳴り・視力変化・倦怠感・失神感など)の有無を確認します。
脈拍・体温・呼吸数・酸素飽和度など、バイタルサインを総合的に観察します。
浮腫(むくみ)の有無と程度を観察します。
尿量の変化(乏尿・無尿・多尿)を確認します。
使用中の薬剤と服薬状況を確認します。
降圧薬・利尿薬など、血圧に影響する薬剤が正しく服用されているかを確認します。
食事摂取量・水分摂取量・塩分摂取状況を観察します。
活動量・安静度と血圧の関係を観察します。
精神的なストレスや睡眠の状態も、血圧変動に関わるため確認します。
ケア計画(直接的なかかわり)
血圧測定は正確な手技で行います。
カフのサイズが患者さんの腕の太さに合っているか確認し、カフを巻く位置・締め具合を適切に調整した上で測定します。
血圧の値が普段と大きく異なるとき、患者さんに自覚症状がないかを確認し、必要に応じてすみやかに医師へ報告します。


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高血圧が続いている患者さんへの対応を行います。
安静を保てる環境を整え、精神的なストレスや過度な刺激を減らします。
塩分制限食が指示されている場合、管理栄養士と連携して食事調整を行います。
医師の指示に基づき、降圧薬の服薬管理を行い、飲み忘れがないよう支援します。
頭痛・視力障害・嘔吐・意識の変化などが見られる場合(高血圧緊急症の可能性)は、すみやかに医師へ報告し、速やかな対応を行います。
低血圧・起立性低血圧が見られる患者さんへの対応を行います。
離床時・体位変換時には、ゆっくりと段階的に体位を変えることを徹底します。
臥位から座位へ、座位から立位へ、それぞれ数十秒から1分程度かけて移行するよう、患者さんと一緒に確認します。
弾性ストッキングの着用や、下肢の運動を取り入れることで、静脈血の還流を助けます。
水分摂取が可能な患者さんには、十分な水分補給を促します。
転倒リスクが高い患者さんには、ベッドからの立ち上がり時にナースコールを使うよう伝え、そばで見守りながらの離床を行います。
薬剤による血圧変動が見られる場合、医師・薬剤師と連携して薬剤の種類・量・タイミングの調整を検討します。
血圧手帳や記録用紙を活用し、患者さん自身が血圧を記録・管理できる習慣を支えます。
教育・指導計画(患者さんへの説明や指導)
血圧とは何か、正常範囲と異常範囲について、患者さんにわかりやすく説明します。
「収縮期血圧が140以上、または拡張期血圧が90以上が続く場合は高血圧です」というように、数字を使って具体的に伝えます。
家庭での血圧測定の方法と、測定のタイミング(朝起きてトイレに行った後・夜寝る前など)を指導します。
「毎日同じ時間に測って記録することで、血圧の変化に早く気づけます」と伝え、継続の大切さを強調します。
減塩について具体的に指導します。
1日の食塩摂取量の目安(高血圧患者では6g未満)を伝え、減塩しょうゆの活用・漬物や加工食品を控えること・外食時の注意点など、日常生活に落とし込んだ具体的な方法を伝えます。
適度な運動の大切さを伝えます。
ウォーキングなどの有酸素運動が血圧を低くすることに役立つことを説明し、患者さんの体力に合った運動量を一緒に考えます。
節酒・禁煙の重要性を伝えます。
アルコールと喫煙は血圧を高める作用があることを説明し、必要に応じて禁煙外来や依存症専門の支援へつなぎます。
ストレス管理の方法(腹式呼吸・趣味・睡眠の確保など)を伝えます。
起立性低血圧がある患者さんには、ゆっくり立ち上がること・しゃがみ込んで血圧を上げてから立つことなど、日常生活の中での注意点を具体的に伝えます。
服薬の自己中断をしないことを伝えます。
「症状がなくなっても、自分の判断で薬をやめないことが大切です」と明確に伝え、自己中断の危険性を説明します。
高血圧緊急症・切迫症を見逃さないために
血圧バランス異常リスク状態のケアで特に注意が必要なのが、高血圧緊急症と高血圧切迫症への対応です。
高血圧緊急症とは、収縮期血圧が180mmHg以上または拡張期血圧が120mmHg以上となり、脳・心臓・腎臓などの臓器障害が進行している状態です。
高血圧緊急症では、激しい頭痛・視力障害・胸痛・呼吸困難・意識障害・尿量の著しい減少などが見られることがあります。
こうした症状が見られたとき、看護師はすみやかに医師へ報告し、静脈路の確保・降圧薬の投与・継続的な血圧モニタリングなどの対応を行います。
「血圧が高いだけ」と軽く見ず、患者さんの自覚症状と全身状態を総合的に観察することが、重篤な合併症を防ぐ上でとても大切です。
起立性低血圧と転倒予防
起立性低血圧による転倒は、入院患者さんに生じやすい重大な問題のひとつです。
特に高齢患者さん・長期臥床後の患者さん・降圧薬を使用している患者さんでは、離床時の血圧変動に十分注意が必要です。
離床を進める際には、以下の手順を丁寧に行います。
まずベッドの頭側を上げ、座位に慣れる時間を十分に取ります。
座位で血圧・脈拍・自覚症状を確認してから、立位に移行します。
立位に移行した後も、しばらくそばで見守りながら血圧と自覚症状を確認します。
めまい・ふらつき・気分不快が見られた場合は、すみやかに臥位に戻します。
転倒リスクの高い患者さんには、床頭台の手すりの活用・ノンスリップの靴下や履物の着用・ナースコールの手の届く位置への設置など、環境面での整備も合わせて行います。
看護師として意識したいこと
血圧バランス異常リスク状態のケアで最も大切なのは、血圧の数値だけを見るのではなく、患者さん全体の状態を総合的に観察することです。
血圧の値はその日の体調・睡眠・ストレス・食事・薬の服用状況など、さまざまな要因で変動します。
「いつもより高い(低い)」という変化に気づいたとき、「なぜそうなったのか」を患者さんと一緒に考える姿勢が、根本的な血圧管理につながります。
また、血圧管理は一生涯続くものです。
患者さんが退院後も自分で血圧を管理できるよう、入院中から患者さん自身の力を育てることが、このケアの大切なねらいのひとつです。
「測るだけでなく、数値の意味を理解して行動できる患者さん」を育てることが、看護師の役割です。
まとめ
血圧バランス異常リスク状態の看護計画は、血圧の異常が生じるリスクがある患者さんに対して、早期発見・予防的なかかわり・生活習慣の改善支援を通じて、血圧を安定した範囲に保つためのケアの診断です。
長期目標として患者さんが生活習慣の改善に取り組み、血圧を安定した範囲に保ちながら安全な療養生活を続けられることを目指し、短期目標を一歩ずつ積み上げていきます。
観察・ケア・指導の三つの視点からかかわることで、血圧の異常を早期に察知し、重篤な合併症を予防することができます。
医師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士をはじめとした多職種と連携しながら、患者さんの血圧管理を継続的に支えていくことが、看護師の大切な役割です。
看護学生のみなさんが実習や国家試験の学習でこの診断と向き合うとき、この記事が少しでも助けになれれば幸いです。








