排泄は、人が生きていくうえで毎日欠かせない行為です。
食事や睡眠と並んで、生活の質に大きく関わる動作でありながら、「他人の手を借りる」ことへの心理的な抵抗感がとりわけ大きいのも排泄の特徴です。
入院や手術、加齢、疾患の進行などによって、トイレまで歩けない・便座に座れない・尿意や便意を感じにくい・間に合わないといった状況が生まれると、患者さんの自尊心は大きく傷つきます。
看護師として排泄ケアに関わるとき、単に「失禁の処理」や「ポータブルトイレへの移動介助」として捉えるのではなく、排泄の自立を取り戻すこと・できる限り維持することを中心に据えた関わりが大切です。
このブログでは、排泄自立性低下の原因から看護計画の立て方まで、看護学生や若手ナースがすぐに実践に活かせるよう、わかりやすくまとめました。
排泄自立性低下が起こる原因を整理する
排泄が自力でできなくなる原因は多岐にわたります。
一つの原因だけではなく、複数の要因が重なっていることが多く、アセスメントには幅広い視点が必要です。
▼ 運動機能・身体機能の問題
筋力低下と廃用症候群は、排泄自立性低下の代表的な背景です。
長期臥床や術後安静によって下肢筋力が落ちると、トイレまでの歩行やベッドからの立ち上がりが難しくなります。
便座への座位保持や下衣の着脱も、体幹筋力や上肢筋力が必要な動作であり、これらの低下が排泄動作全体に影響します。
麻痺も大きな要因です。
脳血管疾患後の片麻痺・対麻痺・脊髄損傷による下肢麻痺があると、移動・移乗・衣服の操作のすべてに支障が生じます。
疼痛も排泄動作を妨げます。
骨折後・術後・がん性疼痛がある患者さんは、痛みで動くことを避けるようになり、自力での排泄をあきらめてしまうことがあります。
バランス障害がある場合も、便座への座位保持や立ち上がりの際に転倒のリスクが高まります。
▼ 排泄機能そのものの問題
尿失禁・便失禁には、複数の種類があります。
腹圧性尿失禁(咳やくしゃみで漏れる)・切迫性尿失禁(急に強い尿意が来て間に合わない)・溢流性尿失禁(膀胱が過剰に膨らんで少しずつ漏れる)・機能性尿失禁(トイレに間に合わない身体的・認知的な問題による)など、種類によって対応が変わります。
排尿障害としては、前立腺肥大症・神経因性膀胱・術後の尿閉なども排泄自立性の低下につながります。
便秘・下痢は、排便コントロールの難しさを生みます。
腸蠕動の低下による便秘、下痢による急な便意への対応困難、どちらも排泄の自立を難しくする要因です。
▼ 認知・精神的な問題
認知症・認知機能の低下があると、トイレの場所がわからない・尿意や便意を感じても排泄行動に結びつけられない・衣服の上下逆や前後がわからないという状況が生まれます。
せん妄状態では、尿意・便意の訴えが難しくなるうえ、ベッドから勝手に動こうとして転倒リスクが上がります。
うつ状態・意欲の低下も排泄自立性に影響します。
「どうせ間に合わない」「呼ぶのが申し訳ない」という気持ちが積み重なると、自分でトイレに行こうとする意欲が失われます。
羞恥心・自尊心の傷つきも重要な問題です。
失禁を経験した患者さんは、またやってしまうかもしれないという恐れから、飲水量を自分で減らしたり、ナースコールを押せなくなったりすることがあります。
▼ 環境的な問題
病棟のトイレまでの距離が遠い・夜間の照明が暗い・手すりがない・ナースコールが押しにくい位置にある、といった環境の問題が排泄自立性の低下を引き起こすことがあります。
点滴ラインやドレーン類が移動の妨げになっているケースも少なくありません。
排泄動作をアセスメントする視点
排泄自立性のアセスメントには、排泄動作を細かく分けて評価することが有効です。
