立ち上がることや立っている姿勢を保つことは、私たちが当たり前のように行っている動作です。
しかし、病気や怪我、加齢などによって、この立位という基本的な動作が困難になることがあります。
立位障害は、患者さんの日常生活に大きな制限をもたらし、歩行や移動、さらには排泄や入浴といった生活全般に影響を及ぼします。
看護師として、立位障害を抱える患者さんに対して適切な支援を提供することは、その方の生活の質を守るために欠かせません。
今回は、立位障害のある患者さんへの看護計画について、詳しく解説していきます。
立位障害とは
立位障害とは、立ち上がる動作や立位を保持することが難しい状態を指します。
この障害は、単に足の力が弱いだけでなく、バランス感覚の問題や関節の痛み、神経系の異常など、様々な要因が絡み合って起こります。
たとえば、脳卒中後の片麻痺では、身体の片側に力が入らず、バランスを取ることが難しくなります。
パーキンソン病では、筋肉の硬さや震えによって、スムーズに立ち上がることができません。
骨折後の患者さんでは、痛みや不安から立位を避けてしまい、徐々に筋力が低下していくこともあります。
高齢者の場合は、複数の要因が重なって立位障害が起こりやすくなっています。
立位障害が起こる主な原因
立位障害の原因は、患者さんによって異なります。
筋力低下は、最も多く見られる原因の一つです。
下肢の筋肉、とりわけ大腿四頭筋や下腿三頭筋の力が弱くなると、体重を支えることが難しくなります。
長期間のベッド上安静や活動量の減少によって、筋肉は急速に衰えていきます。
バランス能力の低下も大きな要因です。
小脳の障害や前庭機能の問題、視覚の衰えなどによって、身体の平衡を保つことが難しくなります。
関節の問題では、変形性関節症や関節リウマチなどによる痛みや可動域制限が、立位を困難にします。
神経系の障害として、脳血管障害や脊髄損傷、末梢神経障害などがあります。
これらは、筋肉への指令がうまく伝わらなかったり、感覚が鈍くなったりして、立位に影響します。
循環器系の問題も見逃せません。
起立性低血圧では、立ち上がった瞬間に血圧が下がり、めまいやふらつきが起こります。
心不全などで循環動態が不安定な場合も、立位の維持が難しくなります。
立位障害がもたらす影響
立位ができないことは、患者さんの生活に様々な影響を及ぼします。
移動能力の制限は、最も直接的な影響です。
立てなければ歩けませんし、トイレや浴室への移動も困難になります。
日常生活動作の自立度が低下し、多くの場面で介助が必要になります。
転倒のリスクも高まります。
不安定な立位のまま無理に動こうとすると、バランスを崩して転んでしまう危険性があります。
転倒は骨折や頭部外傷につながり、さらなる活動制限を招く悪循環に陥ります。
筋力や骨密度の低下も進行します。
立つことや歩くことは、骨に適度な負荷をかけて骨密度を維持する働きがあります。
立位ができなくなると、この刺激が失われ、骨がもろくなっていきます。
心理面への影響も深刻です。
自分で立てないという事実は、患者さんに大きな無力感をもたらします。
外出や社会参加の機会が減り、孤立感や抑うつ傾向が強まることもあります。
家族の介護負担も増加します。
移乗や移動の介助は身体的にも精神的にも負担が大きく、介護者の疲労やストレスにつながります。
看護目標の設定
立位障害のある患者さんへの看護では、段階的な目標設定が重要です。
長期目標
患者さんが安全に立位を保持し、3か月後には介助または補助具を使用しながらでも、日常生活の中で立位動作を取り入れた生活を送れるようになる。
短期目標
下肢筋力を向上させ、2週間後には現在より筋力評価が1段階以上改善する。
座位から立位への移行動作を習得し、1週間後には見守りレベルで立ち上がりができるようになる。
立位保持時間を延長し、10日後には現在より30秒以上長く立っていられるようになる。
観察項目
立位障害のある患者さんに対する観察は、多角的に行う必要があります。
バイタルサインの測定では、血圧を臥位と立位の両方で測り、起立性低血圧の有無を確認します。
脈拍や呼吸状態も、立位時にどのように変化するかを見ていきます。
筋力の評価は、下肢を中心に行います。
大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋、前脛骨筋など、立位に関わる主要な筋肉の力を確認します。
