肺癌終末期の患者に対する看護は、複雑で専門的な知識と技術が求められる重要な分野です。
患者の価値観を尊重し、苦痛を最小限に抑えながら穏やかに過ごせるよう支援することが看護師の重要な役割となります。
本記事では、肺癌終末期患者の看護計画について、具体的な問題点と対応策を詳しく解説します。
肺癌終末期患者の主要な看護問題
癌性胸痛への対応
疼痛アセスメントの重要性
肺癌患者の胸痛は、腫瘍の増大や転移により引き起こされる深刻な症状です。
ペインスコアを用いた客観的な評価により、疼痛の程度を正確に把握する必要があります。
疼痛の種類についても詳細な観察が必要で、刺痛、鈍痛、疝痛、激痛といった性質を見極めることが重要です。
表在痛や深部痛、牽引痛、放散痛、圧迫痛など、痛みの特徴を正確に把握することで適切な治療選択につながります。
発作性、間歇性、持続性といった痛みのパターンも詳しく観察し、記録する必要があります。
全身状態の総合的観察
冷感やチアノーゼの有無を定期的に確認し、循環状態の悪化を早期発見します。
咳や喀痰の性状変化は、病状進行の重要な指標となるため注意深く観察します。
倦怠感や発熱などの全身症状も併せて評価し、患者の体力低下度を把握することが大切です。
精神状態や意識レベル、バイタルサインの変化は病状把握の重要な指標となります。
病状悪化による死への不安
心理的支援の基本姿勢
患者が死への恐怖や不安を抱えている状況では、看護師の寄り添う姿勢が何より重要です。
ベッドサイドに腰を下ろし、ゆっくりと交流できる適切な距離を保ちながら会話することが大切です。
看護師の都合で会話が中断されないよう配慮し、患者の話をじっくりと聞く姿勢を示します。
患者の感情表現への配慮
心に残る出来事や家族に対する感情、親しい知人への思いを自由に表現できる環境を整えます。
患者から死について言葉があっても逃げることなく、真摯に向き合って寄り添うことが重要です。
患者の理解度を確認しながら、感情の自由な発露を促し、微妙な心の動きを把握していきます。
家族との関係性強化
面会時間以外でも患者が望む場合は、家族や知人との面会を柔軟に許可します。
家族を励まし支援するとともに、看病疲れによる健康問題にも注意を払います。
家族が患者の死を受容できるよう、それぞれのニーズや力量に応じた助言を提供します。
呼吸不全による換気障害
呼吸状態の詳細な観察
バイタルサインの変化を継続的にモニタリングし、呼吸状態の悪化を早期発見します。
ECGモニターによる不整脈の監視も重要で、心肺機能の総合的な評価を行います。
水分出納バランスの管理により、体液貯留による呼吸困難の悪化を防ぎます。
呼吸音の聴診により無気肺の有無を確認し、チアノーゼの程度も定期的に評価します。
血液ガス分析や電解質データの変化も注意深く監視し、呼吸不全の進行度を把握します。
意識レベルの変化やバッキング、ファイティングの有無も重要な観察項目となります。
喀痰の性状や量の変化は、気道clearanceの評価指標として活用します。
呼吸困難軽減のための介入
予後不良である肺癌終末期では、挿管の適応について事前に医師と十分な検討を行います。
呼吸困難時には医師の指示により酸素吸入を実施し、カニューラからマスクへの変更や流量調整を行います。
ベッドを挙上してファーラー位をとることで、呼吸筋の効率的な働きを促進します。
起座位の保持も呼吸困難軽減に効果的で、患者の楽な体位を見つけることが大切です。
ECGモニターの装着や留置カテーテルの挿入により、全身管理を適切に行います。
気道管理の実践
喀痰が粘稠な場合は、吸入療法や気管内洗浄を実施して気道clearanceを改善します。
タッピングなどの理学療法により、効果的な喀痰排出を促進します。
バッキング時には医師の指示により鎮痛剤や鎮静剤を適切に投与します。
意識がある場合は筆談や読唇によりコミュニケーションを継続し、患者の不安軽減を図ります。
薬物療法における注意点
麻薬性鎮痛剤の安全管理
麻薬使用時は残量確認とアンプルの適切な保管管理を徹底します。
中枢性作用により呼吸抑制や血圧低下が起こる可能性があるため、投与前後のバイタルサイン変化に注意します。
便秘、嘔気、嘔吐、排尿困難、幻聴、依存性などの副作用に対する観察と対策が必要です。
排便コントロールのため緩下剤の併用を検討し、患者の快適性を保ちます。
症状に応じた薬物調整
夜間は気分的に痛みが増強する傾向があるため、医師の指示により眠剤を適切に投与します。
咳嗽が強い場合は鎮咳剤の使用を検討し、症状緩和を図ります。
不安が強い時は医師の指示により鎮静剤を投与し、患者の精神的負担を軽減します。
環境調整と非薬物的介入
快適な療養環境の整備
部屋の出入りは静かに行い、患者が不快となる物音に配慮します。
廊下から聞こえる看護師の笑い声なども患者にとっては苦痛となる可能性があります。
安楽な体位の保持と適切な保温により、患者の身体的快適性を向上させます。
温罨法や冷罨法の適用により、局所的な症状緩和を図ります。
心理的サポートの充実
不安を軽減するため、家族以外の面会人を必要に応じて制限します。
現在の状態について医師から十分な説明を行うことで、精神的ストレスを軽減します。
スキンシップによる安心感の提供も効果的で、手を握ったり肩に触れることで心の支えとなります。
補完療法の活用
気分転換のためラジオ、テレビ、雑誌、散歩などの活動を支援します。
リラクゼーション、マッサージ、音楽療法、芸術療法、イメージ療法など多様なアプローチを検討します。
患者の信仰や価値観を考慮したスピリチュアルケアも重要な要素となります。
まとめ
肺癌終末期患者の看護は、身体的症状の管理と精神的支援の両面からのアプローチが不可欠です。
患者一人ひとりの価値観を尊重し、その人らしい最期を迎えられるよう包括的なケアを提供することが求められます。
看護師は専門的知識と技術を活用しながら、患者と家族に寄り添い続けることが最も重要な役割となります。
継続的な観察とアセスメントにより、患者の状態変化に適切に対応し、可能な限り苦痛のない穏やかな時間を提供できるよう努めることが大切です。








