病棟で患者さんと関わっていると、こんな言葉に出会うことがある。
「何度頑張っても、また同じところに戻ってしまう」 「辛いことが続きすぎて、もう立ち直れる気がしない」 「前向きになろうとしても、どうしても気持ちが上がってこない」
こういった言葉を聞いたとき、「もっと頑張れるはずだ」と思ってしまうことはないだろうか。
しかし、そこで安易な励ましをしても、患者さんの苦しさは変わらない。
これは単なる「意志が弱い」とか「根性がない」という話ではない。
レジリエンス障害という、看護診断として認識し、計画的に関わるべき状態が起きている可能性がある。
今回は、レジリエンス障害の定義から背景、看護目標、観察・ケア・教育の具体的な内容まで、丁寧に整理していく。
精神科・慢性期・緩和ケア・地域看護など、長期にわたって困難な状況に置かれている患者さんと関わるすべての看護師さんに、ぜひ読んでほしい内容だ。
レジリエンスとは何か
レジリエンスとは、もともと物理学の用語で「弾力性・跳ね返り」を意味する言葉だ。
心理学・看護学の文脈では、逆境・困難・ストレスフルな状況に直面したときに、そこから回復し、適応していく力のことを指す。
レジリエンスは、生まれつきの性格や才能ではなく、生活経験・対人関係・環境・心理的な資源などによって育まれるものだ。
また、一度身についたら変わらないものでもなく、状況によって高まることも低くなることもある。
レジリエンスを構成する主な要素として、以下のものが挙げられる。
自己効力感(自分にはできるという感覚)、問題解決能力、感情を調整する力、意味を見出す力、他者とのつながり、過去の成功体験、将来への希望、などだ。
これらの要素が複合的に機能することで、人は困難な状況から回復し、次の一歩を踏み出すことができる。
レジリエンス障害とは
レジリエンス障害とは、NANDA-I看護診断でも取り上げられており、逆境・危機・脅威にさらされたとき、以前の健康レベルに戻る能力が低下している状態を指す。
単に「立ち直れていない」のではなく、立ち直るために必要な内的・外的な資源が著しく乏しく、回復のプロセスがうまく機能していない状態だ。
レジリエンス障害は、抑うつ障害・不安障害・心的外傷後ストレス障害などの精神疾患と重なることが多いが、それらと同一ではない。
精神疾患の診断名ではなく、「立ち直る力が機能していない」という機能上の問題として捉えることが、看護師のアセスメントの出発点になる。
看護師として重要なのは、患者さんが「なぜ立ち直れないのか」を責めるのではなく、立ち直るために必要な資源を一緒に探し、育てていく姿勢で関わることだ。
レジリエンス障害が生じやすい背景
どのような患者さんに、どのような状況でレジリエンス障害が生じやすいのかを理解しておくことが、アセスメントの精度を高める。
幼少期に虐待・ネグレクト・家族機能の問題などを経験した方は、レジリエンスの土台が育まれにくい環境にあったことが多い。
安心できる関係の中で「困難を乗り越える体験」を積み重ねることがレジリエンスを育てるが、その機会が著しく少なかった場合、レジリエンス障害のリスクが高まる。
複数の困難が重なって続いている患者さんも注意が必要だ。
重篤な疾患の告知・家族との死別・経済的な困難・仕事の喪失・人間関係の崩壊など、複数のストレスが同時または短期間に重なった場合、それまでレジリエンスが高かった方でも対処能力の限界を超えることがある。
社会的なサポートが著しく乏しい方では、困難に直面したときに支えてくれる人がおらず、孤独の中で回復のプロセスを進めることが難しくなる。
慢性疾患や難治性疾患を長期にわたって抱えている方では、繰り返す入退院・治療の失敗・身体機能の低下が積み重なる中で、「頑張っても変わらない」という感覚が強くなり、レジリエンスが低下しやすい。
精神疾患の既往がある方や、物質依存(アルコール・薬物など)を抱えている方も、レジリエンス障害のリスクが高い傾向がある。
レジリエンス障害と関連する概念を理解する
レジリエンス障害を深く理解するために、いくつかの関連する概念を整理しておくことが役立つ。
