「どうすればいいかわからなくて、ただ落ち込むだけ」
「気がついたら、お酒の量が増えていた」
「病気のことを考えると怖くて、全部忘れようとしてしまう」
病気や入院、生活上の大きなできごとに直面したとき、人はさまざまな方法でそのストレスに対処しようとします。
しかし、その対処の方法が自分や周囲にとって有害なものであったり、問題をさらに悪化させるものであったりするとき、コーピング不適応という状態が生じています。
コーピングとは、ストレスや困難な状況に対処するための認知的・行動的な努力のことを指します。
コーピング不適応は、NANDA-I看護診断のひとつで、ストレスに対処する力が低下しており、その対処行動が患者さん自身の健康や生活に悪影響をもたらしている状態として定義されています。
この記事では、コーピング不適応の看護計画について、看護目標から観察項目・ケア・教育まで幅広くまとめていきます。
コーピング不適応とは
コーピング(対処行動)には、大きく分けてふたつの種類があります。
ひとつは、問題そのものに向き合って解決しようとする問題焦点型のコーピングです。
もうひとつは、ストレスによって生じた感情を調整しようとする情動焦点型のコーピングです。
どちらのコーピングも、状況に応じて使い分けることで、ストレスへの適切な対処につながります。
しかし、コーピング不適応では、これらの対処行動が機能せず、むしろ状況を悪化させる方向に働いています。
たとえば、飲酒・過食・自傷・引きこもり・他者への攻撃・現実逃避・治療への拒否といった行動は、一時的にストレスを和らげるように見えても、長期的には健康や生活に大きな影響を与えます。
コーピング不適応は、慢性疾患・がん・精神疾患・手術後・喪失体験・社会的な困難など、幅広い状況で生じる可能性があり、臨床のさまざまな場面で見られる診断です。
この看護診断が適用されやすい状況
コーピング不適応が適用されやすいのは、次のような状況です。
慢性疾患(糖尿病・心疾患・腎疾患など)の診断後、治療への取り組みを避けたり、自暴自棄になったりしている患者さんに多く見られます。
がんの診断後、強い不安や恐怖から現実を否定し続けたり、治療を拒否したりしている患者さんにも当てはまります。
精神疾患(うつ病・不安障害・パーソナリティ障害など)を持つ患者さんで、ストレスへの反応が自傷・飲酒・過食・引きこもりといった不適切な行動に出やすい方にも適用されます。
大切な人を失った後、悲嘆の中で飲酒量が増えたり、社会的な関係を断ち切ったりしている方にも見られます。
入院や療養生活に適応できず、医療者への攻撃的な言動や治療拒否が続いている患者さんにも当てはまります。
コーピング不適応に関連する要因
この看護診断に関連する要因として、以下のようなものが挙げられます。
ストレスの程度が非常に大きく、これまでの対処方法では対応しきれない状況が関連します。
コーピングスキルの乏しさ、すなわちストレスへの対処方法をあまり知らないことが背景にあることがあります。
社会的サポートの乏しさ・孤立が、コーピング能力を低下させます。
精神疾患の既往や、精神的健康の問題が関連します。
過去のトラウマ体験が、ストレスへの反応を過剰にすることがあります。
自己評価の低さや無力感が、適切な対処行動をとる意欲を低下させます。
疾患や治療に関する知識不足が、現実的な対処を妨げることがあります。
物質(アルコール・薬物)への依存が、コーピングをさらに不適切なものにします。
看護目標
長期目標
患者さんがストレスの原因を理解し、自分に合った適切なコーピング方法を選んで実践しながら、健康的な生活を維持できるようになる。
短期目標
患者さんが今感じているストレスや困難について、看護師に言葉で伝えられるようになる。
患者さんが自分のコーピング行動が自分や周囲にどのような影響をもたらしているかを理解できるようになる。
患者さんが自分に合った適切なコーピング方法をひとつ以上挙げ、試してみることができるようになる。
観察項目(観察計画)
観察項目では、患者さんのストレスの状態と、現在とっているコーピング行動の内容・影響を幅広く把握することが出発点になります。
患者さんが現在どのようなストレスを抱えているかを把握します。疾患・治療・家族関係・経済的な問題・将来への不安など、ストレスの原因と程度を確認します。
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患者さんが現在どのような対処行動をとっているかを観察します。飲酒・過食・引きこもり・他者への攻撃・治療拒否・自傷など、不適切なコーピングのサインを見逃さないようにします。
患者さんの言動に注意を向けます。「どうせ何をしても無駄」「誰もわかってくれない」「もう何もしたくない」といった言葉は、コーピング不適応のサインとして大切な情報です。
睡眠の状態・食欲・体重の変化・日常生活の活動量を確認します。
自傷・自死に関する言動がないかを確認します。リスクがある場合は、すぐに精神科的なサポートへつなぎます。
患者さんの社会的サポートの状況を把握します。家族・友人・支援者との関係性、孤立していないかを確認します。
アルコール・薬物の使用状況についても把握します。