排泄に必要な動作は、尿意や便意を感じる・ナースコールを押す・ベッドから立ち上がる・歩行またはトイレへの移動・下衣の着脱・便座への座位保持・排尿・排便・後始末(拭く・流す)・衣服を整える、という一連の流れで成り立っています。
どのステップでつまずいているかを把握することで、介入が必要な部分が明確になります。
バーセルインデックスや排泄日誌を活用して、排泄パターン(時間帯・回数・量・失禁の有無)を把握することも大切なアセスメントの手段です。
看護目標
◆ 長期目標
残存機能を最大限に活かしながら、排泄動作の自立度が段階的に向上し、尊厳を保った排泄が実現できる。
◆ 短期目標
① 尿意や便意を感じたときに適切にナースコールを押すか、または自力でトイレに向かうことができ、失禁の回数が減少する。
② 羞恥心や恐怖感が和らぎ、排泄に関する訴えや意思表示が積極的にできるようになる。
③ 転倒などの事故なく、安全な環境の中で排泄動作の練習が続けられる。
観察計画(観察のポイント)
▼ 排泄機能の観察
排尿回数・排尿量・尿の性状(色・混濁・臭い)を観察します。
失禁の有無・種類(腹圧性・切迫性・溢流性・機能性)・失禁が起きるタイミングと状況を把握します。
残尿の有無を確認します。
膀胱超音波で残尿量を測定し、溢流性尿失禁や排尿困難がないかを評価します。
排便回数・便の性状(ブリストル便形状スケール)・腹部の張りや蠕動音を観察します。
下痢・便秘・便失禁の有無と、その状況を把握します。
▼ 身体機能の観察
下肢筋力・体幹筋力・上肢筋力を評価します。
ベッドからの立ち上がり動作・歩行の安定性・移乗動作の状態を観察します。
バランス機能(静的・動的)と転倒リスクを評価します。
疼痛の有無・部位・動作時の増強を把握します。
下衣の着脱に必要な手指の巧緻性と関節可動域を確認します。
▼ 認知・精神機能の観察
尿意・便意の知覚の有無と、排泄行動への結びつきを確認します。
認知機能(トイレの場所の認識・手順の理解)を評価します。
意欲の状態・羞恥心・ナースコールを押せているかどうかを把握します。
せん妄・不穏の有無を観察します。
夜間の排泄行動(独歩でトイレへ向かおうとするなど)にも注意を向けます。
▼ 排泄環境の観察
トイレまでの距離・夜間の照明・手すりの位置と使いやすさを確認します。
ナースコールの位置と、患者さんが自力で押せる状況かどうかを確認します。
点滴ライン・ドレーン・チューブ類が移動の妨げになっていないかを観察します。
使用している排泄用品(おむつ・尿取りパッド・ポータブルトイレなど)の状況を把握します。
▼ 皮膚の観察
失禁に伴う陰部・臀部・鼠径部の皮膚の状態を観察します。
発赤・びらん・失禁関連皮膚炎(IAD)の有無と程度を把握します。
皮膚の清潔が保たれているか・保湿が行き届いているかを確認します。
ケア計画(実際に行うケア)
▼ 排泄パターンの把握と定期誘導
排泄日誌をもとに、患者さんの排泄リズムを把握します。
「だいたい食後1時間で尿意が来る」「朝食後に便意がある」といったパターンがわかれば、尿意・便意が来る前にトイレへ誘導することができます。
これを定時排泄誘導と呼び、失禁を事前に防ぐための有効な方法です。
時間を決めてトイレへ案内することで、患者さんが「間に合わなかった」という経験を減らし、自信の回復につながります。
▼ 自立支援型の介助
排泄の介助は、できる部分は患者さん自身に任せることを基本とします。
たとえば、歩行は見守りでトイレまで行ける・下衣を下ろすのは介助が必要・便座への座位保持は自力でできる、という形で、患者さんができる動作とできない動作を細かく分けて関わります。
