褥瘡は医療現場において重要な合併症の一つであり、患者さんの生活の質に大きな影響を与える可能性があります。
特に長期臥床患者や高齢者、慢性疾患を持つ患者さんにとって、褥瘡の予防は看護ケアの重要な課題となります。
この記事では、褥瘡リスク状態の看護計画について、観察項目から具体的な予防方法まで詳しく解説します。
看護師として必要な知識を体系的に整理し、エビデンスに基づいた実践的な情報を提供いたします。
褥瘡とは何か?定義と発生メカニズム
褥瘡とは、持続的な圧迫や摩擦、ずれによって皮膚や皮下組織が損傷を受けた状態を指します。
圧迫性損傷と摩擦・ずれによる損傷の二つのメカニズムが主要な発生要因となります。
圧迫による血流障害が持続すると、組織の酸素供給が低下し、細胞の壊死が始まります。
一般的に、32mmHg以上の圧力が2時間以上持続すると、組織損傷のリスクが高まるとされています。
褥瘡の発生は、外的要因と内的要因の複合的な作用によって引き起こされます。
外的要因には、圧迫、摩擦、ずれ、湿潤などがあります。
内的要因には、年齢、栄養状態、皮膚の状態、血行状態、感覚障害、意識レベル、薬物の影響などがあります。
褥瘡の発生部位は、骨突出部に集中する傾向があり、仙骨部、尾骨部、大転子部、踵部、肘部、後頭部などが好発部位となります。
看護目標の設定と重要性
長期目標:褥瘡が発生しない
褥瘡リスク状態の長期目標は、褥瘡が発生しないことです。
この目標は、患者さんの入院期間全体を通じて達成すべき最終的な成果を示しています。
長期目標の設定により、看護チーム全体が同じ方向性を持って継続的なケアを提供できます。
褥瘡の発生は、患者さんの治療期間の延長、医療費の増加、生活の質の低下、感染リスクの増大など、多方面にわたって深刻な影響を与えます。
そのため、予防に重点を置いた看護計画の立案が極めて重要となります。
短期目標:好発部位に皮膚トラブルが生じない
短期目標は、好発部位に皮膚トラブルが生じないことです。
この目標は、日々の看護ケアにおいて具体的に達成すべき成果を示しています。
短期目標の設定により、看護師は毎日のケアの効果を評価し、必要に応じて介入方法を調整できます。
皮膚トラブルの早期発見と迅速な対応により、褥瘡の進行を防ぐことができます。
皮膚の発赤、硬結、水疱形成、表皮剥離などの初期症状を見逃さないことが重要です。
観察計画(OP)の詳細
1. 褥瘡好発部位の詳細な観察
褥瘡好発部位の観察は、褥瘡予防における最も重要な要素の一つです。
仙骨部、尾骨部、大転子部、踵部、肘部、後頭部、肩甲骨部、腸骨稜部などを重点的に観察します。
観察の頻度は、リスクレベルに応じて調整しますが、一般的には1日2回以上の観察が推奨されます。
皮膚の色調変化を詳細に評価し、発赤の有無、発赤の持続時間、指圧による退色の有無を確認します。
指圧テストは重要な評価方法で、発赤部位を指で軽く圧迫し、圧迫を解除した際の色調変化を観察します。
退色する発赤は一過性の反応性充血であり、退色しない発赤は真皮の損傷を示唆します。
皮膚の温度変化、硬結の有無、腫脹の程度、疼痛の有無も重要な観察項目です。
皮膚の厚さや弾力性の変化も評価し、皮膚の脆弱性を把握します。
2. 不快症状の有無と詳細評価
患者さんの主観的な症状の評価は、客観的な皮膚観察と同様に重要です。
疼痛、かゆみ、違和感、しびれなどの症状の有無を詳細に聴取します。
疼痛の評価では、**Numerical Rating Scale(NRS)やVisual Analog Scale(VAS)**を用いて、疼痛の強度を定量化します。
疼痛の性質(鋭い痛み、鈍い痛み、ズキズキする痛み、ヒリヒリする痛み)を詳細に評価します。