徒手筋力テストで0から5段階、または0から6段階で評価し、経時的な変化を記録します。
関節可動域の測定では、股関節、膝関節、足関節の動きをチェックします。
屈曲や伸展、外転や内転など、各方向への可動性を角度で記録します。
バランス能力の評価も大切です。
座位でのバランス、立位でのバランス、片足立ちができるかなど、段階的に確認していきます。
ロンベルグテストやファンクショナルリーチテストなどの評価方法も活用します。
疼痛の有無と程度を確認します。
どの部位に痛みがあるのか、どのような動作で痛みが強くなるのか、痛みの性質はどうかなど、詳しく聞き取ります。
めまいやふらつきの訴えにも注意を払います。
立ち上がった時にクラクラする、目が回るなどの症状があれば、その頻度や持続時間を把握します。
精神状態の観察では、立位への恐怖心や不安感の程度を見ていきます。
表情や発言、訓練への参加意欲などから、心理状態を読み取ります。
日常生活動作の自立度については、トイレ動作や入浴動作、更衣動作など、立位が必要な場面でどの程度できるかを評価します。
看護ケアの実施
立位障害のある患者さんへのケアは、安全性を最優先に、段階的に進めていきます。
筋力訓練は、立位の基盤となる下肢筋力を強化します。
ベッド上での運動から始めます。
仰臥位で膝を曲げ伸ばしする運動や、足首を上下に動かす運動などを行います。
抵抗運動では、セラバンドやタオルを使って負荷をかけます。
座位での運動も効果的です。
椅子に座った状態で膝の伸展運動を行ったり、つま先立ちの動作を繰り返したりします。
回数は、10回を1セットとして、1日に3セットから5セット程度を目安にします。
バランス訓練は、徐々に難易度を上げていきます。
まずは座位でのバランス練習から始めます。
背もたれなしで座る、片手を離す、両手を離すと、段階的に進めます。
立位練習では、最初は平行棒や手すりを使って、しっかりと支えを確保します。
両手でつかまって立つ、片手でつかまって立つ、軽く触れる程度にする、と少しずつ支持を減らしていきます。
重心移動の練習も取り入れます。
立った状態で前後左右に体重を移す動作は、バランス能力の向上に役立ちます。
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立ち上がり動作の訓練では、正しい方法を指導します。
椅子に浅く腰掛け、足を引いて、上体を前傾させてから立ち上がるという基本動作を、段階を追って練習します。
最初は両手で手すりをつかみ、次に片手、最後は手すりなしでできることを目指します。
立位保持の練習では、時間を徐々に延ばしていきます。
最初は30秒、次は1分、2分と、患者さんの状態に合わせて増やしていきます。
疲労が強い場合は無理をせず、休憩を挟みながら行います。
補助具の活用も検討します。
歩行器や杖、装具などを適切に使用することで、安全に立位を取ることができます。
理学療法士と相談しながら、患者さんに合った補助具を選びます。
環境整備は、転倒予防の観点から重要です。
ベッド周囲に手すりを設置したり、床に滑り止めマットを敷いたりします。
履物は、滑りにくく足にフィットしたものを選びます。
疼痛管理も欠かせません。
痛みがあると、患者さんは立位を避けてしまいます。
痛みの程度を評価し、必要に応じて鎮痛薬の使用を医師に相談します。
温罨法や冷罨法、マッサージなども、状況に応じて活用します。
循環動態の管理では、起立性低血圧への対応が必要です。
急に立ち上がらず、ゆっくりと段階的に姿勢を変えることを指導します。
弾性ストッキングの使用や、水分摂取の促進なども有効です。
患者さんへの教育
患者さん自身が立位障害について理解し、積極的に訓練に取り組めるよう支援します。
立位の重要性について説明します。
立つことは、筋力や骨密度を維持するだけでなく、内臓の働きや精神状態にも良い影響を与えることを伝えます。
安全な立ち上がり方を指導します。
急に立たない、必ず支えを使う、めまいを感じたらすぐに座るなど、転倒を防ぐための注意点を具体的に教えます。
自分でできる運動方法を伝えます。
ベッド上でできる運動や、座ったままできる運動など、一人でも安全に行える方法を実際にやって見せながら指導します。