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全介助にしてしまうことで廃用が進まないよう、毎日の介助の中に「自分でやる場面」を意図的に作ることが大切です。
▼ 環境調整と福祉用具の活用
ベッドサイドにポータブルトイレを設置し、夜間や移動が難しいときの選択肢を増やします。
トイレへの経路の整備も大切です。
夜間用の足元灯の設置・手すりの活用・障害物の除去・スリッパから滑りにくい履物への変更を行います。
ナースコールをベッド柵や手の届く位置に固定し、患者さんが押しやすい状況を整えます。
尿取りパッドの適切なサイズ・種類の選択を行い、不快感と皮膚トラブルを最小限にします。
▼ 排泄機能改善への取り組み
腹圧性尿失禁がある患者さんには、骨盤底筋訓練(肛門や腟を締める運動)を指導します。
継続することで尿道括約筋の収縮力が上がり、失禁の頻度を減らせる可能性があります。
便秘がある患者さんには、水分摂取量の確認・食物繊維を意識した食事内容の確認・腹部マッサージ・歩行などの活動量の維持を取り入れます。
薬剤(下剤・排尿改善薬など)の効果と副作用を観察しながら、医師と連携して調整します。
▼ 皮膚ケア
失禁後は、陰部・臀部を速やかに洗浄・清拭します。
皮膚を強くこすらず、押さえるように拭くことで、摩擦による皮膚への刺激を減らします。
保湿剤・皮膚保護クリームを使って皮膚バリア機能を維持します。
失禁関連皮膚炎が生じている場合は、皮膚科や褥瘡チームと連携してケアを進めます。
▼ 心理的サポート
失禁後の患者さんへの声かけは、責めるような言い方や同情するような言い方を避け、「すぐに対応しますね」と淡々と伝えることが大切です。
「呼んでくれてよかったです」「ナースコールを押してくれてありがとうございます」という声かけが、患者さんが遠慮なくナースコールを押せる雰囲気を作ります。
患者さんの羞恥心に配慮し、カーテンを閉める・不必要に人を呼ばない・さりげなく対応するといった姿勢が、信頼関係の土台になります。
▼ 認知症・せん妄への対応
認知症がある患者さんには、トイレの場所がわかるようにサインを貼る・定時誘導を徹底するといった関わりが有効です。
言葉での説明だけでなく、実際にトイレまでの経路を一緒に歩いて覚えてもらうことも効果的です。
夜間の独歩による転倒リスクには、センサーマットの活用・低床ベッドへの変更・夜間巡回の回数を増やすことで対応します。
教育・指導計画(患者さんと家族への関わり)
▼ 患者さんへの説明
排泄の自立を目指すことが、退院後の生活の質を高めることにつながると伝えます。
「恥ずかしいことではない」「尿意や便意を感じたら、遠慮なくナースコールを押してください」というメッセージを繰り返し伝えます。
骨盤底筋訓練など、患者さん自身が取り組める方法を丁寧に説明します。
飲水を減らすことが失禁対策にならないこと、むしろ膀胱を刺激して切迫性尿失禁を悪化させる可能性があることも伝えます。
▼ 家族への説明と介助方法の指導
家族が面会している際や、退院前の指導の場で、以下のことを丁寧に伝えます。
過剰な介助が廃用を進め、自立回復の妨げになることを説明します。
「全部やってあげたい」という気持ちはとても大切ですが、できる動作は本人にやってもらうことが本人のためになります。
失禁があっても責めたり恥ずかしがらせたりしないよう伝えます。
家族の反応が患者さんの自尊心に大きく影響することを説明します。
自宅でのトイレ環境の整備(手すりの設置・ポータブルトイレの活用・夜間照明の確保)について情報提供します。
▼ 退院後の生活に向けた指導