症状の出現時期、持続時間、増悪・軽快因子についても詳しく聴取します。
感覚障害の有無も重要な評価項目で、触覚、痛覚、温度覚の低下が褥瘡リスクを高めます。
3. 栄養状態の評価と栄養アセスメント
栄養状態は褥瘡の発生と治癒に大きく影響する重要な要因です。
体重、BMI、体重減少率を評価し、栄養不良の程度を判定します。
血液検査値では、アルブミン値、総蛋白値、ヘモグロビン値、血糖値、亜鉛値、ビタミンC値などを確認します。
アルブミン値3.5g/dL未満、総蛋白値6.0g/dL未満は栄養不良の指標となります。
摂食状況では、一日の摂取カロリー、タンパク質摂取量、水分摂取量を詳細に評価します。
咀嚼・嚥下機能の評価も重要で、食事摂取に影響する機能障害の有無を確認します。
**Mini Nutritional Assessment(MNA)**などの栄養評価ツールを活用し、総合的な栄養状態を評価します。
食欲の有無、消化器症状、食事の好みなども詳細に聴取します。
4. ポジショニングの状況と体位管理
患者さんの体位や姿勢の評価は、圧迫軽減において極めて重要です。
現在の体位、体位保持時間、自力での体位変換能力を詳細に評価します。
関節可動域の制限や拘縮の有無が、適切なポジショニングに影響します。
脊柱の変形、関節の変形、筋力低下などの身体的制約を把握します。
使用しているクッションやポジショニング用具の適切性を評価します。
ベッドの角度、マットレスの種類、枕の配置なども重要な評価項目です。
車椅子使用時間や車椅子での姿勢も詳細に観察します。
患者さんの快適性や疼痛の有無を確認し、現在のポジショニングが適切かを評価します。
5. オムツの使用状況と皮膚への影響
オムツ使用患者では、皮膚の湿潤状態が褥瘡リスクを大幅に増加させます。
オムツの種類、サイズの適合性、交換頻度を詳細に評価します。
失禁の頻度、失禁の性状(尿失禁、便失禁、混合性失禁)を把握します。
皮膚の湿潤状態、浸軟の程度、皮膚炎の有無を観察します。
オムツ装着部位の摩擦の程度、ずれの発生状況を評価します。
皮膚保護剤の使用状況と効果を確認します。
陰部洗浄の方法と頻度が適切かを評価します。
スキンケア用品の使用状況と皮膚への影響を観察します。
援助計画(TP)の詳細
1. 褥瘡予防マットレスの選択と使用
褥瘡予防マットレスの選択は、患者さんのリスクレベルに応じて行います。
低リスク患者には、静的マットレス(ウレタンフォーム、ゲルマットレス)を使用します。
中等度リスク患者には、動的マットレス(エアマットレス、ウォーターマットレス)を選択します。
高リスク患者には、高機能エアマットレス(交互圧迫式、低圧持続式)を使用します。
マットレスの圧力分散効果、体圧測定値を定期的に評価し、効果を確認します。
マットレスの設定(圧力値、交互時間、体重設定)を患者さんの状態に応じて調整します。
メンテナンス状況を確認し、機器の適切な作動を保証します。
患者さんの快適性と睡眠の質への影響も評価し、必要に応じて調整を行います。
2. 体位変換の実施と技術
体位変換は褥瘡予防の基本的かつ重要な介入です。
2時間おきの体位変換を基本とし、患者さんの状態に応じて頻度を調整します。
高リスク患者では1時間おきの体位変換や30度側臥位の採用を検討します。
体位変換時には、摩擦とずれを最小限に抑える技術を用います。
リフトアップ技術を活用し、皮膚への負担を軽減します。
30度側臥位、仰臥位、腹臥位(可能な場合)を組み合わせて実施します。
各体位での圧迫部位の確認と除圧の確認を行います。
クッションやポジショニング用具を効果的に活用し、圧力分散を図ります。
