はじめに
こんにちは。今回は、消化器疾患の中でも特に頻度の高い胃・十二指腸潰瘍について、看護師さんや看護学生の皆さんに向けて、わかりやすく解説していきます。この疾患の病態生理から、検査、治療、そして看護ケアまで、実践的な内容をお伝えしていきましょう。
胃・十二指腸潰瘍とは
胃・十二指腸潰瘍は、胃や十二指腸の粘膜が損傷を受け、深いびらんや潰瘍ができる疾患です。潰瘍は粘膜の表面だけでなく、粘膜下層やさらに深い層にまで及ぶことがあります。この状態を放置すると、出血や穿孔(胃や腸に穴が開くこと)という重大な合併症を引き起こす可能性があります。
発症のメカニズム
胃・十二指腸潰瘍は、主に攻撃因子と防御因子のバランスが崩れることで発症します。
攻撃因子には以下のようなものがあります:
- 胃酸(塩酸)
- ペプシン(タンパク質分解酵素)
- ヘリコバクター・ピロリ菌の感染
一方、防御因子には以下のようなものがあります:
- 粘液の分泌
- 重炭酸塩の分泌
- 粘膜の血流
- 細胞の再生能力
これらの防御因子が弱まったり、攻撃因子が強まったりすることで、潰瘍が形成されます。
主な原因
1. ヘリコバクター・ピロリ菌感染
ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃潰瘍の最も重要な原因の一つです。この細菌は胃の中で生存し、以下のような問題を引き起こします:
- 胃の粘膜に炎症を起こす
- 胃酸の分泌を増加させる
- 粘膜の防御機能を低下させる
2. NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用
関節リウマチや腰痛などで使用されるNSAIDsも、重要な原因の一つです。これらの薬剤は以下のような作用で潰瘍を引き起こします:
- 胃の粘液分泌を減少させる
- 胃の血流を低下させる
- プロスタグランジンの合成を阻害する
3. ストレス
精神的・身体的なストレスも潰瘍の原因となります。ストレスは以下のような影響を与えます:
- 胃酸分泌の増加
- 胃粘膜の血流低下
- 自律神経系のバランス崩壊
典型的な症状と特徴
胃・十二指腸潰瘍の症状は多様ですが、最も特徴的なのは心窩部痛(みぞおちの痛み)です。この痛みには以下のような特徴があります:
空腹時痛は、特に十二指腸潰瘍に多く見られます。食事をすると痛みが和らぐことが特徴です。一方、食後痛は胃潰瘍に多く、食事をすると痛みが強くなります。
また、以下のような症状も見られます:
- 胸やけ
- 吐き気・嘔吐
- 食欲不振
- 体重減少
検査と診断
1. 内視鏡検査
内視鏡検査は、最も確実な診断方法です。この検査では以下のことが可能です:
- 潰瘍の大きさや深さの直接観察
- 出血の有無の確認
- 生検(組織採取)による悪性腫瘍の除外
- ヘリコバクター・ピロリ菌の検査
2. ヘリコバクター・ピロリ菌の検査
ピロリ菌の検査には複数の方法があります:
迅速ウレアーゼ試験は、内視鏡検査で採取した胃粘膜を用いて行います。結果が短時間で分かるのが特徴です。
尿素呼気試験は、特殊な薬を飲んでから呼気を採取して検査します。非侵襲的で患者さんの負担が少ないのが利点です。
血清抗体検査は、血液検査でピロリ菌への感染歴を調べます。ただし、除菌後も陽性が続くことがあるので注意が必要です。
治療の基本方針
1. 薬物療法
薬物療法の基本は以下の通りです:
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃酸の分泌を強力に抑制する薬です。現在の潰瘍治療の中心的な薬剤となっています。
H2受容体拮抗薬も、胃酸分泌を抑制する薬です。PPIと比べると作用は弱いですが、夜間の胃酸分泌抑制に効果があります。
2. ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法
ピロリ菌が陽性の場合は、除菌療法が必要です。通常は以下の3剤を組み合わせて行います:
- プロトンポンプ阻害薬
- アモキシシリン(抗生物質)
- クラリスロマイシン(抗生物質)
看護ケアのポイント
1. 食事指導
潰瘍の患者さんへの食事指導は非常に重要です。以下のような点に注意が必要です:
規則正しい食事時間を守ることが大切です。空腹時間が長くなると胃酸が過剰に分泌され、症状が悪化する可能性があります。
刺激物を避けることも重要です。特に急性期には、香辛料の強い食べ物やアルコール、カフェインの摂取を控えめにするよう指導します。
2. 生活指導
生活習慣の改善も治療の重要な部分です:
禁煙指導が必要です。喫煙は胃粘膜の血流を低下させ、潰瘍の治りを遅くします。
ストレス管理も大切です。ストレス解消法を見つけ、実践するよう支援します。
3. 服薬指導
確実な服薬は治療成功の鍵となります:
PPIは食前に服用する必要があります。その理由と具体的な服用時間を説明します。
除菌療法を行う場合は、3種類の薬を決められた期間、確実に服用することの重要性を説明します。
合併症と注意点
1. 出血
潰瘍からの出血は最も注意が必要な合併症です。以下のような症状に注意します:
- 黒色便
- 吐血
- めまいや立ちくらみ
- 顔色不良
2. 穿孔
潰瘍が深くなり、胃や腸に穴が開く状態を穿孔と呼びます。以下のような症状が見られます:
- 急激な腹痛
- 板状硬の腹部
- 発熱
- ショック症状
まとめ
胃・十二指腸潰瘍は、適切な治療と生活習慣の改善で治すことができる病気です。しかし、放置すると重大な合併症を引き起こす可能性があります。
看護師として、患者さんの症状をよく観察し、適切な生活指導を行うことが重要です。特に、食事や服薬に関する指導は、治療の成功に大きく影響します。
この記事で学んだ知識を、日々の看護実践に活かしていただければ幸いです。