介護保険サービスの活用(訪問看護・訪問介護・通所リハビリなど)について情報提供し、必要に応じて医療ソーシャルワーカーへつなぎます。
排尿ケアの専門資格を持つ看護師(皮膚・排泄ケア認定看護師)や泌尿器科外来への相談を勧めることも、症状に応じた適切な選択肢です。
自宅での水分摂取・食事内容・活動量の維持が、排便コントロールにつながることを伝えます。
排泄自立性低下に伴う二次的問題
排泄の自立が失われると、身体的な問題だけでなく、さまざまな二次的な影響が生じます。
廃用症候群の悪化は代表的な二次的問題です。
排泄のたびにおむつ交換だけで済ませると、患者さんが動く機会が失われ、下肢筋力・体幹筋力がさらに落ちていきます。
失禁関連皮膚炎(IAD)は、失禁が繰り返されることで陰部・臀部の皮膚が赤くただれる状態です。
放置すると褥瘡の入り口にもなるため、早期からの予防ケアが大切です。
尿路感染症は、失禁状態が続いたり、おむつ内の湿潤環境が持続したりすることで起きやすくなります。
発熱・頻尿・排尿時痛・尿の混濁といった症状に注意します。
抑うつ・社会的引きこもりは、排泄の問題が自尊心を傷つけ、人と関わることへの恥ずかしさや気力の低下につながることで生じます。
排泄ケアの質が、患者さんの精神的な健康にも影響することを忘れないようにしましょう。
転倒・転落リスクの上昇も排泄と切り離せない問題です。
夜間に急な尿意が来て焦ってベッドから降りようとしたとき、または排泄後にふらついたときに転倒事故が起きやすくなります。
排泄ケアにおけるチームの連携
排泄自立性の回復は、多職種が連携して取り組む課題です。
理学療法士は、立ち上がり動作・歩行能力・バランス機能の改善を担います。
作業療法士は、下衣の着脱・トイレでの姿勢保持・自助具の選定を担います。
皮膚・排泄ケア認定看護師は、排尿・排便ケアの専門的な評価と介入を担います。
管理栄養士は、便秘予防・排便コントロールに向けた食事内容の調整を担います。
医師は、排尿障害・排便障害の診断と薬物治療の管理を担います。
社会福祉士・医療ソーシャルワーカーは、退院後の介護サービスや自宅環境の整備を支援します。
看護師は、毎日のケアによって患者さんの変化をリアルタイムで把握し、チーム全体の情報をつなぐ役割を担います。
排泄日誌の記録を丁寧に続けること・カンファレンスで変化を共有すること・退院後の生活を見据えた目標をチームで合わせることが、患者さんの自立回復への道を作ります。
まとめ——排泄ケアで大切にしたいこと
排泄自立性低下の看護計画について、原因から目標設定・観察・ケア・指導まで解説してきました。
最後に大切なポイントを振り返ります。
・排泄自立性の低下には、身体的・認知的・環境的な原因が複合的に関わっている
・アセスメントは、排泄動作を一連のステップに分けて「どこでつまずいているか」を見極める
・看護目標では、尊厳を保った排泄の実現を長期的なゴールとして位置づける
・ケアでは、定時誘導・自立支援型介助・環境調整・心理的サポートを組み合わせる
・失禁後の声かけと関わり方が、患者さんの自尊心と意欲を左右する
・家族への指導は、過剰介助の防止と自宅環境整備の両面から行う
・二次的問題(皮膚炎・尿路感染・転倒・抑うつ)の予防も看護計画に組み込む
排泄ケアは、患者さんの「人としての尊厳」に一番近い場所にあるケアです。
技術だけでなく、声かけの一言・関わりの姿勢・プライバシーへの配慮が、患者さんとの信頼関係を作り、自立への意欲を引き出します。
この記事が、日々のケアや実習の振り返りに少しでも役立てれば嬉しいです。
次回は、移動・歩行自立性低下の看護計画について詳しく解説していく予定です。