運動の回数や頻度についても、分かりやすく説明します。
無理をせず、痛みが出ない範囲で続けることが大切だと伝えます。
めまいやふらつきが起きた時の対処方法も教えます。
すぐに座る、頭を低くする、深呼吸をするなど、その場でできる対応を練習します。
補助具の使い方を丁寧に指導します。
杖の持ち方、歩行器の高さ調整、装具の着脱方法など、正しい使用方法を身につけてもらいます。
家族への指導も行います。
介助の方法や見守りのポイント、緊急時の対応などを、実際に体験してもらいながら伝えます。
過度な介助は患者さんの自立を妨げることも説明し、適切な距離感を保つよう助言します。
多職種との連携
立位障害のある患者さんへのケアは、チームでの取り組みが欠かせません。
理学療法士は、立位訓練や歩行訓練の専門家です。
具体的な訓練内容や進め方について相談し、病棟でのケアに活かします。
訓練の効果や患者さんの反応を共有し、計画を調整していきます。
作業療法士は、日常生活動作の訓練を担当します。
トイレ動作や入浴動作など、実生活に即した訓練を提供してもらいます。
自助具の選定や環境調整についても助言を得ます。
医師とは、治療方針や活動制限の程度について確認します。
患者さんの状態変化や訓練中の異常があれば、速やかに報告します。
薬剤の調整が必要な場合も、医師と相談します。
栄養士には、筋力維持に必要な栄養について相談します。
たんぱく質やビタミン、ミネラルなど、適切な栄養が摂取できているか確認します。
食事摂取量が少ない場合は、栄養補助食品の使用も検討します。
医療ソーシャルワーカーは、退院後の生活環境の調整を支援してくれます。
自宅の改修や介護サービスの導入、福祉用具のレンタルなど、様々な相談に乗ってもらえます。
薬剤師とは、使用している薬の効果や副作用について情報交換します。
めまいを起こしやすい薬や筋力に影響する薬など、注意が必要な薬剤について確認します。
評価とケアの見直し
設定した目標の達成度を定期的に評価することが大切です。
短期目標については、1週間から2週間ごとに確認します。
筋力は徒手筋力テストで、立位保持時間は実際に測定して、数値で評価します。
立ち上がり動作は、介助量や安定性を観察して判断します。
目標が達成できていれば、次の段階に進みます。
たとえば、見守りで立てるようになったら、次は手すりを使って数歩歩くことを目指します。
目標が達成できていない場合は、原因を探ります。
訓練の頻度が足りなかったのか、方法が適切でなかったのか、患者さんの体調が悪かったのかなど、様々な角度から分析します。
必要に応じて、訓練内容や方法を変更します。
負荷が強すぎた場合は軽くし、逆に物足りない場合は少し難易度を上げます。
患者さんの意見や感想も大切にします。
訓練がつらい、痛みがある、不安が強いなどの訴えがあれば、それに応じて計画を調整します。
長期目標についても、月に1回程度は見直します。
回復のスピードが予想より早い場合は目標を上方修正し、難しい場合は現実的な目標に変更します。
記録を丁寧に残すことも重要です。
日々の訓練内容や患者さんの反応、測定値などを詳しく記録し、経過を把握できるようにします。
まとめ
立位障害のある患者さんへの看護は、安全性を確保しながら、段階的に能力を向上させていくことが基本です。
観察をしっかり行い、筋力やバランス、疼痛の状態を把握した上で、個別的なケアを提供することが大切です。
筋力訓練やバランス訓練、立ち上がり動作の練習など、基本的なケアを丁寧に実施し、患者さんの小さな進歩も見逃さずに評価していきます。
患者さん自身が訓練の意義を理解し、主体的に取り組めるよう教育することも重要です。
多職種と協力しながら、それぞれの専門性を活かした包括的な支援を行うことで、より良い結果が得られます。
看護師として、患者さんが再び立つ喜びを感じられるよう、根気強く支援していきたいものです。
立位ができるようになることは、患者さんにとって大きな自信につながります。
その一歩一歩の進歩を共に喜び、励まし続けることが、看護師の大切な役割です。
転倒への恐怖心や不安を抱えながらも、前向きに訓練に取り組む患者さんの姿勢を尊重し、寄り添う姿勢を忘れないようにしましょう。
この記事が、立位障害のある患者さんへの看護を考える上で、少しでもお役に立てれば幸いです。