学習性無力感は、繰り返し失敗や挫折を経験することで、「何をやっても変わらない」という感覚が固定化してしまう状態だ。
心理学者マーティン・セリグマンが提唱したこの概念は、レジリエンス障害の背景にある心理的なメカニズムを理解するうえで重要だ。
**心的外傷後ストレス障害(外傷後ストレス反応)**は、強烈なトラウマ体験の後に生じる精神的な問題で、フラッシュバック・回避・過覚醒などを特徴とする。
トラウマを抱えた方では、レジリエンスが著しく低下していることが多い。
燃え尽き症候群は、長期にわたるストレスや過剰な努力の結果として、心身のエネルギーが枯渇した状態だ。
医療者や介護者に多いが、長期療養中の患者さんにも見られる。
これらの概念を念頭に置きながら、患者さんのレジリエンス障害の背景を丁寧に理解していくことが、看護介入の方向性を定めるうえで大切だ。
レジリエンス障害の看護目標
ここで、看護計画の中核となる目標を設定していこう。
長期目標
患者さんが、困難な状況に直面したときに、自分の内側にある力と周囲のサポートを活用しながら、自分なりのペースで回復し、前向きに生活に取り組めるようになる。
短期目標
現在感じている困難や、立ち直れないと感じている気持ちを、看護師に言葉で伝えることができる。
自分の過去の経験の中で、困難を乗り越えられた場面を、一つ以上思い出し、話すことができる。
今の自分が頼ることのできる人・場所・方法を、一つ以上見つけることができる。
これらの目標は、患者さんの状態・疾患・生活背景・社会的なサポートの状況などに合わせて、柔軟に修正していくことが大切だ。
長期目標は患者さんが自分の力で回復できる感覚を取り戻すことを目指し、短期目標は今ここから取り組める小さな一歩として設定している。
看護計画の実際|観察・ケア・教育のポイント
ここからは、具体的な看護計画の内容を整理していく。
観察計画
レジリエンス障害のサインとなる言動・表情・態度を日々観察する。
「どうせ変わらない」「また失敗する」「もう疲れた」「誰も助けてくれない」といった発言は、レジリエンス障害のサインとして注意が必要だ。
将来への希望を語る言葉が全くない、治療や生活改善への意欲が著しく低い、他者からのサポートを拒否するといった態度も観察ポイントになる。
過去の困難への対処パターンを確認する。
「これまでに辛いことはありましたか?」「そのとき、どうやって乗り越えましたか?」という問いかけを通じて、患者さんがこれまでどのような方法で困難に対処してきたかを把握する。
過去の対処パターンの中に、今回も活用できる強みが隠れていることがある。
社会的なサポートの状況を確認する。
困ったときに頼れる人がいるか、相談できる場所があるか、日常生活の中でつながりを感じられる関係があるかを把握する。
サポートが著しく乏しい場合は、外部資源へのつなぎが必要になる。
抑うつ症状・希死念慮・自傷行為の有無を確認する。
レジリエンス障害は抑うつ障害と重なることが多く、希死念慮や自傷行為のリスクも念頭に置いた観察が必要だ。
「消えてしまいたい」「生きているのが辛い」といった発言がある場合は、すぐに医師・精神科リエゾンチームと連携する。
日常生活への影響を観察する。
食事・睡眠・身の回りの整理・活動への参加状況など、レジリエンス障害が日常生活にどの程度影響しているかを把握することで、介入の優先順位が定まりやすい。
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ケア計画
患者さんが安心して気持ちを話せる場と時間を、毎日意識的に確保する。
「最近、どんな気持ちで過ごしていますか?」「辛いと感じていることはありますか?」という開かれた問いかけを日々続けることで、患者さんが「この人には話せる」という関係性を少しずつ築いていく。
解決策をすぐに提示しようとするのではなく、まず患者さんの言葉をそのまま受け止める姿勢が大切だ。
患者さんの「過去の成功体験」を一緒に掘り起こす関わりをする。