患者さんがこれまでうまく乗り越えてきたできごとと、そのときにとった対処方法を確認します。過去に有効だったコーピングを把握することが、支援の方向性を考えるうえで力になります。
精神疾患の既往や現在の精神的健康の状態についても確認します。
ケア項目(ケア計画)
ケアの基本は、患者さんの対処行動を批判するのではなく、その行動の背景にある苦しさを受け止め、ともに別の方法を探していく姿勢で関わることです。
患者さんの話を評価せず、ありのままに受け止めます。「そんなことをしてはいけない」という否定より、「それほど辛い状況にいるんですね」という共感が、患者さんの心を開くきっかけになります。
患者さんが現在の対処行動をとるようになった経緯を一緒に振り返ります。「どんなときに飲みたくなりますか」「何が一番辛いですか」という問いかけが、患者さん自身のコーピングパターンへの気づきにつながります。
患者さんが過去にうまく乗り越えた経験を一緒に振り返ります。「以前、こんな大変な状況をどうやって乗り越えましたか」という問いかけが、患者さんの中にある対処力を引き出す力になります。
患者さんと一緒に、新しいコーピング方法を探します。深呼吸・散歩・日記を書く・信頼できる人に話す・音楽を聴く・気持ちを絵や文字で表すなど、その患者さんに合った方法を一緒に考えます。
新しいコーピング方法を試してみた後、その結果を一緒に振り返ります。「やってみてどうでしたか」という声かけが、患者さんの自己効力感を育てることにつながります。
自傷・自死のリスクが見られる場合は、すぐに精神科医や公認心理師・臨床心理士へのコンサルテーションを行います。一人で判断せず、チームで対応します。
アルコール・薬物依存が背景にある場合は、依存症の専門的な治療につなぐための連携を行います。
医療ソーシャルワーカーと連携し、経済的な問題・家族関係の問題・社会的な孤立への支援を行います。
家族に対しても、患者さんの状態を伝えながら、家族がどのように関わればよいかを一緒に考える場をつくります。
教育項目(教育計画)
患者さんがコーピングについての知識を持ち、自分に合った対処方法を選んで使えるようになるよう、教育的な関わりを行います。
コーピングとは何かを、難しい言葉を使わずに伝えます。「ストレスや辛いことへの対処の仕方のこと」と説明し、誰でもストレスに対処しようとしていること、その方法には効果的なものとそうでないものがあることを伝えます。
現在の対処行動が一時的にはストレスを和らげているように見えても、長期的には自分の健康や生活に影響を与えていることを、責めるのではなく事実としてわかりやすく伝えます。
新しい対処方法を試すことへの抵抗感を和らげます。「最初は慣れないかもしれませんが、少しずつ試してみましょう」という言葉が、患者さんの一歩を後押しします。
自分の気持ちに気づく力を育てることの大切さを伝えます。「今、自分はどんな気持ちか」を意識することが、コーピングの選択に気づくきっかけになることを伝えます。
ストレスを感じたときに一人で抱え込まず、誰かに話すことの大切さを伝えます。話すこと自体がコーピングのひとつであることを伝え、看護師や医療者への相談を遠慮しなくてよいことを繰り返し伝えます。
利用できる支援機関(精神科外来・依存症専門外来・精神保健福祉センター・地域の相談窓口など)について情報を提供します。
退院後も不適切なコーピングが続く可能性があることを伝え、継続的なフォローアップについての情報を提供します。
看護師として意識したいこと
コーピング不適応の看護計画を実践するうえで、看護師自身の姿勢がとても大切な意味を持ちます。
患者さんの不適切なコーピング行動を見たとき、看護師の中に「なぜそんなことをするのか」という感情が生じることがあります。しかしその行動の背景には、患者さんなりの苦しさと必死の対処があることを忘れないことが大切です。
批判や説得よりも、共感と傾聴が、患者さんの変化につながります。患者さんが「この人には話してもいい」と感じられる関係性をつくることが、支援の出発点です。
コーピング不適応は一度の関わりで改善するものではありません。時間をかけて信頼関係を築きながら、少しずつ変化を支えていく姿勢が大切です。
自傷・自死のリスクや、アルコール・薬物依存が関わる場合は、看護師だけで対応しようとせず、精神科医・公認心理師・依存症専門家・医療ソーシャルワーカーと連携しながらチームで関わることが、患者さんの安全を守る力になります。
患者さんが新しいコーピング方法を試した変化を見逃さず、「やってみたんですね」「少し変わりましたね」と具体的に伝えることが、患者さんの自信を育てる力になります。日々の小さな変化を認める関わりが、長期的な回復につながります。
まとめ
コーピング不適応の看護計画は、ストレスへの対処がうまくいかず苦しんでいる患者さんが、自分に合った対処方法を見つけ、健康的な生活を取り戻していけるよう支えるための計画です。
観察・ケア・教育の三つの視点を持ちながら、患者さんの対処行動の背景にある苦しさを受け止め、ともに新しい対処の方法を探していく関わりが、看護師にできるとても大切な支援です。
コーピングは、練習によって変えることができるものです。
患者さんが少しずつ自分に合った対処方法を身につけていけるよう、長い目で寄り添う看護を目指してください。