体位変換後の患者さんの快適性と呼吸状態を確認します。
体位変換スケジュールを作成し、チーム全体で共有します。
3. スキンケアの実施と皮膚保護
適切なスキンケアにより、皮膚のバリア機能を維持・向上させます。
皮膚にワセリンを塗布することで、摩擦軽減と保湿効果を得られます。
保湿剤の選択は、患者さんの皮膚状態に応じて行います。
乾燥肌にはワセリンや尿素系保湿剤、敏感肌にはセラミド系保湿剤を選択します。
塗布方法は、皮膚に負担をかけないよう、優しくマッサージするように行います。
清拭方法では、強い摩擦を避け、押さえ拭きを基本とします。
石鹸の選択も重要で、弱酸性で保湿成分を含む製品を選択します。
皮膚保護フィルムや皮膚保護剤の使用を検討し、摩擦やずれから皮膚を保護します。
温度管理にも注意し、熱すぎるお湯や冷たい水の使用を避けます。
4. 栄養管理と栄養サポート
栄養バランスの取れた食事の提供により、創傷治癒を促進し、皮膚の健康を維持します。
タンパク質摂取量は、体重1kgあたり1.2-1.5gを目標とします。
カロリー摂取量は、基礎代謝量に活動係数とストレス係数を乗じて算出します。
ビタミンC(創傷治癒促進)、亜鉛(細胞分裂促進)、ビタミンA(上皮化促進)の摂取を重視します。
水分摂取量は、1日30-35ml/kgを目標とし、脱水を予防します。
摂食困難がある場合は、栄養補助食品や経管栄養の検討を行います。
管理栄養士との連携により、個別の栄養計画を立案します。
血液検査による栄養状態の定期的な評価を実施します。
5. 身体活動の最適化と運動療法
身体活動を最適化することで、血行改善と筋力維持を図ります。
関節可動域運動により、関節拘縮を予防し、適切なポジショニングを可能にします。
筋力訓練により、自力での体位変換能力を向上させます。
車椅子乗車や歩行訓練により、全身の血行改善を図ります。
理学療法士や作業療法士との連携により、個別の運動プログラムを立案します。
運動強度は患者さんの状態に応じて調整し、過度な負担を避けます。
マッサージや温熱療法により、局所の血行改善を促進します。
活動時のバイタルサインを監視し、安全性を確保します。
教育計画(EP)の重要性と実践
1. 褥瘡予防の重要性の教育
患者さんや家族に対して、褥瘡予防の重要性を分かりやすく説明します。
褥瘡の合併症(感染、疼痛、治療期間の延長)について具体的に説明します。
予防の効果と治療の困難さを対比して説明し、予防の重要性を強調します。
生活の質への影響について説明し、予防への動機づけを行います。
視覚的教材(写真、イラスト、動画)を活用し、理解を促進します。
患者さんの理解度を確認し、必要に応じて繰り返し説明を行います。
2. 褥瘡の初期症状についての教育
褥瘡の早期発見のため、初期症状について詳しく教育します。
皮膚の発赤、硬結、熱感、疼痛などの初期症状を説明します。
指圧テストの方法を実演し、家族でも実施できるよう指導します。
正常な皮膚との違いを写真や実物で示し、異常の識別を支援します。
報告すべき症状を明確に示し、迅速な対応を促します。
観察の頻度と観察のポイントを具体的に指導します。
3. 栄養バランスの重要性についての教育
栄養が褥瘡予防に与える影響について詳しく説明します。
タンパク質、ビタミン、ミネラルの役割を具体的に説明します。
推奨される食品と避けるべき食品について指導します。
水分摂取の重要性と適切な摂取量について説明します。
栄養補助食品の活用方法を指導します。
食事記録の方法を教え、栄養管理の自己監視を支援します。
4. 体位変換の必要性と方法の指導
定期的な体位変換の重要性と正しい方法を指導します。
体位変換の目的(圧迫軽減、血行改善)を説明します。