「以前、辛い状況を乗り越えられたことはありますか?」「そのとき、何が助けになりましたか?」という問いかけを通じて、患者さん自身の中にある強みと対処の力を一緒に確認していく。
「あなたはあのとき、こうやって乗り越えてきたんですね」という形で、患者さんの強みを言葉にして返すことが、自己効力感の回復につながる。
目標を小さく・達成しやすい形に分けて、一歩ずつ積み重ねる経験を作る。
「今日、一つだけ試してみましょう」「まずこれだけできたら十分です」という形で、小さな成功体験を意識的に積み重ねていく。
達成できた際には、「できましたね」「一歩踏み出しましたね」という具体的な声掛けで返すことが、レジリエンスの回復を後押しする。
患者さんが「意味」を見出せるような関わりを積み重ねる。
「この経験が、今後の自分にとってどんな意味を持てるだろうか」という視点で患者さんと対話することが、困難な経験を「乗り越えた証」として捉え直すきっかけになることがある。
押しつけにならないよう、患者さんのペースを大切にしながら、少しずつ対話を深めていくことが大切だ。
専門的なサポートへの橋渡しを積極的に行う。
臨床心理士・精神科医・精神保健福祉士など、レジリエンスの回復に向けた専門的な支援を担える職種へのつなぎを、患者さんの同意を得ながら行っていく。
患者会・当事者グループ・ピアサポートなど、同じ経験を持つ仲間とのつながりも、レジリエンスを育てる上で有効な資源になる。
教育計画
レジリエンスは鍛えられるものだということを、患者さんに伝える。
「立ち直る力は、生まれつきの才能ではなく、経験と関わりの中で育てることができるものです」という言葉が、「自分には無理だ」という固定した思い込みを少しずつ和らげる手助けになる。
難しい言葉を使わず、「少しずつ力を取り戻すことができる」というメッセージを、繰り返し丁寧に伝えることが大切だ。
ストレスへの対処方法について、一緒に考える機会を持つ。
「辛いと感じたとき、どうすると少し楽になりますか?」という問いかけから始め、患者さんが自分に合った対処方法を見つけられるよう手助けする。
深呼吸・歩くこと・信頼できる人に話すこと・日記を書くこと・好きな音楽を聴くことなど、患者さんが日常の中で取り入れやすい方法を一緒に探していく。
自分を支えてくれる人・場所を整理する手助けをする。
「困ったときに連絡できる人は誰ですか?」「頼れる場所はありますか?」という問いかけを通じて、患者さんが自分のサポートネットワークを見える形で整理できるよう手助けする。
具体的な名前や連絡先を書き出すことで、「自分は一人ではない」という感覚が育まれる。
家族への教育も行う。
家族に対して、「励ます言葉よりもそばにいること」「焦らせるよりも待つこと」「小さな変化を認めること」の大切さを伝える。
「なぜ立ち直れないのか」という家族の焦りが、患者さんへのプレッシャーになっていることがあるため、家族自身の不安にも寄り添いながら関わることが大切だ。
外傷後成長という視点
レジリエンス障害への関わりを深めるうえで、外傷後成長という考え方も知っておくと役立つ。
外傷後成長とは、重篤な逆境やトラウマ体験を経た後に、その経験を通じて以前よりも精神的に成長するという現象を指す。
「あの経験があったから、今の自分がある」「あの時期を乗り越えたことで、見えてくるものがあった」という患者さんの語りは、外傷後成長の現れとして理解できる。
看護師として、患者さんが困難な経験の中に意味を見出せるよう対話することは、レジリエンスの回復を後押しするだけでなく、その経験を成長の糧として捉え直す手助けにもなる。
ただし、この視点を押しつけることは、患者さんの苦しさを否定することになりかねない。
「あの辛い経験も意味があったはず」という言葉を安易に使うのではなく、患者さん自身が自分のペースでその意味を見出せるよう、そっと寄り添うことが大切だ。
ポジティブ心理学とレジリエンスの関係
レジリエンスを育てる看護ケアを考えるうえで、ポジティブ心理学の考え方も参考になる。
ポジティブ心理学は、「問題や病気を取り除くこと」だけでなく、「人の強み・幸福・充実感を育てること」に焦点を当てた心理学の一分野だ。
