はじめに
こんにちは。今回は、消化器疾患の中でも特に重要な潰瘍性大腸炎について、看護師さんや看護学生の皆さんに向けて、わかりやすく解説していきたいと思います。病態から検査値の見方、患者さんへのケアまで、じっくりとお伝えしていきます。
潰瘍性大腸炎の基礎知識
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、潰瘍ができる病気です。この病気の大きな特徴は、炎症が直腸から連続的に上行性に広がっていくということです。クローン病と違って、炎症が飛び飛びに起こることはありません。
この病気は、20代から30代の若い世代に多く発症します。慢性的な経過をたどることが多く、患者さんは長期的な治療を必要とします。仕事や学業との両立に苦労される方も多いので、看護師として患者さんの生活背景を理解することが大切です。
発症の原因と仕組み
潰瘍性大腸炎の正確な原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、いくつかの重要な要因が分かっています。
まず、免疫システムの異常が大きな要因として考えられています。通常、私たちの免疫システムは外敵から体を守ってくれますが、潰瘍性大腸炎では自分の大腸の粘膜を攻撃してしまいます。これを医学用語で自己免疫疾患と呼びます。
次に、腸内細菌叢のバランスの乱れも重要な要因です。私たちの腸の中には、たくさんの善玉菌や悪玉菌が住んでいます。このバランスが崩れることで、炎症が起こりやすくなると考えられています。
また、ストレスや食生活の乱れ、遺伝的な要因なども、発症や症状の悪化に関係していると言われています。
主な症状と特徴
潰瘍性大腸炎の症状は、患者さんによって様々です。主な症状について詳しく見ていきましょう。
下痢は最も一般的な症状です。多くの患者さんが、一日に何度もトイレに行く必要があります。便には粘液や血液が混じることが多く、これを血性下痢と呼びます。
腹痛も重要な症状です。特に排便前に痛みを感じることが多いです。場所は主に下腹部で、けいれんのような痛みを感じる方もいます。
発熱は炎症による症状です。38度以上の高熱が出ることもありますが、微熱程度のことも多いです。
検査の種類と見方
血液検査
血液検査は、病気の活動性や患者さんの全身状態を評価する上で非常に重要です。主な検査項目を詳しく見ていきましょう。
CRP(C反応性タンパク)は炎症の程度を示す重要な指標です。正常値は0.3mg/dL以下ですが、炎症が起きると上昇します。値が高いほど、炎症が強いということになります。
赤血球沈降速度(赤沈)も炎症の指標として大切です。正常値は、1時間値で男性が10mm以下、女性が15mm以下です。炎症があると、この値は上昇します。ただし、女性は生理的に高めになりやすいことを覚えておきましょう。
白血球数(WBC)も重要な指標です。炎症があると通常は増加しますが、中には正常範囲内のこともあります。白血球数が10,000/μL以上になると、かなり強い炎症が疑われます。
ヘモグロビン(Hb)は貧血の有無を確認するために重要です。潰瘍性大腸炎では、慢性的な出血により貧血になることが多いです。女性は12g/dL以上、男性は13g/dL以上が正常値です。
便検査
便検査も重要な検査の一つです。便潜血検査は、肉眼では見えない程度の出血も検出できます。また、便培養検査では、感染性腸炎との区別に役立ちます。
内視鏡検査
内視鏡検査は、潰瘍性大腸炎の診断に欠かせない検査です。大腸の中を直接観察することで、以下のような特徴的な所見を確認できます:
粘膜の発赤やびらん、潰瘍などが見られます。特に重要なのは、これらの変化が直腸から連続的に広がっているという点です。また、血管透見像の消失も特徴的な所見です。
重症度の評価
重症度の評価は、治療方針を決める上で非常に重要です。以下の項目を総合的に判断して評価します。
臨床症状による評価
排便回数は重要な指標です。1日4回以下なら軽症、4~6回なら中等症、6回以上なら重症と考えられます。また、血便の程度や発熱の有無も重要です。
検査データによる評価
血液検査では、以下の項目が重症度の判定に使われます:
- ヘモグロビン値:10g/dL以下になると重症
- CRP:高値ほど重症
- アルブミン:3.0g/dL以下になると重症
看護ケアのポイント
1. 排便管理
排便回数が多い患者さんへのケアは非常に重要です。以下のような支援が必要です:
肛門周囲のスキンケアをしっかり行います。頻回な排便により、肛門周囲の皮膚が荒れやすいためです。皮膚保護剤の使用や、優しい拭き取り方の指導が大切です。
トイレの位置や使いやすさにも配慮が必要です。特に入院中は、病室からトイレまでの距離や、使用状況などに気を配りましょう。
2. 栄養管理
潰瘍性大腸炎の患者さんは、栄養管理が非常に重要です。以下のような点に注意が必要です:
食事内容は、急性期と寛解期で異なります。急性期には低残渣食が基本となりますが、寛解期には徐々に普通食に移行していきます。
水分補給も大切です。下痢による脱水を防ぐため、十分な水分摂取を促します。
3. 精神的サポート
潰瘍性大腸炎は、患者さんの精神的負担も大きい病気です。以下のようなサポートが必要です:
患者さんの不安や悩みに耳を傾けることが大切です。特に若い患者さんは、学業や仕事への影響を心配されることが多いです。
生活指導では、ストレス管理の方法について具体的にアドバイスすることが重要です。
4. 生活指導
患者さんが日常生活を送る上で、以下のような指導が必要です:
- 規則正しい生活リズムの維持
- 適度な運動の推奨
- 禁煙指導(喫煙は症状を悪化させる可能性があります)
- 服薬管理の支援
まとめ
潰瘍性大腸炎は、患者さんの生活に大きな影響を与える慢性疾患です。看護師として、患者さんの症状や検査値を正しく理解し、適切なケアを提供することが求められます。
特に、若い世代に多い病気であることを念頭に置き、患者さんの生活背景や心理面にも配慮した看護を心がけましょう。また、定期的な検査値のチェックと症状の観察を通じて、早期に症状の悪化を発見できるよう注意を払うことが大切です。
この記事で学んだ知識を、日々の看護実践に活かしていただければ幸いです。