適切な頻度(2時間おき)と体位変換のタイミングを指導します。
安全な体位変換の方法を実演し、家族にも実施してもらいます。
摩擦とずれを避ける技術を具体的に指導します。
体位変換時の注意点(呼吸状態、疼痛の確認)を説明します。
体位変換用具の使用方法を指導します。
5. 家族向けスキンケア指導
家族がスキンケアを実施できるよう、詳細な指導を行います。
皮膚観察の方法と観察のポイントを実演します。
清拭の方法(優しい拭き方、適切な温度)を指導します。
保湿剤の塗布方法と適切な量を実演します。
オムツ交換時の注意点(皮膚の保護、清潔の維持)を指導します。
皮膚トラブル時の対応方法を具体的に説明します。
使用する用品の選択方法と入手方法を説明します。
褥瘡リスクアセスメントツールの活用
ブレーデンスケールの活用
ブレーデンスケールは、世界的に使用されている褥瘡リスク評価ツールです。
感覚の認知、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦とずれの6項目で評価します。
総得点が18点以下で褥瘡リスクありと判定されます。
定期的な評価により、リスクの変化を把握し、適切な介入を行います。
OHスケールの活用
OHスケールは、日本で開発された褥瘡リスク評価ツールです。
自力体位変換、栄養状態、皮膚の湿潤の3項目で評価します。
簡便で実用的な評価ツールとして、臨床現場で広く使用されています。
合併症の予防と管理
感染予防
褥瘡部位の感染は、創傷治癒を著しく遅延させます。
清潔の維持、適切な創傷管理、全身状態の管理により感染を予防します。
感染兆候(発熱、創部の発赤・腫脹・熱感・排膿)の早期発見に努めます。
疼痛管理
褥瘡に伴う疼痛は、患者さんの生活の質を大きく低下させます。
疼痛評価スケールを用いて疼痛を定量化し、適切な疼痛管理を行います。
薬物療法と非薬物療法を組み合わせた総合的な疼痛管理を実施します。
多職種連携の重要性
褥瘡予防と治療には、多職種チームでの連携が不可欠です。
医師との連携により、全身状態の管理と治療方針の決定を行います。
栄養士との連携により、栄養管理の最適化を図ります。
理学療法士・作業療法士との連携により、リハビリテーションを推進します。
薬剤師との連携により、適切な外用薬の選択と指導を行います。
医療ソーシャルワーカーとの連携により、退院後の支援体制を構築します。
退院指導と継続ケア
入院中の褥瘡予防ケアを退院後も継続できるよう、包括的な指導を行います。
自宅環境の評価を行い、必要な福祉用具の導入を支援します。
介護保険サービスの利用について説明し、適切なサービスの選択を支援します。
かかりつけ医や訪問看護ステーションとの連携により、継続的なケアを確保します。
緊急時の対応について指導し、適切な医療機関への受診を促します。
まとめ
褥瘡リスク状態の看護計画は、予防に重点を置いた包括的なアプローチが重要です。
適切なリスクアセスメント、継続的な観察、エビデンスに基づいた介入により、褥瘡の発生を予防できます。
患者さんの個別性を重視し、多職種チームでの連携により、最適な看護ケアを提供することが求められます。
看護師は、褥瘡予防に関する最新の知識と技術を習得し、継続的な質の向上に努めることが重要です。
また、患者さんや家族への教育を通じて、セルフケア能力の向上を支援し、褥瘡予防の効果を高めることができます。
褥瘡は予防可能な合併症であり、適切な看護実践により、患者さんの安全と快適性を確保できます。
エビデンスに基づいた看護実践を継続し、患者さんの最善の利益を追求することが、看護師の重要な役割となります。