その中でも、強みに焦点を当てたアプローチは、レジリエンス障害の看護に活かせる視点だ。
患者さんができていないことや問題点ばかりを見るのではなく、その人が持っている強み・資源・過去の成功体験に目を向け、それを活かした関わりをすることで、患者さんのレジリエンスを内側から育てることができる。
「あなたには、こんな強みがあります」「あのとき、こんなことができていましたね」という言葉が、患者さんの自己効力感とレジリエンスを育てる種になる。
慢性疾患患者さんへの関わりで意識したいこと
慢性疾患を長期にわたって抱えている患者さんのレジリエンス障害に関わるとき、特に意識したいことがある。
慢性疾患の管理では、何度もコントロール不良を経験し、「また失敗した」という繰り返しの挫折感がレジリエンスを少しずつ削っていくことがある。
こうした患者さんに対して、「なぜ管理できないのか」という視点で関わることは、レジリエンスをさらに低下させる。
代わりに、「うまくいかなかったとき、何が難しかったですか?」「どんな状況のときは、少しうまくいっていましたか?」という問いかけが、患者さんが自分の経験から学ぶ力を育てる手助けになる。
完璧な管理を目指すのではなく、「転んでも、また起き上がれる」という感覚を育てることが、慢性疾患患者さんのレジリエンス回復において最も大切なことだ。
精神科看護におけるレジリエンス障害への関わり
精神科領域では、レジリエンス障害はほぼすべての患者さんが何らかの形で経験している状態だといえる。
うつ病・統合失調症・双極性障害・パーソナリティ障害・依存症など、精神疾患を抱える患者さんは、長年にわたって繰り返す症状の波・入退院・社会復帰の挫折などを経験してきていることが多い。
そのような患者さんへの関わりで大切なのは、回復に時間がかかることを、患者さんと一緒に受け入れる姿勢を持つことだ。
「早く良くなってほしい」という看護師側の焦りが、患者さんにプレッシャーを与え、レジリエンスをさらに低下させることがある。
「あなたのペースで、一歩ずつでいい」という言葉と姿勢を、一貫して示し続けることが、精神科看護におけるレジリエンス支援の土台になる。
記録とカンファレンスへの活かし方
レジリエンス障害に関するアセスメントと介入内容は、看護記録に具体的に残していくことが大切だ。
「本日、患者さんより『何度頑張っても同じことの繰り返しで、もう立ち直れる気がしない』との発言あり。 表情は疲弊しており、将来への希望についての言及は全くなかった。 レジリエンス障害の状態と判断し、過去の成功体験についての対話を試みた。 患者さんより、以前に仕事上の失敗から立ち直った経験を話してくださった。 その経験を患者さんの強みとして言葉にして返し、今後も継続した関わりを行う。 次回カンファレンスにて、臨床心理士との連携についてチームで検討する予定」
このように、観察した内容・患者さんの発言・アセスメント・介入・今後の方針をセットで記録することで、チーム全体が患者さんの状況と方針を共有できるようになる。
カンファレンスでは「あの患者さん、なかなか前向きにならないよね」という印象の共有で終わらせず、「レジリエンス障害として計画的に介入しよう」という具体的な議論につなげていくことが、チームケアの質を高める。
まとめ
レジリエンス障害は、患者さんの意志の弱さや根性のなさではなく、困難に直面する中で立ち直るために必要な内的・外的な資源が著しく乏しくなっている状態だ。
看護師として大切なのは、患者さんの「立ち直れない」という苦しさをそのまま受け止め、その人の中に眠っている強みを一緒に掘り起こしながら、小さな成功体験を積み重ねる関わりを続けることだ。
レジリエンスは、育てることができる。
その過程に寄り添い続けることができるのが、看護師という存在だ。
看護計画は作成して終わりではなく、患者さんの状態変化に合わせて日々見直し、チームで情報を共有しながら修正し続けていくことが大切だ。
この記事が、看護学生さんの実習記録や、臨床でレジリエンス障害を抱える患者さんに関わる看護師さんの日々の参考になれば嬉しい。








